須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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館 光輝は考える

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そのあと僕は音理亜さんが作ってくれたご飯をご馳走になり、「両親が帰ってくる前に」と言われて、須今家を後にする。 自宅はそんなに遠くはないようなので、そのまま歩いて帰ることにした。


「安見さんが僕の事を・・・か・・・」


 正直実感は全く無い。 本人から聞いたわけではないし、なにより音理亜さんの勘違いだっていうこともある。 安見さんのあの行動だって熱によって暴走していただけに違いない。


「・・・っ・・・!」


 その光景を思い出してしまった自分がいやらしくなる。 でもそれが事実だとして、それを聞いたからといって、なにか変化があるのかと言われると、それもまた疑問になってくる。


 もちろん安見さんの事は嫌いではない。 むしろ好きと言えるだろう。 だがその好・き・はあくまでも友人としてであって決して恋・愛・対・象・と・し・て・ではない。 確かにその筈なのだ。


「・・・僕は・・・」


 それでも迷っているのは、やはり関係を壊したくないからだろうか? それともまた別のなにかを感じているのか。 頭の中ではもうこんがらがっていてた。

 そんな風に考えていたら、危うく自分の家を通りすぎるところだった事に気が付く。


「ただいま。」


 家に入ってもなんだか心が落ち着かない。 あの様子だとまだ熱も下がりきっていないかもしれない。 明日も安見さんは学校を休むだろう。


「お帰り。 遅かったじゃない。」

「うん。 安見さんが倒れたからそれの看病をね。」

「大丈夫なのかい? 倒れたって。」


 その声の方を見ると、父さんがテレビを見ている姿があった。 単身赴任であるはずの父さんがいる理由は分かっている。


「もうこっち側の配属になったの?」

「うん。 向こうでの仕事が終わったからね。 来週からはこっちから仕事に行くんだ。」

「久しぶりよね。 こうして家族3人で一緒に暮らせるの。」


 確かに嬉しいことではあるはずなのだが、今は素直に喜べなかった。 なんでだろう?


「どうした? 光輝。 なにか悩み事かい?」

「悩みって言うか・・・父さん、母さん。 聞いてほしい事があるんだ。」


 そう言って僕は安見さんの事と、今の自分の心の中に引っ掛かったものについて話した。 この引っ掛かる感じを、誰かに伝えたかったのかもしれない。 自分が思っていることをこれでもかというくらい語った。


「そうか・・・ 光輝にもそうやって想える人が・・・ いや、安見ちゃんをそう想えるようになったのか。」

「そう想える?」

「光輝。 あなたは安見ちゃんのこと、具体的にどう思ってる?」


 どう、と言われても答え方が分からない。 具体的にという質問にも難しい点がいくつもある。


「そうだなぁ。 とにかく眠たそうにしてて、ちょっと目を離すと寝てて、でも起きてると頭も冴えるし、運動も出来るし、あとは料理も美味しいものを作ってきてるし、からかってきて、時より甘えん坊で、でも恥ずかしがり屋さんで・・・」


 ・・・・・・・・あれ? なんでこんなにも安見さんの事を語っているんだろ? そんなに安見さんの事を見ていたのかな?


「これは決まりかもね、陽子さん。」

「むしろあの時からそうじゃないかなって思ってたわ、昇さん。」


 両親がお互いにお互いで完結させてしまっている。 息子にも分かるように説明してくれないかな?


「光輝。 君は安見ちゃんに「恋」をしているんだ。 自分が気がつかないうちにね。」

「僕が・・・安見さんに?」

「最初は気付かないものなのよ。 いつの間にかその人に惹かれてる。 そんな感じなの。 だから今は精一杯悩みなさいな。 高校生は始まったばかりなんだからさ。」


 言われるがままに僕はお風呂に入り、そのあと部屋に戻ってベッドに潜り込んで、安見さんの事を考えてみる。


 安見さんとは入学式前の少しの間から知り合った。 そこから同じクラスになって、隣同士になって、安見さんが一人にならないようにお昼を一緒に過ごしたり、部活では種類は違えど同じ部活に入って、それぞれの成果を見せあったりしていた。


 安見さんの家族と会って、僕の知らない安見さんの事を教えてもらった。 そして今日、安見さんは僕の事を好きでいる事を知った。


 僕はまだ分かっていない。 これだけで安見さんの事を恋愛対象として好きになるとは思っていない。 思ってはいないけれど、安見さんといると心が落ち着くし、目を離すと危なっかしい部分もある。 だからこそ僕が見ていないと・・・


「・・・僕じゃないといけないのかな?」


 安見さんは寝ていなければ僕なんかよりも運動も勉強も出来る。 でも安見さんは、僕の前だとなんというかポンコツっぷりをとことん見せてくるようになっているような気がする。 普通ならもっと利口に立ち回れる安見さんが、なぜか僕の前では甘えたがりになっている。


 安見さんの考えている事が分からないと言えばその限りではあるけれど、でも僕といるとき、特に二人きりの時の安見さんは、まるで別人のように振る舞っているようにも感じる。


「・・・・・・・・・・・僕・が・特・別・だ・か・ら・・・・・・?」


 僕の事が好きだから、僕にだけそう振る舞っている? 僕だから自分の弱い部分を見せてくれている? それを素直に受け止めていいものなのだろうか? もしそうなのだとしたら僕は・・・・・・・



「・・・・・・ん。 ・・・・あれ?」


 目を開けると周りが明るくなっていた。 どうやらそのまま眠ってしまったようだ。 安見さんじゃああるまいし、そんなこと・・・


「・・・変に意識しないように気を付けないと。」


 自分が考え始めてしまった事を恥ながら、今週最後の学校に向かう準備をするのだった。

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