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まさかの悪夢
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あの後僕はなにも出来ずにみんなの片付けを見守りながら安見さんが起きたところでみんな解散となった。 とりあえず安見さんから上着を返してもらって、駅に向かって歩いていく。
「あの、館君。 なんでクラスメイトの皆さんは私たちを見ているのでしょうか?」
「・・・今は気にしたら負けだよ。」
さすがに視線の存在に気が付いたのか、僕に質問をしてくるので、僕は少しげんなりしながら答える。
みんなが僕らを見ている理由は当然僕らの動向を見ているからだ。 少しの変化も見逃さないようにしているのだ。 なんだか監視されているみたいでなんだか居心地が悪すぎる。 しかし振りきる理由もないのでこのまま駅まで歩いていくしかないのだ。
「ただいま・・・」
僕はそれから安見さんと別れて、自分の家に帰ってくる。 その頃には僕はどこか疲れたように肩が重たくなっていた。
「お帰り・・・どうしたの?」
「あぁ母さん。 大丈夫、ちょっと気疲れしただけだから。」
そういって僕は自分の部屋にいって、鞄を置いた後にベッドで横になると、そのまま瞼が落ちて、眠ってしまった。
僕は走っていた。 追われているのか? 違う、僕が追いかけているのだ。
「待ってよ! どうして! そんなことを言うのさ!? 安見さん!」
僕が追いかけている人物、安見さんは目の前で悲しそうな顔をしながら振り向いている。 走れど走れど全く追い付ける気がしない。
「ごめんね館君。 私がいると、迷惑だよね? 今までありがとう。 だから、さようなら。」
そういって安見さんは闇の中に歩みを始める。 その背中はどんどんと遠退いていく。 そんな僕は走っているのに距離がどんどん空いていく。
「待って! 安見さん! 僕はそんなこと思ってない! 僕は安見さんを見ていたいと思ってるんだ。 だから離れないで! 行かないでよ!」
その背中はもう見えなくなっても走りながら叫ぶしか出来なかった。
「そんな・・・僕は・・・」
全てが暗闇に堕ちるような感覚に入った。 もう聞こえないのは分かっている。 でも・・・
「僕は・・・君といたいんだよ・・・!」
その人の名前を叫びたかった。 どれだけ聞かれていなくてもいい。 だから精一杯叫ぶしかなかった。
「安見さん!!」
目に飛び込んできたのは白い壁、その壁に向かって左腕で上半身を支えながら右手を伸ばしている自分がいた。 どうやらその叫びによって夢から目が覚めたようだ。
「はぁ・・・はぁ・・・ゆ、夢?」
自分が夢に入ったことにすら分からないくらいに疲れていたのだろうか。 しかしその夢はあまりにもリアルに感じて・・・
「・・・うぷっ」
急に吐き気が襲ってきたので、急いで部屋から出て、1階のトイレに向かっていって、便器に向かって吐き出す。 実際には吐くものなどないのだが、この吐き気だけでも無くしたかった。 その後は大きく息を吸うのだった。
「大丈夫? 光輝。 昨日帰ってからすぐに寝ちゃったみたいだから、制服とズボンを脱がして布団かけておいたけど、風邪引いてないわよね?」
ドアの向こうからの母さんの台詞に改めて自分の格好を見る。 白シャツと紺のボクサーパンツ姿の自分の姿が見えた。 どうやら本当にそのまま寝てしまったようだ。
「朝ご飯食べれる? 昨日の残りになっちゃうけれど。」
「・・・大丈夫、食べれる。」
そういって僕はトイレから出るのだった。
「まぁ、早く来るのはいつものことなんだけどさぁ。」
誰もいない教室で1人ボヤく僕。 いくらなんでも早く来すぎたかもしれない。 だって時計を見たらまだ7時半なのだ。 朝練でもない限りこんなに早く来る理由はない。 強いて言えば裁縫部に朝練なんてない。
「やっぱり気が滅入ってるのかもしれない・・・」
そんなことを思いながら朝の夢を思い出す。 そんなことはあるとは思っていない。 いないのだが、どうしても否定をしきれない。 そんな感覚に陥っていた。
「・・・いけない・・・思い出したら・・・また吐き気が・・・うぷっ。」
