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須今 安見の変化
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それから味柑ちゃんにあらぬ誤解をしてほしくないと、必死になって説明していた。 僕自身にだって今起きていることの説明なんか難しいと思っているのに、他人に教えるのはなん足る面倒さか。
「ただいま。 リビングにいないからどうしたのかと思ったわよ。」
そう声を掛けてきたのは、長女である音理亜さんだ。 中まではまだ見られていない。
「姉さん聞いてよ。 お姉ったら館さんを私たちの部屋に連れ込んで、あんなことやこんなことをしようと・・・」
「してないからね!? 違うんですよ音理亜さん! これにはれっきとした理由がありまして・・・」
音理亜さんが、部屋の中を見た後になにかに納得したかのように頷き始める。
「味柑、とりあえず安見の体を拭いてあげて。」
「えー? いいの? このまま私がやっちゃって?」
「早くしてあげなさいな。 風邪が悪化するから。 館くんはこちらに。」
そう言って音理亜さんの方に歩みより、部屋を閉める。 そして音理亜さんに手招きをされて、1階のベランダに案内された。
「どうぞ座って。」
そう言って恐縮しながら椅子に座る。 座って顔をあげると音理亜さんが僕の顔をまじまじと見ていた。 なにかを観察するように、じっくりと。 とてもじゃないが今の現状を居たたまれない
「な、なんでしょうか?」
「本当になにもしてない?」
「してないです! それだけははっきりと言えます!」
疑いは晴れてはいなかったようだ。 音理亜さんの質問に反射的に答えた。
「じゃあ・・・どこまで見たかしら?」
「ど、どこまで・・・とは?」
「その様子だと気付いてないのね。 それとも誤魔化してる?」
音理亜さんの言っている意味が分からない。 すると音理亜さんは僕に顔を近付けてきた。
「安見はあの時服を着ていなかった。 ブラジャーまで外してあったのよ? 下は分からないけれどね。」
つまり僕を振り向かせたときにはもう半裸だったということになる。 それを聞いて僕はまたパニックになった。
「なっ、なっ、なっ・・・!」
「それで? 実際は見たの?」
「・・・・・・・・・・・・・見てないです。」
「本当に?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・肩甲骨は少し・・・見えました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・あと、パンツも・・・・・・・・」
もはや何を言っても無駄なのだと思ってはいるが、正直には答えておく。 音理亜さんはまだ見ている。 その視線が怖くなってくる。 蛇に睨まれた蛙の気持ちという表現があるけれど、本当にそんな気分だ。
「・・・ふふっ。 館くんは純粋ね。」
そう言って音理亜さんの顔が離れていく。 緊張が解けたように僕は背もたれに、どっと背中を預ける。
「君になら見せてもいいって、安見が思ったってことだよね。 そっかそっか。」
「あの、なんの話です?」
「君は安見に好かれているということだよ。」
嫌われていないならいいのかな? やたらと避けられていたので、そうならば少し安心できた。
「少し安見について話をしましょうか。 今日は両親は遅くなるって連絡があったし、いい機会かもしれないから。 アイスコーヒー、飲む?」
音理亜さんの気遣いに、コクりと頷き、コーヒーを入れられるのを待つ。 その時になってハッと思い出した事があった。
「そうだ! 勝手に冷蔵庫にあった牛乳を使ってしまってごめんなさい! 安見さんに飲んでもらおうと思って・・・」
「大丈夫よ。 ちょっとやそっとくらいじゃ怒らないから。」
そう言われてもなんだか申し訳無い気持ちになる。 だって勝手に他人の家の物を使用したのだから、怒られてもしょうがないと思ったからだ。
「はい、アイスコーヒー。 ガムシロップとか欲しいかな?」
「あ、いえ、大丈夫です。」
