須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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夜の帳

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「やあ安見さん。 もう寝ちゃったのかと思ってたんだけど。」

「いつも場所とは違うので、なかなか寝付けなかったのですよ。 これでも寝れる自信はあるのですが。」

「なんか矛盾してない? それ。」


 ガラス戸から降り注ぐ月明かり。 2人して眠れなくなるとは、偶然にしては出来すぎている。


「なんというか館君が輝いてみえますよ。」

「え?」

「何て言うんでしたっけ? こういう状態の事を・・・ ああ、そうです。 「映える」でしたっけ?」

「あ、あぁ。 写真映えね。 そんな風に見えたのか。 ははは。」


 なにを期待していたのだろうか? 少しだけ残念な感じがする。 そのポッカリ空いた心はなにで満たされるだろうか?


「私はどう見えますか?」


 今度は安見さんがそんな質問をしてくる。


 最初にあった頃から1ヶ月。 彼女の隣の席になってからよく彼女を見るようになっていた。 基本的には寝ているからよく顔は見えなかったけれど。

 それとは状況が全く違う隣・に・座・る・安見さん。 


 そんな月明かりやそれから作り出される影なんかが相まって、出てきた言葉は


「綺麗だ。」


 そんなありきたりな言葉だけだった。


「やっぱり館君も景色と合わせて人を観るのですね。」

「なんというか、その方が見やすいからね。」

「私たちはかの詩人たちのように、「月が綺麗ですね。」なんて遠回りな言い回しは似合わなさそうですね。」


 それだけ僕も安見さんも正直者だという事の現れなのではないかと思うけど。


「そういえば、明日は私たちも如月テーマパークの方に行くことになりました。」

「え? そうなの?」

「古い付き合いだということで、予算を大門さんが請け負ってくれることになったんです。」


 それはまた太っ腹な。 僕らの館家は父さんの仕事の関係だとしても、須今家はほとんど他人のようなものだ。 凄いな。 地主っていうのも。


「これでまた私たちは一緒に出掛けられますね。」

「友達グループの次は家族絡み? 神に愛されてるんだか見放されてるんだか。」

「私としても、本当は二人きりでも良かったんですけど。」


 そればっかりはどうしようもない。 今回ばかりは偶然が重なった産物だ。 そこに文句をつけるわけにはいかない。


「本当にそれでいいの? なんかこう、もっとあるんじゃない? 別に僕とじゃなくても、円藤さんや濱井さんだっているわけだし。」

「館君は私といるのは嫌ですか?」


 安見さんは涙ぐんた瞳でこちらを見てくる。 それは・・・いくらなんでも卑怯だよ・・・


「・・・そんなことはないよ。 確かにまだ1ヶ月しか知り合ってないけれど、それ以上に安見さんの事をよく見てみたいって思えるんだ。 だから嫌じゃないし、むしろこっちから一緒にいて欲しいって願いたいくらいだよ。」