あんなものを見てしまうなんて、よっぽど精神的負荷があるのかもしれない。 そんなことを考えていたら、背中を優しくさすられる。 振り返るとそこには・・・
「大丈夫ですか? 館君。 顔色もあまり優れないように見えますが?」
誰を隠そう安見さんの姿だった。 背中に乗っている小さくも柔らかい彼女の手と、心配そうにこちらを見ている安見さんの顔を見て、僕はほぼ反射的に、でもゆっくりと安見さんを抱き寄せていた。
「・・・ふえっ!? ちょ! ちょっと! 館君!?」
安見さんの叫びに我に返る。 そしてすぐに安見さんを離す。
「ご、ごめん! ちょっと安心しちゃって・・・」
「安心?」
「いやぁ実は今日、安見さんが僕のところから離れていく夢を見て、不安になったんだよね。 なんか柄にもなくそんな夢見ちゃって。 それで、それが正夢だったらって思ったら、怖くなっちゃって・・・」
安見さんの顔が見れず、顔を背けながら話していると、優しい香りに包まれた。
「安見さん?」
その正体は安見さんだった。 今度は安見さんが僕を抱き締める形になった。
「大丈夫です。 私は館君の元から離れたりはしませんよ? 館君が私を守ると言ったように、私も館君を守りたい。 私が肉体的に守られているのなら、館君を精神面から守らせてください。」
そう優しく語られた。 なんだか杞憂に終わらされた気もするのだが、これでいいのかもしれない。 それが僕にとって心地いいものなのだから。 僕ももう一度安見さんを抱き締めようと思ったときに、不意に視線に入った1人の女子生徒。 ちょこんと座ってこちらを見ている。 その表情は読み取りにくい。 何故なら彼女は前髪を下ろしているから。 というか
「・・・いつから見ていたの? 真岩さん。」
その人物、真岩さんに問いかける。
「私が来たら、館君が須今さん、抱いてた。」
つまり最初から見ていたのね。 安見さんも会話しているのが自分じゃないと分かると、真岩さんの方に顔を向けた。
「この時間なら他のみんなはまだ来ない。 続けて。」
「「続けられる訳無いでしょ!?」」
「ナイスハモり。 それでこそ噂の2人。」
僕らの息の合ったツッコミに、何かに納得したように親指を立てる真岩さん。 その後の授業1時間分は僕と安見さんは目が合わせられなくなってしまった。 恐るべし第三者の目。
「あの、館君。 なんでクラスメイトの皆さんは私たちを見ているのでしょうか?」
「・・・今は気にしたら負けだよ。」
さすがに視線の存在に気が付いたのか、僕に質問をしてくるので、僕は少しげんなりしながら答える。
みんなが僕らを見ている理由は当然僕らの動向を見ているからだ。 少しの変化も見逃さないようにしているのだ。 なんだか監視されているみたいでなんだか居心地が悪すぎる。 しかし振りきる理由もないのでこのまま駅まで歩いていくしかないのだ。
「ただいま・・・」
僕はそれから安見さんと別れて、自分の家に帰ってくる。 その頃には僕はどこか疲れたように肩が重たくなっていた。
「お帰り・・・どうしたの?」
「あぁ母さん。 大丈夫、ちょっと気疲れしただけだから。」
そういって僕は自分の部屋にいって、鞄を置いた後にベッドで横になると、そのまま瞼が落ちて、眠ってしまった。
僕は走っていた。 追われているのか? 違う、僕が追いかけているのだ。
「待ってよ! どうして! そんなことを言うのさ!? 安見さん!」
僕が追いかけている人物、安見さんは目の前で悲しそうな顔をしながら振り向いている。 走れど走れど全く追い付ける気がしない。
「ごめんね館君。 私がいると、迷惑だよね? 今までありがとう。 だから、さようなら。」
そういって安見さんは闇の中に歩みを始める。 その背中はどんどんと遠退いていく。 そんな僕は走っているのに距離がどんどん空いていく。
「待って! 安見さん! 僕はそんなこと思ってない! 僕は安見さんを見ていたいと思ってるんだ。 だから離れないで! 行かないでよ!」
その背中はもう見えなくなっても走りながら叫ぶしか出来なかった。
「そんな・・・僕は・・・」
全てが暗闇に堕ちるような感覚に入った。 もう聞こえないのは分かっている。 でも・・・
「僕は・・・君といたいんだよ・・・!」
その人の名前を叫びたかった。 どれだけ聞かれていなくてもいい。 だから精一杯叫ぶしかなかった。
