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いざ牧場へ
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9月も半分を過ぎた頃に、1年生は牧場へと校外学習しに行く授業がある。 これの授業の目的としては、林間学校の時と似たようなもので、普段何気なく食しているものを直で学んで欲しいとの願いがあるかららしい。
勿論それだけではなく、事前に予習をして貰うために、酪農についての簡易的なパンフレットも支給された。 当然のことながら当日に渡すわけではなく、校外学習3日前程から配られたものだ。 僕も予習用に学校から帰ってきた夜には読み更けていた。
グラウンドに集められて、それぞれのバスに乗り込んで出発を待つ。 男女左右で分かれるように席が取られていた。 バスの通路を挟んで、だ。
「館君本当にいいのかい?」
「なにが?」
「別に席は決まっているわけではないし、須今さんの近くにいかなくてもいいのかと思って。」
「常に一緒にいるのって、ちょっと違うような気がしてさ。 まあ少しの間だけだよ。 話し相手は何も僕だけじゃないからさ。」
「なんだよぉ、強者の余裕かぁ?」
後ろから同じクラスメイトの、少しだけチャラチャラした男子に声をかけられる。 自分の中の苦手意識が少しだけ出てしまう。
「うちのクラスって、結構レベルの高い女子多いじゃんか。 そんなことをしていると取られちまうぜ? まだ付き合ってないんだったら俺がもらっても・・・」
「止めときな。 この二人はもう掲示板に載るほどに有名になっちまってるし、それで本当に奪うような事をしたら、お前が悪者になるぜ。 きっと。」
「別にいいじゃねぇかよ小舞。 俺だって密かに狙ってるって言いたいだけなんだって。」
「では出発をするぞ。 変に席を立たないようにするんだぞ。」
先生がそう言うとバスのドアが閉まり、出発を始めた。 僕は通路側に座っているので後方に座っている安見さんの姿はチラリと見える。 女子同士でお喋りしているので、楽しそうで何よりだ。
「館、文化祭までに須今の事をどうにかしろよ? 多分だがよくも悪くもお前らの関係の事を気にしている人間がいる。 下手に引き伸ばしても良いことはないからな。」
後ろに座っていた小舞君が小声でそんなことを助言してくる。 付き合う付き合わないは別にしても、僕は安見さんを見守ると言ったのだ。 それは自分の中で決めたことでもある。 でもそれには限界があって、僕も安見さんも常に一緒にいるわけじゃない。 だからこそそれも含めて考えないといけないのかもしれない。 僕は安見さんを後ろ目で見ながら、目的地に着くまで眠ることにしたのだった。
「・・・えぷっ・・・」
「大丈夫ですか? 館君。」
無事に目的地には着いたのだが、寝て目が覚めた瞬間に猛烈な吐き気が来たのでみんなと離れて気分を取り戻そうとしていた。 安見さんはその付き添いだ。
「やっぱり車内で寝るのは良くなかったよ・・・・うぷっ・・・」
「慣れないことをするからですよ。 まだ気持ち悪いですか?」
「眠ることに関しては安見さんには言われたくなかった。 でも大分落ち着いたよ。 これから動物に会うって時にこんなのじゃ、動物達も不安がっちゃうよ。」
「無理はしないで下さいね?」
そういって足取りはあまり速くはないけれど、僕らはみんなのいる場所に戻った。
「では今回は搾乳体験をしてもらいます。 一クラスに一匹乳牛がおりますので、それぞれのクラスで1回だけ体験してもらいます。 後衛生面を考えて使い捨て手袋を利き手に装備して行います。 そしてその後は指示にしたがって動いて下さい。」
先生の代表がまとめてそのように説明した後に、僕ら2組も一匹の乳牛を囲うように集まり、搾乳体験が始まる。 名前順なのでそれなりに遅くはなるが、1人1回ならすぐに回ってくるだろう。
そして僕の番になる。 使い捨て手袋を右手に付けて、乳牛の乳の垂れている部分をゆっくり触れていく。 やるときのコツとしては上から順に絞り出すように握っていくのが最適なんだとか。
まず人差し指と親指の間の間接が触れる。 そこから感じるのは人肌とは別の温かさが感じられた。 そして中指、薬指、小指と徐々に握っていき、最終的に全部握ったところで1回分の搾乳が終わる。 そしてすぐに離れて次の生徒に変わる。 なんというかまだ感触が残っているので少しの間に手を開いたり閉じたりしていた。
