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日曜日の一時
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僕の朝は早い。
最近肌寒さを感じて布団の魔力が増してきている。 しかしそんなことはあまり関係がない。 何故ならば日課であるジョギングをするためには上体を起こさなければいけないからだ。
布団から出ると感じる肌寒さを覚えながら、僕はジャージを引っ張り出す。 肌寒いので黒系のジャージを選ぶ。 それに着替え家を出る。 最近では中間地点である公園に今までの半分くらいの時間で着けるようになった。 なので最近での中間地点は学校の正門になっている。 そこで休憩した後、学校の更に先に行くようにしている。
今回こそはもう一駅分行ってみたいと思っている。 学校の最寄り駅とその先の駅の距離がそれなりにあるのと、駅に着くまでに複雑な道のりなので、前回は断念していたが、今日は行ってみようと考えていた。 そう思いを馳せながら駆け出した。
「ただいまぁ。」
あれから一駅分は制覇できたが、その代償として距離が伸びた分の帰路を走らなければならなくなり、いつもよりも15分ほど遅れて帰ってきたのだった。
「お帰り。 今日はずいぶんと遅かったね。」
物心ついたときからジョギングを始めていた僕に、仕事休みの父さんが食前の紅茶を飲みながら話しかけてくる。
「うん。 まさか学校からもう一駅向こうがあんなに複雑な道のりだと思わなくってさ。 元の場所に戻るのに手間取っちゃった。」
「あー、あの辺りは最近開拓が進んでるからねぇ。 でも立地をそのまま生かしたいってコンセプトは不便さを分かってないような気もするのよねぇ。」
父さんとの会話に、朝食のトーストとスクランブルエッグを乗せたお皿を持ってきた母さんが入ってくる。 昔はもっと田舎っぽかったのにとは母の弁だ。
「あ、母さん。 僕の分はまだ作らないでね。 先にシャワー浴びてきたいから。」
「分かってるわよ。 ホント、たまの休日も休まないんだから。」
昔からの習性に対して呆れたような声を出していた母さんを尻目に僕はジョギングをして火照って汗が出ている体を洗い流すためにお風呂場に行くのだった。
朝御飯を食べ終えて、家族で1時間ほどテレビを見た後に、昨日買ってきた裁縫用具をリビングのテーブルに用意して、まずは布にチャコペンで切りたい形になぞり、布切りバサミで切っていく。 そんな作業の最中にNILEから通知が入った。
『みんな中間テストの進歩はどうだ? もし差し支え無ければ、行き詰まったところを教えてほしいのだが。』
そんな文を打ってきたのは小舞君だった。 どうやら今は勉強中のようだ。 前回までの彼とは大違いのようだ。 彼の敬意ある行為に答えてあげよう。
『どこが分からないのか教えて?』
そう簡潔に返す。 後は僕ではない誰かが答えてくれるだろう。 そんなことを密かに思いながら、僕は裁縫を続けるのだった。
「あんた、それ他に用途あるの?」
お昼ご飯を食べた後も僕はただ黙々と裁縫をしていた。 午前中に切った布を合わせて、チクチクと縫っていっていた。 ちなみに今は円型に切った布に、文字を象った布を縫い合わせている。 これが最初の目的だからだ。
「これだけじゃあ当然意味はないよ? でもこれから少しずつちゃんとしたものになるから。」
「凝るわねぇ。 文化祭なんだし、あんまり拘らなくてもいいんじゃないかしら?」
「そこは僕のエゴだよ。 みんなにどう思われようとあんまり関係は無いからね。 それに少しでも拘ったのを出せば、みんな少しはやる気が出るんじゃないかなって思って。」
「あんたがそれでいいならいいけど。 じゃあ、お留守番お願いね。」
「うん。 いってらっしゃい。」
母さんと父さんは買い物に出掛けていった。 帰ってくるのは夕方くらいになるので、それまでに出来るだけ多く作ってしまおう。 どうせしばらくはテスト勉強でお休みするから作れるうちに作っておきたいのだ。 そんなことを考えながら、時間の許す限り作るのだった。
