須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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男子2人で

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学校に戻って、裁縫室に置いてある鞄を取りに行って、僕と佐渡君が来たのは、チェーンレストラン店だった。 ここでは料理を頼めば、ドリンクバーも通常の半額以下で提供してくれるので、高校生の財布にとても優しいレストランだ。 


 それを利用して、夕飯を兼ねてここで時間を潰す学生の姿があちこち見える。 


 ここの経営は近隣の高校生で賄ってるんじゃないかと思えるくらいだ。


 今は夕方前で、お店が混み始める前に席を確保できたので、安堵する。 とは言え、ここのレストランは小耳に挟んだ情報では、ほとんどの利用客が高校生、もしくは大学生が多く、家族連れが来ることの方が少ないんだとか。


「お水をお持ちいたしました。 料理がお決まりになりましたら、そちらの呼び出しボタンをお押しください。 それでは、ごゆっくりどうぞ。」


 そう言ってウェイターさんが離れていく。


「僕の奢りだ。 好きなものを頼んでくれ。」


 そうはいうものの、いざ注文となるとなにを選ぶやら。 ここはセットにしてお安く済ますのが一番かな? しかし色んなものがありすぎて目移りしてしまう。 ならばここは無難なものでいった方が良さそうかな?


 料理を決めると、佐渡君の方を見た。 彼もまたメニューに釘付けになっていた。 その辺りも後で掘り下げる材料にしてもいいかも。


「佐渡君決まった?」

「む? うむ。 決まったぞ。」

「それじゃあ、店員さん呼ぶね?」


 そう言って僕は呼び出しボタンを押す。 すると先程とは別のウェイターさんがやって来た。


「お待たせしました。 ご注文の方、お伺いいたします。」

「じゃあ、僕の方から。 僕はグリルハンバーグのセット一つ。」

「はい。 こちらグリルハンバーグのソースはいかがいたしますか?」

「あ、じゃあデミグラスソースで。」

「かしこまりました。」

「次は佐渡君の番だよ。」

「む、あ、ああ。 では、この、マカロニグラタンセットを・・・」

「はい。 かしこまりました。 他にはなにかございますか?」

「あ、あと、そ、そうだな。 こ、この・・・」

「山盛りフライドポテトですね。 以上でよろしいですか?」

「あ、いや、その・・・」


「あ、すみません。 ドリンクバー、先程の2つのセットと一緒に頼んでいいですか?」

「はい。 ではこちらのドリンクバー、下のお値段で対応させていただきます。 他にはなにかございますか?」

「以上で大丈夫です。」

「かしこまりました。 ドリンクバーの他に、スープバーも一緒にご利用頂けます。 容器はドリンクバー内にありますので、そこでご利用ください。 ではお料理が届きますまで、少々お待ちください。」


 そういってウェイターさんは去っていった。 とりあえず僕はドリンクを取りに先に立ち、ドリンクバーコーナーに行って、コップを持って、機械から並々と野菜ジュースを注ぎ席に戻る。 それと入れ替わりで佐渡君も取りに行き、コップにメロンソーダを入れて戻ってきた。


「館 光輝君。 僕の話を聞いてくれるか?」


 そのために呼んだんでしょ? とは敢えて言わない。 それは佐渡君の表情が真剣そのものだったからだ。 無駄口など叩けない。


「僕は君達の知っている通り成績は学年トップだ。 だが運動能力はない。 生まれてこのかた、体の動かし方を学んでこなかったせいで、これっぽっちも体が動かないのだ。」


 人間なにかしらが秀でていれば、なにかが出来ないことがあることは良くある話だ。 それを否定するつもりはない。 むしろ「運動も出来るんだ」なんて言われた日には、それは妬みの対象になりかねない。 実際に何人かは彼に妬みを持ってそうだ。


「そして僕にはもう一つ、弱点がある。 いやこっちの方が深刻な悩みなのだ。」


 僕はその言葉に固唾を飲み込んだ。


「先程のやり取りを見てもらえばわかるが、僕は女性に話しかけるのが苦手でね。 あんな感じで言動やらなにやらがおかしくなってしまうのさ。」


 その事で、彼は悩んでいたのか。 しかし僕にとってはなんてことのない悩みでも彼にとっては重要な問題なのだ。


「あれ? それって女性だけ? 僕には普通に話できているよね?」

「基本的には女性だけだ。 君には先程「林間学校に来る人とは極力仲良くする」とは言ったが、実際女子と話そうとすると上がってしまい、中々会話が弾まないのが現状なのだ。」

「話は分かったけれど、何で僕に? クラスの男子とは話さなかったの?」

「参考に出来そうな人物に話をしてはみたのだが、返ってきた答えは同情か強行手段しか語られなかった。 短絡的過ぎて参考にならなかったよ。 他クラスではあったが女子と何気無い会話を出来ている君の姿を見て、同じ同級生として憧れを抱いたのさ。」


 まさか学年トップの彼から憧憬をもらえるとは思わなかった。 そういうことなら僕も全力で答えなければ失礼だろう。


「佐渡君の思いは分かった。 僕で良かったらその相談、請け負うよ。」

「本当か!? 恩に切る! 館 光輝君!」

「頭をあげてよ佐渡君。 それとフルネームは長いだろうから、苗字で呼んでくれていいよ。」

「そうか。 では改めてよろしく頼む、館君。」


 まさかこんな形で彼と仲良くなれるとは思っても見なかったけれど、僕も僕で嬉しい気持ちになってくる。


「お待たせしました。 山盛りフライドポテトになります。 ほかの料理も順次お持ちいたします。」

「ありがとうございます。」

「・・・早速聞きたいのだが、どうすれば、その、女子と気楽に話が出来るんだい?」

「まずは佐渡君は女子に対してどう見ているかじゃないかな? ほら、変に意識し過ぎるせいで、気分が上がっちゃって話せないとか。 面接のような感じになってるんじゃないかな? だから最初は日常会話程度に・・・」


 こうして、僕と佐渡君の誰も知らない、2人だけの相談会に会話の華を咲かせた。 結構長居したお陰もあってか、佐渡君は少し自信を持てたようだ。 でも付け焼き刃はすぐに冷めてしまうので、定期的に行うことにすることも約束した。 みんなの知らない友情がここで芽生えた瞬間だった。

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