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22、わからないこと 奏said

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斗真さんに抱きしめられた途端自分が期待していることを再確認して心がギューって締め付けられる感じがして、
期待しちゃダメって分かってるのに…
もしかしたらって…期待して、
それが苦しくて気づいたら目からまた涙が溢れて止まらなくなった。

斗真さんに泣いていることがバレたら嫌われてしまうかもしれない、そう思うと俯いた顔を上げることができなくなった。




今は、透さんのベッドに座っている。

「…っ、…ぅ…」

タオルを借りて目を押さえるが次々と涙が出てくる。
「声、抑えなくていいよ。いっぱい泣いたら楽になるからね、」


透さんに背中をさすられ涙が止まるのを待った。





「止まったかな?ちょっと気持ち楽になった?」

…コクリ



「斗真といるの辛い?」

辛い違う、
首を横に振って伝える。

辛いんじゃない…
僕が勝手に期待してるから悪いの…

「斗真に捨てられるって言ってたよね。
捨てられたくないって思うから辛いの?」


…コクリ

「そっか、捨てられるの怖いよね、」

捨てられる…それはもう決まっていること。
変に期待しても結局辛いのは自分、
それならいっそ…

あれ、僕…今何考えたんだろう。

「俺は、斗真は奏くんのこと捨てたりしないと思う。」

そんなことない…
だって、僕のことを置いておいたって何もいいことなんてない、

「んっ…」

「こらこら、唇噛みすぎ、ほら血出ちゃってるよ」

この気持ちを吐き出す方法を知らない僕は痛みで心を落ち着かせするしかできない。

「はぁ、どうしたらいいかなぁ」

「んっんー、うっんー」

「ちょっ!やめな」

腕に爪を立てたり、膝を殴ったりしていると両手を握られ痛みを感じるすべがなくなり不安で離してほしくて手を力いっぱい振り回して足で透さんの腹部を蹴った。

「痛っ、ハイハイ、そんなことしても手離さないよ。観念しなさ~い」


精一杯の力で抵抗しているのに全く効果がない。
もうどうしたらいいか分からない。
心がザワザワしているのに胸がギューって締め付けられているような感じがして、心がパンクしてしまいそうだ。
目からはまた涙が溢れ出し唸り声をあげるしかできなかった。
次第に上手く呼吸もできなくなり両手で胸元の服をギューッと握る。
浅い呼吸を繰り返し床にうずくまる。
いっそのこと呼吸をしなかったら…楽になれるのに…


もう…辛いよ…

「奏くん、聞こえるかな?一緒にゆっくり呼吸しようか、吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー、そうそう、上手だよー、」

少しずつ呼吸を落ち着かせた。



落ち着いた頃には、体が重たくて透さんに寄りかかった状態のままぼーっとしていた。


その場にあった紙におもむろに文字を書く。

何だか心が静かで今ならなんでも吐き出せる気がした。

「ん?どうしたの?」

〈わからない〉

「そっか、分からないか、例えば?」

〈いつすてるのか  だれがきょうのおきゃくさんか  どうしていたいことしてくれないのか〉
:いつ捨てるのか、誰が今日のお客さんか、どうして痛いことしてくれないのか、

〈ぼくちゃんとがまんできる  やくにたてるのに〉
:僕ちゃんと我慢できる、役に立てるのに


「そっか、分からないこといっぱいあるよね。1個ずつ答えていこうか。」

コクリ

「まず、いつ捨てるか答えは捨てない。が正しい、斗真は奏くんのことを捨てない。もちろん斗真の家族も、俺から言っても説得力ないからこれはまた後に置いておこう。」

捨てない…信じたいのに簡単に信じられない…

「2つ目、誰が今日のお客さんか、お客さんはいない。」

〈とおるさんはおきゃくさんちがう?〉
:透さんはお客さん違う?

「違います。俺は年上がタイプだからってそうじゃなくて、亡くなった両親といた時に売りをやっていたのは聞いた。けどそれももうやらなくていいんだ。」

じゃあ僕の存在価値は…ない…

「売りをしなくていいって言うのは、その…まず、どうして売りをしていたか知ってるか?」

〈おかねがいるから〉
:お金がいるから

「そう、で、お金を欲しがっていたのは奏くんの両親だろ?んで、その両親はもう居ない。だからお金も要らない。だから売りをしなくていい。分かる?」

……

「はぁ、お前の存在価値は金以外にも山ほどあるよ。
もっと自分を大事にしてやりな。稼げないから要らないとか捨てるとかそんな事は絶対にない。俺が保証する。大丈夫だ。」

俯く僕を力いっぱい抱きしめ温かい言葉をくれた。
僕の存在価値…今までお金を貰うためにいっぱい頑張っていっぱい我慢してきたからそれ以外僕にできることって何だろう。
捨てたくないって思える何かが僕にあるとは考えられない。

「次、えーっと、どうして痛いことをしてくれないのか、痛いことされたいの?」

〈わからない  でも  いたいのないとわすれられてるみたいでみてもらえていないみたいで〉
:分からない、でも痛いのないと忘れられてるみたいで、見てもらえていないみたいで


〈こわい〉
:怖い

「そっか、それで自分の存在を確認するためリストカットね…あ、リストカットってのはこうやって手首を切ることを言うんだ。んでリストカットとかさっきみたいに唇を噛んだり、体を殴ったりして体を傷付けることを自傷行為っつても難しいか、
ま、自分を傷付けるのは辞めろって言ってすぐに辞めれるものじゃない。だから無理に辞めろとは言わない。
けど、奏くんの大事な体なんだから大事にしてくれると嬉しいな。」

