こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

528、痛くない 響side

さっきから斗真が俺の顔ばかり見てくる。

「なに」

「いや…なんでもない」

奏はまだ寝てる。
いつ起きるか俺にも分からない。
俺はそれまでの繋ぎにすぎない。

「っ！…」

斗真にずっと見られるのが嫌で離れようと床に左手をつくとビリっと電気が走るような痛みを感じた。

肩は前から痛かったけどそれとはまた別の痛み…
前まではなかった痛み…

痛みがした左腕をそっと触る。
硬い…？

袖を捲ると白い布が巻かれていた。

「？」

「腕痛い？」

「…………痛くない」

斗真に聞かれ急いで袖で腕を隠し嘘をついた。
痛いって言ったらもっと痛くされる。
警戒して床を蹴り斗真から少し離れた。

「怖くないよ、大丈夫だよ。昨日手首切っちゃったんだ、だから痛いと思う。」

「痛くない。」

嘘じゃない。我慢できない痛みじゃないから痛くないのと同じ。

「我慢しなくていいよ。痛い時は痛いって言っていいんだよ。」

「痛くない。」

目を見てハッキリと「痛くない」と言った。
完全に斗真を信用したわけじゃない。
心配する振りをしてもっと痛くしてくる客は山ほどいた。
骨折した足も「大丈夫？」って言いながら強く握って来る人がいた。そういう人は皆痛みで歪んだ俺の顔を見て喜ぶんだ。
斗真もそうかもしれない。
裏切られたくないから信じない。心を硬くして何も感じないようにした。