須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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文化祭の出し物案

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僕らの学校の文化祭は10月の末に行われる。 その準備に先駆けて、文化祭の始まる3日前以前の最終下校時刻以降の準備を禁止する代わりに1ヶ月前の準備をしても良いということになっている。


 なので文化祭が始まる1ヶ月前には準備が始められるようにそのクラスの出し物をどうするかの案の出しあいを今は放課後に行っているという現状だ。


「教室を使うんだったらカフェやろうぜ! 絶対に盛り上がるって。」

「それあんたがメイド服みたいだけでしょ? マジックショーはどう? それなら楽しめることない?」

「今からマジック覚えるのかよ? 一筋縄じゃいかないって。」

「別に教室じゃなくてもいいんだろ? 露店ならなんか出来ないか?」

「それならクレープがいい! 学校で食べるクレープは最高じゃない?」

「楽しむなら射的でもいいんじゃないか? みんなで出し合えばなんとかなんじゃないか?」


 みんなの意見が交差する放課後の教室。 仕切り役の人が必死にみんなの意見を黒板に書いている。 様々な意見をみんなで考える。 それについてはいいのだけれど、僕は流れに任せるのが一番だと考えているので、下手な事は言わないようにしている。


「館的には、なにかやりたいことはないのか?」


 小舞君がそんな僕を見てそんな質問をしてきた。 僕はそんな意見が飛び交うなかでテスト勉強をしていだが、さすがになにも言わないのは良くないので、僕も少し考えてみる。


「んー、カフェっていうのも悪くはないけれど、ただのカフェじゃあ面白味が無いような気がするんだよね。」

「ふむ、確かに一風変わったものでなければお客は来てくれない。 それを踏まえれば、屋台の方が集客は見込めるか。」


 坂内君も意見としては同じようだ。 しかし彼には演劇部での練習、もとい舞台での演出もある。 今回は坂内君と一緒に行動するのは無理だろう。


「でもよ、屋台にするにしたってそれなりにクオリティが必要だぜ? 決まり次第準備が出来るからってそれはよぉ・・・」

「行う人は必ずしも全員では無くてもよいのですよ。」


 そう言ってきたのは江ノ島さんだ。 まとめ役をやっていた彼女が僕らのところにやってくるのは理由があるのだろうか?


「江ノ島さん。 向こうの方はいいの?」

「ええ、中々決まらないので、今回はこの辺りにして、また明日という形になりました。 文化祭前の勉強もありますし。」


 早めに切り上げてきたってことね。 それなら教室にいる意味はないかな?


「それじゃあ僕は帰るよ。 ここで勉強するよりも家に帰った方がやり易いし。」

「ええ。 私達も帰りましょうか。」


 そう言って僕達は席を立つ。 そして僕はある場所に向かった。


「安見さん、帰る時間だよ。」


 こんな意見の飛び交う騒音の中で平然と寝ている安見さんを起こしにかかる。 いつもならこの辺りですぐに起きるのだが、今回は深い眠りについているようだ。


「安見さん? おーい。」

「聞こえてないんじゃないのか? ほら、周りが煩いし。」

「館君の声が届いてないのかもしれないな。」

「耳元まで声を近づけてみては?」


 そこまでする必要があるのかな? でも物は試しと顔を耳元まで近づけ、耳にかかっている髪をあげる。


「安見さん。 起きないと僕ら、帰っちゃうよ。」


 安見さんの耳元で囁くように喋ると、体が少し動いた後に上体を起こしてくれた。


「・・・あれ? 館君。」

「おはよう安見さん。 よく眠れた?」


 そういうと安見さんは右耳に自分の手を当てた。 どうしたのだろうか?


「・・・なんでしょうか。 確かによく眠れたのですが、耳元になにか、温かい感じが流れ込んできて・・・」


 安見さんが頬を赤く染めながらそう言うので、言った張本人である僕もなんだか照れ臭くなってきてしまった。


「と、とにかく起きたなら帰ろう。 僕は先に行ってるよ。」


 そういって僕は逃げるように昇降口に向かっていった。 振り向きはしなかったが、絶対にみんなの顔がにやついていた。



 僕らはあれから駅で分かれてそれぞれの帰路に帰ろうとしたときに、僕は安見さんが降りるのと一緒に、僕も電車を降りることにした。


「あれ? 館君の最寄り駅はもう一駅先ですよね?」

「文化祭の案の足しにならないかと思って、少し歩こうかなって思ってさ。」


 そういって僕達は改札口を出る。 すると


「い~しや~き芋~ お芋~」


 近くから焼き芋屋の屋台が見かけられた。


「もうそんな時期なのですね。」

「そうだね。 一つ買ってく?」

「そうですね。 家族の分も買っていこうかと思います。」


 そういって僕と安見さんは屋台に足を運ぶことにした。


「すみません。」

「いらっしゃい!」

「石焼き芋10個下さい。 こことここで5個ずつお願いします。」

「はいよ! 毎度あり!」


 そういって屋台のおじさんは焼き芋をそれぞれの袋に入れてくれた。


「お待ち! それじゃあ10個だから、割引価格で1500円だよ!」

「分かりました。」


 そういって僕は財布から1000円札と500円玉をトレーに出す。


「あいよ! 丁度だね。 それとほれ、おじさんからのサービスだ!」


 そういって焼き芋を1つくれたのだ。


「いいんですか?」


「このご時世中々焼き芋を買ってくれるお客さんが少なくなってきてなぁ。 若いカップルの兄ちゃん達に、温かい気分になってもらいたくてな。 ははは!」


 カップルという言葉に詰まりそうになったが、せっかくの好意なので受け取ることにした。


「毎度あり!」


 屋台を離れた後に僕は貰った焼き芋を半分にして安見さんに渡す。


「はい、安見さんこれ・・・安見さん?」

「・・・カップル、ですか。」


 その言葉に僕も少し気恥ずかしくなる。 確かに端から見ればそうなるのだが、如何せん実感が湧かないのだ。


「あ、ごめんなさい館君。 いただきますね。」

「え? あ、うん。」


 そういって安見さんに焼き芋を渡して僕も一口食べる。 焼き芋の熱さとねっとりとした甘味を含んだ身が、パリパリの皮と相まって美味しい。


「確かに言われてみればこうして焼き芋を食べる機会って少なくなってきてるよね。」

「時代の流れというものでしょうか? 寂しい感じがしますね。」


 この美味しさを普及出来ないだろうか? そう思ったときにふと思い付いたことがあった。


「そう言えば文化祭って来月末だったよね?」

「そうですよ。 金土とやって、日曜日に片付けをして、次の月曜日と火曜日が休みになります。」

「・・・これならいけるんじゃない?」

「これ、ですか?」


 僕が思い付いたのはこの味をみんなに知ってもらうための案。 ただしこのままの形では無くて、若い人にも受け入れて貰えるような形に変えて。


「文化祭の出し物が思い付いたんですか?」

「うん。 明日の放課後に説明するよ。 ちょっと家で考えてみる。」


 そういって僕は帰路に向かって歩き始めた。 僕が出し物として考えているものそれは・・・

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