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354、斗真さんのために 奏side

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斗真さんは疲れてる…寝かしてあげなきゃって思うのになんだか落ち着かなくて体を動かしてしまう。

その度に斗真さんの優しい目と目が合う。


……ダメだ…これじゃ斗真さんに迷惑ばっかりかけちゃう…

ムクッ

「トイレ?」

…フルフル

起き上がると腕を掴まれた。

一緒にいるって言ったけど…迷惑かける方が嫌で離れたい…

「……あっち行く…」

「リビング行きたいの?」

リビングに行こうとすると付いてこようとしたから斗真さんをベッドに座らせてドアを閉めた。

驚いた顔をしてたけど無視してリビングに来た。

斗真さんには休んでほしい。
ずっと僕のことしてくれてるから、自分のことをしてほしかった。


リビングに来たけどすることもなくて静かに部屋の隅に脚を抱えて座る。
今度こそ斗真さんを起こさないように、静かにしてないと…


懐かしいな…まだ僕のお家の生活から数日しか経ってないのに今の生活に慣れたせいかもう懐かしく感じる。
僕のお家ではいつもこうやって息を殺して部屋の隅に座っていた。
親の機嫌がいい日はこうやって部屋の隅に座り、機嫌が悪い日はベランダの隅に蹲る。

ずっとこの体勢をとっているとおしりや脚がだんだん痛くなってくるけど殴られる痛みよりはマシだから我慢できる。



…色々思い出すと頭がぐるぐる回る感覚がして気分が悪くなってきた。
上に何かが上がってくる感じがして慌てて口元を手で押さえる。

ゴク…
吐かないよう耐えるけどまた上に上がってくる。



ガチャ

「奏くん?!」

寝室から出てきた斗真さんが慌てて床に蹲る僕の体を起こそうとするけど吐き気が酷くて体を起こせない。

「ここに吐いていいよ。」

袋を口元に当てられるけど吐きたくなくて首を横に振る。

「吐かないと気持ち悪いままだよ。昨日みたいに指入れて吐かせてもいい?」

フルフル
吐きたくない、我慢できる。
必死に息をして落ち着かせる。

「じゃあ深呼吸しようか、」

窓を開けて外の空気を吸う。
風に当たってさっきより吐き気が治まった。

「お水飲もうか、」

ゆっくりと水を飲んだ。

さっきまでの吐き気が嘘みたいにすーっと落ち着いていく。

「落ち着いた?」

コクリ
「ありがとう…」

「どういたしまして、…リビング来て何してたの?」

「…座ってた」

「ここで?」

コクリ
「斗真さん疲れてるから…静かにしてた…」

「静かにかぁ…また息殺してたら気持ち悪くなったの?」

…フルフル
「僕のお家のこと考えてたら気持ち悪くなって……」

「嫌なこと思い出してたんだな…怖かったな。」

フルフル

ギューッと抱きしめられて「怖くない」と否定した。

「怖くないの?」

「怖くない…頭がぐるぐる回って気持ち悪くなっただけ…」

「頭がいっぱいいっぱいになったんだな…」

「いっぱい?」

「多分頭は怖くて思い出したくないよ~って思ってたんじゃないかな。だから、思い出せないように気持ち悪くさせたんじゃないかな?」

「…思い出したくないの?どうして?覚えてるよ?」

「…辛かったからだよ。奏くんが家でされてたこととか、仕事でされたこととか、沢山我慢してきたこととか全部。辛かったから忘れたいんだよ。」

「…忘れたいの…?」

「簡単には忘れられないよ。でもね、忘れたい思い出したくないって思ってることも覚えておいてあげてね。」

「……分かった…」

「うん、ありがと。いっぱい泣いていいからね。」

「ぇ……」

頬に手を当てると涙が沢山溢れていた。

自分の心に鍵をして無視し続けてきた気持ち。
辛いって悲鳴を上げる心に気付かないふりをしてきたのに斗真さんと出会ってから見えない気持ちから見える気持ちに変わってきた。

涙を拭い濡れた手を見ながら自分の気持ちを再認識した。
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