須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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友達以外からの質問

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「どうだ? そっちは?」

「おう、もう看板の方は出来上がったぜ。 館が看板用のやつ作ってくれたお陰で楽に作れたぜ。」

「あ、それ、もっと色んな色を使って作れない?」

「ちょっと数を作るのに手間取ってね。 もう少しだけ待って。」


 文化祭の準備を放課後にみんなでしている。 看板を作る人、テントに対して装飾を施す為の花を作っている人、段ボールでカボチャの形を象る人。 色んな人がひとつの教室でせっせと作っている。


「僕はなにをすればいい?」

「お前は買い出しをしてきてくれないか?」

「了解。 買うものをメモをしたものとかある?」

「おぉ、そうだな。 おーい、誰か館に買うものリストの紙を渡してくれないか?」


 そう言って教室の端から端まで届くように声を掛けると、1人の女子が僕に近付いてきた。


「館君、これ。」


 長い髪は背中まで伸びていて、整った前髪が目を覆うように被っているため素顔が見えない。 声もあまり高くなくかなり簡潔に話すため、感情が読み取りにくい。


「ありがとう。 ええっと、真岩さん。」

「うん。」


 彼女の名前は真岩 小夜まいわ さよ。 話したことがないだけに彼女の事はあまりわからない。 というか声が普通の女子よりも低いし、こう言っては失礼だが慎重が僕の胸元辺りにあるので、スカートを履いていなければ少年と思われてもおかしくはない。 うちの学校の女子の制服はブレザーに膝上5cmが基本のスタイルなので、分かりやすいと言えば分かりやすいのだが、履いていないと分からないほどだと困ってしまうこともあるだろう。


「やることないから、一緒に行っていい?」


 真岩さんはどうやら僕と一緒に行きたいらしい。


「別にそれは構わないけど、荷物は持たせないからね? そんなに重いものもないし。」

「大丈夫。 ついていきたいだけだから。」


 ついていきたいだけ? 良く意図が分からないがとにかく買い物のために教室を出た。 因みにこういった備品の買い出しは生徒会に領収書を渡せばその分のお金を学校側として処理してくれる事になっているのだ。 だが少しは遠慮がちになってしまうのは貧乏性なのかもしれない。


 安見さんや他の人もついてきてくれるかと誘おうと思ったが、みんな別々のところで作業をしていて、あまり手を離せる状態では無かったのでそのまま頑張ってもらおうと声はかけなかった。



「本当についてきてよかったの?」


 学校近くの雑貨屋に向かうために歩いていると、真岩さんが声をかけてきた。 間近にいるはずなのに声が聞こえるか聞こえないかの狭間にあった、恐らく声が低いせいで声が通らないのだろう。


「真岩さんがついていきたいって言った筈なんだけど?」

「そうなんだけど、断るかと思って。」

「僕、そんなに非道な人間に見える?」


 そう言うと首を横にする真岩さん。 考えがよくわからないのだが。


「他の女子の方が、良かった?」

「うん? どういうこと?」

「たまに一緒にいる。 それに噂にもなってる。」

「あぁ、円藤さんたちは友達。 それに噂って言ったって勘違いだと思うよ。 僕と安見さんがそんな・・・」

「名前。」


 そう言って真岩さんは左人差し指で僕を指す。 なに?


「円藤さんは苗字呼び、須今さんは名前呼び。 何故?」

「安見さんは三姉妹だから区別するために読んでいたら定着しちゃって。」

「それだけ?」

「それだけ・・・なんじゃないかな?」


 僕にもなんで安見さんだけは抵抗なく名前呼びが出来るのかは分からない。 本当に慣れだけだろうか? いや、今は迷ってもしょうがないな。 この話題は胸に閉まっておこう。


「僕からも質問、いいかな?」

「答えられる質問なら。」

「なんでついてきたかったのかな? 買い物なら僕1人でも出来たのに。」

「館君と話したかった。」

「そんなに話したこともないのに急にはおかしいと思わない?」


 少し意地悪だったかなと思いつつも真岩さんの様子を伺う。 真岩さんは少しの間唸っていたが、何かを決めたようでこっくりと首を縦に振った。 そして改めて僕の方を見る。


「今の教室の空気、居心地悪い。」

「居心地悪い?」

「みんなの目、怖かった。 私、ハブられてるんじゃないかって。」

「そこまでのことは思ってないんじゃないかな?」

「頭では分かってる。 でも、気分、悪くなった。」


 真岩さんは、僕の勝手な推測だけど、もしかしたら友達を作るのに失敗してしまったのではないかと思った。 思えば彼女は何かと1人でいることが多い。 こう言ってはなんだが、話しかけなければ見向きもされないくらいのだろう。 それでみんながワイワイやっている空気についていけなかったのではないか。 そう考えてしまった。


 だけれどそうだとするならば僕も疑問に思う。


「なんで僕になら話せると思ったの?」


 僕だって彼らと同じことをしているのだ。 真岩さんの言う「みんなの目が怖い」というのなら僕も同じような気がするのだが。


「館君はなんというか。 分かってくれる。 話しても大丈夫って思えた。 他のみんなと、何かまでは分からないけれど、違って見えた。」


 どうやら真岩さんの色眼鏡にお気に召されたようだ。 真岩さんにとって、僕は話しやすい人間なのかもしれない。 そう感じた。


「それじゃあもう一つ、聞いてもいいかな?」

「何?」

「なんで前髪を目元まで隠しているのかなって思って。 いや、好きでしてるのは分かるんだけど、ちょっと気になっちゃって。」


 我ながら女心が分からない男の子である。 そこまで真剣に突っ込むような話でもないだろう? 脳内の自分と話し合っていると、真岩さんは先程と同じように考え込んでいた。 目元が見えないのでどういう表情なのかまでは分からないけれど。


「目元、見られるの、ちょっと、嫌、かな。」

「・・・そっか。」


 彼女が嫌だというのならこれ以上は追求しない。 そう思ったとき、不意に強風が僕の後ろから吹いてくる。 すると目の前の真岩さんの前髪も後ろに押し上げられる。 そして風が止んだとき真岩さんの閉じられていた目が開けられる。 そこにはまるで小学生のような、無垢な瞳が写し出された。 濁りのない澄んだ目は、まるで水晶のようにも見えた。 そして前髪が下ろされる。


 それを見られた真岩さんは何かを言おうとあたふたしていたが、僕は柔らかく微笑んで、


「真岩さんの瞳、とても綺麗だったよ。」


 そう言ってあげる。 すると真岩さんの顔はみるみる赤くなっていって、そっぽを向かれてしまった。 髪でチラリとしか見えない耳も真っ赤になっていた。


「・・・館君は天然たらし・・・」


 そうポツリと呟かれてしまった。 うーん、ちょっと気取りすぎたかも知れないや。 反省しなきゃ。

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