須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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待ち合わせ

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今日向かうデパートへは僕の家から学校へと向かう駅とは逆方向の駅のロータリーのバス停からアクセスできる。 この駅は僕の住んでいる町の中ではかなり大きく、向かうデパートも都内にあるため、このような公共交通機関は何気に貴重なんだ。


 そんなわけで待ち合わせ場所であるそのバス停に待ち合わせ時刻よりも30分以上も早く来てしまい、現在みんなを待っている状態にある。


「さすがに早く来すぎたな・・・・・・」


 そんな今更な事を公開しながらバス停に設置されているベンチに座っている。 僕個人としても正直つまらなくなってきている。 誰でもいいから早く来てくれないかな。


 ここで誰が来るか改めて確認しておこう。 今回は7人で集まってから出発する。 僕、安見さん、坂内君、小舞君、濱井さん、江ノ島さん、円藤さん。 この中で早めに来そうなのは坂内君や円藤さんとかかな。 安見さんはもしかしたら寝過ごして


「おはようございます館君。 随分と早いご到着ですね。」


 最後に来る・・・・・・


「・・・え?」


 急に声をかけられたので振り替えるとそこには先程まで考えていた安見さんがいた。 少しだけサイズの大きい薄緑色のセーターに黒と白のチェックのロングスカートでコーディネートされていた。 暑いのか、セミロングの髪は後ろでひとつに纏められていた。


 その姿になんと表現すればいいのか分からないけれど、美しい、と思ってしまった。


「・・・館君どうしました? 惚けたような顔をして?」

「え? あ、ご、ごめん! 急に声をかけられたからビックリしちゃって。」


 我ながら恥ずかしい話である。 安見さんは最後に来るだろうと踏んでいた手前、まさか最初に来るもんだから予想外もいいところなのだ。 しかも普通に考えれば分かることだったのだが、休日の日にわざわざ制服で歩く学生はいない。 だからこそ私服で来ることは分かっていたにも関わらず、安見さんの私服の破壊力に見惚れてしまった。


 こうして休日に会うのは3回目だが、散歩の時はすぐに帰るからだったのか、上にジャージを羽織っていただけだった。 だからこそこうして直接私服を見るのは意外にも初めてだった。


「そ、それにしても服、素敵だね。 自分で選んだの?」

「ええ。 とはいえ直接選んだのではなく、母や姉さん、味柑と一緒に選んだものなので。」


 女家族ならそういうことが出来るんだろうなぁ。 安見さんのお父さんは肩身が狭いかもなぁ。


「そちらは随分とラフな格好ですね。」


 逆に僕の方は青のTシャツに白のジャンパーにジーパンという、コーディネートとは無縁のところにいる服装で待っていた。


「まあこれが一番動きやすいしね。 手芸は好きだけど、ファッションに関してはちょっとね。」

「それがいいと思いますよ。 館君らしくて、私は好きですよ。」

「そ、そうかな?」


 服装のことで褒められたのは初めてのことでちょっと照れてしまう。


「それにしても早かったね。 もうちょっと遅れてくると思ったのに。」

「これでも早く来た方です。 館君が早すぎるんですよ。」


 時計を見てみると集合時間までまだ20分近くもある。 確かにこれでは意味が無いねと思ってしまった。


 僕が時計を見ていると、隣に安見さんが座った。


「もう。 一番乗りして、皆さんを驚かせようと思ったのに。」

「みんなもずっと見てる訳じゃないから、安見さんが普段から寝てる人だとは思わないよ。 それにちゃんと理由がある上で寝てるんだから尚更分からないって。」

「館君。 それは褒めていると捉えていいのでしょうか?」


 うん、僕自身もなにいってるんだと思っていたところだ。 そんな至近距離で安見さんの事を見れるのは今のところ僕だけだし、安見さんだって好きで寝てる訳じゃないと思うし。


「ってそうだ。 安見さんが来たなら、今渡せばいいんだ。 誰もまだ来てないし、丁度いいじゃん。」

「・・・? なにがですか?」


 安見さんの疑問の声を聞かずに僕は自分の持っている鞄からある袋を取り出して、安見さんに渡す。


「これは・・・」

「お弁当袋。 昨日の内に完成したから今日渡せれるなって思って。」


 そのお弁当袋は紅赤色で、様々なマークをアップリケしてある。 そして縛り紐もあるので、口元を締められてそのまま持ち運ぶことも出来る代物である。


「ありがとうございます。 本当に作ってくださるなんて。」

「前のチョコレートのお礼だよ。 気にしないで。」

「大切に使わせていただきますね。」


 そう言ってくれると作った甲斐があるというものだ。 そしてそのお弁当袋わ安見さんの持ってるトートバッグに入れると、安見さんは小さく欠伸をした。


「あー、やっぱり早く起きたから眠たいの?」

「ええ、こういった中途半端な時間に起きるのが一番堪えるんですよね。」

「ははは、心中お察しするよ。」

「皆さんが来ていなかったら起きているつもりでしたが、館君がいるので、問題はないですね。」

「え?」


 そう言うと彼女は僕の肩に寄り添ってきた。


「え!? あ、安見さん!?」


 そう声をかけて返ってきたのは


「すぅ・・・すぅ・・・」


 という彼女の寝息だけだった。


「・・・全くもう・・・安心してるんだか、無防備なんだか・・・」


 そんなことを呟きつつもみんなを待つため動けない。 しばらく誰か来ないかとキョロキョロとしているとバスが来る。 最初のバスだが皆が集まっていないので、乗れない。 運転手さんに乗らないですと伝えるとそのまま行ってしまう。


「早く誰か来ないかな・・・」


 そう思い真後ろの駅へと向かう階段の方を見ると・・・・・・


「・・・・・・あ。」


「バスターミナル」と書かれた大きな柱、その後ろから5つの顔がこちらの様子を伺っていた。 というかみんなもう揃ってるじゃんか。


 どうやらバレた事に気が付いたようで、観念してみんなこちらに向かってくる。


「や、やぁお待たせ。 時間には間に合ってるよね?」

「坂内君。 いくら演劇部でもあれは騙されないよ?」

「まぁバレちゃしょうがないよな。 あれは仕方ない。」

「・・・・・・ちなみにいつから見てたの?」

「えっと、館が何かを渡した辺りからかな? それからみんな順番に集まった来てって感じ?」

「江ノ島さんも止めてよね。」

「す、すみません・・・なんというか、入りづらい印象でしたので・・・」

「わ、私も、止めようとは、言ったんですけれど、あのあの。」


 そうみんなの意見を聞いてため息を付きながら次に来るバスを待つことにした。

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