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盆休みと帰省

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「今年は行けるかな。」

「行けるって・・・あぁ、今日からお盆休みになるのか。」


 父さんの発言に僕は納得をする。


 八月半ばに訪れる、亡くなった人が来るだとか彼岸と此岸が繋がる日だとか、様々な言い伝えがあるが、簡単に言えばご先祖様を敬う日だと僕は考えている。


「言われてみれば中々行けなかったものね。 何年ぶりになるかしら?」

「もう5年は行ってないよ。 光輝もまだ小学生で、あの後もほとんど行けてないからなぁ。」

「だったらなおのこと行かないといけないんじゃない? 僕だってあの頃の僕じゃないわけだし。」

「それもそうだね。 そうだ、折角だから須今さんも一緒に行けないか連絡をしようじゃないか。」


 その父さんの発言に僕は首を傾げた。 お盆休みでみんな帰省したりして、再開を楽しむところなのに、そんな他人を連れていっていいものなのだろうか?


「光輝のガールフレンドを紹介するのも、いいかもなと思ってね。」

「ねえ、その誤解はいつ解けるの? 付き合ってないんだってば。」

「でも紹介する分にはいいじゃない。 とりあえず聞いてみたら?」


 そんなにこの2人は僕たちの仲を取り入りたいのか。 ちょっとグイグイ行きすぎではないか? そう思うが、親としては一人息子に彼女が出来たという思いでいっぱいいっぱいなのかもしれない。


「はぁ・・・分かったよ。 聞いてはみるけど、向こうの用事が優先だからね。 あと他の人も呼ぶから。 あの家広かった記憶があるから、3、4人増えても問題はないでしょ?」


 そう言って僕はグループNILEでみんなに一斉送信をすることにした。 文の内容は


『お盆休みに僕のお父さんの実家に行くんだけれど、良かったら一緒に行かない? 送り迎えは僕の父さんがするから』


 そう送って僕は部屋に入り、就寝するまでベッドの中に入るのだった。



「・・・納得いかない・・・」


 盆休み当日、僕ら家族は父さんの実家に向かうため車を走らせている。 今運転しているのは母さんで、僕は後部座席にいる。 そして隣には父さんが座っている。 なぜ隣なのかと言えば・・・


「光輝ったら、盆休みに行くのが決まってからずっとこの調子なのよ。」

「はっはっはっ! 光輝君も罪深いなぁ。 私達のせいで予定が狂っちゃって。」

「・・・別にそういうわけではありませんよ。」


 運転している母さんの隣に座っているのは天祭さんだからである。 天祭さんだけではない。 僕らが乗っているワゴン車には僕の座っているさらに後ろの後部座席に須今三姉妹、そして父さんを挟んだ逆サイドに来さんが座っていて、つまひ須今家の人間が僕らと一緒にいるのだ。 ゴールデンウィークの遊園地とは違い、更に来さんがいるので、二家族が同時に移動しているのだ。


 グループNILEで送った後に帰ってきた返事は安見さん以外のみんなは、家族でお盆休みの予定を過ごすということなので、キャンセルしていた。 それで残ったのが安見さんとなった訳だが、そこから何故か須今一家が来るという流れになって今に至る。 悪い訳じゃないんだけど、なんだか出来すぎているように見えて不気味さすら覚える。


「というかこういうのって、家族水入らずっていうのが普通だと思うんだけど?」

「私達のところはもう済ましてしまったからな。 お盆休みといってもやることが無いのだよ。 それに君たちのいく場所に、個人的に興味があってな。」

「あの場所はいい場所ですよ。 きっと喜んでくれると思います。」


 来さんの事情に、父さんが仕事モードで話している。 こういうときくらい普通に話し合えばいいのに。


「すみません館君。 大所帯で来ることになってしまって。」

「・・・別に安見さんのせいじゃないし、まぁ、いいんじゃないかな?」

「お兄さん拗ねてるの?」

「いや、あれは諦めたと言ったところでしょうか? 私達はある意味イレギュラーですから。」


 三姉妹の言葉を受けながら、僕はため息を深く付くのだった。


 父が昔住んでいたのは、かなり田舎のほうで、民家が少しあるくらいの集落のような存在だった。 父曰く、勉強は寺子屋で教えて貰ったのだとか。 かなり古参な学校があるものだ。


 そして辿り着いたひとつの家、そこで僕らは1泊して帰る予定になっている。


「よっ・・・と。」

「勝手に開けてしまってよいのかい?」

「大丈夫ですよ。 ここの住民は別のところに帰省していますし、元々家を借りたいということで貸している場所なので。 我々が行きますよと連絡を取って、この二日だけ返してくれることになっているんです。」


 そう言ってドアを開けて、荷物を置いていく。 そしてそのまま鍵をかけて、僕らは別の場所に移動することにした。


 着いたのはひとつの古寺。 新品のように綺麗に見えるが、実際の年期はかなりのものなのだとか。


 そして水桶に水を入れて、古寺の裏側、そこに立てられているお墓の内のひとつにお供え物と水をかけて、手を合わせ、拝礼をする。


「これは誰のお墓なのですか?」

「私の父と母のものだ。 私が高校に進学するために出ていった後に亡くなったんだよ。 母が先で、それを追いかけるように父が亡くなった。 一人っ子だった私は、先程の家の所有権を貰って、高校からここまでひとしきり走ったものだよ。 大変な思いだったが、今ではいい思い出なのさ。」


 安見さんの質問に父さんはスラスラと答える。 父さんの歳の事を考えると、まだ若いと言えるような年齢だっただろう。 僕という孫を見せられなかったことが一番悔いている事だとも言っていた。


 だからこそ僕は、5年前にしか来ていない僕の姿から、成長した今の姿を見てもらいたいという願いを込めて、拝礼をした。



「そんなことがあったのに、わざわざ水を差したようでごめんね?」

「須今さんが謝ることじゃないさ。 もしかしたら、光輝がここに来ることになったときのために、紹介も兼ねて来ただけなのだから。」


 お墓参りが済んだ帰り道。 天祭さんは父さんに向かって謝ってはいたが、父さんは気にしていない様子だった。 というかさらりと安見さんと連れてくることにしているのはなんなのだろうか?


「しかしここにはある不思議なことが起きることがあってね。 子供の頃は半信半疑だったし、私自身も起きたことは無いんだがね。」


 唐突に始まった父さんの話にみんな視線が行く。


「なんでもあの古寺には神霊がいるらしくてね。 その神霊に会うと奇跡が起こると言われているそうだよ。」

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