47 / 166
食事、お風呂、寝室
しおりを挟む
運ばれてきた料理を見てみると、ザ・庶民の食事と言わんばかりのラインナップだった。
炊きたてのご飯に魚の煮付け、茄子の揚げ浸しに味噌汁と、どれもこれも手の込んだ料理ばかりである。
「この揚げ浸し凄いです。 普通出汁に浸すと揚げた時のカラッとした感触が失くなってしまうのですが、それが損なわれることなく、閉じ込めてあるかのように内側から旨味が広がっていきます。」
安見さんが茄子の揚げ浸しを一口食べて、グルメレポーターのようにコメントをしている。
「うわっ。 お姉がらしくもなく料理について語ってる。」
「安見は家の中ではお父さんの次に舌が鋭いですからね。 それだけ褒めるのは滅多に無いことなのかもしれないですよ?」
姉と妹、それぞれの観点から安見さんを見ている。 三姉妹の次女ってあんな風に見られるのかな?
そう思いながら僕もご飯をいただくことにした。 そして口のなかに広がる温かさと、噛めば噛むほど甘味を増していくご飯の美味しさに、舌鼓を打った。
「いかがです? 土釜で炊いておりますので、普段のご飯よりも美味しく感じられましょう。」
同じ様に一緒に食べていた給仕の女性(恐らく今いる給仕の中では最年少だろう。 二十歳位に見える。)が僕にそう語ってきた。
「え!? 土釜で!? す、すごい手間暇かけてますね。」
「料理に関してはお客様用として用意しましたが、ご飯とお味噌汁だけは藤翁様の味の好みで、普段使う調理道具とは別に用意されているのです。」
まさにこだわりの逸品って事か。 手間暇は苦じゃないってことだな。
「そういえば昇くん達はどうしてここに? 明らかに道に迷った風じゃないよね?」
「僕達は明日「如月テーマパーク」に入園するんだ。 だから近くのここで一泊をしようと思ってね。」
「えー! いいなぁー! というかゴールデンウィークはそういう場所って結構混んでたりするじゃん? 大丈夫?」
「そこは気にしないかな。 僕らは「家族で行った」という思い出が欲しいのさ。 だからアトラクションに乗れなかったとしても、それはそれで思い出になる。」
「素晴らしいお考えですね。 私もいつか家族が出来たらそのように優しい方を夫にしたいものです。」
音理亜さんと味柑ちゃんは父さんの話に食い入るように聞いている。 あれはしばらくは語りかけてるぞ。
「すみません。 お風呂をお借りしたいのですが。」
「かしこまりました。 ではこちらに。」
そう言って給仕さんの後ろを歩いていって、すぐに暖簾のようなものがかかっているドアに着く。
「こちらからがお風呂場になっております。」
「ひとつしかないのですか?」
疑問に思ったので、そこは聞いておこう。 これでは給仕さん達が入りにくいのではないか?
「ご心配なく、こちらは旦那様用となっておりまして、給仕用とは別となっております。 女性の方々はそちらで入浴してもらいます。 また旦那様は大浴場を好まれておりますゆえ、4、5人が同時に入れるように設計されております。」
それだけの設備があるなら宿屋としてもやっていけるんじゃないか? そうは思ったが、こういう人は大抵人を寄せ付けないのが定石だ。 宿屋なんかやっても落ち着かないのではないかと感じた。
「それでは、ごゆっくり。」
給仕さんがドアを閉める。 少し大きめの脱衣所で服を脱いで、浴場に入り、体を洗ってから湯船に浸かる。 大きなお風呂なだけに手足を伸ばせるのはやはりいい。
「一緒に良いかな? 少年。」
その声の主を見ると、腰にタオルを巻いた、あの着物からは想像もつかないような筋肉質の大門さんが入ってきた。 筋肉質と言ってもムキムキという訳ではなく少し昔に鍛えていたのかな? くらいの筋肉である。 僕はインドアなのであまり筋肉というものはない。 別に羨ましくなんかない。
「少年よ。 時の流れというものは残酷に過ぎない。」
突如喋りだした大門さん。 いきなり話が壮大すぎる。
「お主は今、恋をしておる。 いや、恋とまではいかぬが、気になっている女子おなごがおるな?」
「・・・どうしてそう思うのですか?」
会って数時間も経ってない人にそのような事を言われても信憑性の欠片もない。 だからこそ聞き返した。
