須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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桜の木の下で・・・

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今僕は不思議な光景を見ていた。


 ここは学校の正門から少し歩いた所。 今日から新学期で様々な新入生がその門出をくぐる。 僕、館 光輝たち こうきもその一人で入学式が行われる体育館に向かおうと思っていたその道中。 まるでトンネルのように立ち並んでいる桜の木の下、その1つに寄り添うように1人の女子生徒がもたれかかっていた。


 セミロングで黒髪ストレート、整ったその顔はなぜ他の人の目に全く止まらないのか分からないくらいに、横顔が可憐だった。


「ねぇ・・・」


 そんな顔に引き寄せられるようにその女子生徒に近づく。 改めてその女子生徒に近づくと、ただもたれかかっていたのではない。 


 眠っていたのだ。 


 なぜこんなところで寝ているのか分からない。 だが放っておくのも後味が悪い感じがしたので、スヤスヤと眠るその女子生徒を起こそうと体を揺さぶる。 女子に触ることなど入学前なら夢のまた夢のような話だったのが、今のこの状況を見ても、同じことは言えないだろうなと思う。


「ねぇ、こんなところで寝てたら風邪を引くよ?」


 自分でもこの言葉があっているのか分からなかった。 今は小春日和で少し暖かいくらいだ。 風邪を引く云々かんぬんではないのだろうが、彼女を起こすのが先決だと思い、そんな言葉が口から出てしまった。


「・・・・・・んぅ」


 ようやく目を覚ましたその女子生徒はまだ眠たそうな瞳でこちらを見る。 まだ焦点が合っていないのか、目がかなり泳いでいる。


「・・・・・・あぁ、あなたが起こしてくれたのですか?」


 まだ寝ぼけているようだ。 言葉がふわふわしていて、どこに話の焦点が合っているのか分からないような喋り方をしていた。


「なんでこんなところで・・・・・・寝てるのさ?」

「あぁ、気にしないで下さい・・・・・・桜を下から見上げていたら、急に眠気が襲ってきて、それで眠ってしまったのですね。」


 なんだろう、説明にはなってるんだけど、理由としては欠落してない? そんなことを思っていたから、すぐに立ち上がり、歩きだそうとしていた。


「ちょ・・・・・・ちょっと待ってよ。 君は一体・・・・・・?」

「私は須今 安見すいま あみ。 この高校の新入生です。」

「な、なら僕と一緒だ。 僕は館 光輝。 どうせ行く先が同じなら一緒に行こうよ。」

「おお・・・・・・それはいいですね。 私一人だと、また眠ってしまいそうですし。」


 自ら同じことをする宣言をするのか。 これ僕が彼女を見つけてなかったら、彼女は入学式に出席できてないってことだよね? そういう意味ではホッとする。


「では行きましょうか。 私のせいで遅れてしまったとなれば私にとっても報われなくなってしまうので。」


 それは自分のせいなのでは? と思ったが深くは考えないようにした。


 そしてそのまま入学式に出るために、桜のトンネルをくぐっていく。


 僕の花の高校生生活は、この出会いがきっかけで、とても充実したものになるとは、まだ予想すらもしていなかった。

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