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27、感情を知る 奏side
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透さんの家を出て斗真さんの車に乗る。
時計を見ると15:00だった。
「大丈夫?この服着る?」
コクリ
窓の外が怖くて斗真さんのパーカーを着て視界を狭くする。
車に揺られ、時間が経つのを待つ。
____________
頭がぼーっとしてじんわりと汗を感じる。
「奏くん?大丈夫?」
声の方を向くと斗真さんが心配そうにこちらを見ていた。
小さく頷くが斗真さんは僕のおでこに触れ汗を拭う。
手に付いた汗がキラキラと光る。
「水分補給しようか、」
ペットボトルを口元に差し出されるが、口を開くことはできない。
「ごめんね、」
その言葉と共に斗真さんは水を口に含み僕の顎に手を当てて、口付けをした。
その行動に驚き唇の力が緩んだ隙に水が少しずつ中に入ってきた。
押し返そうとするが舌でこじ開けられ、口を離そうとするが後頭部を抑えられそれも叶わずゴクリと水が喉を通る。
「ごめんね、怖かったよね。」
驚きはしたが不思議と怖くはなかった。
何度も謝られ、背中をさすられながらどうして怖くないのかが不思議でたまらなかった。
恐怖どころか不快感すらなかった。
「大丈夫?」
コクリ
「良かった。汗びっしょりかいてたから脱水になっちゃうと思って、無理やりしてごめんね。」
斗真さんは僕のことを心配してしてくれたんだ。
今まで心配なんてされたことのない僕はどうしたらいいか分からなくて俯いてしまった。
「もうすぐ家着くからね、眠たかったら寝てもいいよ。」
そう言って座席を倒してくれる。
けど、お腹を他人に向けることが怖い僕は寝転ぶことができず。座ったままじっとしていた。
「寝転がるのは難しいか、まぁいっか、すぐ着くからね。」
斗真さんは座席を元に戻し車を運転する。
____________
「着いたよ。歩ける?」
斗真さんがドアを開けてくれて体を支えてくれた。
少しフラフラしたが支えてくれるお陰で転けずに済んだ。
「ただいま、」
「おかえり、奏くん布団用意してるから休んでていいよ。」
出迎えてくれた美香さんに手を引かれ布団が敷かれた部屋に向かう。
横になるよう言われたが従えず布団の上に体操座りをして俯く。
「汗かいてるから着替えようか、」
斗真さんがTシャツとタオルを持ってきてくれた。
そういえば買い物に行こうとしてたんだ…
なのに…怖くなって行けなくて…
迷惑かけて…
また服借りて迷惑かけて…
何してるんだろう…僕…
「噛まないよ~」
悔しさや情けなさでグチャグチャになった気持ちを抑えたくて歯を立てた唇に指を当てられる。
唇に触れた斗真さんの指には赤い血が薄く付いた。
「あー、血出ちゃった、どうした?しんどいのか?」
背中をさすられ抑えたかった感情がどんどん出てしまいそうでまた唇を強く噛む。
「分かった、分かった。
ちょっと気分転換してくる。
体冷えちゃうから上の服だけ着替えようね。」
抱きかかえたまま服を着替えさせられ、そのまま部屋を出た。
「分かった。ちょっと待って、これだけ」
美香さんは僕のおでこに冷たいものを貼り、斗真さんに白く濁った液体が入ったペットボトルを渡した。
「ありがとう。」
____________
しばらく斗真さんの家の縁側で風にあたっていた。
体は重いままだけど、髪を優しく揺らす風が心地良い。
気が付けば体の力も抜け、唇の血も止まっていた。
「今日はいっぱい頑張ったな。」
頑張った?
今日のことを思い返してみたけど、頑張った覚えはなくて首を傾げる。
「車にも乗ったし、病院にも透の家にも行けたし、透とお話もできた。
それにご飯もちゃんと食べれた。
沢山頑張ったね。偉いね。」
でも…目的の買い物はできなかった…
「買い物はまた今度行こうね。それまでは俺の服で我慢してね。」
斗真さんに頭をわしゃわしゃされ涙が次々と零れ落ちた。
「俺さ、今日すっごい嬉しいことがあったんだ。」
嬉しいこと?
透さんと何か良いことあったのかな?
