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59、頭がぼーって 奏side

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ガラッ

「お待たせ、今日は頼むな。奏くん、担当をしてくれる先生だよ。」

さっきの部屋とは違ってぬいぐるみがいっぱいあって、壁にも可愛い絵がいっぱい描かれている。

目の前の人はにっこりと笑って僕の前にしゃがんだ。
なんだか怖くて1歩後ろに下がってくまさんを握る力が強くなる。

「こんにちは、僕の名前は佐藤 優咲さとう ゆうさくです。優咲でも優くんでも好きに呼んでいいからね。
これからよろしくね。」

よろしくって言って手が向かって来た。
思わず殴られると思って頭の前でくまさんを両手で持ちしゃがんだ。

目を瞑って体を力ませるけど、いくら待っても痛みが来なくてゆっくりとその人を見ると眉を下げて微笑んでいて、手は目の前にあった。


殴らないの?

「大丈夫だよ。握手しようと思ったんだけど怖がらせちゃったね。ごめんね。」

握手…

手を握ったらいいのかな。

そっと目の前の手に触れてみた。
ぎゅっと握られるのが怖くて手を引こうとしたけど、その手は優しく僕の手を包み込んだ。

「大丈夫だよ。痛くないからね。」

しばらくの間僕の手を撫でてくれて気付いたら肩の力が抜けていた。

「奏くん、ベッドとクッションどっちがいい?」

そこには毛布があるベッドと大きなクッションがあった。

ベッドはあまり好きじゃない。けど、毛布があると少し安心できるかもしれない。そう思いベッドを指さした。

「分かった。じゃあベッドに座ろうか。」

ベッドに座ると優咲さんも横に座った。
近いのが怖くて少し横にズレて距離をとる。

「大丈夫だよ。怖いことしないからね。ちょっとだけ触ってもいいかな?」

やだ…
こわい…


黙って俯いてしまう。



あ、診察………ちゃんと言うこと聞かなきゃ…頑張んなきゃ…
診察に来たことを思い出して静かに頷いた。

「ありがとう。痛いことはしないからね。大丈夫だよ。」

近づいてきて腕や首、耳など至る所を触ってきた。
痛くない…痛くないけど触られることが怖くて力が入ってしまう。

「大丈夫だよ、1回深呼吸しようか。
吸ってー、吐いてー、そう上手だよ。もう1回するよ。吸ってー、吐いてー、上手上手。大丈夫だからね。
ちょっとお胸の音聞かせてね。ちょっと冷たいよ~」

服の中に手を入れられてひんやりとしたものを当てられる。
何してるの?

「大丈夫、大丈夫。すぐ終わるからね~」

怖くてどんどん逃げ腰にってしまうけど、我慢しなきゃいけないからシーツを握って我慢する。
それでも不安がどんどん積もっていき浅い呼吸を繰り返す。

「ありがと~、頑張ったね。斗真さんにぎゅーしてもらおっか。」

「奏くん、おいでー」

ベッド横の椅子に座っていた斗真さんが両手を広げてくれた途端思考よりも早く体が動いていた。
斗真さんの首に腕をまわしてぎゅーってする。
不安で押し潰されそうで心が壊れそうになっていた。

「頑張ったよ。よしよし、大丈夫、大丈夫」

斗真さんは背中を撫でて包み込んでくれた。
少しずつ腕の力が抜けていき、斗真さんの顔を見れるようになった。

「奏くん、もうちょっと頑張れるかな?」

……コクリ

「ありがとう。怪我してるとこ見してほしいんだけど、いいかな?」

怪我…

見てどうするの……

痛い増やす?

「斗真さんに抱っこしてもらいながらだったら怖くないかな?」

斗真さんの顔を見上げる。

「大丈夫、怖くないよ。」

斗真さんの上でだったら…大丈夫かな…?

斗真さんは痛いことしない…

けど、優咲さんは……分からない…
会ったばかりの人が怖い…

「上の服脱げるかな?」

斗真さんのパーカーをぎゅっと握りしめて頷く。

「ありがとう。斗真さんに服脱ぐの手伝ってもらおうね。」

服を脱いで斗真さんの胸に顔を押し付ける。
何をされるか分からないことが怖い。

「大丈夫だよ。怖くないからね~、ちょっと触らせてね。」

体に優咲さんの手が当たるたびに体に力が入る。

「ここ痛いね。」

赤黒く腫れた肩を触られ頭が真っ白になる。
痛くない……痛くない……

「ここも痛いね。よく我慢したね。でももう大丈夫だからね。」

お腹や背中の赤黒くなったところを触って痛いねって言ってくる…
痛くない……
痛くないの………

やだ……

やだ………


痛い増やされる…

目の前が真っ黒になっていき体に触ろうとする手だけが鮮明に見える。

怖い…やだ……
来ないで!
触らないで!

目を瞑って耐えるけど、恐怖でおかしくなりそう。

「ありがとう。この服着れるかな?」


終わった…?

水色の服を着せてもらった。
体が隠れて少し気持ちが落ち着いた。


「ズボンもこれに着替えれるかな?」


…コクリ

斗真さんに手伝ってもらってズボンも履き替えた。


「レントゲン撮って今日は終わろうね。
すぐ終わるから頑張れるかな?」

………


コクリ



なんかまたぼーっとしてる…

頭がぐるぐるしてふわふわしてる…



「こっちのお部屋行けるかな~」

優咲さんに手を引かれて違う部屋に連れて来られた。

「ここでゴロンできるかな~」

何も考えれなくて抵抗することもできない。

「すぐ終わるからじっとしててね~」

体に力が入らなくてそのままぼーっと天井を見上げる。






「終わったよ~頑張ったね。偉かったよ。」

ぐったりして動けない僕の体を起こして斗真さんがいる部屋に戻った。

「おかえり。頑張ったね。おいでー」

斗真さんの胸に倒れ込むとぎゅっと優しく抱きしめてくれた。
斗真さんの匂いや体温を感じたらいつも落ち着くのに頭がぼーっとして安心すらも感じることを放棄したみたい。

斗真さんの服を握りしめたいのに思うように動かない体は服を撫でることしかできない。

「大丈夫、ここにいるよ。」

服を撫でる僕の手をギュッと握ってくれた。
斗真さんの手……

さっきからずっと抱きついていたのにやっと斗真さんの体温を感じることができた…

斗真さんをちゃんと感じたくて胸に顔を擦り付けて大きく息をする。

斗真さんの匂い、離したくない。

ギュッと服を握って胸に顔を擦り付ける。
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