こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

神娘

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14、初対面 透side

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昨日は夜中まで仕事で斗真の電話に出られなかった。
朝方、仮眠室で仮眠をとってから家に帰ろうと思っていた。


帰る前に斗真に電話をすると、助けてほしいと言う。
斗真は普段そんなことを言う奴じゃない。
嫌な予感がして後輩を連れ急いで目的地まで向かった。

何があったんだ…昨日の電話に出れていれば…
後悔が湧き上がる。



車を見つけた。

「行ってくる。」
後輩に告げ、斗真の元に行く。

コンコン、
静かにドアを開ける斗真は今にも泣き出しそうな顔をしている。

「大丈夫か?何があった。」

斗真は頭を整理しながら俺に経緯を話してくれた。
状況は理解できたが、詳しいことはちゃんと診察しないとなんとも言えないな…
奏くんは斗真の腕の中で虚ろな目をしている。


「はぁ…そういうことな。お前のことじゃないのかよ。
まぁお前じゃないから良いって訳じゃねぇえけど、それなら電話でそう言えよ。」

「ごめん、     助けてくれ。」

「分かってるよ。とりあえずお前はその子といてやれ、」

ドアを閉め、自分の車に向かい。
後輩に簡単に説明して先に病院に戻って色々用意してもらうことにした。

斗真から鍵を受け取り病院に向かって運転する。
「俺が運転するから車の鍵貸して、」

車内で色々質問をした。

奏くんが話せないことは分かった。
その原因はまだ分からないが、
病院行ったらまず何をしよう。頭の中で段取りをする。





「着いたぞ。」


病院に着き、俺の診察室に案内する。

「ベッドに横にさせて、」

「分かった。」


斗真から離れても反応がない。
無表情でどこかを見つめている。

「奏くん、はじめまして、小林 透です。斗真の友達だよ。よろしくね。
嫌だろうけど体、ちょっと見せてね。」

反応はないが、話しかけながら触診を始める。

服の下を見た途端手が止まった。
全身痣で埋め尽くされている。


「この包帯は?」

「昨夜、奏くんがした自傷行為で、」

「1回外すぞ。」

「うん、」


日常的に繰り返している訳ではなさそうだが、1回1回が深い。これを繰り返したら命が危ないな…




一通り見て分かったことは、明らかな虐待の疑い。
まぁ両親はもう亡くなってるみたいだしこれからは斗真の家にいるなら問題ないか、
あとは栄養失調と貧血、睡眠不足。
見た目で分かるのはこのくらいかな、
ところどころ赤く腫れているから後でレントゲンは撮った方がいいな。


点滴をして数時間寝てもらおう。




「どうだった?」

「え?」
斗真が隣にいることを忘れ奏くんの体に釘付けになっていた。

「ああ、栄養失調と貧血、睡眠不足みたいだから、とりあえず今から点滴して数時間眠ってもらう。
あとは落ち着いたらレントゲンとか色々診察は必要かな。
心の問題はゆっくり時間かけてやるしかない。
多分今は生きてるけど生きてないって状態だろうな。」


「どういうこと?」

「奏くんはここにいるけど、心はまだ両親の元にあるって事。」

「どうしたらここに戻ってきてくれる。
…俺があの時引き返してたら…奏くんが怖がってること気づいてたのに…ごめん、ごめん、」

「斗真、お前が悪いわけじゃ、」

「俺、俺……はぁ、はぁ…俺が……はぁ、はぁはぁはぁ」

「落ち着け、大丈夫。大丈夫だ。」

大丈夫だなんて根拠の無い言葉は嫌いだったが、
自分を責め崩れ落ちる斗真に掛けれる言葉はこれしか見つからなかった。

「ゆっくり息して、大丈夫、大丈夫だからな。」



「ごめん、もう大丈夫。」

「お前も少し寝ろ。」

「いや、俺は大丈夫。」

「大丈夫じゃねーよ。今日鏡見てないのか?隈すごいぞ。お前が倒れたら奏くんは誰に頼れば良いんだよ。」

「分かった。ごめん、」

こういう時の斗真は意地でも休もうとしない。
それを分かっていたからあえて強い口調で言い聞かせた。
弱ってる人にちょっと言いすぎたかなっとも思いつつ、とぼとぼとソファーに向かう背中を見て今は寝てほしいと思った。



「奏くんが起きたら起こしてやるから、それまでは寝てな。」
布団をかけてやるとすぐに寝息を立てた。
やっぱ疲れてたな。

他人の事なのに自分の事のように考えてしんどくなる。
本当、高校時から変わんねぇな、
優しいというか、優し過ぎるんだろうな。


さて、奏くんの様子は…
睡眠薬も効いて規則正しく寝息を立てている。


目が覚めた時にこっちの世界に来れたらいいな。
「奏くん待ってるよ、」
眠っている奏くんの胸をトントンしながらずっと話しかけた。





2時間くらい経って寝息に挟まれた俺にも睡魔が襲ってきた。
2人とも起きる気配ないし俺もちょっと寝ようかな…

そう思い伸びをしようとした時、奏くんと目が合った。

「え、あ、おはよう。」

いつ起きたんだろう。さっきかな。

「はじめまして、小林透っていいます。斗真の友達だよ。よろしくね。」

奏くんは無表情で俺の目をじっと見ている。
俺の事ちゃんと認識してる?
反応がないから分からない。

怯えてる様子はない…
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