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須今父との対談
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「少し待ってて。 紅茶を淹れてくるから。」
そう言って去っていく天祭さん。 しかし僕はそんなことを気にしている余裕なんて一切なかった。
なぜなら僕の目の前に座っているのは須今父である須今 来その人であったからである。 一応隣には安見さんがいるが、脂汗と心拍数の異常な上がり方のせいで今にも吐きそうになっていた。 チラリと天祭さんが去っていったドアの方を見ると音理亜さんと味柑ちゃんが見守るようにドアの隙間からこちらを見ていた。
「君の事は安見達から聞いている。」
須今父に声をかけられてなにもしていないのに背筋が伸びる。 これが反射的というものだろうか。
「随分と安見の事を見ているようだな。」
「あ、は、はい。 席が隣だった事もあって、見る機会は、多かったです。」
どうも言葉に信憑性が生まれない。 そもそも「安見さんが寝ているからそれの面倒を見ている」なんて口が裂けても言えない。 言えるわけがない。
「安見の事はどう見ている?」
どう、という言葉の意図は全く読めない。 僕自身こういったことに関しては疎いというか、思考が停止してしまう。 どう答えればいいのか、なにが正解なのか、全くと言っていいほど分からないからだ。 だがこれだけは言える。
「僕は、安見さんを、1人の友達として見ています。」
「色目を使って見てるわけではないのだな?」
「・・・・・・完全に見ていないとは言えません。 僕も男です。 安見さんの事を「友達」としてではなく、「女子」として見ることだってあります。」
恥ずかしい話だが、煩悩を完全に捨てきれる僧ではないので、安見さんの事を「1人の女の子」として見てしまってもおかしくはないのだ。
「・・・そうか。」
「でも、僕は、安見さんを悲しませるような事はしたくありません。 付き合っている訳ではないですが、彼女が悲しむ姿を、僕は見たくありませんので。」
園路の一件で分かった事。 それは安見さん自身にも分からないほどの無意識的な拒絶反応が少なからずあるということ。 それを僕は絶対にしないようにしないといけないと決意したのだから。
「・・・そうか。」
「来さん。 そろそろいいんじゃないかな?」
紅茶を淹れて戻ってきた天祭さんがそう話しかける。 え?
「・・・天祭さん。 こう言うときに素を出すのはやめてくれないか? 親としての威厳が失くなってしまうではないか。」
「なにを言ってるのよ。 彼氏を連れてくるかもって時の為に、その喋り方と目付きを練習しているの、知ってるのよ?」
「そりゃあ娘を簡単には渡せないからね。 そこは父親の意地だよ。」
「そんなことしなくても十分に強いんだから、加減さえすれば問題ないわよ。」
僕が緊張が上がりっぱなしの中で、そんな会話が繰り広げられている。 どう言うことなのか理解が追い付かなくなってきた。
「え? あの・・・」
「大丈夫よ館君。 来さんは怖い人ではないわ。 むしろこれは娘達を守ろうとしていることなの。 許してあげて?」
本当に理解が追い付かない。 許すもなにも、こっちは言葉ひとつで拒絶されるかもしれないという思いしかないのに、そんなことを急に言われても・・・
「まずはこうしなければいけなかったことを謝らせてくれ。 済まなかった。」
そう言って須今父は机に頭を伏せるのだった。
「ちょっ! 止めてくださいよ! 娘を渡そうとしないようにするのは親としては当然の行動です! なので頭をあげてください。 確かに驚きはしましたが、不快には思っていませんので。」
「・・・優しいのだな。君は。」
そう言って頭をあげてくれる須今父こと来さん。 緊張が一気に抜けたことでなにか風船の空気が抜けたかのように脱力をしてしまった。
「来さんったらね。 安見に男が出来たって言った時、めちゃくちゃ動揺してコップを持っていた手がガタガタに震えていたのよ? みんなで説明したら納得はしていたけれど、半信半疑だったようだしね。」
「自分の娘に男が出来たなんて、動揺を隠せない方がおかしいさ。 3人いるとはいえ私の可愛い娘達だ。 簡単にはどこの馬の骨か分からないような男には渡せないな。」
僕もそのどこぞの馬の骨なんだけどなぁ・・・ 僕は須今家に取ってどういう存在なんだろうか? 来さんは厳つい顔のまま会話は続く。 どうやら顔の方は素のようだ。
「しかし内心ホッとしているのも事実だったりはするんだけどね。 音理亜は中々連れてこないし、味柑には早すぎるし。」
その言葉を受けて「あれ? なんで私が悪口言われてるんです?」とドアの向こうの音理亜さんが言っていた気がした。
「しかしなんであの場所に居合わせたのですか? いや、喧嘩沙汰にならないようになったのはありがたかったですが。」
