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姐さんとお話
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「すまんね、若い者だけで楽しんでたのに、余計な奴等に関わらせてしまって。」
「・・・はぁ・・・」
状況がさっぱり読み込めず、困惑を極めている僕達。 なにをどう対処すればいいのかと考えていると、
「立ち話もなんだし、あっちの屋台でなんか奢るよ。 さっきのお詫びとしてね。 それとその子、体調悪そうだけど、大丈夫?」
「姐さん」と呼ばれた人が指を差す方向、それは僕の左隣にいる円藤さんに向けてだった。 というかずっと抱えっぱなしだったのをすっかり忘れていた。
「あ! ご、ごめん円藤さん! く、苦しくなかった?」
「た、だいじょび、です。 私は、元気、でふよ?」
そんな呂律の回っていない円藤さんの様子は、顔が真っ赤で目元がグルグルしていて、頭から蒸気が出そうなくらい熱暴走してしまっている。
「とりあえず移動しようか。」
そう言ってみんなで移動することにした。 円藤さんは僕が支えながら一緒に動いた。
「まずは自己紹介からだね。 あたしは牧山 要まきやま かなめ この近くの大学生だよ。 そっちは高校生っぽいけど、どこから来たの?」
「僕たちは巣軽高校から来ました。 といってもみんなの高校がそうなだけで、実際はその付近に住んでるってだけです。」
「ふーん、巣軽か。 そりゃあんな輩なんていなさそうなのも当然か。」
「僕は館 光輝と言います。 先程はありがとうございました。」
「いいのよ。 あいつらだって悪い所はあったし。」
「私は坂内 良樹と言います。 つかぬことをお聞きしますが、あなたと彼らの関係は?」
それは聞いておきたかった。 牧山さんを「姐さん」と呼ぶ辺り、なにかの信頼関係にあるのだろうか?
「ああ、あいつらと私はサークルの先輩後輩って感じかな。 行き場を失っていたあいつらに声をかけて、サークルに入れさせたって訳。 大したサークルではないけど、自分達が拾われたことの恩として、あたしのことを「姐さん」って呼んでるらしいのよね。 そんなことしなくてもいいのにさ。」
彼らを語る牧山さんの目には、どこか悲しげな表情が伺えた。 この人と彼らの間に何があったのかは分からないが、きっと僕達では理解し難いような事があったに違いない。
「お待たせしました。 坂内君と館君の分も買ってきましたよ。 円藤さんは・・・」
江ノ島さんの目線の先に移る円藤さんは、別のベンチで横になっている。 まだ気分の方は優れていないようだ。
「円藤さん。 ここに買ってきた物を置いておきますね。」
「・・・あ、ありがとう、江ノ島さん。」
「まだ気分が優れないようでしたら、もう少し横になっていてください。 私達が見ていますので。」
江ノ島さんの一声で、円藤さんは少し落ち着きを取り戻していた。
「彼女、かなりの母性本能があるね。」
「江ノ島さんですか? 確かにそういう風貌はありますが・・・」
「あいつらも、昔はもっと世相無しにナンパをしていたもんでね。 それのせいで行き場を失ったってのに、懲りもせずあたしが見ていないとすぐに始めるからね。 見てるこっち側も大変なのよ。」
「それは・・・心中お察しいたします。」
「君らも気を付けなよ?」
「それはもう重々承知しました。」
今回のことで、彼女たちに怖い思いをさせてしまった。 それについては反省をしなければならない。
「君の果敢な姿は、それはもう心奪われるようなシチュエーションだったね。 ナンパ男どもから女の子を守る。 ありそうでなかなかないと思うわ。 そんな事。」
「殴り合いの喧嘩になってたら確実に負けてる自信ありますよ。」
「はははは。 素直でいいじゃないか。 そんな君に質問をしてもいいかな?」
「・・・? なんでしょうか?」
この人から質問が来るとは思ってもみなかったので、純粋に疑問に思ってしまった。
「館君。 お待たせしました。 随分と・・・」
