須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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高校生でもはしゃぐものははしゃぐ

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「「雪だぁ~~~!!」」


 そう叫ぶのは小舞君と濱井さん。 しかしはしゃぐのも無理はない。 何故なら僕らの住んでいる地方では珍しい雪が降っているのだから。


「不思議なものですよね。 今朝はあんなにも晴れていたのに。」

「しかし寒かったのは事実ではある。 冬も本格的になってきたと思った矢先のこの雪だ。 今年の冬は荒れるのではないか?」


 江ノ島さんと坂内君は気象変動について語り合っている。


 時は12月も3分の1程が過ぎた頃。 期末テストも無事に終わったある日のお昼休み。 僕と安見さんはいつも通りの場所でお昼を取ろうとしたときに、不意に


 クラスメイトの誰かが窓の外を見て、「雪が降っている」と言った所から始まった。


 そんな事になったら当然雪で遊ぶのが定石かのように先輩方々も雪遊びを楽しんでいた。


「でも積もるほどでは無いようですね。」

「それでも十分じゃない? ほら、あそこの庭池の水が凍ってるもの。」


 それだけ朝の気温が低かったのだろう。 実際僕も朝起きるのが苦痛なくらい寒かったのを覚えている。 体が縮こまる感覚ってああいったのを言うのだろうか?


「しかしこれではいつもの場所では食べることが出来ませんね。」

「そうだねぇ。 いつもは人がいないから使えてたけれど、今はちょっと人が多いかな。」


 普段は通っても数人程度なのだが、この雪のお陰(?)か今日は外に人だかりが出来ている。 これでは流石にお昼の時間に使えない。


「ははは! このまま積もったりしないかな!?」

「おう! 雪合戦とかしてみたいよな! 雪だるまとか作りてぇ!」

「いいねぇ! 雪だるま作~ろ~♪」


 あの二人のハイテンションぶりには流石に付いていけない。 多分雪が降るのは今だけなんじゃないかな? そうは思っても言わなかった。


 そう思いながらふと疑問に思ったことがある。


「あれ? 円藤さんは?」

「加奈実でしたら他のクラスメイトと一緒にお昼を共にしていますよ。 後は寒いのは好きじゃないと言っていました。」


 江ノ島さんからの説明で納得がいった。 そういえば朝登校してきた時は、これでもかという位に厚着だったような気がした。


「さて館君。 普段なら二人で食べている所だっただろうが、今日はこの通り僕らも一緒に行動している。 そして今は雪が降っている。 こういった場合君ならどうするかね?」


 そう問いかけてくる坂内君。 普通ならば寒さに堪えられないので教室に戻ることが一番なのだが、坂内君はそんな答えは求めてないだろう。 だってそういう顔してるもの。 「普通の回答は面白くないからね」と言った具合に。 演劇部な入ってから、少しでも面白い事をすることに余念が無くなってきている気がする。 入学当初のあの面影は何処へ・・・


「・・・そうだねぇ。 もっと高いところから雪を掴んでみたいよね。」

「おや。 あの場所を皆さんにお教えするのですか?」

「僕ら家族の場所にしておくのは、ちょっと勿体なくない?」

「ですがあの場所の行き方がバレてしまえば使う人は増えてしまうと思いますよ?」

「だから今後は信用できる人に教えるんだよ。 今回は特別だけれど、僕らが信頼できる後輩が出来たらでいいんじゃないかな?」

「なるほど、それなら。」


 納得して貰えたようで、僕らはみんなを呼び、ある場所に連れていく事にした。


「一応言っておくけれど、これから行く場所は僕の母さんが秘密にしてた場所なんだ。 だから・・・」

「あまり他人には知られたくない、と。」

「館君が、言うのならば、私たちは、喋ったり、しませんよ。」


 そう言って貰えると本当に助かる。 他の人に知られて思い出を汚されるなんて流石に嫌だろうし。


 そう思いながら僕らは例の場所、部活棟の上に上ってきた。


「凄い凄~い! まるで秘密基地みたい!」

「ここの部活棟は使っていない箇所も多いですし、なにより裏に梯子があるのは知らなかったですよ。」

「これは館の母さんに感謝だな。」


 みんなが喜んでくれるならそれでいいかなと感じてしまう。


 いつもなら僕と安見さんの2人での昼食になるが、今日は集まったみんなで昼食になる。 改めてみんなの昼食の様子を見てみると、僕や安見さん、江ノ島さんや坂内君はお弁当組ではあるけれど、小舞君と濱井さんはコンビニで買ったもので済ます組のようだ。


「俺のところは両親の仕事が夜型でな。 朝に帰ってきたら基本的にはそのまま寝ちゃうから昼食代だけ置いていくんだよ。」

「私の所はそもそも料理作らないから。 こうなっちゃうんだよね。」


 なんだか2人の家庭事情を垣間見たところで、お昼を共に過ごす。 雪が降っていると言っても小粒程度だし、なによりそのお陰で遠くに見える景色が幻想的になっている。 こりゃ今年の冬は気を付けないといけないかもなぁ。


「なんと言いますか。 今だけは私達だけしかいないような、そんな感覚に陥ってしまいますね。」

「それだけこの場所がよいということでしょう。 館君にも、そのお母様にも感謝をしなければ罰当たりになってしまいますよ。」


 そんな他愛の無い会話をしていると、あっという間に時は過ぎ去っていく。 気が付けば、みんなのお弁当やらなにやらはもう無くなっていた。


「まだ時間はあるし、ここで少しゆっくりしていこうか。 風邪を引かない程度にだけど。」

「そうですねぇ・・・ふあぁ、あぁ。 それでは私は・・・」


 そう言って安見さんは座っている僕の太ももに頭を委ねてくる。


 その行動にもはや驚きはない。 そしてそのまま眠ってしまう。 そんな彼女の頭を、僕は起きるまで撫でている。 それが僕らの昼休みの過ごし方。 そしてあまりにも自然すぎて忘れていることが1つだけあった。 それは


「安見、本当に大胆になったよね。」

「ああ、最早一種のルーティングだぜ。 あの行動。」

「それを止めることなく受け入れる館君も、中々なものだと思うがね。」

「2人が幸せそうならそれでよいではありませんか。 私達がとやかく言う場面ではありませんよ。」


 そう、みんなが今回はいるのにも関わらず、安見さんは惜し気もなく行ったのだ。 もうこのくらいでは動揺もしなくなったか。 そんな風に感じながらも、僕も安見さんに乗せられてるなぁと感じながら、お昼の時間が過ぎるのを待った。

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