「・・・恥ずかしい話だが、昨日の夜に帰ってきた安見が元気が無かったのを受けて、何かあったのではないかと不安になってね。 そんな中で今朝に「出掛けてきます」と言ったので、心配になって・・・」
「つけてきたというわけですね。」
「それについては咎められても言い訳はしない。 そして君と彼の現場を目撃した。 もちろん彼についても安見が中学の時に話を聞いていたので、今回のことで近づくことはないと信じたいがね。」
ああいったのは正直一度や二度のそれじゃあ意味がないような気もするが、気を緩める訳にはいかないな。
「お父・・・いや来さん。 僕は安見さんを悲しませるような事はしないと言いました。 その言葉に嘘偽りはありません。 安見さんの事を守ると強く言えないのは、僕自身も弱いからです。 ですが安見さんの事を僕に任せてくれませんか?」
そう言うと来さんは先程の「娘絶対に渡さないお父さん」モードになる。 再びあの眼光が僕を見つめる
「・・・なぜ安見を預けさせたい?」
「安見さんの側にいてあげたいと思うからです。 安見さんの心の拠り所にして欲しい僕の願いがあって、なによりも・・・」
僕は一度深呼吸をする。 ある言葉を言うための覚悟のためだ。 ここで言わないでいつ言うのか。 想いを届けるのならここしかない。
「安見さんの事が好きだからです。 友人としてではなく、1人の女性として。」
来さんの眼光に負けないほどに決意の熱を込めた視線を向ける。 数秒間お互いに見合っていると、来さんはひとつ瞬きをして、眼光を止めた。
「その想い確かに受け止めたよ。 私も君を直で見て、安見を任せてもいいと思えるよ。」
「それじゃあ・・・」
「でもまだ付き合っていない訳なのだから、付き合うという話になったらまた改めて話をしようじゃないか。」
「っ! はい!」
僕と来さんとの間に約束が生まれた。 大丈夫。 約束をした以上は安見さんの事は何がなんでも守り抜くと決意を改めた。
「良かったわね安見。 こんなに館君に想われて幸せ者ね。」
天祭さんの言葉に「ハッ!」と気が付く。 すっかり忘れていたが隣には安見さんがいたんだった! 来さんとの会話の中で言ったことが全部聞かれて・・・
そんな想いで横を向くと机に突っ伏している安見さんがいた。 この人がその体勢の時は寝ている時だと言うのはこの3ヶ月間で学んだことだ。 た、助かった・・・
「あら残念。 タイミングがいいやら悪いやら。」
「こんな娘だが、これからもよろしく頼む。」
両親が暖かい目を安見さんに向けながら僕にお願いをしてきた。 そんな安見さんを見ながら、守っていけたらなと不思議と思えた。
そう言って去っていく天祭さん。 しかし僕はそんなことを気にしている余裕なんて一切なかった。
なぜなら僕の目の前に座っているのは須今父である須今 来その人であったからである。 一応隣には安見さんがいるが、脂汗と心拍数の異常な上がり方のせいで今にも吐きそうになっていた。 チラリと天祭さんが去っていったドアの方を見ると音理亜さんと味柑ちゃんが見守るようにドアの隙間からこちらを見ていた。
「君の事は安見達から聞いている。」
須今父に声をかけられてなにもしていないのに背筋が伸びる。 これが反射的というものだろうか。
「随分と安見の事を見ているようだな。」
「あ、は、はい。 席が隣だった事もあって、見る機会は、多かったです。」
どうも言葉に信憑性が生まれない。 そもそも「安見さんが寝ているからそれの面倒を見ている」なんて口が裂けても言えない。 言えるわけがない。
「安見の事はどう見ている?」
どう、という言葉の意図は全く読めない。 僕自身こういったことに関しては疎いというか、思考が停止してしまう。 どう答えればいいのか、なにが正解なのか、全くと言っていいほど分からないからだ。 だがこれだけは言える。
「僕は、安見さんを、1人の友達として見ています。」
「色目を使って見てるわけではないのだな?」
「・・・・・・完全に見ていないとは言えません。 僕も男です。 安見さんの事を「友達」としてではなく、「女子」として見ることだってあります。」
恥ずかしい話だが、煩悩を完全に捨てきれる僧ではないので、安見さんの事を「1人の女の子」として見てしまってもおかしくはないのだ。
「・・・そうか。」
「でも、僕は、安見さんを悲しませるような事はしたくありません。 付き合っている訳ではないですが、彼女が悲しむ姿を、僕は見たくありませんので。」
園路の一件で分かった事。 それは安見さん自身にも分からないほどの無意識的な拒絶反応が少なからずあるということ。 それを僕は絶対にしないようにしないといけないと決意したのだから。
「・・・そうか。」
「来さん。 そろそろいいんじゃないかな?」
紅茶を淹れて戻ってきた天祭さんがそう話しかける。 え?
