こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

631、どこに行きたいの？ 斗真side

「奏くん?苦しい?」

胸元を握りしめていた手がすーっと下りて顔を上げた。

何…この感覚…

っ…、包丁を首元に向けた時の奏くんに似ている。
次こそ本当に死んじゃうんじゃ…、

「奏くん、ずっと一緒にいようね。」

いつもより強く抱き締める。

「…………_______________､」

反応がなく、ぼーっとどこかを見つめている。

「奏くん、聞こえてる？奏くん、!」

右肩を叩き声を掛けるが反応がなく、目も合わない。

「奏くん!!奏くんっ!!」

「…っ………､」

ﾑｸｯ、

「ぇ…？どこ行くの？」

おもむろに立ち上がると玄関に向かって歩き出した。

「ちょっと、どこ行くの？」

玄関の鍵を開けようとする奏くんの手を掴み、向き合い目線を合わせるためしゃがむ。

「…………………､」

「奏くん？どこか行きたかったの？どうした？」

「…………………………､」

「ちょっ!!ダメだって、」

俺の手を振り解いてまた鍵に手を掛ける。

「どこ行きたいの？」

外で死のうとしてるの？
悪い方向にばかり思考が行き内心焦りながら冷静を装う。

「奏くん？」

「……………､ﾌｲｯ」

顔を覗き込んだら目を避けられた。
見えてはいることに安心した。

「おいで、リビング行こ。向こうの部屋温かいよ。」

「…………､」

手を引いても動かず、玄関から離れてくれない。
黙ったままこんなに抵抗することが今まで無かったから不安が募り嫌な予感が止まらない。