須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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新たなお昼時

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午前の授業の最後を告げるチャイムが鳴る。 僕は黒板の最後の方に書かれている文章を、消される前に書き写す。 そして書き終わったところで背もたれに背中を預けて、「ふぅ」とため息をついた。 隣の須今さんも、ノートを書き終えたようで、腕をおもいっきり前に伸ばしていた。


「さて、と。 じゃあお昼にしよう。 須今さん。」

「そうですね。 せっかくなので、どこか別の場所にしませんか?」

「それは構わないけど・・・・・・どこかいきたい場所とかでもあるの?」

「実は昨日調理室から見える窓を覗いたら丁度良さそうな大樹と芝生があったので、そこにしようかなと思いまして。」


 この人たま~に観察力が凄いときあるよなぁ。 なんでいつも使えないんだろ?


「では行きましょうか。 あまり時間が経つと騒がしくなるので。」

「そうだね。 それには賛成。」


 そう言って移動を始めるために鞄の中から弁当箱を取り出す。 須今さんのお弁当箱は前回と同じだった。


「おや、館さんのお弁当袋はオリジナリティがありますね。」

「あぁ、これ? 実は昨日の見学の時に作ったんだよ。 そこそこ好評価を貰ってるんだよね。」


 昨日の須今さんと分かれた時点では特になにも考えていなかったのだが、今日の事を考えて、急造で作ったお弁当袋だ。 編み方や口の縛り方が少々幼稚なようにも見えるが、あの短時間で作れるのなら大したものだと先輩達から絶賛を貰っていた。 これを基準にもっと上手くなっていきたいと考えている。


「これはこれは。 先を越されてしまいましたか。」

「先?」

「それはお楽しみということで。」


 須今さんがなにか引っ掛かるような言葉を残しながら教室を出た。

 歩いて5分ほど、学校の中庭のような場所に1つ、ポツンとしているはずなのに存在感のある大樹がそこにはあった。 大樹と言うだけあって、上を見上げると葉が青々と生い茂っていた。


「これは凄いね。 完全に日の光が遮られてるや。」

「館さんは独特の感性を持っているようですね。」


 あれぇ? どうやら須今さんの想いには寄り添えなかったようだ。

 そしてその木陰に座り、お弁当を準備する。


「では早速お弁当を開けましょうか。」

「そうだね。 よっと。」


 僕はお弁当袋から緑色の二段式のお弁当箱を、須今さんは白に赤のストライプの入ったあずま袋の結び目をほどいてお弁当箱を登場させる。 そして二人同時に蓋を開ける。


 僕の方は下の段にご飯を入れて、梅のふりかけをかけている。 上段には小型のハンバーグにトマトとレタス、1/4にカットしたゆで卵に惣菜のポテトサラダを入れている。


 一方の須今さんはしきりで分けられたお弁当の左側半分はご飯なのだが、その3/4以上がピンク色だったのだ。 しかしその疑問は即解決する。 これは桜でんぶなので全体がピンク色だったというだけだった。


 もう半分のおかずゾーンは下半分が卵焼きと小さめのカップに入ったきんぴらごぼう。 そして上半分は茹でた鳥を削いで、細切りにしたキュウリやもやしと一緒に和えてある。 棒々鶏と呼ばれるものだろうか? 昼食作りにかなり手間暇をかけてるようだ。


「須今さんのお弁当、前も凄かったけど、今日も頑張ってるって伝わってくるよ。」

「館さんも手の込んだ料理をするのですね。 冷凍とは思えませんよ。」

「僕のお弁当だって冷凍じゃないもの。 まあ、昨日の内に終わらせたのが多いんだけどね、」


 そう言ってゆで卵を一口食べる。 うん、固さもバッチリだ。 半熟だとお弁当箱の中で崩れかねないからね。 やっぱり黄身は固くないと。

「でも素晴らしいですよ。 どこに出しても恥ずかしくないです。 主夫になれますよ館さん。」


 需要はあると思うけど、流石にどうかな? そんな事を思いつつも、自分のお弁当を食べ進める。 と、そんなところで僕はピタリと止まった。


「・・・? どうかしましたか?」

「須今さん。 今日は食べ比べのために作ってきたんだよね?」

「あ、そうでしたね。 このまま食べてしまっては意味がないですね。」


 そう、僕らの本題は「お互いのお弁当の出来を知る」ことにあるのだ。 確かにこのまま食べ進めるのも悪くないが、そこは約束通りにしなければいけない。


「じゃあ僕から。 この鶏肉を頂くよ。」


 僕は自分の箸で、須今さんのお弁当から鶏肉を少しもらい、口のなかに入れる。 するとキュウリともやしのしゃきしゃき感が口のなかに広がり、そこから鶏肉の柔らかい食感が伝わる。 そして何より味付けのドレッシングは酸味が効いていて鶏肉と相性が抜群なのだ。


「美味しい!」


 その一言に尽きる。 そんな味だった。


「ふふ、喜んでいただけて何よりです。 ドレッシングはお手製なんですよ。」

「料理出来る人って本当に凄いなぁ。 須今さんの印象変わっちゃうよ。」

「私だって出来るときは出来るんです。 では私はこれをもらいますね。」


 そう言って須今さんが箸をつけたのはハンバーグ。 それを一口食べて、口の中で転がしている。 味を確かめているようだ。


「これは・・・・・・なにもかかっていないのかと思ったのですが、ほんのり醤油の味がしますね。 そしてこのハンバーグは・・・・・・豆腐が入っていますね?」


 須今さんの趣味は食べ比べだったはずだから下はそれなりに肥えているだろうし、味も分かるとは想定していた。 だけれどこの勝負、僕の勝ちのようだ。


「ふっふっふっ。 須今さん。 着眼点は良かったけれど、惜しかったね。 使っているのは豆腐じゃなくておからなんだ。 だからこれは「おからハンバーグ」が正解だよ。」


 僕は誇らしげにそう答える。 すると須今さんは「ガガン」といった様子になっていたが、すぐに立ち直った。


「侮っていました。 よもや私が味を間違えるなんて・・・ 私もまだまだのようですね。」

「いや、普通のハンバーグじゃないって分かっただけでも凄いと思うんだけど。」


 そんなフォローを入れると、須今さんはポカンとした後、声をあげて笑いだした。 それにつられて僕も笑う。 こういうのなんだかいいなぁ。 そんな風に思えた昼休みだった。

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