牧場内を自由に見れるということで、僕は牛舎近くにやって来ていた。 もちろん僕だけではなく別の生徒もいる。 クラスメイトではないけれど。
「そういえば乳牛の事はホルスタインっていうけれど、肉牛の場合ってなんていうんだろ?」
「調べてみたら「ビーフキャトル」と言うそうですよ。」
独り言の疑問を喋っていたら後ろから安見さんが答えてくれた。
「館君、あちらに搾乳機のある宿舎がありましたので、見に行きませんか?」
「なんだか凄くマニアックなところに行こうとしてない?」
そうは言いつつも僕らはその搾乳機の場所につく。 同じような機械が複数個ぶら下がっていて、その一つ一つにしきりがある。
「あのビンのような場所から搾乳されるのですね。」
「というか搾乳機がこれだけあるってことは、ここの主さんは相当の酪農家だよ。 なんかこの辺りの酪農を賄ってるレベルじゃない?」
そんな考察を二人でしていると
「あれから吸うのかぁ。 痛いんかな? 吸われるのって。」
「痕がつかないようには工夫されてんじゃね?」
「あれを女子にやってみたいものだよな。」
「胸でかい奴ならいけんじゃね?」
そんな品のない会話をする男子の声が聞こえてきた。 下らないことを考えるものだ。 というかあんなので吸ったら痛いでしょ。 あと人間はそんなに出す生き物ではない。
「行きましょう館君。 あっちに羊が見えました。」
そんな声に出さないツッコミをしていると安見さんからお声がかかった。 少し顔をしかめていることから会話は聞いていたのだろう。
「人間の見解で考えられないものですかね。」
先程の男子の会話は安見さん的にもよろしくなかったようだ。
「まあ男のロマンってやつじゃないのかな? さすがに分かりたくはないけど。」
ロマンを語るなら仕方がない。 そう納得すればあの会話も下らないことにはならない。
「・・・館君も、ああいったのに、ロマンを感じるんですか?」
なんだか安見さんに試されているような質問が飛んできたが、僕はこう答える。
「確かにロマンは感じるけれど、なんというか現実味が無さすぎるんだよね。 僕は自分のエゴで動く人間じゃないからね。」
「まあ、それはそうですよね。」
納得してもらえたようでなによりだ。 そんなことにホッとしながら僕らは羊のいる柵に向かって歩くのだった。
勿論それだけではなく、事前に予習をして貰うために、酪農についての簡易的なパンフレットも支給された。 当然のことながら当日に渡すわけではなく、校外学習3日前程から配られたものだ。 僕も予習用に学校から帰ってきた夜には読み更けていた。
グラウンドに集められて、それぞれのバスに乗り込んで出発を待つ。 男女左右で分かれるように席が取られていた。 バスの通路を挟んで、だ。
「館君本当にいいのかい?」
「なにが?」
「別に席は決まっているわけではないし、須今さんの近くにいかなくてもいいのかと思って。」
「常に一緒にいるのって、ちょっと違うような気がしてさ。 まあ少しの間だけだよ。 話し相手は何も僕だけじゃないからさ。」
「なんだよぉ、強者の余裕かぁ?」
後ろから同じクラスメイトの、少しだけチャラチャラした男子に声をかけられる。 自分の中の苦手意識が少しだけ出てしまう。
「うちのクラスって、結構レベルの高い女子多いじゃんか。 そんなことをしていると取られちまうぜ? まだ付き合ってないんだったら俺がもらっても・・・」
「止めときな。 この二人はもう掲示板に載るほどに有名になっちまってるし、それで本当に奪うような事をしたら、お前が悪者になるぜ。 きっと。」
「別にいいじゃねぇかよ小舞。 俺だって密かに狙ってるって言いたいだけなんだって。」
「では出発をするぞ。 変に席を立たないようにするんだぞ。」
先生がそう言うとバスのドアが閉まり、出発を始めた。 僕は通路側に座っているので後方に座っている安見さんの姿はチラリと見える。 女子同士でお喋りしているので、楽しそうで何よりだ。
「館、文化祭までに須今の事をどうにかしろよ? 多分だがよくも悪くもお前らの関係の事を気にしている人間がいる。 下手に引き伸ばしても良いことはないからな。」