「男には誰にでもあるのだ。 自分の心に惹かれる女子おなごを見たときは。 だがそれが叶わぬ時もある。 私もそんな時期があった。」
染々としている大門さん。 だけどあまりピンとは来ない。 だってまだ高校生になったばかりの人間だし。 まだ大門さんの1/3程しか生きてない僕には、その感情は分からない。
「少年。 いつかいつかよりは、想いをぶつける時はぶつけてしまうのもまた勇気だ。 いずれお主にもその時はやってくる。 今は爺の戯言と受け止めてくれても構わんが、その時になったら、思い出せるように、心にしまっておいてはくれぬか。」
その時がいつになるのかは分からないけれど、大門さんから頂いた言葉はしっかりと脳裏に焼き付いた。
寝る部屋は僕らは少し小さめの部屋を用意して貰った。 3人家族として使うには丁度いい感じだからだ。
そして夜。 両親はそのまま眠りについたが、僕は寝付けなかった。 なので、起こさないように部屋を出て、縁側に行く事にした。 ガラス戸なので、月明かりがよく入ってくる。
安見さんは眠ってしまっただろうか? 学校では常に眠たそうにしていて、その割には運動神経抜群で。 なにを考えているかいまいち掴み所が分からない安見さん。 だけどそんな彼女を見て、驚かされたり、呆れてしまったり、笑ったりと、僕自身も色々と翻弄されっぱなしだ。 ここまで誰かの事を思ったのは初めてかも知らない。 僕にとって安見さんは、今やどんな存在になっているのだろうか?
「館君も、眠れないご様子ですか?」
縁側に向かってくる足音。 でも僕には声でわかる。 月明かりに照らされたのは、眠気眼を擦っている安見さんだった。
炊きたてのご飯に魚の煮付け、茄子の揚げ浸しに味噌汁と、どれもこれも手の込んだ料理ばかりである。
「この揚げ浸し凄いです。 普通出汁に浸すと揚げた時のカラッとした感触が失くなってしまうのですが、それが損なわれることなく、閉じ込めてあるかのように内側から旨味が広がっていきます。」
安見さんが茄子の揚げ浸しを一口食べて、グルメレポーターのようにコメントをしている。
「うわっ。 お姉がらしくもなく料理について語ってる。」
「安見は家の中ではお父さんの次に舌が鋭いですからね。 それだけ褒めるのは滅多に無いことなのかもしれないですよ?」
姉と妹、それぞれの観点から安見さんを見ている。 三姉妹の次女ってあんな風に見られるのかな?
そう思いながら僕もご飯をいただくことにした。 そして口のなかに広がる温かさと、噛めば噛むほど甘味を増していくご飯の美味しさに、舌鼓を打った。
「いかがです? 土釜で炊いておりますので、普段のご飯よりも美味しく感じられましょう。」
同じ様に一緒に食べていた給仕の女性(恐らく今いる給仕の中では最年少だろう。 二十歳位に見える。)が僕にそう語ってきた。
「え!? 土釜で!? す、すごい手間暇かけてますね。」
「料理に関してはお客様用として用意しましたが、ご飯とお味噌汁だけは藤翁様の味の好みで、普段使う調理道具とは別に用意されているのです。」
まさにこだわりの逸品って事か。 手間暇は苦じゃないってことだな。
「そういえば昇くん達はどうしてここに? 明らかに道に迷った風じゃないよね?」
「僕達は明日「如月テーマパーク」に入園するんだ。 だから近くのここで一泊をしようと思ってね。」
「えー! いいなぁー! というかゴールデンウィークはそういう場所って結構混んでたりするじゃん? 大丈夫?」
「そこは気にしないかな。 僕らは「家族で行った」という思い出が欲しいのさ。 だからアトラクションに乗れなかったとしても、それはそれで思い出になる。」
「素晴らしいお考えですね。 私もいつか家族が出来たらそのように優しい方を夫にしたいものです。」
音理亜さんと味柑ちゃんは父さんの話に食い入るように聞いている。 あれはしばらくは語りかけてるぞ。
「すみません。 お風呂をお借りしたいのですが。」
「かしこまりました。 ではこちらに。」
そう言って給仕さんの後ろを歩いていって、すぐに暖簾のようなものがかかっているドアに着く。
「こちらからがお風呂場になっております。」
「ひとつしかないのですか?」
疑問に思ったので、そこは聞いておこう。 これでは給仕さん達が入りにくいのではないか?
