須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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屋台巡り

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「あ、来たみたいだね。 おや、2人は一緒に来たんだね。」


 お祭り騒ぎになっている入口部分に坂内君が先にいて、僕らを見つけて手を振ってくる。


「まあそれなりに近いからさ。 偶然ね。」


 本当は一緒に来ていたのだが、それを言うと色々と面倒そうだったので言わないことにした。


「花火はまだだから、今のうちに買うものを買ってしまって、場所取りをしようと思って、僕は先に来たんだ。」

「そうなんだ。 他の人は?」

「先に来ていた佐渡君と濱井さんは屋台巡りをしているよ。 もしあれだったら君達も行ってくるといい。 他のみんなは僕が目印になるようにしておくから。」


 そういうのなら、僕らも行こうかな。 そういって坂内君と別れて、屋台の並ぶ喧騒の中を入っていった。


 たこ焼き、フランクフルト、フライドポテト。 様々な屋台が並んでいる。 その屋台で購入する人の列で道が狭まっているようにも見えてしまう。


「安見さんあんまり離れないように・・・」


 そういって振り返ると安見さんの姿が無かった。 辺りを見渡すが全くといっていいほどその姿が見えなかった。 言う前にはぐれてしまったようだ。


「まあいいか。 最悪携帯で場所を指定すればいいんだ。」


 探すのを諦めて、屋台巡りを再開させる。 こうも食べ物が並んでいると目に毒だ。 なにか適当に買ってしまおう。 そう思い、僕は手軽に食べられるチョコバナナの列に並んだ。


 並ぶこと数分、ようやく僕は最前列に来れた。 チョコバナナをスムーズに買えるように料金を先に出しておいて、落とさないようにしっかりと握っている。


「いらっしゃい! お! 久しぶりだな。」


 チョコバナナを作っている店員さんにそんな風に声をかけられるが、僕には店員の人に声をかけられる覚えがない。 なんでだろうと首を傾げていると。


「ああ、そうか。 三角巾しちゃってるから分からないわな。 俺だよ俺。 前にデパートのゲーセンで会った・・・」

「・・・ああ! あの時の大学生の方!」


 そう、僕らがゴールデンウィークの時に大型デパートで円藤さんにナンパをしていた茶髪のロングヘアーの人だった。 三角巾の中にすっぽりとロングヘアーを隠しているので、言われるまで分からなかった。


「ここでバイトですか?」

「まあね。 というよりもここの屋台で働いているのは、俺らの仲間が多いからさ。 せっかくだから声をかけてやってくれよ。 君たちの事は話してあるし、姐さんも定期的に見回りしてるからさ。」

「そうなのですか。 てっきりチャラいだけかと思ってましたよ。 あ、チョコバナナ下さい。」

「今でもチャラいぜ? まあ姐さんに会って、丸くなったって言った方が正しいだろうな。 はい、チョコバナナお待ち!」


 そういってチョコバナナを貰って手を振りながら去っていく。 前回のことがある分恐怖があったが、話している分にはちょっとチャラいだけのお兄さんだった。 あんな出会い方じゃなかったらなぁ。 そんな過ぎ去った事を思い返しながらチョコバナナを食べるのだった。



「とりあえずみんなに揃ってもらったわけだけど、まだ時間には早かったようだ。 私としてはみんなが集まったタイミングで花火が始まっているのが理想だったのだが・・・」

「そんなこと気にしないの! それに始まる瞬間じゃ、この辺りも混雑してみんなに会えるか分からなかったもん。 結果オーライ、結果オーライ。」


 坂内君の悔しそうな嘆きを濱井さんが宥めている。 濱井さんも赤色の浴衣を着ていたが、かなり着崩れている。 浴衣の醍醐味が台無しである。


「僕は正直今色々な思いが渦巻いている。 花火が始まるドキドキ、こうして間近で観れることののワクワク、そしてみんなといる高揚感。 僕は本当に色々な事を思っている。」

「力を抜いてください佐渡さん。 そんなに力んでしまっていては楽しめるものも楽しめませんよ。」


 なにやら興奮収まらない佐渡君を江ノ島さんがカウンセラーしている。 江ノ島さんは濱井さんとは逆に青色の浴衣で、「ザ・大和撫子」と言った具合に綺麗に整っていた。 普段から着なれているのかな?


「でも最前線で見る花火は最高だと思うぜ! 場所取りありがとうな! 坂内!」

「本当に素敵な場所です。 ありがとうございます。」


 小舞君と円藤さんが坂内君にお礼をしている。 円藤さんの浴衣には金魚が泳いでいるかのような透き通った水色で作られていた。 それでもよく映える。


「これで全員か?」

「いえ、誰か足りていないようです。」


 そう言ってみんなで改めてメンバーの確認をするとすぐに分かった。


「安見さん、どこに行っちゃったんだろ?」

「この人混みに揉まれちゃったかな?」

「どうする? もうそんなに時間は無いぜ?」


 確かにここまできて安見さんが行方不明なんておかしい。 なによりもみんなが集まっているのに、またバラバラになるのは良くないと感じた。


「僕、探してくるよ。 みんなは安見さんが着たときのために残ってて!」

「須今が来たら連絡するから、お前も携帯で分かりやすくするようにしろよ!」


 僕は安見さんを探しに人混みに紛れた。



 それなりに背は高いので視野は広いし、なによりも青のブレスレットを掲げれば気付いてくれるかもしれない。 安見さんの浴衣もある意味目印になるし。 そんな訳の分からない淡い考えをしていると、


「おう、さっきはありがとな。」


 先ほどチョコバナナを買ったときに見かけた大学生の人に声をかけられた。 もしかしたら安見さんを見たかもしれないと思い、聞いてみる。

「あの、この辺りで黄色で向日葵の花柄の入った浴衣を着た女性を見てないですか? 僕の友達なんです。」

「それって君と一緒にいた女の子のことか? それなら少し前に君と同じくらいの男子に引っ張られて向こうの林に入っていったぜ? てっきり君だと思ってたんだけど、君じゃないならあれは誰だったんだ?」

「ありがとうございます。 またチョコバナナ、買いに来ます!」


 あの人の話を聞いて妙な胸騒ぎがし始めてきた。 もしかしてなにか変なことに巻き込まれてるんじゃないか。 そう思えるほどに。


「安見さん・・・どうか無事でいて・・・!」


 この思いが無駄でないことを証明するために、僕は林の中を走った。
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