後ろに座っていた小舞君が小声でそんなことを助言してくる。 付き合う付き合わないは別にしても、僕は安見さんを見守ると言ったのだ。 それは自分の中で決めたことでもある。 でもそれには限界があって、僕も安見さんも常に一緒にいるわけじゃない。 だからこそそれも含めて考えないといけないのかもしれない。 僕は安見さんを後ろ目で見ながら、目的地に着くまで眠ることにしたのだった。
「・・・えぷっ・・・」
「大丈夫ですか? 館君。」
無事に目的地には着いたのだが、寝て目が覚めた瞬間に猛烈な吐き気が来たのでみんなと離れて気分を取り戻そうとしていた。 安見さんはその付き添いだ。
「やっぱり車内で寝るのは良くなかったよ・・・・うぷっ・・・」
「慣れないことをするからですよ。 まだ気持ち悪いですか?」
「眠ることに関しては安見さんには言われたくなかった。 でも大分落ち着いたよ。 これから動物に会うって時にこんなのじゃ、動物達も不安がっちゃうよ。」
「無理はしないで下さいね?」
そういって足取りはあまり速くはないけれど、僕らはみんなのいる場所に戻った。
「では今回は搾乳体験をしてもらいます。 一クラスに一匹乳牛がおりますので、それぞれのクラスで1回だけ体験してもらいます。 後衛生面を考えて使い捨て手袋を利き手に装備して行います。 そしてその後は指示にしたがって動いて下さい。」
先生の代表がまとめてそのように説明した後に、僕ら2組も一匹の乳牛を囲うように集まり、搾乳体験が始まる。 名前順なのでそれなりに遅くはなるが、1人1回ならすぐに回ってくるだろう。
そして僕の番になる。 使い捨て手袋を右手に付けて、乳牛の乳の垂れている部分をゆっくり触れていく。 やるときのコツとしては上から順に絞り出すように握っていくのが最適なんだとか。
まず人差し指と親指の間の間接が触れる。 そこから感じるのは人肌とは別の温かさが感じられた。 そして中指、薬指、小指と徐々に握っていき、最終的に全部握ったところで1回分の搾乳が終わる。 そしてすぐに離れて次の生徒に変わる。 なんというかまだ感触が残っているので少しの間に手を開いたり閉じたりしていた。
牧場内を自由に見れるということで、僕は牛舎近くにやって来ていた。 もちろん僕だけではなく別の生徒もいる。 クラスメイトではないけれど。
「そういえば乳牛の事はホルスタインっていうけれど、肉牛の場合ってなんていうんだろ?」
「調べてみたら「ビーフキャトル」と言うそうですよ。」
独り言の疑問を喋っていたら後ろから安見さんが答えてくれた。
「館君、あちらに搾乳機のある宿舎がありましたので、見に行きませんか?」
「なんだか凄くマニアックなところに行こうとしてない?」
そうは言いつつも僕らはその搾乳機の場所につく。 同じような機械が複数個ぶら下がっていて、その一つ一つにしきりがある。
「あのビンのような場所から搾乳されるのですね。」
「というか搾乳機がこれだけあるってことは、ここの主さんは相当の酪農家だよ。 なんかこの辺りの酪農を賄ってるレベルじゃない?」
そんな考察を二人でしていると
「あれから吸うのかぁ。 痛いんかな? 吸われるのって。」
「痕がつかないようには工夫されてんじゃね?」
「あれを女子にやってみたいものだよな。」
「胸でかい奴ならいけんじゃね?」
そんな品のない会話をする男子の声が聞こえてきた。 下らないことを考えるものだ。 というかあんなので吸ったら痛いでしょ。 あと人間はそんなに出す生き物ではない。
「行きましょう館君。 あっちに羊が見えました。」
そんな声に出さないツッコミをしていると安見さんからお声がかかった。 少し顔をしかめていることから会話は聞いていたのだろう。
「人間の見解で考えられないものですかね。」
先程の男子の会話は安見さん的にもよろしくなかったようだ。
「まあ男のロマンってやつじゃないのかな? さすがに分かりたくはないけど。」
ロマンを語るなら仕方がない。 そう納得すればあの会話も下らないことにはならない。
「・・・館君も、ああいったのに、ロマンを感じるんですか?」
なんだか安見さんに試されているような質問が飛んできたが、僕はこう答える。
「確かにロマンは感じるけれど、なんというか現実味が無さすぎるんだよね。 僕は自分のエゴで動く人間じゃないからね。」
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