須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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デパートへ

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みんなが揃ったのでバス停からバスに乗り、デパートに向けて、いざ出発となった。 向かう先が同じなのだろうか、バスの中はそこそこ人が乗っていた。

 座ることはできそうにないので、つり革を持ってバスが目的地に向かうのを待つ。


「やっぱりゴールデンウィークなだけあって乗っているお客さんも多いね。」

「そりゃそうでしょ。 何てったって大型デパートだよ? 来ない方がおかしいんじゃないかな?」


 バスで向かっている途中のバスでそんな会話が繰り広げられる。 あんまりこういう場所では喋らないように努めているけれど、迷惑にならない程度ならいいのかな?と思ってしまう。


 そんな会話を流し聞きしていると急にバスが止まる。 僕は後ろ向きで立っていたので後ろに重心がかかってしまうが、すぐに持ち直す。


「きゃっ!」


 僕らは立っていたのでそのうちの何人かはバランスを崩しそうになっていた。 その中で円藤さんはつり革を持っていたにも関わらず、バランスを崩してしまい、後ろに倒れかかっていた僕の体で体を支えるように立つ形になっていた。


「・・・・・・っあ! ご、ごめんなさい! 館さん!」

「あ、いや・・・ 怪我しなくて良かったよ。」


 そう言って円藤さんの肩を持って、体勢を立て直させる。 そうすると円藤さんは、バツが悪いのか俯いてしまった。 うーん、気にすることはないんだけどなぁ。



 バスに揺られること20分。 目的地である大型デパートの目の前に到着する。


「っはぁー。 凄いねぇ。 こうやって間近で見ると尚大きく見えるよ。」


 濱井さんの言う通り、目の前にそびえ立つ大きな建物は、真下から上を見上げる程に大きく、高かった。


 早速と言わんばかりにみんなで中に入る。 すると中も予想以上の広さを見せつけられる。 まずエントランスホールの上階部分が吹き抜けとなっていて、一番上の窓天井から光が入ってくる。 さながら神の加護のような光を見せつけられた。


「これは探索しがいがありますわね。 なんだか楽しくなってきました。」


 江ノ島さんもなんだか上機嫌になっていた。 しかしこれだけ大きく広いと、どこから回っていこうかかなり迷うところだ。 多分1日では回りきれない可能性が大きい。


「とりあえず案内板を見て、ある程度目星をつけようじゃないか。 もしも回りきれそうにないなら分担も視野に入れていきたいですね。」


 坂内君の言うように、案内板を確認して、目的のお店の場所を把握する。 デパートということもあっていろんなお店が建ち並んでいるが、それぞれフロア毎で分かれているので、その辺りはかなり安心だ。


 1階から6階まであり、更に屋上がある構造になっていて、1階と2階は食事関係が多く出店している。 お昼はこの辺りのどこかで済ませれる。 3階と4階は服関連のお店。 ブランド物からお手軽な所までこちらも様々な種類がある。 5階、6階はその他の雑多店になる。 僕の目的の手芸店は5階にあるようだ。


「我々が求めている物は大体固まってるみたいですよ?」

「行き先がほとんど一緒なら、散っても直ぐに戻ってこれるな。」

「では早速行きましょうか。 5階から見て回りますか?」

「そう、ですね。 エレベーターが近くに、あるので、それに乗って、行きましょう。」


 場所が決まったようなので、直ぐにエレベーターホールに行くと、そこにもお客さんがそこそこ集まっていた。 階層は違っても乗ることには変わらないのだが、こうも多いと逆に乗れるか心配になってくる。


 エレベーターの前で待って、ようやく自分達が乗れる番になるが後ろからもどんどん押し寄せてきて、完全にすし詰め状態になってしまう。 僕や小舞君に至ってはエレベーターの奥の壁に押し込まれる始末になっている。 苦しい・・・・・・


 すると今度は背中に何かの感触が伝わる。 後ろを振り返ると、そこには円藤さんの姿があった。 彼女も僕と前の人とで潰されるように乗っているので相当苦しそうだ。 こればっかりは少し耐えてもらうしかない。

 そしてエレベーターが5階につくと直ぐに降りる仕草をして、みんな脱出する。


「ぷはぁー! あー! しんどかった!」


 濱井さんがおもいっきり深呼吸をし始める。 確かにあれは息苦しいものを感じた。 次はエスカレーターで行くこととしようと誓った。


「円藤さん。 大丈夫だった?」

「あ、は、はい。 すみません、館さんだとは、知らずに、背中に、触れてしまって。」

「気にしてないし、知り合いの背中で良かったじゃない。 もし知らない人だったら気まずいよ? お互いに。」

「そう、ですね。 ふふっ。」


 円藤さんが僕の冗談に笑ってくれた。 普段から緊張気味な彼女だが、今はこうして友達と来ていると言うことで、遠慮なく笑ってくれればとそう思える。


「加奈美! 来ないと置いていくよ?」

「あ、待ってください梨麻さん。 そんなに、急がなくても、お店は逃げたり、しないから。」

「濱井さんは元気ですわね。 私たちも行きましょう。」

「おうよ。 なかなかに楽しめそうだぜ。」

「そうだね。 こうしてみんなで行くと、なにかとワクワクが止まらなくなるね。 この気持ちは演劇でも使えそうだ。」


 そう言ってみんな思い思いに歩み始める。 残ったのは僕と安見さんだけになった。


「安見さん。 僕らも・・・・・・安見さん?」


 隣にいる安見さんの方を見ると、なんというかむくれていた。 なにがそんなに気に入らないのだろうか?


「安見さん? どうしたの?」

「・・・え? あぁ、すみません。 私たちも置いていかれないようにしないとですね。 行きましょう。」

「う、うん。」


 先程のあれはなんだったのだろうか? 今は聞いてもさすがに無駄そうなので、皆の後を付いていくことにした。 何事もなく終わる・・・何てことはないよなと自分の心のどこかで思いながら。

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