須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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文化祭前々夜

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文化祭の開始まで残り二日と迫っている今日この頃、正門にはデカデカと「文化祭」の文字を象った門が建っており、屋台用のテントも並び始めていた。


 そんな中で僕達が取り組んでいたのはスイートポテト作成のための大量のさつまいもを加工する行程だった。


「水にさらし終わったさつまいもはこっちに下さい。」

「皮は剥ぐのか?」

「半分は剥いでも構いませんよ。 皮に色素があるので色違いとして販売しようと思っていますので。」

「了解したよ。」

「おーい男子。 さつまいも潰せた?」

「あぁ、問題ないぜ。 次の分貰うぜ。」


 みんながそれぞれに分かれて準備をしている。ちなみに僕は形を生成してオーブンに入れれるようにしている。


「館君、これもらっていきますね。」

「うん。 お願い。」

「おーい館。 これも生成頼むぜ。」

「いいよ。 そっちも大変でしょ。 交代する?」

「いや、大丈夫だぜ。 むしろそっちの生成が出来なさそうだからこっちの力仕事をやってるさ。」


 そういって小舞君はもとの作業場に戻っていった。


「そういえばオーブンと冷蔵庫の中は大丈夫そう?」


 僕がそう聞くと、みんながサッと確認しにいくと、一人が青ざめたような顔をしていた。


「どうしようみんな・・・ 冷蔵庫が危ういよ・・・」


 そういって冷蔵庫の中を見てみると、確かにもう置き場所が無いくらいにパンパンに入っていた。 これ以上入れたら溢れでてしまうのではないかというくらいに。


「ここまででいいでしょう。 今作ったのを最後にして、残りはまた本番に残しておきましょう。」


 安見さんの意見にみんな頷いてくれた。 今回の提案は僕と安見さんが主催でやっているので、僕らは片付けの準備をすることにした。


 今日は夜まで準備をしてもいいという生徒会からの通達が来ているので、残りの作業は夜にすることにしているのだ。


「館君、これ、こんなに作って、売れなかったらどうするの?」


 真岩さんの言うことももっともだが、そこは安見さんに考えがあるようなので気にしないでいる。


「大丈夫でしょ。 後残ったらみんなで食べればいいし。」


 冷蔵庫にある分は温めればすぐに提供できるし、今作っている分は焼かないで寝かしておけばいいのでさほど問題では無かったりする。


「それなら後は」

「飾り付けの準備だね。」


 そういって僕と真岩さんは教室に戻ることにした。


「おう館、そっちはもういいのか?」

「うん。 もう作りおきする必要がなくなったからね。 そっちももう完成?」

「おう。 館が作ってくれた看板のお陰で大分捗ったんでな。 これで後は屋台に立てるだけでいいんだぜ。」


 作られた看板や宣伝用の段ボールが置かれていて、準備万端のようだった。


「お疲れ様。 他になにか出来ないかな?」

「いや、お前は準備期間前に準備してくれていたからな。 本番前くらい休んでよ。」

「安見さんもね。」


 ん? 安見さんもなの?


「そりゃスイートポテトの試作をいっぱい作ってくれたじゃない? それにもう販売分は作り終えたんでしょ? あとは私達でやっておくから、館君達は休みなよ。」


 そういうことなら甘えさせて貰うとしよう。 そう思い僕は安見さんを呼びに行こうとしたのだが


「あ、館君。」

「あれ? 安見さん。 これから呼びに行こうと思ってたのに。」

「いえ、私はここに館君がいると聞いたので来たのですが。 なにかあったのですか?」


 どうやら安見さんの方でも同じような話になっていたようだ。


「うーん。 僕達は休んでいいって言われたから、帰ろうかなって思ったのだけれど・・・どう思う?」

「そうですねぇ・・・私もあまり賛成は出来ないですね。 私達が休むだけというのもちょっと・・・」

「いいのいいの! 2人は陰で頑張ってくれたんだし、後は私達に任せて、2人は帰った帰った。」


 そう言われた後にみんなから教室から追い出されてしまった。 そんな状況になって頬を掻いてしまった。


「なんだろう? どっちかって言うと煙たがられてる?」

「確かに、私達がいる方が都合が悪いと言わんばかりに追い払っていきましたね。」

「なんだか企まれてるような気がするんだよねぇ・・・」


 秋の日は釣瓶落としと言われる位に早くなった日の沈み具合の中で、僕達はそんな疑問を抱きながらも、帰ることしか出来なかった。


 ――――――――――――――――――――――


「・・・ようやく帰ってくれたね。」


 教室から見えた窓の外、館君と須今さんが帰ったのが見えた。 彼ら2人が帰ったのを確認したのち、教室のみんなに顔を向ける。


「みんな、2人が見えなくなったよ。」

「よし。 みんな! もうひとつの作戦を開始するぞ!」


 そういってみんなはうん、と頷いた。


 1年2組のクラスメイトが考えているもうひとつの作戦。 それは館 光輝と須今 安見の2人をいかにして距離を近づかせるかというものだった。 あそこまで噂になっている2人、その2人は未だに付き合っていないという事実を突きつけられた。


 そんな2人を見たクラスメイトの大半は「あそこまでの仲ならもうむしろこちらからくっつくようにしてしまえばいいのでは?」と考えていた。 まあ「大半は」と言うことで本当に一部のクラスメイト(主に館 光輝に対してあまりいい思いを感じていない男子だが)は不参加である。


「んでどうする? 普段からあんな調子だと、2人が意識してない可能性が高くないか?」

「その辺りは2人とも意識しあってるみたいだから大丈夫だって。」

「それ誰情報だ?」

「情報ソースは濱井さんと小舞から。 あの2人の事を良く見てるから分かるってさ。 相談ものったらしいし。」

「ほっほう。 それはそれは。 こりゃ時間の問題か?」


 そんな中で語るみんなを尻目にさらにもうひとつ、別の作戦が急遽立てられていたことに誰も、いや、遠くから傍観していた真岩ただ一人しか気が付かなかった。

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