 そこまで言ったところで安見さんを見ると、目を大きく見開いていた。 どうしたのだろうか? まるで眠気が覚めたような表情をして。


「館君。 あなたは卑怯なのですね?」

「さっき涙ぐみながら僕に「嫌ですか?」なんて質問する安見さんもだよ。」

「でもさっきのは女性を口説いているようにしか聞こえませんでしたよ?」


 そう言われて、改めて自分の言った言葉を思い返す。 確かにあれは口説き文句だったのかもしれない。 そう思い始めたらなんだか恥ずかしくなってきた。


「ふふっ、これは私の中のアルバムに残しておきますね。 大切な館君からの言葉ですから。」

「いや、そんなにいい言葉では無かったでしょ? なので忘れてくださいお願いします。」

「むしろこっちから一緒に・・・」

「ほんと勘弁してください!」


 土下座してまで頼んだのにすぐにこれだ。 この人は少しでも自分が優位になると人の揚げ足を取ろうとしてくる。 意外といやらしい性格だ。


「こうして、夜に誰かとお喋りするのって家族以外では初めてですから、なんだか楽しいです。」

「安見さんだけじゃないの? 楽しんでるのは?」

「でも館君だって、口元が笑ってますよ?」


 そう言われてガラス戸に映った自分を見てみると、確かに口角が上がっていた。 案外現金な人間なのかもしれない。


「とはいえ明日は開園と共に入園をする予定だからもうそろそろ寝ないと。 今は何時かな?」

「丁度日付が変わったようです。」


 となると今は深夜0時。 開園時間が9時らしいので、距離的なことを考えると、7時までには起きていたい所だ。 朝起きるのは苦手ではないが、タイムテーブルはなるべくズラしたくはない。


「・・・ふぁ・・・ぁ。」

「安見さんと眠たくなってきたみたいだね。 そろそろ部屋に戻ろうか。」

「でも部屋に戻ったらまた寝られなくなるかもしれません。」

「じゃあどうするのさ? もう安見さん、完全に目が落ちかけてるんだけど。」


 なんだかんだで、安見さんのまぶたは睡眠モードに突入しそうな勢いだ。 このままここで寝られると風邪を引きかねない。


「ほら、安見さん。 僕が手伝ってあげるから、部屋まで・・・」

「館君が手伝ってくれるんですかぁ? それなら・・・」


 そう言って安見さんは這い寄ってきたと思ったら僕の座ったままの体勢の腹部に抱きついてきた。 今安見さんの頭は僕のお腹のところにある。


「うぇ!? ちょっ・・・!?」

「えへへぇ。 こうして抱いて寝るのやってみたかったんですぅ。 学校じゃあ出来なかったので、こう言う機会が出来て嬉しいですぅ。」

「安見さん? 今は夢の中じゃないよ? だからほら、部屋に戻ろう・・・」


 そう言おうと思った矢先、安見さんの吐息が聞こえてくる。 どうやら本当にそのままの体勢で眠ってしまったようだ。


 僕は悩む。 一緒にいたので安見さん達が借りている部屋は知っている。 だが、眠っている彼女を起こさずに運べるかと言われると答えは「ノー」だ。 寝ている人を運んだことなど無いのだから当然と言えば当然なのだが。


 そう思考を巡らせていると、不意に安見さんの全身、特に強調されたかのようにつきだしたお尻が見えた。 体育で体操服姿を見たときもそうだが、安見さんの四肢はプロポーションがいい。 それゆえにパジャマ越しでも分かる。 しかし「大きい」と言うよりは「整っている」という表現の方が正しい・・・ って女子の体をそんな風に見るのはよくないよね。


「お姉、随分と大胆なことするね。」

「それだけ気を許しているということでしょう。」

「そっかそっか。 光輝の魅力を分かってくれたのね。」

「昇くん。 もしそうなったときはよろしくね。」

「まだ決まった訳じゃないし、早計は身を滅ぼすよ?」


 静かな縁側で耳に入った声。 入り口付近を見ると、そこには僕と安見さんの家族全員がこっちを見ていた。 なんかあの光景デジャブ。


『そこで見てるなら、誰でもいいから助けてよ!』


 安見さんが寝ているので最小限声を出さない、最早口パクのレベルで会話をする。


 すると天祭さんが駆け寄ってくる。 流石そこは安見さんのお母さんと言ったところだろうか。 そう思ってどうするのかなと思ったら安見さんに布団を掛けた。 しかもご丁寧にもうひとつあってそれを僕に渡してきた。 そしてそのあとに人差し指を口に当てて、そのまま去っていった・・・ って! このまま寝ろと!? そう思い入り口をみるとみんなそそくさと帰っていってしまった。 


 うっそ!見捨てられた!? そんな感じでショックを受けていると、


「すぅ・・・すぅ・・・」


 安見さんからそんな吐息が聞こえて、仕方ないと諦めて、安見さんの体勢を立て直しつつ、僕が横になり、布団を被って、そのまま2人で眠りについた。

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