「自分で懐に潜り込ませた少女と、自分に腕を組みに来た少女。 君はどっちを選ぶのかな?」
安見さんが戻ってきたまさにそのタイミングで爆弾とも言える質問を投じられる。
「それは・・・つまり・・・」
「君はどっちのことが好きなのかなって。 両方貰うなんてことは出来ないわけだし。」
その質問に対して、今しがた帰ってきた安見さん、そしてまだベンチで横になっている円藤さんを交互に見る。 どちらかを選べって言われても・・・・・・
「そんなの・・・僕には」
「出来るわけ無いよね。 分かってるさ。」
「えっ?」
「君たちまだ高校入って1ヶ月でしょ? そんな簡単に彼氏彼女の関係になっちゃったら、絶対に後悔する。 だから今はまだ、親睦を深めるだけで十分なんだよ。 躍起になって、どっちかを選ぼうなんて思っちゃダメさ少年。」
「は、はぁ・・・」
「牧山さん。 彼を困惑させないで下さい。」
「ははは、悪いね。 あいつらみたいにならないようにアドバイスしていただけさ。」
なんとも心臓に悪いアドバイスをくれる人だ。 でもこれは人生においても必須になってくる。 必ず選択する場面は出てくる。 それはそのときになってみないと分からないが、判断を謝るだけで引き返すことの出来ないことにも陥る事だってある。 間接的ではあるがそれを教えてくれたのだろう。
「それじゃあ、あたしはこの辺で。 ああ、あたしらは学校が近いから、また話をしたかったらこのデパートに来な。 休みの日はこのゲーセンで誰かしらはいるからさ。 今度はナンパは無しで会わせるからさ。」
「本当に何から何までありがとうございました。」
「礼なんていいよ。 それじゃあね。 青春を謳歌しなよ?」
そう言って牧山さんは去っていってしまった。
「なんだかああいうのを「大人」と言うのでしょうか?」
「そうだね。 あの人が「姐さん」って言われて慕われるのも無理はないかも。」
その後ろ姿を見て、日が沈みかけているのも認識出来た。
「我々もそろそろ帰りますか。」
「あんまり遅くなるとなに言われるか分からないからね。 門限的な問題は・・・あるのか分からないけれど。」
「・・・楽しかったですね。 今日は。」
「うん。 今までのゴールデンウィークで一番かも。」
「まだ2日もありますけどね。」
「そうだね。」
そんな何気ない会話を繰り広げなから、みんなが集合した後、行きで来たバスで最寄り駅まで戻って、それぞれの帰路へと帰るのだった。
「・・・はぁ・・・」
状況がさっぱり読み込めず、困惑を極めている僕達。 なにをどう対処すればいいのかと考えていると、
「立ち話もなんだし、あっちの屋台でなんか奢るよ。 さっきのお詫びとしてね。 それとその子、体調悪そうだけど、大丈夫?」
「姐さん」と呼ばれた人が指を差す方向、それは僕の左隣にいる円藤さんに向けてだった。 というかずっと抱えっぱなしだったのをすっかり忘れていた。
「あ! ご、ごめん円藤さん! く、苦しくなかった?」
「た、だいじょび、です。 私は、元気、でふよ?」
そんな呂律の回っていない円藤さんの様子は、顔が真っ赤で目元がグルグルしていて、頭から蒸気が出そうなくらい熱暴走してしまっている。
「とりあえず移動しようか。」
そう言ってみんなで移動することにした。 円藤さんは僕が支えながら一緒に動いた。
「まずは自己紹介からだね。 あたしは牧山 要まきやま かなめ この近くの大学生だよ。 そっちは高校生っぽいけど、どこから来たの?」
「僕たちは巣軽高校から来ました。 といってもみんなの高校がそうなだけで、実際はその付近に住んでるってだけです。」
「ふーん、巣軽か。 そりゃあんな輩なんていなさそうなのも当然か。」
「僕は館 光輝と言います。 先程はありがとうございました。」
「いいのよ。 あいつらだって悪い所はあったし。」
「私は坂内 良樹と言います。 つかぬことをお聞きしますが、あなたと彼らの関係は?」
それは聞いておきたかった。 牧山さんを「姐さん」と呼ぶ辺り、なにかの信頼関係にあるのだろうか?
