須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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そして2人は・・・

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安見さんがどんな反応をするのか気にはなった。 なぜなら僕自身も初めての経験だったからだ。 意中の人に告白する。 それがどれだけ勇気のいることなのか。 そして相手がどういう反応を示すのか。 別の意味でドキドキが止まらなかった。


 そんな想いをのせながら安見さんを見ると、驚いたように目を見開いていた。 自分が告白されることなんて無いと思っていたかのように。 そしてそんな柔らかそうな頬は赤く染まっているように見えた。 夕陽のせいで真偽は分からないが。


 そして一度瞬きをした後、優しく微笑みかけてきた。


「今、私、すごく嬉しいのです。」


 どうやらお気に召してくれたようだ。 その事にまずは安堵する。


「でも、館君の気持ちは実は知っていたりもしたんです。 私の事が好きだという事は。」

「え?」

「覚えていますか? 林間学校の後に館君、風邪を引きましたよね? 私がお見舞いに行ったときに言っていたんですよ。 先程の言葉を。」

「え? 風邪の時って・・・あの時!?」

「ふふっ。 館君、あの時にいた私をもしかして夢だと思ってましたか? 弱々しくなっていたので、夢と現との境目が分からなくなっていたのでしょう? 随分と甘えてくれて、なんだか子供をあやしているようでしたよ。」


 その時の様子を事細かに言われると別の意味で羞恥心が出てきてしまう。 穴があったら入りたい・・・


「でもあの時はまだ告白するには早いって言ってたのも覚えてますか?」

「・・・うん。 まだ君の事をよく知らなかったし、なにより一方的な想いだったから、さすがに引かれるんじゃないかと思ってさ。」


 だからこそ今まで気持ちを露にせずに安見さんと接してきていた。 しかしそれも今では苦しかっただけなのかもと感じてしまった。


「・・・でもあの後私は心が熱くなったんです。 もちろん走ったこともあったんですけれど、それ以上に館君に「好きだ」と言ってもらえたことが嬉しくって。 私もあの時は勘違いかなって思ったりもしたんですけれど、今ならはっきりと分かるんです。」


 そういって安見さんは深呼吸を1つする。 そして


「私、須今 安見は館 光輝君の事が好きです。 この言葉に嘘偽りはありません。」


 そう言われた。 今度は僕が驚く番となった。 確かに今まで気持ちを伝えなかったのは、この想いは僕だけだと思っていたから、安見さんの方は全く脈無しだと思っていたからだ。 しかし実際にそう言われると・・・


「・・・こう言うのを何て言うんだっけ? 想いのすれ違い?」

「そんなのは関係ないですよ。 お互いがお互いに相手の気持ちに疑問を抱いていただけです。」


 そんな事で済ませていいものなのだろうか? なんだか、こう、もう少し何かあると言うか・・・


「難しいことを考えてもしょうがないですよ。 今は私達は両想いということを重んじましょう。」


 それは確かにそうだ。 思わぬバースデープレゼントとなった。 その事に驚いている。


「ふふっ、私達これからどうなると思いますか?」

「どうもならないんじゃない? これまで通りに過ごしていれば。」

「そういうものでしょうか。 せっかくの両想いの2人ですよ? ただ付き合っていますよでは、面白味がないと思いませんか?」

「それはそうかもしれないけれど・・・ ちょっと待って? もう僕達付き合ってるってことなの?」

「あれだけの事を言っておいてその反応はさすがにないですよ、館君。」


 僕の言葉に呆れられてしまった。 そりゃお互いに両想いなんだから付き合ったっておかしくはないと思うけれど・・・


「こう言うことが起こるので、変化はあった方がいいと思ったのですよ。」

「そ、そういうものなのかな?」

「はぁ。 もう、しょうがないですね。」


 ため息混じりに言われた後に安見さんは何か意を決したように僕に歩み寄った。


「では少しずつ変化をさせていきましょう。 光・輝・君・。」


 安見さんからの唐突な名前呼びに心拍数が上がる。 好きな人から名前呼びをされることがどれだけ堪えるのか。 今分かった。 安見さんはこれに毎度耐えていたのかと思うと尊敬すら感じる。