「・・・天祭さん。 こう言うときに素を出すのはやめてくれないか? 親としての威厳が失くなってしまうではないか。」
「なにを言ってるのよ。 彼氏を連れてくるかもって時の為に、その喋り方と目付きを練習しているの、知ってるのよ?」
「そりゃあ娘を簡単には渡せないからね。 そこは父親の意地だよ。」
「そんなことしなくても十分に強いんだから、加減さえすれば問題ないわよ。」
僕が緊張が上がりっぱなしの中で、そんな会話が繰り広げられている。 どう言うことなのか理解が追い付かなくなってきた。
「え? あの・・・」
「大丈夫よ館君。 来さんは怖い人ではないわ。 むしろこれは娘達を守ろうとしていることなの。 許してあげて?」
本当に理解が追い付かない。 許すもなにも、こっちは言葉ひとつで拒絶されるかもしれないという思いしかないのに、そんなことを急に言われても・・・
「まずはこうしなければいけなかったことを謝らせてくれ。 済まなかった。」
そう言って須今父は机に頭を伏せるのだった。
「ちょっ! 止めてくださいよ! 娘を渡そうとしないようにするのは親としては当然の行動です! なので頭をあげてください。 確かに驚きはしましたが、不快には思っていませんので。」
「・・・優しいのだな。君は。」
そう言って頭をあげてくれる須今父こと来さん。 緊張が一気に抜けたことでなにか風船の空気が抜けたかのように脱力をしてしまった。
「来さんったらね。 安見に男が出来たって言った時、めちゃくちゃ動揺してコップを持っていた手がガタガタに震えていたのよ? みんなで説明したら納得はしていたけれど、半信半疑だったようだしね。」
「自分の娘に男が出来たなんて、動揺を隠せない方がおかしいさ。 3人いるとはいえ私の可愛い娘達だ。 簡単にはどこの馬の骨か分からないような男には渡せないな。」
僕もそのどこぞの馬の骨なんだけどなぁ・・・ 僕は須今家に取ってどういう存在なんだろうか? 来さんは厳つい顔のまま会話は続く。 どうやら顔の方は素のようだ。
「しかし内心ホッとしているのも事実だったりはするんだけどね。 音理亜は中々連れてこないし、味柑には早すぎるし。」
その言葉を受けて「あれ? なんで私が悪口言われてるんです?」とドアの向こうの音理亜さんが言っていた気がした。
「しかしなんであの場所に居合わせたのですか? いや、喧嘩沙汰にならないようになったのはありがたかったですが。」
「・・・恥ずかしい話だが、昨日の夜に帰ってきた安見が元気が無かったのを受けて、何かあったのではないかと不安になってね。 そんな中で今朝に「出掛けてきます」と言ったので、心配になって・・・」
「つけてきたというわけですね。」
「それについては咎められても言い訳はしない。 そして君と彼の現場を目撃した。 もちろん彼についても安見が中学の時に話を聞いていたので、今回のことで近づくことはないと信じたいがね。」
ああいったのは正直一度や二度のそれじゃあ意味がないような気もするが、気を緩める訳にはいかないな。
「お父・・・いや来さん。 僕は安見さんを悲しませるような事はしないと言いました。 その言葉に嘘偽りはありません。 安見さんの事を守ると強く言えないのは、僕自身も弱いからです。 ですが安見さんの事を僕に任せてくれませんか?」
そう言うと来さんは先程の「娘絶対に渡さないお父さん」モードになる。 再びあの眼光が僕を見つめる
「・・・なぜ安見を預けさせたい?」
「安見さんの側にいてあげたいと思うからです。 安見さんの心の拠り所にして欲しい僕の願いがあって、なによりも・・・」
僕は一度深呼吸をする。 ある言葉を言うための覚悟のためだ。 ここで言わないでいつ言うのか。 想いを届けるのならここしかない。
「安見さんの事が好きだからです。 友人としてではなく、1人の女性として。」
来さんの眼光に負けないほどに決意の熱を込めた視線を向ける。 数秒間お互いに見合っていると、来さんはひとつ瞬きをして、眼光を止めた。
「その想い確かに受け止めたよ。 私も君を直で見て、安見を任せてもいいと思えるよ。」
「それじゃあ・・・」
「でもまだ付き合っていない訳なのだから、付き合うという話になったらまた改めて話をしようじゃないか。」
「っ! はい!」
僕と来さんとの間に約束が生まれた。 大丈夫。 約束をした以上は安見さんの事は何がなんでも守り抜くと決意を改めた。
「良かったわね安見。 こんなに館君に想われて幸せ者ね。」
天祭さんの言葉に「ハッ!」と気が付く。 すっかり忘れていたが隣には安見さんがいたんだった! 来さんとの会話の中で言ったことが全部聞かれて・・・
そんな想いで横を向くと机に突っ伏している安見さんがいた。 この人がその体勢の時は寝ている時だと言うのはこの3ヶ月間で学んだことだ。 た、助かった・・・
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