「ああ、あいつらと私はサークルの先輩後輩って感じかな。 行き場を失っていたあいつらに声をかけて、サークルに入れさせたって訳。 大したサークルではないけど、自分達が拾われたことの恩として、あたしのことを「姐さん」って呼んでるらしいのよね。 そんなことしなくてもいいのにさ。」
彼らを語る牧山さんの目には、どこか悲しげな表情が伺えた。 この人と彼らの間に何があったのかは分からないが、きっと僕達では理解し難いような事があったに違いない。
「お待たせしました。 坂内君と館君の分も買ってきましたよ。 円藤さんは・・・」
江ノ島さんの目線の先に移る円藤さんは、別のベンチで横になっている。 まだ気分の方は優れていないようだ。
「円藤さん。 ここに買ってきた物を置いておきますね。」
「・・・あ、ありがとう、江ノ島さん。」
「まだ気分が優れないようでしたら、もう少し横になっていてください。 私達が見ていますので。」
江ノ島さんの一声で、円藤さんは少し落ち着きを取り戻していた。
「彼女、かなりの母性本能があるね。」
「江ノ島さんですか? 確かにそういう風貌はありますが・・・」
「あいつらも、昔はもっと世相無しにナンパをしていたもんでね。 それのせいで行き場を失ったってのに、懲りもせずあたしが見ていないとすぐに始めるからね。 見てるこっち側も大変なのよ。」
「それは・・・心中お察しいたします。」
「君らも気を付けなよ?」
「それはもう重々承知しました。」
今回のことで、彼女たちに怖い思いをさせてしまった。 それについては反省をしなければならない。
「君の果敢な姿は、それはもう心奪われるようなシチュエーションだったね。 ナンパ男どもから女の子を守る。 ありそうでなかなかないと思うわ。 そんな事。」
「殴り合いの喧嘩になってたら確実に負けてる自信ありますよ。」
「はははは。 素直でいいじゃないか。 そんな君に質問をしてもいいかな?」
「・・・? なんでしょうか?」
この人から質問が来るとは思ってもみなかったので、純粋に疑問に思ってしまった。
「館君。 お待たせしました。 随分と・・・」
「自分で懐に潜り込ませた少女と、自分に腕を組みに来た少女。 君はどっちを選ぶのかな?」
安見さんが戻ってきたまさにそのタイミングで爆弾とも言える質問を投じられる。
「それは・・・つまり・・・」
「君はどっちのことが好きなのかなって。 両方貰うなんてことは出来ないわけだし。」
その質問に対して、今しがた帰ってきた安見さん、そしてまだベンチで横になっている円藤さんを交互に見る。 どちらかを選べって言われても・・・・・・
「そんなの・・・僕には」
「出来るわけ無いよね。 分かってるさ。」
「えっ?」
「君たちまだ高校入って1ヶ月でしょ? そんな簡単に彼氏彼女の関係になっちゃったら、絶対に後悔する。 だから今はまだ、親睦を深めるだけで十分なんだよ。 躍起になって、どっちかを選ぼうなんて思っちゃダメさ少年。」
「は、はぁ・・・」
「牧山さん。 彼を困惑させないで下さい。」
「ははは、悪いね。 あいつらみたいにならないようにアドバイスしていただけさ。」
なんとも心臓に悪いアドバイスをくれる人だ。 でもこれは人生においても必須になってくる。 必ず選択する場面は出てくる。 それはそのときになってみないと分からないが、判断を謝るだけで引き返すことの出来ないことにも陥る事だってある。 間接的ではあるがそれを教えてくれたのだろう。
「それじゃあ、あたしはこの辺で。 ああ、あたしらは学校が近いから、また話をしたかったらこのデパートに来な。 休みの日はこのゲーセンで誰かしらはいるからさ。 今度はナンパは無しで会わせるからさ。」
「本当に何から何までありがとうございました。」
「礼なんていいよ。 それじゃあね。 青春を謳歌しなよ?」
そう言って牧山さんは去っていってしまった。
「なんだかああいうのを「大人」と言うのでしょうか?」
「そうだね。 あの人が「姐さん」って言われて慕われるのも無理はないかも。」
その後ろ姿を見て、日が沈みかけているのも認識出来た。
「我々もそろそろ帰りますか。」
「あんまり遅くなるとなに言われるか分からないからね。 門限的な問題は・・・あるのか分からないけれど。」
「・・・楽しかったですね。 今日は。」
「うん。 今までのゴールデンウィークで一番かも。」
「まだ2日もありますけどね。」
「そうだね。」
そんな何気ない会話を繰り広げなから、みんなが集合した後、行きで来たバスで最寄り駅まで戻って、それぞれの帰路へと帰るのだった。
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