こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

神娘

文字の大きさ
上 下
366 / 725

366、もう大丈夫。 奏side

しおりを挟む
帰ろうとしてたのにエレベーターを出たあたりから上手く息が吸えなくなって苦しくてどうしたらいいか分からなくなってしまった。

今は斗真さんのお家に戻ってきて苦しいのはなくなったけど胸がまだドキドキして煩いまま。

僕のせいでお家に帰れなくなってしまった…
また迷惑かけちゃった…

考えれば考えるほどまた喉に違和感を感じる。
でもまた苦しくなったらまた迷惑をかける。
そう思い大きく息を吸って大きく吐いた。

「苦しい?」

「っ…フルフル、苦しくない。大丈夫。もう大丈夫だから帰れる。」

「無理しなくていいよ。もう少しゆっくりしてから帰ろ。」

……僕のせいだ…斗真さんは僕のために言ってくれてるのにそれを素直に受け入れることができなかった。

「ごめんなさい。僕もう大丈夫だから。帰れるよ。」

これ以上迷惑かけたくない。
体の警告音を無視し、斗真さんの手を引いて玄関に向かう。

「まだ帰らないよ。」

「…どうして…」

斗真さんの目を見たら気持ちを押し殺せない気がして奥歯を噛んで床を見つめる。

「どうしてだと思う?」

「………僕のせい…」

「うーん、奏くんの為ではあるけど『せい』ではないかな。奏くんが悪いわけじゃないよ。」

「…どうして……悪いよ…」

「悪くないよ。どうして悪いと思うの?」

「…だって……僕が…僕が苦しくなったから……我慢できなかった……我慢できない、悪い…」

「悪くないよ。我慢なんてしなくていいよ。苦しくて怖かったんだよね。苦しいってちゃんと教えてくれて俺はすっごく嬉しかったよ。ありがと。」

「…え?」

「我慢せずに俺に助けを求めてくれた。
苦しい。って隠さず教えてくれて嬉しかったんだ。
だから我慢できなかったことは悪くない。我慢しなくていいんだよ。」

「…嬉しい…?」

「嬉しかったよ。ベッドで苦しくなった時も部屋の隅で苦しくなった時も教えてくれなかったでしょ。
奏くんは俺に迷惑かけたくないって思ってるかもしれないけど俺は教えてくれたら俺の事頼ってくれるんだぁって嬉しいって思うよ。」

弱音吐いたのに嬉しい……
我慢できなかったのに怒らない…

でも…

「僕は……」



『お前は商品なんだから感情とか要らねんだよ!お前は金持って来ればそれでいいんだよ!』


「僕は………商品だから……」

「っ!、奏くんは商品なんかじゃないよ。奏くん、こっち向いて。俺の目見て。」

顎を上げられ床を見つめていた目は無理矢理斗真さんの目と合わせられる。
力強い目が怖くて体を引こうとするが肩を掴まれ引けない。

僕の口から出た『商品』の言葉。
今までずっと言われ続けていた言葉。
自分の中では否定していたが仕事をする度商品であることを体が受け入れていく。
商品に感情なんていらない。痛いも苦しいも我慢する。感じてないフリをする。
それが商品の仕事だから。

でも、この言葉のせいで斗真さんを怒らせてしまったみたいだ。



怒らせたくなかった人…なのに怒らせてしまった…
怖い…
でも何故か心は他人事のように穏やかだった。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...