須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

文字の大きさ
上 下
140 / 166

これもカップルの証

しおりを挟む
あれから色々とあって夕方にまでなってしまった。 楽しい時間はあっという間というが、まさにそれを実感している。


「そろそろ帰らないと心配されるかな。」

「そうですね。 私達、連絡もなしに出ているようなものですので、あまり遅くなるのも良くないですよね。」

「高校生なんだしあんまり気にして・・・いや、そんなことはないか。」


 僕の両親にならと思ったが親は親、心配しない方がむしろおかしいというものだと自己解決して、最後に向かおうと2人で決めた場所に行く事にした。


「ふーむ、どのようなものが良いか迷ってしまいますね。」

「どんなものでも基本的には変わらないんじゃ?」

「光輝君。 こういったところで妥協を許してしまうと、この先も似たようなことになったときに、中途半端になってしまって後悔することになるのですよ?」

「あーうん。 そこまで真剣だったのに水を指してごめん。」


 安見さんに怒られて素直に謝った。 僕らがいるのはごく普通の雑貨屋だ。 ここでの目的は僕らのお揃いの物が欲しくなったというものだ。 前に僕の手作りで僕と色違いのお弁当袋を作ってあげたことがあったが、それとは別になるべく身に付けるもので探そうと安見さんが提案したのだ。


 ちなみに僕はキーホルダーとかの方がいいのでは?と言ったのだが安見さん曰く「こう言ったものは直ぐに失くすようなものの方が断然いいんです。」と言われて却下をされてしまった。


「一応カップル用でなにかないか検索してみたんだけど、やっぱりペアリングとかペアピアスとかみたいなのがいいって書いてあった。」

「ペアリング辺りならいいかなとは思いましたが、常に付けるのは少々荷が重い気がするのですよ。 私達はまだ高校生ですので。」


 安見さんの基準が良くわかんないや。 僕もなにかいいのがないかと探してみる。 雑貨屋なので、それなりの品揃えで、色んな物が売っている。 ペンにイヤホン、帽子なんかもあるのでどれを取っても良いのだろうけれど、常に身に付けるとなると、校則の範囲内でなければならない。 実際に僕が今付けているチョーカーは校則には引っ掛からない。


 なのでこの程度ならという感じに見ているのだが、なかなか良いのが見つからない。  このままではなにも渡せずに終わってしまう気がする。 さすがにそれは良くないだろうとあちらこちらを探してみると・・・


「・・・あ、これならいいんじゃないかな?」


 それを2つ分手に取って、会計に向かうのだった。


「おや、見かけないと思ったら、もう外に出ていたのですね。」


 ようやく雑貨屋から出てきた安見さんと合流を果たして、近くのショッピングモール側が設置しているソファに座る。


「光輝君もなにか買ったのですか?」


 僕が手に持っている雑貨屋のロゴが入った袋を見て、そう訪ねてきた。


「うん。 せっかくだしと思ってね。 はい。」


 そういいながら僕が取り出したのはクイーンが刺繍されている赤色リストバンドだ。 もちろん周りにはハート柄になっている。


「リストバンドとは考えましたね。 これなら学校の校則には引っ掛からないです。」

「あ、やっぱりそこも考えて選んでたのね。」

「当然です。 学校の決まり事を破ってまでやるオシャレではありませんので。 私の分があるという事は。」

「僕の分もしっかりあるよ。 絵柄とかが違うからペアとはいかないかもしれないけど。」


 そういって僕はもうひとつの青いリストバンドを取り出す。 そこにはスペード柄の中に騎士の刺繍がされている。 ペアかといわれるとちょっと違う気もするけれど、そこは気にしないで貰いたい。


「では私もこれをお渡ししましょうかね。」


 安見さんが袋の中から出したのはヘアピン。 しかも良くあるヘアピン出はなく、少しお洒落に型どられた、ばつ印のヘアピンだった。


 ヘアピンなんて付けたことがないので良く分からないのだが。


「僕、髪短いからヘアピンなんて付ける場所ないよ?」

「大丈夫ですよ。 前髪を止めるだけでも十分に役に立ちますので。 ちょっと失礼しますね。」


 そういって安見さんは僕用に買ってきてくれたヘアピンを僕の左の前髪に付けるように近づいてくる。 急に近づいてきた安見さんの顔が僕の心臓の鼓動を速める。 安見さんの顔が近くにあるだけで、なにかが昂ってくるようだ。


「はい。 終わりましたよ。 どうですか? 違和感は感じませんか?」


 たった10秒間、その間だけはまるで時が止まったかのようだった。 左前髪を触ってみると、確かにヘアピンがされていた。


「うん。 大丈夫。 特に違和感は感じないよ。」

「それはよかったです。 そんなに変わったヘアピンではないので、自分で付けるなら鏡を見ながらつけてくださいね。」

「・・・安見さんも同じ形のヘアピンを買ってるんだよね?」

「勿論ですよ。 そうじゃないとペアの意味がないですから。」

「・・・それじゃあ今度は僕が付けてあげるよ。 僕が左だから安見さんは右側でいいよね。」

「それではお願いできますか?」


 安見さんは袋の中に入っていたもうひとつの僕と同じ形のヘアピンを出してきた。 そして安見さんから貰うと、安見さんの前髪をサッとあげる。 


 安見さんの言う通り、デザインは凝っているが、使い方自体は普通のヘアピンなので、そのまま安見さんの右前髪に付ける。 そしてヘアピンを付けた後で安見さんから離れる。


「・・・もしかしてさっきのお返しですか?」


 そう言っている安見さんの顔はほんのり赤みがかっていた。


「・・・やられたらやり返す・・・ってね。」


 そう僕の口角が上がった。


「・・・帰ろうか。」

「・・・そうですね。」


 僕も安見さんもどこか気恥ずかしくなって、ショッピングモールを出ようとする。 その間に僕と安見さんは、それぞれの駅で別れるまで手を繋いでいた。 少しは、恋人らしくなっているのかな? そんな事を思いながら安見さんとのデートと言う1日を締め括るのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

花の終わりはいつですか?

江上蒼羽
恋愛
他人はそれを不貞と呼ぶ。 水川 妙香(31) 夫は私に触れようとしない。 女から母になった私を、彼は女として見てくれなくなったらしい。 浅倉 透也(29) 妻に触れる事を拒まれた。 俺は子供の父親というだけで、男としての価値はもうないようだ。 其々のパートナーから必要とされない寂しさを紛らすこの関係は、罪深い事なのでしょうか………? ※不倫に対して嫌悪感を抱く方は、閲覧をご遠慮下さい。 書き初めH28.10/10~ エブリスタで途中まで公開していたものを少しずつ手直ししながら更新していく予定です。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

処理中です...