「ふふっ。 分かっていただけましたか? 私が普段どれだけ光輝君からの名前呼びに耐えていたのか。」

「・・・身に染みてよく分かりました。」


 照れている僕に安見さんはいたずらっ子っぽく笑いかけてくるのだった。


「・・・はぁ、両親にまずは説明しなきゃいけないのかなぁ。」

「どちらの両親もある意味公認済みなので言う必要があるのかと言われると困ってしまいますね。」

「友達としての付き合いじゃないから、言わないとダメでしょ。 絶対にニヤニヤされるけれど。」

「いっそのこと一緒にやっちゃいますか? その方が気持ちが楽になりませんか?」

「安見さんってたまに常識はずれな事をしだすよね。」


 まぁどうせ知られているのならわざわざ分ける必要がないのは僕も思ったけれど。


「まあ、それじゃあ帰ろうか。 安見さん。」


 そういって僕は紙袋を持っていない手を差し出す。


「え?」

「ほら、恋人同士なら手を繋ぐくらいはしないと。」

「・・・さっきのお返しですか?」


 別にそんなことはなかったけれど、安見さんがそう思っているのならそれでもいいかな。


 安見さんは僕の手を掴もうとしたときに、不意に安見さんのバランスが崩れる。 どうやら無理な体勢をしていたので、急に動くことが出来なかったようだ。


「安見さん!」


 手を僕が掴もうとしたとき、僕の引っ張る力が安見さんの倒れる力に敵わず、手を握ったまま、後方に、正確には教室棟の壁にぶつかってしまう。


「痛てて。 大丈夫? 安見さ・・・ん・・・」


 そして僕は気が付く。 安見さんの顔が近くにあること、そして所謂「壁ドン」状態になっていることを。 さらに言えば目の前の安見さんの顔は真っ赤に染まっている。 明らかに沈みかけている夕陽よりも赤くなっている。


 そんな状況と安見さんを見て、僕はある衝動が込み上げてきた。 だけれど、これは安見さんの事を思ってない事なので、ある程度察してもらいながら聞くことにした。


「安見さん。 僕はこれから、もしかしたら安見さんが嫌がることをするかもしれない。 でも、受け止めて欲しい。 これが僕の想いだよ。」


 拒否をされるならそれでも構わない。 それは罪になるのだから、彼女が認めてくれるときにしよう。 そう思ったけれど


「私は、光輝君がここに来る前に、危うく奪われかけました。 でもそれを、生徒会長さんが止めてくれたのです。 生徒会長さんには本当に感謝しているんです。」


 唐突に語り始める安見さん。 台詞からこれから僕がなにをしようとしているのか察しがついているようだ。 そして安見さんは目を瞑った。


「私の初めてを奪われるのは貴方がいい。 あなたになら捧げてもいい。 私の最・初・の・キ・ス・を。」

「安見さん・・・」


 そして僕達の距離はどんどん縮んでいく、10cm、5cm、3cm。 そしてもうすぐお互いの唇が触れる・・・



「はーっくしょん!」

「ちょっ! そのタイミングはないだろ濱井! っとと! おわっ!」


 瞬間に聞こえてきたどたばた音に僕と安見さんは距離を取って、茂みの方を見る。 するとみんなが僕らの方を見ていた。 生徒会長さんの姿まである。


「あーっ、ごほん。 君達、もう最終下校時刻だ。 館に捕まりたくなかったら、早めに帰るのがおすすめだぞ?」

「そ、そうっすねぇ・・・みんな、帰ろうか・・・」


「どこから・・・」

「・・・え?」


 僕も安見さんも彼らの方に向かってゆらりと動く。 僕も安見さんも顔を真っ赤にしているのは怒りから来るものではなく、羞恥から来るものである。



「「どこから見ていたんだ(ですか)ーーーーー!!!」」



 そういって僕と安見さんは走り出した。


 そんな感じで、なんだか台無しにされちゃったけれど、僕と安見さんは付き合うことになりました。 今はそれだけでいいのです。 それが今の幸せですから。

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