「ピロン」
いつまで作っていただろうか、ただ黙々と作っていたせいで時間の感覚が分からなくなっていた。 そんな沈黙の中で聞こえてきた携帯の音。 その音で僕は現実に帰ってきた。 そして僕は携帯を確認をする。
『館君、今はいかがお過ごしでしょうか? 私は今はおやつも兼ねてスイートポテトの試作を作りました。 家族のみんなも協力してくれて、楽しく過ごしています。』
安見さんの個人NILEにそんな文とスイートポテトの写真、そして須今家のみんなでスイートポテトを堪能している写真だった。 楽しそうだなぁ。
『僕の方は今は文化祭に使うための看板の作成しているよ。 看板には使えるか分からないけどね。』
そう送り返して僕もお返しと言わんばかりに、作成し終わったクッション基看板を写真に載せる。
返ってくるのが何時になるか分からないのでまた作成をする。 すると数分した後に「ピロン」という音が聞こえてくる。 どうやら返信が来たようだ。
『また随分と凝りましたね。 でもみんなに見せれば考慮されるのではないでしょうか。』
そう返ってきた。 まあ、看板に使われなくても普通のクッションとしても使えるので問題は全くないのだ。 そう思っているとまた「ピロン」という音が聞こえてきた。 内容は
『お姉お手製のスイートポテト、メチャクチャ美味しいよ!』
というものだった。 「お姉」というのは1人しかいないので、味柑ちゃんが携帯を奪ってNILEしたのだろう。
『そうなんだね。 僕も食べてみたいなぁ。』
そうだとわかっていてもとりあえずは返信をする。 今ごろは安見さんが味柑ちゃんを怒っている光景が目に浮かぶようだ。
そんなことを考えていると「ピロン」と返信が来た。 怒ってないのか怒り終えたのかは分からないけれど送信から返信までが早かった。
『元々皆さんには試食してもらう予定でしたので楽しみにしていてください。 それでは。』
そう短い文で返ってきたのでこれでNILEのやりとりを終える。 向こうが頑張っているので、僕も頑張らないとな。 そう思いながら夕方になるまでせっせと縫うことにした。
最近肌寒さを感じて布団の魔力が増してきている。 しかしそんなことはあまり関係がない。 何故ならば日課であるジョギングをするためには上体を起こさなければいけないからだ。
布団から出ると感じる肌寒さを覚えながら、僕はジャージを引っ張り出す。 肌寒いので黒系のジャージを選ぶ。 それに着替え家を出る。 最近では中間地点である公園に今までの半分くらいの時間で着けるようになった。 なので最近での中間地点は学校の正門になっている。 そこで休憩した後、学校の更に先に行くようにしている。
今回こそはもう一駅分行ってみたいと思っている。 学校の最寄り駅とその先の駅の距離がそれなりにあるのと、駅に着くまでに複雑な道のりなので、前回は断念していたが、今日は行ってみようと考えていた。 そう思いを馳せながら駆け出した。
「ただいまぁ。」
あれから一駅分は制覇できたが、その代償として距離が伸びた分の帰路を走らなければならなくなり、いつもよりも15分ほど遅れて帰ってきたのだった。
「お帰り。 今日はずいぶんと遅かったね。」
物心ついたときからジョギングを始めていた僕に、仕事休みの父さんが食前の紅茶を飲みながら話しかけてくる。
「うん。 まさか学校からもう一駅向こうがあんなに複雑な道のりだと思わなくってさ。 元の場所に戻るのに手間取っちゃった。」
「あー、あの辺りは最近開拓が進んでるからねぇ。 でも立地をそのまま生かしたいってコンセプトは不便さを分かってないような気もするのよねぇ。」
父さんとの会話に、朝食のトーストとスクランブルエッグを乗せたお皿を持ってきた母さんが入ってくる。 昔はもっと田舎っぽかったのにとは母の弁だ。
「あ、母さん。 僕の分はまだ作らないでね。 先にシャワー浴びてきたいから。」
「分かってるわよ。 ホント、たまの休日も休まないんだから。」
昔からの習性に対して呆れたような声を出していた母さんを尻目に僕はジョギングをして火照って汗が出ている体を洗い流すためにお風呂場に行くのだった。
