須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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出し物申請

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「ほぉ、スイートポテト店か。」


 源生徒会長は僕が提出した出し物案の書類を見ながらそう答える。

 僕が考え付いた案を次の日の放課後に話したら、みんなそのアイデアに賛成してくれた。 というか拮抗している話の中でこの案は中々良い兆しだったようで、屋台店にすることも決まった。


「一応聞くが、当日はどのように販売を?」

「食べ歩きように出すものとお持ち帰りように出すものをそれぞれ用意していこうと思っています。 当然ながら日持ちはしないので、多少の工夫は施しますが。」

「いや、それが聞ければひとまずはいい。 方法も書いてはあるが、直接聞きたかったのでな。」


 どうやら案は採用になったようだ。 その反応にホッとする。

「しかし早かったとはあまり思ってはいないが、君が申請書を提出してくるとは予想外だったよ。 本来ならばクラス委員長が来るはずなのだが。 どう言った経緯で君が出すことに?」

「いやぁそれが・・・」


 聞かれたのでその経緯を話し始めた。



 事の経緯の始まりは昨日の放課後、僕が出し物として意見を出して、そこからみんなが同調するかのように話が盛り上がっていき、昨日の時点でもう決まってしまったのだ。


 そこまでは良かったのだが、改めてみんなで出し方や役割分担を話し合っているなかで委員長が


「悪いんだけど館君。 君が申請書を書いて、生徒会に出してくれないかな?」


 それを聞いて僕は疑問に思った。 確かに案を出したのは僕ではあるが、それを書くのはさすがに違うのではないかと感じた。


「別に僕が書く必要は無いんじゃないかな? それにそれは委員長の仕事でしょ?」

「君が考えたことだから、みんなの意見を取り入れつつ、君の意見を中心にしても構わないよ。 それに君は生徒会の人と顔見知りだから、緊張しにくいんじゃないかなと思ったんだけど。」


 絶対にそっちが本音じゃないか。 そんなことを思いつつも、断るのも悪いと思ったので、そのまま申請書を貰って、内容を書き終えたのが今朝の事。 そして今現在それを提出したという話だ。



「なるほどな。 確かに君のそれらしい理由だ。」

「嘘なんて言ってませんけど?」

「分かっているさ。 他人のやりたがらない事を率先してやる。 人間性としては十分な素質だが、それは社会に出たら身を滅ぼす事になる。 自分に正直になるのも、ひとつの処世術だぞ。 館、お前は優しすぎるように見える。」


 源生徒会長が言うのなら、そうなのかもしれない。 なぜなら自分を律する事が出来ないのは明らかなる事実だからである。


「まあ、その話は今は関係無かったな。 申請書は確認した。 準備を進めるのならば定期的に報告はしてもらうことになるが、構わないな。」

「問題ないです。 それで、機材や器具についてなのですが・・・」


 僕は必要な機材について事細かに説明する。 それらは全て学校の備品から使うことが出来るが、生徒会を通して出ないと使えない。 また備品の数も限られているため早い者勝ちと言うのも要因である。 そしてもうひとつ注意しなければならないのは、食材などは現地調達になるため、下手をすれば赤字を背負いかねない状態にもなる。 事は慎重に運ばなければならない。


「了解した。 その用意でいかせてもらおう。 時期が時期なので、売れ行きは期待できるかもな。」

「その分クオリティをあげないといけないですがね。」

「出来るだろう。 貴殿らのクラスならばな。」

「励ましをありがとうございます。 それでは、僕はこれで。」

「ああ、勉学も忘れずにな。」


 最後の言葉に生徒会長らしいなと思いつつ生徒会室を出る。


 生徒会室からの一直線の廊下を歩いて角を曲がって階段が見えたところでそこにいた人物に驚いた。


 そこにいたのは体操座りで壁に寄り添って寝ている安見さんの姿だった。 なんでここに安見さんがいるのかという疑問と、こんなところでも寝てしまうのかという呆れが入り交じったような感情になる。 しかしここにいてもしょうがないので、安見さんを起こすことにした。


「安見さん、安見さん。 こんなところで寝てたら風邪引いちゃうよ。」


 体を揺らして起こそうとするが今回はやたらと起きるのが遅い。 いつもはこんなのじゃないんだけど。


 風邪を引かないようにせめてものと思い、上着を脱いで安見さんの体にかける。 その時に安見さんの顔をじっと見る。 普段はどことなく落ち着いたような顔をしているが、こうして眠っている顔を見るとそれが全て裏返しになるような穏やかで、子供のような寝顔をしている。 そんなギャップに僕は心を惹かれている。


「―――――」


 そんな安見さんの寝顔と小さくも吸い込まれそうな唇に僕は―――


「・・・・・・んぅ・・・」


 目を覚ました安見さんと至近距離で目があった。 もうお互いの鼻先が触れあいそうな、そんな距離だった。 その事実に気がついた安見さんと、我に返った僕はお互いに顔を真っ赤にして勢いよく距離を取った。


「ご、ごめん! 決してその悪いようにするつもりはなくて・・・じゃないや! あぁ、もう! 訳の分からない言い訳ばっかり出てくる・・・ えっとえっと・・・」

「わ、私ったらいつの間にか寝てしまっていたのですね! た、館君は私を起こそうとしていたのですよね! そ、それに関しては感謝していますよ。 わ、私中々起きられない体質ですので・・・」


 お互いに色々と言い訳を言い合って落ち着いた後、状況確認のために質問をしあった。


「安見さんはどうしてここにいるの? 部活はやってないはずだけど?」

「一緒に帰りたかった、という理由ではダメですか?」

「そっか。 確かに1人で帰るのは寂しいなって思ってたんだ。 ありがとう、わざわざ待っていてくれて。」


 そうにこやかに返す。 一瞬安見さんの体が「ピクリ」と動いたような気がした。


「館君、これ・・・」

「いや、秋とはいえ今日は少し肌寒いからさ。 風邪を引かないように掛けたんだけど、迷惑だったかな?」

「いえ、迷惑ではありませんよ。 館君に包まれているみたいで、なんだか安心します。 それにこの匂いは・・・嫌いじゃありませんから。」


 その言葉と甘い顔に僕の心拍数ははね上がる。 その台詞は反則だよ・・・


「それじゃあ、帰ろうか。」

「ええ、帰りましょう。」

「それなら私達も一緒に下校させてもらえるか?」


 第三者の声に僕も安見さんも驚いた。 角を見ると、源生徒会長と錦野先輩が僕らの前に現れていた。


「いや、別に二人きりならさして問題はないんだ。 ただこの生徒会室近くのところで二人の空間を作るのは、少々場違いな気はするな。」

「・・・えっと・・・ちなみに・・・何時から・・・?」

「「風邪を引かないように」の辺りからだろうか?」

「私はその前からですけどねぇ、2人が言い訳を始めた辺りから。」


 その言葉を聞いて僕も安見さんも恥ずかしくなったようで、顔を赤く染めてしまった。


「まあ、私達が取り締まる理由はないが、あまり羽目を外しすぎると取り返しのつかないことになるからな。 それだけは言っておこう。」

「・・・以後気をつけます・・・」


 そんな恥ずかしさの中で、僕らは帰路に立ったのだった。

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