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第10話
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部屋に戻ってきたカルガシスとエリシアの間に沈黙が続いていた。
カルガシスは窓辺に立ったまま、その下に広がる庭を眺めていた。毎朝、リフィリアとデュランと過ごしていた庭。たった数週間なのに、あの時間はカルガシスにはとても大切な時間になってしまっていた。
「カルガシス…」
エリシアが口を開いた。
「あなたは、リフィリア姫の事を…」
エリシアの声が震えていた。
カルガシスも眉根を寄せ、険しい顔をしていた。どうにもならない想いを抱え、自分の浅はかさに心底嫌気が差していた。
「否定しない。さっきの事もエリシアにはすまない、と謝る事しか出来ない。どうにもならないし、どうにかしようとも思わない。だけどエリシアに罵られる覚悟は出来ている」
エリシアには、カルガシスの声音は全てを諦めている様な雰囲気さえ感じた。
「でも…。あなたの心は求めているのでしょう?」
「君を放っておく事も出来ない。今までずっと俺を支えてくれていたのはエリシアだから」
こう言いながらも、カルガシスはエリシアの顔を見ることが出来ずにいた。
「それでは、私が邪魔者みたいですね…」
「違う!そんな風には思った事もない。エリシアはどんな時も俺と一緒に居てくれた。今までずっと、俺の為に変獣の対処をしてくれていた。それは本当に感謝している事なんだ。エリシアが居なければ、もっと早くに変獣したままだったかも知れない。これはエリシアが努力してくれていたから…」
「それでは、私の気持ちは伝わってないのですね」
エリシアは苦しかった。自分も解っている部分がある。最初は好意から始まったと思う。しかし、今は彼の境遇に同情の様な気持ちでいる事が、カルガシスに知れるのが怖かったというのもある。はっきりカルガシスに伝えてあげれば、こんなにも彼が苦しむ事もなかったのかも知れないが、やはり長い時間を共にしたエリシアとしては、簡単に認めてしまうのが嫌だという気持ちがあった。自分がずっと彼を支えていたのに。簡単に、こんなにも簡単にカルガシスはリフィリア姫と揺るがない絆を作っている。
「エリシアの気持ちは素直に嬉しいよ、それは今でもそう思っている。だけど…」
「それでも、リフィリア姫の事を想っているのね」
すまない、と小さな声で俯きながらカルガシスが呟く。
「俺は、卑怯だな…」
カルガシスが更に呟く。この心が欲するのはたった一人。だけどもここにいる姫を裏切るのは自分自身が許せなかった。苦労させた。とても悩ませた。そして自ら親の元を去らせた。責任は自分にあって、この姫には無い。優しい姫の思いに頼ってしまったから。
カルガシスの心は乱れていた。かつてない程に。ざわざわと、心の内側から外側に向けて感情の流れが出来ている。激しい感情の昂ぶりを己で抑え込む事が出来ない。
「俺はこんなにも弱い…。そして愚かな人間なんだ」
そう言った瞬間に彼の気配が変わった。エリシアが焦る。
「カルガシス!いけない、変獣してしまう!」
エリシアの言葉は、カルガシスがには届かなかった。彼の冷たい瞳が空を見つめていた。
◆◇◆◇
「リフィリア!カルガシス殿が!」
ユキリシスは廊下を走り、リフィリアの部屋に慌てた様子で飛び込んできた。ユキリシスは彼女の泣き顔に驚いた。
「リフィリア…どうしたんだ」
心配そうにリフィリアを見つめるが、リフィリアは何にもなかったように振舞う。
「…カルガシスがどうかされたのですか?」
リフィリアは真っ赤な瞳で聞き返し、まさか…と続けた。
「変獣したよ。下の庭に居る。自室で変獣した後、窓を破って下に降りたらしい」