「安見さん!!」
目に飛び込んできたのは白い壁、その壁に向かって左腕で上半身を支えながら右手を伸ばしている自分がいた。 どうやらその叫びによって夢から目が覚めたようだ。
「はぁ・・・はぁ・・・ゆ、夢?」
自分が夢に入ったことにすら分からないくらいに疲れていたのだろうか。 しかしその夢はあまりにもリアルに感じて・・・
「・・・うぷっ」
急に吐き気が襲ってきたので、急いで部屋から出て、1階のトイレに向かっていって、便器に向かって吐き出す。 実際には吐くものなどないのだが、この吐き気だけでも無くしたかった。 その後は大きく息を吸うのだった。
「大丈夫? 光輝。 昨日帰ってからすぐに寝ちゃったみたいだから、制服とズボンを脱がして布団かけておいたけど、風邪引いてないわよね?」
ドアの向こうからの母さんの台詞に改めて自分の格好を見る。 白シャツと紺のボクサーパンツ姿の自分の姿が見えた。 どうやら本当にそのまま寝てしまったようだ。
「朝ご飯食べれる? 昨日の残りになっちゃうけれど。」
「・・・大丈夫、食べれる。」
そういって僕はトイレから出るのだった。
「まぁ、早く来るのはいつものことなんだけどさぁ。」
誰もいない教室で1人ボヤく僕。 いくらなんでも早く来すぎたかもしれない。 だって時計を見たらまだ7時半なのだ。 朝練でもない限りこんなに早く来る理由はない。 強いて言えば裁縫部に朝練なんてない。
「やっぱり気が滅入ってるのかもしれない・・・」
そんなことを思いながら朝の夢を思い出す。 そんなことはあるとは思っていない。 いないのだが、どうしても否定をしきれない。 そんな感覚に陥っていた。
「・・・いけない・・・思い出したら・・・また吐き気が・・・うぷっ。」
あんなものを見てしまうなんて、よっぽど精神的負荷があるのかもしれない。 そんなことを考えていたら、背中を優しくさすられる。 振り返るとそこには・・・
「大丈夫ですか? 館君。 顔色もあまり優れないように見えますが?」
誰を隠そう安見さんの姿だった。 背中に乗っている小さくも柔らかい彼女の手と、心配そうにこちらを見ている安見さんの顔を見て、僕はほぼ反射的に、でもゆっくりと安見さんを抱き寄せていた。
「・・・ふえっ!? ちょ! ちょっと! 館君!?」
安見さんの叫びに我に返る。 そしてすぐに安見さんを離す。
「ご、ごめん! ちょっと安心しちゃって・・・」
「安心?」
「いやぁ実は今日、安見さんが僕のところから離れていく夢を見て、不安になったんだよね。 なんか柄にもなくそんな夢見ちゃって。 それで、それが正夢だったらって思ったら、怖くなっちゃって・・・」
安見さんの顔が見れず、顔を背けながら話していると、優しい香りに包まれた。
「安見さん?」
その正体は安見さんだった。 今度は安見さんが僕を抱き締める形になった。
「大丈夫です。 私は館君の元から離れたりはしませんよ? 館君が私を守ると言ったように、私も館君を守りたい。 私が肉体的に守られているのなら、館君を精神面から守らせてください。」
そう優しく語られた。 なんだか杞憂に終わらされた気もするのだが、これでいいのかもしれない。 それが僕にとって心地いいものなのだから。 僕ももう一度安見さんを抱き締めようと思ったときに、不意に視線に入った1人の女子生徒。 ちょこんと座ってこちらを見ている。 その表情は読み取りにくい。 何故なら彼女は前髪を下ろしているから。 というか
「・・・いつから見ていたの? 真岩さん。」
その人物、真岩さんに問いかける。
「私が来たら、館君が須今さん、抱いてた。」
つまり最初から見ていたのね。 安見さんも会話しているのが自分じゃないと分かると、真岩さんの方に顔を向けた。
「この時間なら他のみんなはまだ来ない。 続けて。」
「「続けられる訳無いでしょ!?」」
「ナイスハモり。 それでこそ噂の2人。」
僕らの息の合ったツッコミに、何かに納得したように親指を立てる真岩さん。 その後の授業1時間分は僕と安見さんは目が合わせられなくなってしまった。 恐るべし第三者の目。
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