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夏はすぐそこ

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っはぁー。 かったるいなぁ・・・」


 小舞君が衣替えをした半袖のカッターシャツの襟元部分を扇ぐ。


 梅雨時期に加えて、ムシムシとした暑さが、僕らのやる気を削いでいた。 外は雨が連日降り続いているため、なかなか窓を開けることもままならず、教室は換気が出来ずに、じめじめとした雰囲気になっていた。


「そう嘆いても仕方がないさ。 私達人間は恒温動物故、体温を一定に保つための体になっているんだ。 こればっかりは我慢しなければいけないさ。」

「坂内君、それさっきの授業の復習?」


 先程まで僕達は生物の授業をしていて、ちょうど生態系の話をしていた。


「ああ、今は勉強の話は止めてくれ。 その話も、普段なら面白いから好きだけど、そんな気分じゃないんだよ。 本当に今は。」

「そういえば前のテストも理科だけは高得点だったよね。 小舞君。」


 そんなことを言うと、小舞君はまた落ち込んでしまった。 あれ?


「テスト・・・・・・テストかぁ・・・ またそんな時期なんやな・・・ はぁ・・・」


 どうやら今月末に控えている期末テストの事で悩んでいるようだ。


「大丈夫だって小舞君。 中間テストの時みたいにみんなで勉強すれば上手くいくって。」

「すまんな館。 また、お前の力を借りるぞ。」

「私も今回は真面目に取り組もう。 前回のような苦い思いはしたくない。」

「前回は真面目じゃなかったの・・・?」


 そんな他愛ない会話をしていても、気分が晴れやかになれないのは、雨のせいか湿気のせいか。


「はあーあ。 早く夏休みに入らないかなぁ。 宿題があることを抜けば、長期休みがあるのは最高なんだぜ。」

「夏が好きなの? 小舞君。」

「おうよ! カラッとした太陽の下で、汗を流すのは大変気持ちがいい! 大抵の奴等はエアコンがガンガンに聞いた部屋で過ごすのが快適だと思っているが俺はそうは思わないね! 運動で汗を流し、そのあとに浴びる水のシャワーこそ、夏だと感じるんだぜ!」

「脱水症状寸前になるまでやることに意味があるのかい? さすがに危険ではないか?」

「そこは慣れさ。 汗を流すのは俺の個人的なものだが、夏はイベントが多いからな。 それが一番の楽しみなんだよ。 それにな。」


 そう言って小舞君は1つの女子グループに向かって指を指す。


「ああやって女子が衣替えによって肌を露にするのも、また乙なもんじゃないか?」

「小舞君、発想がさすがにおじさん臭いよ。」

「思春期だと言ってくれ館。 だがお前だって興味がない訳じゃないだろ?」

「なんでそういう話に持ってこうとするのさ?」

「俺達高校生だぜ? 青春って言うかさぁ、こういう話しないと、大人になって女の人に興味持てなくなっちまうぜ?」

「考えすぎてはないかな? いくらなんでもそこまでは・・・」

「いーや、俺は男として絶対に必要だと思うな。 独身貴族にはなりたくないんでな!」

「今から考える事ではないと思うぞ? その話は。」


 坂内君の言う通り、小舞君の話は先を見据えすぎている感じがする。 それに本当に今考えることではないだろうなとは思った。


「でも今年の夏は楽しみではある。」

「それはなんで?」

「いやなに、こうして誰かと何かをしにいくということの喜びを覚えてしまったようでね。 まだ先の話だが、計画を立てたくてウズウズしているんだよ。」

「ほーらな。 俺達は勉学もそうだけど、遊びだって重要じゃないか。」

「ふーん。 そういうものかな?」

「なんだよ館。 嬉しくないのか?」

「そうじゃないよ。 僕は長期休暇って言われても、なんかピンと来ないんだよね。 休みが多くても、ダルくなっちゃう。」


 僕が生きてきた中で、特にそう思ってしまうのは、趣味の問題だからだろうか?


「うーん。 館がそう言っちまうかぁ。」


 小舞君が拗ねたように言ってくる。 その態度に少しムカッとしてしまった。


「なにさ。 僕だと問題なの?」

「いや? せっかくの女子と親睦を深めるチャンスだってのに、それを無下にするなんてなって思って。」

「・・・小舞君いつになく女子の話に食いつくね。」

「そりゃあ、男女が仲良く楽しい日々を過ごす事が、高校生の青春なんじゃないかって思ってな。 館の力を借りようと思ったのに。」


 僕の力? 僕になにか力があるとは思えないんだけど?


「お前はなにもしなくても須今からお誘いが来るんじゃないか? もしくはお前が誘うか。」

「小舞君よ。 そんなことをぶつけてもしょうがないさ。 須今さんだって、必ずしも館君の元に来る訳じゃないんだから。」

「私がどうかしましたか?」


 坂内君が安見さんの話をしていると、近くに安見さんが来ていた。 話に夢中で全く気が付かなかった。


「館君、次の授業って教室移動でしたっけ?」

「えっと、それは昼休みの後の授業だね。 次は数学だから・・・」

「確か宿題が用意されていたはずです。」

「あ、そうそう、そうだったね。 最初に回収するのかな?」

「次の日は数学が無いので、恐らく授業後になるかと。」

「そっか。 あ、今日はどこにしようか?」

「最近は雨続きですからいつもの場所は使えませんし・・・あ、体育館前とかどうですか? あそこなら雨風を凌ぎつつ、伸び伸びと出来ます。」

「いいね。 じゃあ今日はそこにしようか。 そろそろ別の場所も考えないとなぁ。 お昼を食べ終わったら少し学校の散策でもしない?」

「そうですね。 ではまたお昼に。」

「数学の授業は寝ないでよ?」


 そう言って安見さんは自分の席につく。 といっても僕の席の少し前の席なだけなので、すぐに見える。


「ごめん、で、なんの話だったっけ?」


 そう聞き返したが、坂内君も小舞君も、僕が話そうとしているのにも関わらず、顔を見合わせていた。 そしてそのあとに、なにか考えるかのように僕を見つめてきた。


「お前、やっぱり鈍感だよな。 それとも天然か?」

「なにが?」

「お互いが意識して無意識を演じているのか、それとも本当になんとも思ってない? いや、2人の態度を見てもそんなことはないはず・・・」


 見定めるかのような2人の視線を、僕は全く理解できなかった。

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