須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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文化祭打ち上げ

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「それじゃあ片付けも終わって、無事に文化祭を終えることが出来ましたので!」

「これより1年2組の文化祭打ち上げ!」

「ア~ンド、館君と須今さんの交際開始を記念して!」

「乾杯!」

『カンパ~イ!!』


 そう言って様々なところからグラスを鳴らす音がする。 僕達は今、あるお店の一角を貸し切って、打ち上げ会をしていた。 この打ち上げ会を主催したのはうちのクラスの委員長で、担任の先生も参加している。 文化祭での売り上げを使っているけど、万が一のためにクラスのみんなから2000円ほど徴収していたりもする。 足りなかったら大変だしね。


 後コールの後に堂々と宣言されてしまったが付き合った次の日と言うこともあってか即刻バレた。 いつもとなんら変わらない行動を共にしていたはずなのに、なぜか見透かされてしまった。 いや、この場合はなれすぎてしまったが故のこの緩みだろう。 うん。 きっとそうだ。


「いやぁ、しかしそっかそっか。 お前も遂に須今さんとくっついたかぁ。 めでたいと言えばめでたいよなぁ。」


 そういってジュースを持ちながら肩を組んできたのは、1日目の文化祭終了の時に一緒に準備をし終わった後に話をした男子だった。 特に嫌ではなかったので、そのままの状態で聞いてみることにした。


「ねぇ、僕と安見さんが付き合ってるって、なんで分かったの?」

「そうだなぁ。 お互いに昨日までとは雰囲気が変わってたからかな? 何て言うか「幸せオーラ全開です!」見たいな。」

「そんなの分かるの?」

「んや全く。 だけど2人の嬉しそうな顔を見てたらさ。 察しちゃうわけ。」


 山勘頼ったって事なのだろうか? でもそんなに幸せオーラ出してたかな? そんなことを思いながら安見さんの方を見ると、クラスの女子達と話しあっていた。 話すというよりは質問攻めにあってるようにも見えるが。


「まあ、お前達が付き合ったっていうのはこの会ではついでのことだ。 気にせず楽しもうぜ。」

「うん・・・」


 そう言いながらも僕は部屋の隅の方に固まっているクラスメイトを見てしまった。 そしてそれに彼が気が付いたようで口を開いた。


「あぁ、あいつらな。 お前を止めていた奴は、根本的にはお前に嫉妬していただ・け・だったし、須今に未遂だったが手を出したあそこの2人のしようとしているのをお前に見られたくなかったからってあんなことをしたらしいぜ。 あっち2人は未遂だったから咎められなかったが、結局生徒会室に呼ばれて、注意喚起と反省文は書かされていたぜ。 だけど居心地は良くないだろうな。」


 話を聞いたときにはどうしようかと怒りがこみ上げたが、結局煮えきる事なく、そのままにした。 そんなことで怒鳴りたくも、殴りたくもなかったからだ。 須今さんになにもしていなかったから良かったものの、彼女の体に何かしていたのなら、有無を言わさず殴っていたかもしれない。 僕だって大切な人を泣かせるようなやつを許すような穏和な性格ではないのだ。


 料理もそこそこに時間は流れていく。 元々そんなに賑やかしいのは好んではいなかったので、騒いでいるクラスメイトを尻目に1人で細々と楽しんでいた。


「隣、いいかな?」


 そんな僕の隣に座ったのは僕らのクラスの担任である南川先生だった。


「今回の文化祭の出し物を考えたの、館だそうじゃないか。」

「ええ、ちょっと帰り道に思い付いた企画だったのですが、企画が成功に終わったようで良かったです。」

「成績に反映されないのは少々残念だけれどね。」


 先生は肩を竦めているが恐らく本気だ。 だがそうしないのは贔屓目にされてしまうことが分かっているからである。


「しかしどうして僕のところに?」

「まあ、クラス内でカップルが出来たと騒ぎ立ててられていたからね。 聞いてみることにしただけだよ。」

「はぁ・・・」


 先生にまでバレているとなると、もう隠してもしょうがないと感じてしまう。 ひっそりとしたかった。


「・・・やっと解放してくれました・・・」

「あ、お帰り安見さん。」

「随分と質問責めにあっていたようだね。 須今。」

「ええ。 もう答えていいのやら悪いのやらと言ったところまで聞かれましたよ。」

「・・・大丈夫だよね? 失言してないよね?」

「恐らくは大丈夫だと思いますが、実際にどうかは分かりません。」


 先生と僕は顔を合わせるが、彼女の言葉をどこまで浸透するか分からないのが噂というものである。


「まあ、2人のこれからは自分達で決めることだよ。 ジュースは持ってるかい?」


 そう先生が言うと僕と安見さんは飲み物の入ったグラスを持つ。


「私はこっそりと君達を祝おう。 2人の幸せに、乾杯。」


 先生がグラスをかざすのをみて、僕と安見さんもグラスを先生のグラスに合わせて「カチン」と鳴らすのだった。


「しかしこうして2人を見てみても、雰囲気は変わってないように見えるがね。」

「あ、やっぱりそう思いますか?」

「他人に見られたくない理由は・・・まあ2人の性格からして、ちやほやはされたくは無いのだろう?」

「先生なら分かってくれると信じていました。 別に僕らも、囃し立てられる程目立ちたがりやでもないので。」


 どうも他のみんなは祝いたいのだろうが、僕らとしてはいい迷惑であるので、これぐらいが丁度いいのだ。


「親御さんには説明したのかい?」

「もう今更なようで、報告をしても「あぁ、やっとか」といった様子でしたよ。」


 僕ら自身もあまり気にしなかったので、そのまま話が続けられる。


「どのような事を聞かれたのか、聞いてもいいのかな?」

「せ、先生!?」


 まさかの先生からの間接的攻撃を受けるとは思わなかった。 安見さんも安見さんで受け答えをしようかどうか迷っていたが、話し出した。


「まずは館君のどこが好きになったのかとか、どんなことをしたのかとか、辛いことはなかったのかとかですかね。」

「それで、なんて答えたのかね?」


 先生もそれなりに聞いてくる。 僕としてはこの辺りで止めてもらいたい所だが、安見さんはもう一度僕の方を見ると、口角を上げていた。 い、嫌な予感・・・!


「それはもう、いっぱい話しましたよ。 みなさんも気になっていたことですので、色々と館君について話しましたよ。 はい。 聞いているみんなもなんだかほわほわしていたので落ち着いて・・・」


 そういってうっとりとしている安見さんを見て、何故か僕が恥ずかしくなってきた。 本当に何故なのか分からないが、言われ慣れていないからなのか、単純に誉められたことがないのか。 とにかく恥ずかしい。


「館君は本当に面倒見が良くて、色々と私の心を動かす言葉もかけてくれたんですよ? あの言葉は今でも覚えています。 「むしろこっちから一緒に」・・・」

「本当にその言葉好きだねぇ!」


 あまりの恥ずかしさに顔が熱くなる。 冷ますためにグラスに入った飲み物を一気に飲んだ。 すると何故か頭がぼやけ始めた。


「・・・あれ?」


 僕は何を飲んだのだろう? 机を見ると、僕が持ってきたグラスに入っている炭酸ではなく、先生が持っていたグラスの飲み物を飲んでしまったようで、恐らくお酒だったのだろう。 そんなところまで考えたところで、僕の視界は真っ暗になった。

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