朝御飯を食べ終えて、家族で1時間ほどテレビを見た後に、昨日買ってきた裁縫用具をリビングのテーブルに用意して、まずは布にチャコペンで切りたい形になぞり、布切りバサミで切っていく。 そんな作業の最中にNILEから通知が入った。
『みんな中間テストの進歩はどうだ? もし差し支え無ければ、行き詰まったところを教えてほしいのだが。』
そんな文を打ってきたのは小舞君だった。 どうやら今は勉強中のようだ。 前回までの彼とは大違いのようだ。 彼の敬意ある行為に答えてあげよう。
『どこが分からないのか教えて?』
そう簡潔に返す。 後は僕ではない誰かが答えてくれるだろう。 そんなことを密かに思いながら、僕は裁縫を続けるのだった。
「あんた、それ他に用途あるの?」
お昼ご飯を食べた後も僕はただ黙々と裁縫をしていた。 午前中に切った布を合わせて、チクチクと縫っていっていた。 ちなみに今は円型に切った布に、文字を象った布を縫い合わせている。 これが最初の目的だからだ。
「これだけじゃあ当然意味はないよ? でもこれから少しずつちゃんとしたものになるから。」
「凝るわねぇ。 文化祭なんだし、あんまり拘らなくてもいいんじゃないかしら?」
「そこは僕のエゴだよ。 みんなにどう思われようとあんまり関係は無いからね。 それに少しでも拘ったのを出せば、みんな少しはやる気が出るんじゃないかなって思って。」
「あんたがそれでいいならいいけど。 じゃあ、お留守番お願いね。」
「うん。 いってらっしゃい。」
母さんと父さんは買い物に出掛けていった。 帰ってくるのは夕方くらいになるので、それまでに出来るだけ多く作ってしまおう。 どうせしばらくはテスト勉強でお休みするから作れるうちに作っておきたいのだ。 そんなことを考えながら、時間の許す限り作るのだった。
「ピロン」
いつまで作っていただろうか、ただ黙々と作っていたせいで時間の感覚が分からなくなっていた。 そんな沈黙の中で聞こえてきた携帯の音。 その音で僕は現実に帰ってきた。 そして僕は携帯を確認をする。
『館君、今はいかがお過ごしでしょうか? 私は今はおやつも兼ねてスイートポテトの試作を作りました。 家族のみんなも協力してくれて、楽しく過ごしています。』
安見さんの個人NILEにそんな文とスイートポテトの写真、そして須今家のみんなでスイートポテトを堪能している写真だった。 楽しそうだなぁ。
『僕の方は今は文化祭に使うための看板の作成しているよ。 看板には使えるか分からないけどね。』
そう送り返して僕もお返しと言わんばかりに、作成し終わったクッション基看板を写真に載せる。
返ってくるのが何時になるか分からないのでまた作成をする。 すると数分した後に「ピロン」という音が聞こえてくる。 どうやら返信が来たようだ。
『また随分と凝りましたね。 でもみんなに見せれば考慮されるのではないでしょうか。』
そう返ってきた。 まあ、看板に使われなくても普通のクッションとしても使えるので問題は全くないのだ。 そう思っているとまた「ピロン」という音が聞こえてきた。 内容は
『お姉お手製のスイートポテト、メチャクチャ美味しいよ!』
というものだった。 「お姉」というのは1人しかいないので、味柑ちゃんが携帯を奪ってNILEしたのだろう。
『そうなんだね。 僕も食べてみたいなぁ。』
そうだとわかっていてもとりあえずは返信をする。 今ごろは安見さんが味柑ちゃんを怒っている光景が目に浮かぶようだ。
そんなことを考えていると「ピロン」と返信が来た。 怒ってないのか怒り終えたのかは分からないけれど送信から返信までが早かった。
『元々皆さんには試食してもらう予定でしたので楽しみにしていてください。 それでは。』
そう短い文で返ってきたのでこれでNILEのやりとりを終える。 向こうが頑張っているので、僕も頑張らないとな。 そう思いながら夕方になるまでせっせと縫うことにした。
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