大事な体…

「そういえば、また後日レントゲン撮ってみないと分からないけど、この腫れてるとこ相当痛いんじゃないのか?斗真には言ったのか?」

斗真さんにも聞かれた…でも言いたくない…
痛いのないのも不安だけど…でも…でも…
俯いて触られる痛みに耐える。

「そっか、やっぱり痛いよな…折れてないと良いけど、ヒビは入ってそうだよな…早いうち治療しないとな」

〈いたくない〉
:痛くない

「は?何いってんの痛くないわけなっ」

否定され紙を目の前に出す。

「どうして痛くないって言うんだ、俺は医者だ。痛いことくらい見たら分かる。」

……言いたくない…だって…

〈いたいいったら   いたいふやす〉
:痛い言ったら痛い増やす

「どういうこと?」

〈かあさんにいたいいった  いたいもっとしたら  はじめのいたいきえる〉
:お母さんに痛い言ったら痛いもっとしたら初めの痛い消える

「…それで…どうやって痛い増やしたの?」

〈いたいところのほねおった〉
:痛いところの骨折った

〈いたいふやす  こわい  こわいいや〉
:痛い増やす、怖い、怖い嫌

書く手は震え涙がぽつりと紙を濡らした。
今でも鮮明に覚えている。ただ痛みに耐え脚の骨が折られるのを黙って見てることしかできなかった。
折れた痛みに悲鳴のような泣き声を抑えることができず怒られたがそれでも叫び続けるしかできなかった。

僕の体が大事だと言うのであれば、痛みを隠すことが僕にとって体を大事にする方法。

〈からだだいじ  だからいたくない〉
:体大事、だから痛くない

「そっか…分かった。痛くないな、ちょっと待っててなすぐ戻る。」

透さんは部屋を出て行った。
痛くない…本当に分かってくれたのかな?
でも医者だから痛いの分かるって言ってた…

また痛いのかな…肩の痛みは日に日に強くなっている…ここがもっと痛くなるって思うと怖くて胸が押し潰されそうになる…


ガチャ
透さんが入ってくるのが怖くて机の下に身を隠した。
隠れたのなんて何年ぶりだろう、今まで痛みや苦しさから逃げたりなんてしなかったのに…

「あれ?奏くん?そんなとこで隠れてないでおいで~
って、どうして急に怯えだしたの?俺が痛いことすると思ったのかな?まぁ、机の下でもいいけど腫れてるとこにこれ当てときな変わるか分かんないけど、」

何これ…冷たい

「氷嚢っていって、痛いっいや、あー、腫れてるとこ冷やす物だよ。」

当てるだけなら痛くないかぁ、良かった。


「で、ずっと机の下いるの?まぁいいけど頭がぶつけないように気を付けなよ、次何だっけ、あー、さっきの答えまだ言ってなかったな。どうして痛いことをしないのかだったな。それは、痛いことをされたくないから。
聞いたことあるか分かんないけど、自分がされて嫌なことは人にするなって教えがあるんだ。
俺も斗真も斗真の家族も痛いことや苦しいことをされたくないから、奏くんにもしない。
奏くんは痛いことや苦しいことをされて嬉しいか?」

〈うれしくない〉
:嬉しくない

「そ、自分がされて嬉しくないことは人にしない。分かった?」

〈ごめんなさい〉

「え?」

〈さっきおなかけった  いたいことしたごめんなさい〉
:さっきお腹蹴った痛いことしたごめんなさい

「あー、そうだな笑、いいよ。そうやってちゃんと謝れて偉いな。」

「じゃあ次な、我慢できる役に立てるか、程よい我慢は良いが我慢のし過ぎは良くないよ。我慢しすぎたらさっきみたいにパンクして上手に息ができなくなったり、心が壊れてしまう。奏くんが我慢できることは知ってるよ。
最後は役に立つね…例えばどんな事かな?」


〈すとれすはっさんのどうぐになれる  せいしょりもできる  かじもできる〉
:ストレス発散の道具になれる、性処理もできる、家事もできる。


「…そっか、家事できるのはいいな、斗真も助かるだろうな~
ストレス発散と性処理は奏くんの体を使うの?」

コクリ

〈なぐったりけったり、せいしょりはくちでもおしりでもどっちでもできる〉
:殴ったり蹴ったり、性処理は口でもお尻でもどっちでもできる

これが僕の特技、人に認められることと、思っていたのにこれを聞いた透さんは頭を抱え難しい顔をしている。
どうしてそんな顔するの?

「殴ったり蹴ったりするのは、さっきも言った通り自分がされて嫌なことは人にしない。な?」

あ、そっか…じゃあストレス発散させれない…

「性処理は奏くんがしなくていい。
一つ引っかかったんだけど、奏くん、奏くんは物や道具じゃないんだよ。奏くんは奏くん、大切な一人の人間なんだよ。人のために生きなくていい。自分のために生きていいんだよ。」

自分のため…自分の価値も無いのに自分のために生きるなんて…
分かんない…


「奏くんの価値はまだまだ沢山あるよ。これからいっぱい見つけていこうね。大丈夫、大丈夫、」

今日は沢山涙が溢れてくる。
止まることのなくただ1粒1粒静かに頬を伝っていく。



「いっぱいお話したら疲れたね。辛いのに色々教えてくれてありがとね。落ち着いたら斗真ともちょっとお話したいと思ってるんだけど、もうちょっと頑張れる?」

コクリ

「ありがとう、落ち着くまでこのままギュッてしとこうね~」

コクリ


僕の心が落ち着くまで透さんの胸に耳を当てて、鼓動に耳を傾けた。
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