須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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両親からの贈り物

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『おはようみんな! とりあえず集合場所は学校の最寄り駅で。 お昼からしかやってないから、大体正午くらいに来てよ。 お待ちしてまーす!』


 クリスマスイブが始まった朝に送られてきたグループNILEの文章。 送り主は濱井さん。 なんたかやたらとテンションが高いのは気のせいだろうか?


 時刻は朝の8時。 動くには今は少し早い。 ジョギングも基本的には週末と決めているのでやらない。 この時期は寒いのであまり外に出たくないと言う意見もあるけれど。


 いつもよりも遅い起床で自分の部屋からリビングまで降りる。 当然ながら母さんも父さんも揃っている。 どちらも仕事がこの時期には入りにくい上に、上層部の人間な為、部下の人たちに指示を出すだけでとりあえずはなんとかなるのだそうだ。 うちの両親は人望が厚い。


「おはよう光輝。 珍しいじゃない。 こんなに遅くに起きてくるなんて。 予定の方は大丈夫なの?」

「おはよう母さん。 お昼から行くから問題ないよ。」

「そうか。 それなら今渡せばいいかな。」


 父さんはそういうと自分の鞄の中から封筒を差し出してきた。


「え?」

「中身を開けてみなさい。」


 そう言われて封筒の中身を見ると、そこに入っていたのは明日のクリスマスに行く「ランド・オブ・スウェーデン」の入場券とバスの往復券。 それに3枚の1万円札が入っていた。


「・・・え?」


 その中身を見て僕は父さんとそれを交互に見る。 すると父さんはにこりと笑って


「安見さんと楽しんできなさい。」


 そう言ったのだ。 だけれども


「父さん・・・なにもここまでしてくれなくても。」


 僕の両親が普通のサラリーマンでないことは知っている。 だけれどここまでしてくれる理由が分からない。 ここまでくると最早優しさなのかも分からなくなってきてしまう。


「深く考えるな光輝。 父さん達は光輝達を応援したいだけだよ。」

「だからこれは、私達からのクリスマスプレゼント。」

「父さん・・・母さん・・・」


 確かに今までこんなことをしてくれたことは無かった。 いや、正確に言えば、僕がここまでわがままを伝えたことがなかったのかもしれない。 だからこそ2人とも張り切っているのかな?


「ありがとう。 明日は、絶対に楽しんでくる。 でも今日は使わないから、部屋に置いてくるよ。」

「失くさないようにね。」


 分かってるよ。 そう思いながら僕は自分の部屋に戻って行った。



「・・・あ、そろそろ行かなきゃな。」


 なんやかんや家で過ごしていて時刻は10時30分。 そろそろ行かなければ駅の集合時間に遅れてしまう。 なので僕は急いで体を洗い、寒くない格好で出かける準備をして行くことにした。 もちろんニット帽は忘れず被る。 まだ見せるわけにはいかないので。


「母さん、行ってくるよ。」

「行ってらっしゃい。 夕飯までには帰ってくるのよ?」

「分かってるよ。」


 そう言って玄関を閉める。 僕らの家では大きなイベントの時は家で過ごして、家でお祝いなどをするという習慣になっている。 別にそうまでしてやる必要ないのでは? と考えたこともあったけれど、「習慣は少しでもやっておいた方が、将来的に行事を受け継ぐことが出きるからね。 大小関係なく、やることが重要なのだよ。」と父さんが言っていたので、納得して行事には基本的に参加しているのだ。


 そんなことを考えつつ、家からの最寄り駅で電車に乗って、学校の最寄り駅で降りて、ホームで皆を待つことにした。


 時刻は11時30分。 相変わらず来るのが早かっただろうか?


「さてと、誰から来るかな?」


 今までの流れだと大体最初に来るのは安見さんだったりする。 その予想は当たるか外れるか。


 待つこと5分。 最初に現れたのは・・・


「よぅ館。 相変わらず早いなお前は。」


 ダウンコートに身を包んだ小舞君だった。 毎度毎度安見さんが最初に来るとは限らないことはこれで証明された。 いや、安見さんの方も敢えてそうしたのかもしれない。 そう思えばいいんだ。 うんうん。


「どうした? 1人で頷いて。」

「なんでもないよ。 それにしても、僕どこに連れていかれるか聞いてないんだけど。 小舞君は何か知ってる?」


「いや、それがな。 俺も場所までは聞かされてねぇんだよ。」

「え? でも皆で話し合ってたよね?」

「行きたいねって言っただけで詳しい場所は聞いてないんだよ。 というか濱井のヤツが教えてくれなかったんだよな。」


「だってその方がいいじゃん。 サプライズみたいでさ。」


 その声のした方を向くとピンクの耳当てと手袋を装備した濱井さんの姿があった。 ジャンバーを着ているのだが、格好からしてあまり暖かい格好には見えない。


「うー、寒いねぇ。」

「そんな格好で来るからだろ? いくらなんでもショートパンツはないだろ。」

「えー? 外出るんだし、少しでもおしゃれしないと。」

「節度があるだろ。 太ももの絶対領域なんか作ってる場合じゃねぇだろ。」


 それは僕も同じ意見だった。 おしゃれにだって時と場合は存在する。 風邪を引かなきゃいいんだけど。


「それにしても館君って、頭を帽子で隠す人だったっけ?」


 僕が被っているニット帽が気になったらしく、濱井さんは疑問を投げ掛けてくる。


「寒いからしょうがないよ。 珍しくは無いでしょ?」

「珍しくは無いんだけど・・・こう、館君にはニット帽はちょっと似合わないかなって。」


 なん・・・ですと・・・? いやおしゃれに拘って選んだ訳じゃ無いけれど、そこまで言われるとは思ってなかった・・・


「あ、安見も来たみたいだよ?」


 濱井さんが言う方を向くと、確かにそこには安見さんがいた。 ダウンコートをきて暖かそうな格好をしているが、僕が気になったのは髪型。 セミロングな彼女にしては珍しく、髪を2つに分けて後ろ縛りしているのだ。


「ねえ安見、今の館君の姿みて、どう思う?」


 僕が安見さんに疑問を投げ掛けようとする前に濱井さんが先に聞いてしまった。 その回答に意識をしていると、安見さんはにこりと笑い、


「いつもの光輝君ですよ?」


 そう言ったのだった。 「代わり映えのしない」という事実を喜んでいいのか悲しむべきなのか僕には分からなかった。

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