「遠慮することはないよ。 いくついる?」
「あっと・・・じゃあ・・・2つで。」
そして目の前に出されたアイスコーヒーにガムシロップを入れて混ぜ、少しずつ飲んでいく。
「安見が高校に入ってから、少しずつ変化が起きてきてね。」
音理亜さんは先程と同じように、語りかけるように僕に話しかけてくる。
「小学生の時はそうでもなかったんだけど、中学に入り初めてから、やけに眠気を催すって相談してきてね。 そんな病気聞いたこともないし気の持ちようじゃないってことで納得はしていたの。 でも授業中に寝ていることが多かったから、生徒指導に行ったこともあったのよ。」
確かに高校に入ってもなにかと授業中には寝ていることがあったが、生徒指導とまでは行ってなかった。
「そんなこともあってか、中学では友達と疎遠になっちゃってね。 こういったらあれなんだけど、あの子中学の時にいい思い出がないのよ。 少しだけ嫌・な・想・い・も・したみたいだし。」
「・・・嫌な想い?」
「気にしないで、館くんには関係の無い話よ。 それでね、高校に入っても同じことなのかなって、不安だったの。 でもそんなのは杞憂だったかのように楽しそうだったから、驚いたわ。」
安見さんの知らない一面、いつもは表に出さない一面を知っているような感覚だ。
「それに、最近はやたらと惚けている事が多くなったりもしてね。 どうしたのかなって別の意味で不安になっていたんだけれど、今日のを見て分かったわ。」
あの一連の流れでなにが分かったというのだろうか? 僕にはよく分からなかった。
「あの子は君になら見・せ・て・も・い・い・と思ったのよ。 恥ずかしい自分を見せることに抵抗が無かったのよ。」
「それって・・・・・・」
「好きな人になら自分の全てを知ってもらいたい。 そう思ったんじゃないかしら?」
その言葉に僕は、どう言えばいいのか分からない気持ちになった。 安見さんとまだ3ヶ月と知り合っていない。 なのに安見さんには好きな人がいる。 しかもその相手が自分だということに、どう気持ちを整理すればいいのか、分からなかった。
「その辺りは、2人で話し合ってもいいと思うわ。 まだ2人とも若いしね。 少しの変化も見逃すことの無いようにしないと。」
その音理亜さんの言葉は、未だに混乱している僕の頭に、しっかりとこびりついた。
「ただいま。 リビングにいないからどうしたのかと思ったわよ。」
そう声を掛けてきたのは、長女である音理亜さんだ。 中まではまだ見られていない。
「姉さん聞いてよ。 お姉ったら館さんを私たちの部屋に連れ込んで、あんなことやこんなことをしようと・・・」
「してないからね!? 違うんですよ音理亜さん! これにはれっきとした理由がありまして・・・」
音理亜さんが、部屋の中を見た後になにかに納得したかのように頷き始める。
「味柑、とりあえず安見の体を拭いてあげて。」
「えー? いいの? このまま私がやっちゃって?」
「早くしてあげなさいな。 風邪が悪化するから。 館くんはこちらに。」
そう言って音理亜さんの方に歩みより、部屋を閉める。 そして音理亜さんに手招きをされて、1階のベランダに案内された。
「どうぞ座って。」
そう言って恐縮しながら椅子に座る。 座って顔をあげると音理亜さんが僕の顔をまじまじと見ていた。 なにかを観察するように、じっくりと。 とてもじゃないが今の現状を居たたまれない
「な、なんでしょうか?」
「本当になにもしてない?」
「してないです! それだけははっきりと言えます!」
疑いは晴れてはいなかったようだ。 音理亜さんの質問に反射的に答えた。
「じゃあ・・・どこまで見たかしら?」
「ど、どこまで・・・とは?」
「その様子だと気付いてないのね。 それとも誤魔化してる?」
音理亜さんの言っている意味が分からない。 すると音理亜さんは僕に顔を近付けてきた。
「安見はあの時服を着ていなかった。 ブラジャーまで外してあったのよ? 下は分からないけれどね。」
つまり僕を振り向かせたときにはもう半裸だったということになる。 それを聞いて僕はまたパニックになった。
「なっ、なっ、なっ・・・!」
「それで? 実際は見たの?」