リフィリアは廊下を走り出していた。今は躊躇っている時間はなかった。ついさっきあんなに辛い思いをしたけども…。ただまっすぐ、カルガシスの元へ急いだ。
カルガシスは窓辺に立ったまま、その下に広がる庭を眺めていた。毎朝、リフィリアとデュランと過ごしていた庭。たった数週間なのに、あの時間はカルガシスにはとても大切な時間になってしまっていた。
「カルガシス…」
エリシアが口を開いた。
「あなたは、リフィリア姫の事を…」
エリシアの声が震えていた。
カルガシスも眉根を寄せ、険しい顔をしていた。どうにもならない想いを抱え、自分の浅はかさに心底嫌気が差していた。
「否定しない。さっきの事もエリシアにはすまない、と謝る事しか出来ない。どうにもならないし、どうにかしようとも思わない。だけどエリシアに罵られる覚悟は出来ている」
エリシアには、カルガシスの声音は全てを諦めている様な雰囲気さえ感じた。
「でも…。あなたの心は求めているのでしょう?」
「君を放っておく事も出来ない。今までずっと俺を支えてくれていたのはエリシアだから」
こう言いながらも、カルガシスはエリシアの顔を見ることが出来ずにいた。
「それでは、私が邪魔者みたいですね…」
「違う!そんな風には思った事もない。エリシアはどんな時も俺と一緒に居てくれた。今までずっと、俺の為に変獣の対処をしてくれていた。それは本当に感謝している事なんだ。エリシアが居なければ、もっと早くに変獣したままだったかも知れない。これはエリシアが努力してくれていたから…」
「それでは、私の気持ちは伝わってないのですね」
エリシアは苦しかった。自分も解っている部分がある。最初は好意から始まったと思う。しかし、今は彼の境遇に同情の様な気持ちでいる事が、カルガシスに知れるのが怖かったというのもある。はっきりカルガシスに伝えてあげれば、こんなにも彼が苦しむ事もなかったのかも知れないが、やはり長い時間を共にしたエリシアとしては、簡単に認めてしまうのが嫌だという気持ちがあった。自分がずっと彼を支えていたのに。簡単に、こんなにも簡単にカルガシスはリフィリア姫と揺るがない絆を作っている。
「エリシアの気持ちは素直に嬉しいよ、それは今でもそう思っている。だけど…」
「それでも、リフィリア姫の事を想っているのね」
すまない、と小さな声で俯きながらカルガシスが呟く。
「俺は、卑怯だな…」
カルガシスが更に呟く。この心が欲するのはたった一人。だけどもここにいる姫を裏切るのは自分自身が許せなかった。苦労させた。とても悩ませた。そして自ら親の元を去らせた。責任は自分にあって、この姫には無い。優しい姫の思いに頼ってしまったから。
カルガシスの心は乱れていた。かつてない程に。ざわざわと、心の内側から外側に向けて感情の流れが出来ている。激しい感情の昂ぶりを己で抑え込む事が出来ない。
「俺はこんなにも弱い…。そして愚かな人間なんだ」
そう言った瞬間に彼の気配が変わった。エリシアが焦る。
「カルガシス!いけない、変獣してしまう!」
エリシアの言葉は、カルガシスがには届かなかった。彼の冷たい瞳が空を見つめていた。
◆◇◆◇
「リフィリア!カルガシス殿が!」
ユキリシスは廊下を走り、リフィリアの部屋に慌てた様子で飛び込んできた。ユキリシスは彼女の泣き顔に驚いた。
「リフィリア…どうしたんだ」
心配そうにリフィリアを見つめるが、リフィリアは何にもなかったように振舞う。
「…カルガシスがどうかされたのですか?」
リフィリアは真っ赤な瞳で聞き返し、まさか…と続けた。
「変獣したよ。下の庭に居る。自室で変獣した後、窓を破って下に降りたらしい」
リフィリアは廊下を走り出していた。今は躊躇っている時間はなかった。ついさっきあんなに辛い思いをしたけども…。ただまっすぐ、カルガシスの元へ急いだ。
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