涙で赤くなった目を斗真さんに向ける。
すると僕の方をじっと見つめて、
「奏くんが『美味しい』って言ってくれた事。すっごい嬉しかったんだ。声を聞かせてくれたのも嬉しかったんだけど、『美味しい』って言ってくれたのが1番嬉しかった。ありがとね。」
ギューッと抱きしめられ、斗真さんが喜んでくれていることが僕は何より嬉しかった。
嬉しい…こんな感情いつぶりだろう。
斗真さんといると色んな気持ちを知るな…
さっきみたいな悔しさや情けなさは心がギューってなるけど、
嬉しさは心がパーって広がって温かい感じがした。
涙も止まり、体中が重たくて支えきれず斗真さんに体を預け瞼も上がらなくなった。
時計を見ると15:00だった。
「大丈夫?この服着る?」
コクリ
窓の外が怖くて斗真さんのパーカーを着て視界を狭くする。
車に揺られ、時間が経つのを待つ。
____________
頭がぼーっとしてじんわりと汗を感じる。
「奏くん?大丈夫?」
声の方を向くと斗真さんが心配そうにこちらを見ていた。
小さく頷くが斗真さんは僕のおでこに触れ汗を拭う。
手に付いた汗がキラキラと光る。
「水分補給しようか、」
ペットボトルを口元に差し出されるが、口を開くことはできない。
「ごめんね、」
その言葉と共に斗真さんは水を口に含み僕の顎に手を当てて、口付けをした。
その行動に驚き唇の力が緩んだ隙に水が少しずつ中に入ってきた。
押し返そうとするが舌でこじ開けられ、口を離そうとするが後頭部を抑えられそれも叶わずゴクリと水が喉を通る。
「ごめんね、怖かったよね。」
驚きはしたが不思議と怖くはなかった。
何度も謝られ、背中をさすられながらどうして怖くないのかが不思議でたまらなかった。
恐怖どころか不快感すらなかった。
「大丈夫?」
コクリ
「良かった。汗びっしょりかいてたから脱水になっちゃうと思って、無理やりしてごめんね。」
斗真さんは僕のことを心配してしてくれたんだ。
今まで心配なんてされたことのない僕はどうしたらいいか分からなくて俯いてしまった。
「もうすぐ家着くからね、眠たかったら寝てもいいよ。」
そう言って座席を倒してくれる。
けど、お腹を他人に向けることが怖い僕は寝転ぶことができず。座ったままじっとしていた。
「寝転がるのは難しいか、まぁいっか、すぐ着くからね。」
斗真さんは座席を元に戻し車を運転する。
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「着いたよ。歩ける?」
斗真さんがドアを開けてくれて体を支えてくれた。
少しフラフラしたが支えてくれるお陰で転けずに済んだ。
「ただいま、」
「おかえり、奏くん布団用意してるから休んでていいよ。」
出迎えてくれた美香さんに手を引かれ布団が敷かれた部屋に向かう。
横になるよう言われたが従えず布団の上に体操座りをして俯く。
「汗かいてるから着替えようか、」
斗真さんがTシャツとタオルを持ってきてくれた。
そういえば買い物に行こうとしてたんだ…
なのに…怖くなって行けなくて…
迷惑かけて…
また服借りて迷惑かけて…
何してるんだろう…僕…
「噛まないよ~」
悔しさや情けなさでグチャグチャになった気持ちを抑えたくて歯を立てた唇に指を当てられる。
唇に触れた斗真さんの指には赤い血が薄く付いた。
「あー、血出ちゃった、どうした?しんどいのか?」
背中をさすられ抑えたかった感情がどんどん出てしまいそうでまた唇を強く噛む。
「分かった、分かった。
ちょっと気分転換してくる。
体冷えちゃうから上の服だけ着替えようね。」
抱きかかえたまま服を着替えさせられ、そのまま部屋を出た。
「分かった。ちょっと待って、これだけ」
美香さんは僕のおでこに冷たいものを貼り、斗真さんに白く濁った液体が入ったペットボトルを渡した。
「ありがとう。」
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しばらく斗真さんの家の縁側で風にあたっていた。
体は重いままだけど、髪を優しく揺らす風が心地良い。
気が付けば体の力も抜け、唇の血も止まっていた。
「今日はいっぱい頑張ったな。」
頑張った?
今日のことを思い返してみたけど、頑張った覚えはなくて首を傾げる。
「車にも乗ったし、病院にも透の家にも行けたし、透とお話もできた。
それにご飯もちゃんと食べれた。
沢山頑張ったね。偉いね。」
でも…目的の買い物はできなかった…
「買い物はまた今度行こうね。それまでは俺の服で我慢してね。」
斗真さんに頭をわしゃわしゃされ涙が次々と零れ落ちた。
「俺さ、今日すっごい嬉しいことがあったんだ。」
嬉しいこと?
透さんと何か良いことあったのかな?
涙で赤くなった目を斗真さんに向ける。
すると僕の方をじっと見つめて、
「奏くんが『美味しい』って言ってくれた事。すっごい嬉しかったんだ。声を聞かせてくれたのも嬉しかったんだけど、『美味しい』って言ってくれたのが1番嬉しかった。ありがとね。」
ギューッと抱きしめられ、斗真さんが喜んでくれていることが僕は何より嬉しかった。
嬉しい…こんな感情いつぶりだろう。
斗真さんといると色んな気持ちを知るな…
さっきみたいな悔しさや情けなさは心がギューってなるけど、
嬉しさは心がパーって広がって温かい感じがした。
涙も止まり、体中が重たくて支えきれず斗真さんに体を預け瞼も上がらなくなった。
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