「・・・・・・・・・・・・・見てないです。」
「本当に?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・肩甲骨は少し・・・見えました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・あと、パンツも・・・・・・・・」
もはや何を言っても無駄なのだと思ってはいるが、正直には答えておく。 音理亜さんはまだ見ている。 その視線が怖くなってくる。 蛇に睨まれた蛙の気持ちという表現があるけれど、本当にそんな気分だ。
「・・・ふふっ。 館くんは純粋ね。」
そう言って音理亜さんの顔が離れていく。 緊張が解けたように僕は背もたれに、どっと背中を預ける。
「君になら見せてもいいって、安見が思ったってことだよね。 そっかそっか。」
「あの、なんの話です?」
「君は安見に好かれているということだよ。」
嫌われていないならいいのかな? やたらと避けられていたので、そうならば少し安心できた。
「少し安見について話をしましょうか。 今日は両親は遅くなるって連絡があったし、いい機会かもしれないから。 アイスコーヒー、飲む?」
音理亜さんの気遣いに、コクりと頷き、コーヒーを入れられるのを待つ。 その時になってハッと思い出した事があった。
「そうだ! 勝手に冷蔵庫にあった牛乳を使ってしまってごめんなさい! 安見さんに飲んでもらおうと思って・・・」
「大丈夫よ。 ちょっとやそっとくらいじゃ怒らないから。」
そう言われてもなんだか申し訳無い気持ちになる。 だって勝手に他人の家の物を使用したのだから、怒られてもしょうがないと思ったからだ。
「はい、アイスコーヒー。 ガムシロップとか欲しいかな?」
「あ、いえ、大丈夫です。」
「遠慮することはないよ。 いくついる?」
「あっと・・・じゃあ・・・2つで。」
そして目の前に出されたアイスコーヒーにガムシロップを入れて混ぜ、少しずつ飲んでいく。
「安見が高校に入ってから、少しずつ変化が起きてきてね。」
音理亜さんは先程と同じように、語りかけるように僕に話しかけてくる。
「小学生の時はそうでもなかったんだけど、中学に入り初めてから、やけに眠気を催すって相談してきてね。 そんな病気聞いたこともないし気の持ちようじゃないってことで納得はしていたの。 でも授業中に寝ていることが多かったから、生徒指導に行ったこともあったのよ。」
確かに高校に入ってもなにかと授業中には寝ていることがあったが、生徒指導とまでは行ってなかった。
「そんなこともあってか、中学では友達と疎遠になっちゃってね。 こういったらあれなんだけど、あの子中学の時にいい思い出がないのよ。 少しだけ嫌・な・想・い・も・したみたいだし。」
「・・・嫌な想い?」
「気にしないで、館くんには関係の無い話よ。 それでね、高校に入っても同じことなのかなって、不安だったの。 でもそんなのは杞憂だったかのように楽しそうだったから、驚いたわ。」
安見さんの知らない一面、いつもは表に出さない一面を知っているような感覚だ。
「それに、最近はやたらと惚けている事が多くなったりもしてね。 どうしたのかなって別の意味で不安になっていたんだけれど、今日のを見て分かったわ。」
あの一連の流れでなにが分かったというのだろうか? 僕にはよく分からなかった。
「あの子は君になら見・せ・て・も・い・い・と思ったのよ。 恥ずかしい自分を見せることに抵抗が無かったのよ。」
「それって・・・・・・」
「好きな人になら自分の全てを知ってもらいたい。 そう思ったんじゃないかしら?」
その言葉に僕は、どう言えばいいのか分からない気持ちになった。 安見さんとまだ3ヶ月と知り合っていない。 なのに安見さんには好きな人がいる。 しかもその相手が自分だということに、どう気持ちを整理すればいいのか、分からなかった。
「その辺りは、2人で話し合ってもいいと思うわ。 まだ2人とも若いしね。 少しの変化も見逃すことの無いようにしないと。」
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