須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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観覧車からの夕焼け

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如月テーマパークの名物アトラクションのひとつ、観覧車。 15分間の空中観覧が楽しめて、なにより頂上から見下ろす街並みや景色が絶景らしく、これを観るために乗る人もいるらしいのだ。


 という説明を父さんから受けたのはいいのだが、それでなんでこんな組み合わせになるのだろうか?


 今の時刻は午後5時、閉園時間も近づいてきたこの時間に観覧車に乗車するお客さんがズラリと並んでいた。


「ここから見る景色を観ないと帰れないって有名なのよね。」


 天祭さんの言うように、僕らが並んでいる後ろにもどんどん並んでくる。 そうまでして乗りたい観覧車。 どんなものなのか気にはなるのだが、なんというか、この待っている間がどうも落ち着かなくなってくる。


 目の前に見えたゴンドラも降りては乗って、降りては乗ってを繰り返しているのが見える。 少しでも列の処理をしたいのが分かるが、それにしたって従業員の人も大変だろう。 降りた人はかなり満足そうにしているので、働いてる人からしてみればプラマイゼロなのかも知れないが。


 そんなことを思っている間に自分達のグループになった。 ちなみに先ほど言った組み合わせというのは、母さんと父さん、天祭さんと音理亜さん、味柑ちゃんの3人、そして僕と安見さんの3グループに分かれる。 そんなことをしたらゴンドラを乗る回数が多くなってしまうじゃないかと言ったら、それはそれ、これはこれと言われてしまった。 どう言うことだろうか?


「それじゃあ、先に乗っているよ。」

「すぐ後ろに来るだろうけどね。」


 最初に父さんと母さんがゴンドラに乗る。 ゴンドラの中はそれなりに大きい。 2人で使うのはかなり贅沢なのでは? とも思う位だ。


「お、次が来たわね。」

「では私たちも行ってきますね。」

「いくらお姉でも変なことしたらダメだよ? お兄さん。」


 続いて天祭さんたちの番になり、ゴンドラに乗り込んでいった。 味柑ちゃんはなんだか余計なことを言ってた気がする。 しないからね?


「どうする? 安見さん? 流れで来ちゃったけれど、やめるなら今だと思うけど?」

「いえ、名物アトラクションだということで乗っておきたいです。 最後の締め括りには相応しいじゃないですか。 観覧車。」


 どうやら乗る気満々のようだ。 それなら敢えてなにも言わない。


「では次のお客様、どうぞ。」


 ゴンドラが開けられ、中に入る。 そしてゴンドラのドアが閉められて、いよいよ空中観覧が始まる。


 とはいえ最初の2~3分位は登る時間があるからなにも見えないに等しい。 今はちょっと高くなったくらいだ。 そんなことを感じながら安見さんの方を見る。 今でこそ平静であるが、頂上に着いたときに気分が悪くなったりでもしたら、僕としても対処しきれない可能性が高い。


「安見さん。 具合が悪くなったらいつでも言っていいからね。 出来る限りの事はするつもりだから。」

「姉さんから何を聞いたのかはおおよそ予測がつきます。 観覧車ならまだ大丈夫ですよ。」

「あ、やっぱり単純な高所恐怖症って訳じゃないんだ?」

「私にも詳しくは分からないのですが、開放的な高さよりも閉鎖的な高さの方が怖さが和らぐんです。 私が思うのは「守られている」と分かっているからだと思うのです。」


 それならバンジージャンプは完全に不可能と言うわけだ。 まあ、あれは度胸試しみたいなものだから別かもだけど。


「あ、街が見えてきましたよ。」


 安見さんが言うのを聞いて、ゴンドラの窓から下を見下ろす。 まだ数は少ないがちらほらと建物内の明かりがついていたり、街灯がついている場所があり、それがまだ沈みかけの夕日との明かりと重なり、まるで別の街にいるように感じた。 実際に別の街だけれども。


「いよいよ頂上ですね。」

「うん。 ちょうどいい時間に乗れたみたいだね。」


 観覧車の頂上に着くと、沈んだ夕日と街の明かりが先程よりも重なるようになり、茜色一色と言った具合に綺麗に映し出されていた。


「とても綺麗だ。」

「ふふっ、それは口説き文句ですか?」

「冗談を言わないでよ。 率直な感想だよ。 この景色に対するね。」

「館君ならそう言うと思いました。」


 その言葉に僕は思わず吹いて笑ってしまった。 それに釣られたのか安見さんもまた笑い始める。 こうして二人で笑っているのはとても楽しい。 そう思えるのは安見さんだからだろうか?


「また明日から学校になってしまいますね。」

「辞めてよ、折角の締め括りを台無しにするような事を言うのは。」

「でも事実ではありますし。」

「あ、みんなにお土産買っていこうよ。 折角の記念だし。」

「そうですね。 それは喜ばれると思います。」


 そんな他愛ない話を残りの半周で楽しんだ。



「どうだった? 光輝。 今日は楽しめたかい?」


 遊園地からの帰り道、父さんからそんな事を聞かれる。


「そうだね。 僕はそんなにアトラクションには乗れなかったけれど・・・」


 抱えているお土産の荷物を抱き直して、


「楽しかったよ。 とても。」


 そう質問に答えるのだった。


「そうか。 そう言ってもらえて、父さんも嬉しいよ。」

「母さんもよ。 中々あなたの口から聞けなかったもの。 私たちも嬉しいわ。」

「また明日から頑張らないとね。」


 そんな会話を家族で交わしながら家に帰る。 高校生になっての長かったようで短かったゴールデンウィークはこうして終止符を打つのだった。

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