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7、どうして… 奏side

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この家に来て初めての夜。

今日1回も殴られてない…どうして…

殴られたいわけじゃない、今までもずっと嫌だって思ってた。
なのに、どうしてこんなにもやもやするの?
たくさん話しかけてくれたのに、忘れられているような不安が一気に押し寄せてきた。

どうして何もしないの?僕のこと要らない…?


そんなのやだ…
ちゃんと見てよ…ここに居るのに…

不安を消すためカッターを手に取った。
自分の存在を確認したい。
僕がここに居る証拠…

腕の包帯を外し、勢いよく手首を切った。
……良かった…ちゃんと居る…

大丈夫…
ぽたぽたと落ちる血を眺め落ち着いた。



「その為のカッターだったんだな。」
ビクッ!

声のする方を向くと斗真さんがこっちを見ていた。

どうしよう……バレた………
切るのに夢中で斗真さんに気付けなかった…

怒られる……


やっと、怒られる……

怖いはずなのに自分を見てくれていることに安心した。

「止血するからじっとしてろよ。」

タオルで傷口を強く押された。
こんなんじゃ痛くないよ?
早く殴ってよ…
痛みが来ない不安に目頭が熱くなった。


あれ?目から血?
でも、その液体を見ても赤くなかった。

血じゃない?
何…これ…透明の液体がどんどん溢れて止まらない…


「涙、見るの初めてか?」

なみだ…?
あ、知ってる…幼い頃は出てた気がする。
そういえばいつから出なくなったんだろう。

擦っても止まらない…

「目腫れるから擦らない、痛くなっちゃうぞ。おいで、」

斗真さんに優しく抱きしめられ、斗真さんの胸に顔をうずめた。

背中をゆっくり摩ってくれる手が温かくてそれを感じる度に涙がどんどん出てきた。

斗真さんは何も言わず泣き止むまで抱きしめてくれた。


「落ち着いたか?」

体を離し頷いた。

「手当てするから傷見せてくれる?」

怒られると思いつつ、腕を出した。

「ちょっと待ってて、」

斗真さんの後ろ姿を見ながらどんな罰をするのか考えた。


前、親にバレた時も怒られた。
僕は売り物だから、売り物を傷つけちゃダメだって…
父さんと母さんは傷つけても良いのに僕はダメ…
どうしてなんだろう。傷があったって性行為くらいできるのに…



「痛いのは我慢しろよ。」

痛いのは得意。

……?痛いのまだしないのかな?
濡れタオルで血を拭い消毒をしている。

「次は包帯取るなよ。分かったな?」

うん、俯いたまま頷いた。

「あと、これは預かっとくな。」

えっ、ダメ!!
カッター返して!!取らないで!!
それがないと、僕…僕…
必死でカッターを取り返そうと手を伸ばした。


「これを使いたくなったら俺のとこまでおいで、
俺の部屋分かるか?2階の1番奥の部屋な、
じゃあ、おやすみ。」

斗真さんはカッターを持ったまま行ってしまった。


眠たい…
布団の上に体育座りをして顔を伏せた。

横になって寝ることはできない。
お腹を守っていたらいつ殴られても大丈夫だからこの体勢ならちょっと眠れる。

お腹を蹴られると息ができなくなっちゃうから嫌なの。





何度も目を覚まし、周りに誰も居ないことを確認してからまた寝るを繰り返し朝になるのを待った。
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