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173、変わらないよ。 斗真side

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さっきから甘い声を出しながら擦り寄ってくる。

不安なのか、心細いのか分からないけどこんなに人を求めるのは珍しい。

機嫌が悪いのかと思ったがそういうわけではなさそうだ。


「斗真さん……」

「ん?どうした?」

「斗真さん…」

「な~に?」

「…斗真さん…」

名前を繰り返され、どうしていいか分からず抱きしめて背中をさする。



「っ……あのね……あのね……」

「うん、」

何かを言い出そうとする度に声が出ずらいのか声が出ず口をパクパク動かす。

「っ…っ…こ…い…」

「こい?」

フルフル

「こ……っ、こわい…」

「怖い?そっか、怖いな、おいで、大丈夫、俺がいるからな。」

「斗真さん…ずっと一緒……変わらないで…」

「?、変わらないよ?どうした?」

「っ…ヒック…っ…変わっちゃうの…こわいの…もう…ヤダよ…怖いの…もうヤダよ…」

「そっか、大丈夫だよ、俺は変わらないよ。ずっと一緒だからね。」

奏くんが不安を言葉にしてくれた。
それがとても嬉しかった。
不安を言葉にすることがそれだけしんどいことか、言葉にすることによってその不安を再認識させられて余計怖くなるんだよな…

奏くんの勇気を無駄にしたくない。
変わるつもりは元々なかったけどより、その意思が強くなった。


「大丈夫、大丈夫だよ。」

「お父さんとお母さん…元は優しかったの………でも…でも……ぼくが…ぼくが…いい子じゃなかったから…」

「奏くんはいい子だよ。奏くんは何も悪くないからね。」


「でも…でも…ぼくが…ぼくが…っ…んっ…ん…」

何年もかけて、しかも幼少期に植え付けられたことは俺の言葉で簡単に覆すことはできない。それでも俺には言葉をかけることしかできない。

「ぼくが…ぼくが…お金持ってこなかったから…僕は…僕は………役立たず…」

「役立たずなんかじゃないよ。それは違う。」

奏くんがさっき透に言っていた「役立たずって言われたくない。」奏くんが親に言われて1番傷ついた言葉なのかもしれない。
その言葉だけでもいいから俺が上書きしてあげたい。

それでも、奏くんの心に響く言葉が思い浮かばず。
「違う」と、否定することしかできなかった。

「僕…今も役立たず…お金…持ってきてない……っこのままじゃ…斗真さんが変わっちゃうの…やだ…ヤダよ……っ…」

「俺は変わらない。大丈夫、大丈夫、」

大きな環境との変化、痛みや苦しさがいないこと、それから仕事がないこと。
本当は良いことのはずなのに奏くんはそれが何より負担で、不安になっている。

それをカバーできるくらいの安心があればなんて考えていたけどそんな簡単なものじゃない。
分かっていたけど、現実を突き付けられた気分だった。

「お仕事………したい…」

したくないはずなのに…


「はぁ、うーん、分かった。おいで、」

奏くんの気持ちを納得させるためにはこの方法しか思い浮かばなかった。
これをすることによって、パニックを起こす可能性だって嫌われる可能性だって十分にある。
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