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93、薬飲もうね。 斗真side

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お腹いっぱいになった奏くんはうとうとしている。

食後の薬、ちゃんと飲めるかな。

「奏くん、朝の薬飲めるかな。」

薬を見た途端さっきまでうとうとしていた目は泳いでいる。

動揺してるのは伝わってくるけど薬は飲んでもらわなきゃね。
今日は口移しじゃなくてちゃんと自分で飲んでもらいたい。

「飲もっか、」

薬を口元に持っていくとぎゅっと唇が閉まる。

口が開くのを待っていると目に涙が溜まってきた。瞬きしたらこぼれ落ちそうなほど、

「昨日の薬と同じだよ。痛いのちょっと治まったでしょ?」

コクリ

頷いてはくれるが口は開かない。
薬って時点で怖いんだろうな。

どうしようかな、うーん、あ、

「これ飲めたら何でもお願い聞いてあげる。」

ご褒美があったら飲むかもしれない。

「何でも?」

「うん、まぁ俺ができることなら。」

「……………………………飲む。」

飲んでくれるんだ。
どんな願い事?

自分で言ったけど怖くなってきた。








飲むと言ってから10分が経った。

心の準備が必要なんだろうな。
まぁ本人が飲む気ならいくらでも待つよ。




ゴックン

「お!飲めたね!偉い偉い!」

頭を撫でて褒める。
結局飲むのに20分かかった。
正直もうちょいかかるかと思った。

「お願い…」

あ、そうだった。

「お願いどうする?」

「お外」

「え?外行きたいの?」

てっきり外は苦手だと思ってた。

「だめ?」

「いいけど、」

「行く。」

「え、今から?」

手を引かれて行った先は縁側だった。
あ、まぁ確かに外だね。

「庭に来たかったの?」

「うん、お外」

「ここは庭だよ。」

「にわ…お外ちがう?」

「うーん、違くないけど、まぁ庭も覚えときな。」

「うん、覚えた。庭。」

「ここで何かしたかったの?」

「鳥さん…いない…」

「あぁ、前は雀がいたもんね。ずっとはいないけど待ってたら来るかな。」

「待つ」

「いいよ。おいで、」

奏くんを膝に乗せて縁側に座る。
まだ8時だから朝日が温かい。

横向きに乗って耳を俺の胸に当てながら庭を見ている。
見てはいるんだけど、瞼は閉じようとしている。

鳥が来るのが早いか奏くんが寝ちゃうのが早いかどっちかな~

「まだ…」

「うん、まだ来ないね。」

さすがに暇なのだろうちょっとぐずりだした。
こんな奏くん初めてだな~
ふにゅふにゅしながら俺の胸に顔を擦りつける。
背中を撫でると少し落ち着く。
ちょっと子どもらしくなってきたな。

人に甘えられるようになったんだな、
今まで甘えられなかった分存分に甘えていいんだよ。



にゃー

「「あっ」」

2人声を揃えて鳴き声の方を向く。

「猫だね。」

「ねこちゃんっ」

奏くんは俺の上から飛び降りて猫の元に行く。
猫は逃げずにじっとしている。

「斗真さん、」

「ん?どうした?」

「触ってもいい?」

わざわざ俺に聞いてくる。そんなところに可愛いと感じる。

「いいよ。優しくね。」

「うん、」

そーっと背中を撫でるとゴロゴロ喉を鳴らして奏くんの足元に擦り寄る。

「わ…ねこちゃん…かわいい」

咄嗟にスマホを取り出し写真を撮る。
奏くんいい顔してるな。

真顔だけど喜んでる顔をしている。
奏くんと猫がじゃれ合っている姿を何枚か写真におさめた。
可愛いな。

「凄い懐いてるね。首輪もしてるし誰かの子かな。」

俺の元にもやってきて撫でてと擦り寄ってくる。

「ねこちゃん、お家ある?」

「首輪してるからあると思うよ。」

「お家…良いとこ?」

「この子は痩せてないしちゃんとご飯は貰えてるみたいだから良いとこだと思いよ。」

奏くんにとって家は怖いところなんだろうな。
うちに来て少しは安心できる場所になったかなって思ってたけどまだまだみたいだ。

「ねこちゃん、ごはんちゃんと食べてる?」

にゃー

奏くんの言葉に返事するように鳴いてもらって奏くんは満足そうに猫を撫でてている。


鳥を見に庭に来たけどこんなに懐いてて猫に触れて奏くんも満足してるみたいで良かった。
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