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第14話
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あらかた説明を聞いたリフィリアは、唐突な出来事に動けなくなっていた。
何故、事態は悪い方へ悪い方へと動くのだろう。
そしてまた、カルガシスが苦悩している。彼は今までも安らげる時がなかったのに、今まで以上に神経が研ぎ澄まされている気がした。
「兄上…」
ユキリシスは苦笑していた。
「確かに、大変な事になっている。リフィリアの事は以前から懸念されていた事だったから、あまり驚かないのだけどもね。私たちとしても、こういう風に魔獣王と関わるとは思ってもなかったというか…」
確かに、リフィリアも聞かさていたが、こういう事になるとは思いもしなかった。それに、これではリフィリアの方が思い切りカルガシスの足を引っ張っている。
「どうする、リフィリア」
リフィリアは少し悩み、だけども確かな口調で答えた。
「私が魔獣王の元に行けば、カルガシスは人間に戻れます。例え、それが罠だとしても、私の持てる魔力を全て使ってでも魔獣王を阻止します。操られないよう、先手を打つようにします」
ユキリシスは思っていた通りの答えだと思った。リフィリアなら、こうするだろうと。それがカルガシスの為でなくても、自分の力で解決する方を選ぶと。
「命を落とす事になっても?」
「それでも、彼を人間に戻す事が最優先です。私の命はどちらにせよ、いつ狙われてもおかしくなかったのですから」
兄は、妹の決断を静かに聞いた。そして思った。何故この妹は何もかも背負って生まれてきたのだろう、と。ただ魔力が強大なだけでなく、優しく、本当に純粋で。そしてたった、十八歳という若さで人生の決断をしなければならないのか。考えても仕方のないことだけども、それでも彼女の兄は、妹を理解してやる事しか出来なかった。
(私は王位継承者でありながら、ほとんど魔力を持たずに生まれてしまった…。そのしわ寄せがリフィリアにきたのか、彼女は有り余る魔力を持って生まれた…。私さえ、ちゃんと…)
その思いは兄としてというより、王位を継ぐ者としての思いだった。
だが、それを今悔いても何も始まらない。今の自分、今のリフィリア。二人はちゃんと、こうして生きている。二人は生まれた事を後悔していない。
「あまり頑張り過ぎるな。君には理解者がたくさん居るだろ?いつでも何でも聞いてやるから、何かあったら言うんだよ」
ユキリシスはリフィリアの頭を優しく撫でる。兄として、してやれる事はそんなにたくさん無いのだろうけど。
妹は兄の顔を見て笑う。
「兄上が優しいのは良く知ってます。ありがとう、兄上」
少し、顔色が良くなったリフィリアに、ユキリシスも安心した。
「しかし、ああも簡単に魔獣王に乗り込まれると…。各国で協力して築いた砦の意味は成さないんじゃないのか?これを進言するにはまた、一苦労しそうだなあ…」
ユキリシスはこの問題にも頭を抱えなくてはならなかった。各国とまた話し合いをしなければならない。まだ、魔獣王の脅威はある。
「砦の件はまた別問題として。じゃあ、カルガシスとエリシアを呼んで話を詰めるか」
ユキリシスは部屋を出て行った。そしてまた、リフィリアの胸が少し痛んだ。
何故、事態は悪い方へ悪い方へと動くのだろう。
そしてまた、カルガシスが苦悩している。彼は今までも安らげる時がなかったのに、今まで以上に神経が研ぎ澄まされている気がした。
「兄上…」
ユキリシスは苦笑していた。
「確かに、大変な事になっている。リフィリアの事は以前から懸念されていた事だったから、あまり驚かないのだけどもね。私たちとしても、こういう風に魔獣王と関わるとは思ってもなかったというか…」
確かに、リフィリアも聞かさていたが、こういう事になるとは思いもしなかった。それに、これではリフィリアの方が思い切りカルガシスの足を引っ張っている。
「どうする、リフィリア」
リフィリアは少し悩み、だけども確かな口調で答えた。
「私が魔獣王の元に行けば、カルガシスは人間に戻れます。例え、それが罠だとしても、私の持てる魔力を全て使ってでも魔獣王を阻止します。操られないよう、先手を打つようにします」
ユキリシスは思っていた通りの答えだと思った。リフィリアなら、こうするだろうと。それがカルガシスの為でなくても、自分の力で解決する方を選ぶと。
「命を落とす事になっても?」
「それでも、彼を人間に戻す事が最優先です。私の命はどちらにせよ、いつ狙われてもおかしくなかったのですから」
兄は、妹の決断を静かに聞いた。そして思った。何故この妹は何もかも背負って生まれてきたのだろう、と。ただ魔力が強大なだけでなく、優しく、本当に純粋で。そしてたった、十八歳という若さで人生の決断をしなければならないのか。考えても仕方のないことだけども、それでも彼女の兄は、妹を理解してやる事しか出来なかった。
(私は王位継承者でありながら、ほとんど魔力を持たずに生まれてしまった…。そのしわ寄せがリフィリアにきたのか、彼女は有り余る魔力を持って生まれた…。私さえ、ちゃんと…)
その思いは兄としてというより、王位を継ぐ者としての思いだった。
だが、それを今悔いても何も始まらない。今の自分、今のリフィリア。二人はちゃんと、こうして生きている。二人は生まれた事を後悔していない。
「あまり頑張り過ぎるな。君には理解者がたくさん居るだろ?いつでも何でも聞いてやるから、何かあったら言うんだよ」
ユキリシスはリフィリアの頭を優しく撫でる。兄として、してやれる事はそんなにたくさん無いのだろうけど。
妹は兄の顔を見て笑う。
「兄上が優しいのは良く知ってます。ありがとう、兄上」
少し、顔色が良くなったリフィリアに、ユキリシスも安心した。
「しかし、ああも簡単に魔獣王に乗り込まれると…。各国で協力して築いた砦の意味は成さないんじゃないのか?これを進言するにはまた、一苦労しそうだなあ…」
ユキリシスはこの問題にも頭を抱えなくてはならなかった。各国とまた話し合いをしなければならない。まだ、魔獣王の脅威はある。
「砦の件はまた別問題として。じゃあ、カルガシスとエリシアを呼んで話を詰めるか」
ユキリシスは部屋を出て行った。そしてまた、リフィリアの胸が少し痛んだ。
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