こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

92、奏くんの料理 斗真side

「朝ごはんどうする？一緒のにする？」

「斗真さんと一緒」

「りょーかい、パンとご飯どっちがいい？」

「斗真さんはどっち？」

「うーん、ご飯にしようかな。」

「じゃあご飯」

今日は簡単におにぎりと卵焼きとお味噌汁にしようかな。

「お手伝い…」

「うーん、じゃあこれ持って行ってくれる？」

箸とコップを渡す。

ｺｸﾘ

「できた。」

「ありがとう。」

俺を見て次の指示をじっと待っている。

「卵割れる？」

「できる。」

「じゃあここに卵2つ割って混ぜて」

ｺｸﾘ

台に乗って真剣に卵を割る。

一生懸命だな～見てるだけで自然と頬が緩む。

その間におにぎり作るか、




「できた。」

「ありがとう、卵上手に割れたね。」

「上手…ありがとう。」

肩の力が抜け表情も少し柔らかくなった。緊張してたのかな。

「次は…」

「じゃあおにぎり持って行って、1つずつでいいよ。」
2皿を両手で持とうとするからひと皿預かった。
っというか、普通に動かしてるけど左肩痛くないのかな？

俺は卵焼き作るか、

「卵、何作るの？」

「卵焼きだよ。」

「僕…僕作る。」

まさか作りたいと言うと思ってなくて反応できなかった。
でもこの目は真剣に言ってるんだろうな。
まぁ、怪我しなかったらいいか。

「良いよ。味付けどうする？」

「…味付け…僕のでもいいの？」

「良いよ。何使う？」

「醤油と味の素」

「これでいい？」

「うん、」

「火傷しないようにね。」

「大丈夫。」

手馴れた手つきで綺麗に焼いていく。
上手っ！
初めは怪我しないか見守るつもりだったけど気づけば見入っていた。

「できた。」

皿の上には綺麗な黄色い卵焼き。

「凄い上手！凄いな！」

「ほんとに？」

「本当に！めちゃくちゃ上手いな！俺より上手じゃん」

「あ…ありがとう」

あ、照れてる。


「あとは味噌汁だな～レトルトのでもいい？」

「うん」

「どれにする？」

レトルトの味噌汁が入った入れ物を見せる。

「斗真さんは？」

言うと思った。
自分で選ばせたいとも思うけどそれはもうちょっと先なのかな。
多分俺と一緒なら薬とか入ってなくて安全な食べ物って認識なんだろうな。

「わかめにしようかな。」

「僕も、」

「どうぞ、」

マグカップにお湯を入れて机に持っていく。

「僕も持つ」

「これは熱いからいいよ。俺のこれも持って行ってくれる？」

ｺｸﾘ

味噌汁の袋を持って行ってもらった。



「いただきます。」

「いただきます。」
奏くんもちゃんと言えた。
2人だったら声出るんだよな～
他の人がいたら緊張するのかな…



卵焼きを食べようとした途端奏くんがじっと見つめてくる。
そんなに見られると食べづらいな、

「ん！美味しい！上手に焼けてる。味付けも丁度いい！美味しいよ！」

「よかった…」

あれ？今ちょっと笑った？
ちょっと口角が上がったような気がした。

奏くんも卵焼きを小さく切って口に入れる。

「どう？自分で作った卵焼きは」

「おいしい…」

「ね、美味しいね。めちゃくちゃ上手」

「うん、初めて食べた。おいしい、」

そっか、初めてか…

「どうやって料理覚えたの？」

俺は何度も作って食べてを繰り返して料理ができるようになった。

でも、味を知らなかったってことは味見もしてなかったってことだろ？

「見て覚えた」

「見るだけ？！」

「うん、お母さんが作ってくれるのを見て覚えて次からは僕が作れるようにするの。ご飯作るのは僕のお仕事だから。」

「お仕事か…失敗したりしなかったの？」

仕事って言ったら何でも言う事聞くって思われてたんだろうな。

「失敗した、失敗したらご飯ない」

失敗したらご飯抜きか、このご飯ってのも野菜の皮かとかの生ゴミのことなんだろうな。

はぁ、なんかため息しかでねぇな。
もし奏くんの親が生きてたら多分ブチ切れてるんだろうな。

「でもね、上手できた日はね美味しいって言ってくれるの。」

「そっか、美味しいって言ってくれたら嬉しいね。」

「うん、嬉しいの。」

美味しいか、確かに嬉しい言葉だよな。
でもそれじゃ割に合わないだろって思うけど辛い環境で育ってきた奏くんはそれだけで心が満たされるんだよな。

「そっか、さ、冷めないうちに食べよっか、」

「うん」


美味しい美味しいと食べる奏くんを見ながら俺も食べる。