「ご心配なく、こちらは旦那様用となっておりまして、給仕用とは別となっております。 女性の方々はそちらで入浴してもらいます。 また旦那様は大浴場を好まれておりますゆえ、4、5人が同時に入れるように設計されております。」
それだけの設備があるなら宿屋としてもやっていけるんじゃないか? そうは思ったが、こういう人は大抵人を寄せ付けないのが定石だ。 宿屋なんかやっても落ち着かないのではないかと感じた。
「それでは、ごゆっくり。」
給仕さんがドアを閉める。 少し大きめの脱衣所で服を脱いで、浴場に入り、体を洗ってから湯船に浸かる。 大きなお風呂なだけに手足を伸ばせるのはやはりいい。
「一緒に良いかな? 少年。」
その声の主を見ると、腰にタオルを巻いた、あの着物からは想像もつかないような筋肉質の大門さんが入ってきた。 筋肉質と言ってもムキムキという訳ではなく少し昔に鍛えていたのかな? くらいの筋肉である。 僕はインドアなのであまり筋肉というものはない。 別に羨ましくなんかない。
「少年よ。 時の流れというものは残酷に過ぎない。」
突如喋りだした大門さん。 いきなり話が壮大すぎる。
「お主は今、恋をしておる。 いや、恋とまではいかぬが、気になっている女子おなごがおるな?」
「・・・どうしてそう思うのですか?」
会って数時間も経ってない人にそのような事を言われても信憑性の欠片もない。 だからこそ聞き返した。
「男には誰にでもあるのだ。 自分の心に惹かれる女子おなごを見たときは。 だがそれが叶わぬ時もある。 私もそんな時期があった。」
染々としている大門さん。 だけどあまりピンとは来ない。 だってまだ高校生になったばかりの人間だし。 まだ大門さんの1/3程しか生きてない僕には、その感情は分からない。
「少年。 いつかいつかよりは、想いをぶつける時はぶつけてしまうのもまた勇気だ。 いずれお主にもその時はやってくる。 今は爺の戯言と受け止めてくれても構わんが、その時になったら、思い出せるように、心にしまっておいてはくれぬか。」
その時がいつになるのかは分からないけれど、大門さんから頂いた言葉はしっかりと脳裏に焼き付いた。
寝る部屋は僕らは少し小さめの部屋を用意して貰った。 3人家族として使うには丁度いい感じだからだ。
そして夜。 両親はそのまま眠りについたが、僕は寝付けなかった。 なので、起こさないように部屋を出て、縁側に行く事にした。 ガラス戸なので、月明かりがよく入ってくる。
安見さんは眠ってしまっただろうか? 学校では常に眠たそうにしていて、その割には運動神経抜群で。 なにを考えているかいまいち掴み所が分からない安見さん。 だけどそんな彼女を見て、驚かされたり、呆れてしまったり、笑ったりと、僕自身も色々と翻弄されっぱなしだ。 ここまで誰かの事を思ったのは初めてかも知らない。 僕にとって安見さんは、今やどんな存在になっているのだろうか?
「館君も、眠れないご様子ですか?」
縁側に向かってくる足音。 でも僕には声でわかる。 月明かりに照らされたのは、眠気眼を擦っている安見さんだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。


だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

婚約者から婚約破棄のお話がありました。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「……私との婚約を破棄されたいと? 急なお話ですわね」女主人公視点の語り口で話は進みます。*世界観や設定はふわっとしてます。*何番煎じ、よくあるざまぁ話で、書きたいとこだけ書きました。*カクヨム様にも投稿しています。*前編と後編で完結。

彼の執着〜前世から愛していると言われても困ります〜
八つ刻
恋愛
女の子なら誰しもが憧れるであろうシンデレラ・ストーリー。
でも!私はそんなの望んでないんです!
それなのに絡んでくる彼。え?私たちが前世で夫婦?頭おかしいんじゃないですか?
これは今世でも妻を手に入れようとする彼とその彼から逃げようとする彼女との溺愛?ストーリー。
※【人生の全てを捨てた王太子妃】の続編なので前作を読んだ後、こちらを読んだ方が理解が深まります。読まなくても(多分)大丈夫です。
ただ、前作の世界観を壊したくない方はそっ閉じ推奨。
※相変わらずヤンデレですが、具合はゆるくなりました(作者比)
※前作のその後だけ知りたい方は25.26日分を読んで下さい。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける
堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」
王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。
クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。
せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。
キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。
クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。
卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。
目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。
淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。
そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる