魔獣と姫 -真実の愛-

深湖

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第4話

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 国王との謁見を終えて、応接間に戻ってきたカルガシスとエリシア、そしてリフィリアとユキリシスは今後の流れや対策の話をしていた。

「では、カルガシス殿が魔獣に変身した後に、人間に戻す事が出来る者には条件がある、という事なのですね」
「はい、そうです。これをクリアしていれば誰が試しても今までは問題はありませんでした」

 条件は二つ。魔獣のカルガシスを恐れず抑え込むほどの魔力を有している事、更に抑え込んだ後に解呪の法を唱え額の紋章に触れられる事。この場合の解呪の法は不思議だが、毒などの解呪でも可能だという。
 これらを満たしていれば、魔獣に変身したカルガシスを人間に戻す事が出来る。

「この条件って、とにかく自信がある人が行えるって事か。度胸とか。変獣後のカルガシス殿は威圧的だろうから…、深層心理に働くのかな?いや働くんじゃなくて、それを隠そうとしても魔獣になったカルガシス殿には怯えてるのがお見通しなのかな?」
「そう、なんでしょうか…?」
「だろう?恐れず、となれば。臆する事なく突き進めるって事だろうからな。あとは魔力の大きさくらいか。よほど小物なら無理だろう。私じゃ無理かな」

 私は小物だしな、とユキリシスは笑う。

「兄上は、また嘘ばかり…」
「嘘じゃないよ!リフィリアよりは小物だよ」

 リフィリアは兄に呆れながら俯く。リフィリア自身、自分の魔力の大きさをひけらかしている訳ではない。思いのほか大きく取られると困惑してしまう。溜息をひとつ零した後、あまり自分が落ち込んでは意味ないと、リフィリアは顔を上げエリシアに訊ねた。

「エリシア姫は、もちろん可能ですね」
「あ、はい。今のところ…」

 恐縮しながらエリシアは答えたが少し動揺している様にも見えた。

「今のところ?どういう事だ?この先、出来なくなるのか?」
「出来なくなるかどうかは判らないのですが、出来なくなる可能性がある…と」
「ん?それは何故?」

 エリシアの瞳が揺れ、答えにくそうにしているのを見て、カルガシスも少し困り顔でエリシアの替わりに答えた。

「年々、変身した後に人間に戻れるまで時間が長くなっているからです。おそらく呪い自体の力が俺自身の成長に合わせるように増していると思うのです。協力者が一度試しただけではダメな場合もあって、そういう場合は何度もトライすることになるので…。同じ人間がする場合と、違う人間に変わってもらう場合と」

 ほほぅ、とユキリシスから驚きの声が漏れるが、顔はさほど驚いてはなかった。代わりにリフィリアは困惑している様だった。

「今は私だけでも解呪できるのですが、恐らくこの先、私だけではどうにもならなくなる時が来ると思うのです。私より魔力の大きい方や、もしくはカルガシスを恐れない方とかにお手伝い頂ければ…」

 エリシアはリフィリアを少し見て、また俯いてしまった。自分で出来れば一番なのだろうけど、根本的な呪いを解く方法がない限り、状況はその場その場で変化し悪化する。

「大変な事には変わりはないわけですね。すぐに解決できないけども、何らかの力になれるよう私たちも何か調べてみます。…その呪いを解く方法を。それができればエリシア姫の悩みは解決できますものね。とにかく今はカルガシス様の傷が治るのを待っていて下さい」

 リフィリアは、優しい笑顔で二人を勇気づけようとしていた。なるべくなら良い対策が見つかるまで協力を惜しまないつもりだった。頼ってきてくれた二人に何か安心できる材料を少しでも多く見つけてあげたい。

「兄上、早速ですが私は書庫で調べて参ります」
「そうだね、そうしてくれ。シリリア程、サマリオは文学的には発展してはいないが、魔力に関する方は長けている。シリリアにはないサマリオ独特の解呪法があるかも知れないが、こればかりは調べてみないと何とも言えない。申し訳ないのだけど、今はそれでいいかな?」
「力になって頂いて、ありがとうございます。よろしくお願いします」

 カルガシスとエリシアは姿勢を正し深く頭を下げた。

「あ、忘れる所でした」

 書庫で魔力の書物を読み返してみようと部屋から退出するつもりだったリフィリアが何かを思い出して立ち止まる。

「エリシア姫の華紋はどの花でしょう?先程は国王しか確認しませんでしたので…。ごめんなさい、確認不足で…。この城で使用する物にエリシア姫の華紋を入れますので、教えて頂ければありがたいのですが」

 各国では王族の女性に華紋という個人を識別できる紋がある。この紋を持ち物や使用する物に入れる事によって、他の人が使うのを避けるという目的もある。複製は許されず、仮に複製した物を発見したならば国力を使って洗い出し、極刑に処す事に決まっている。
 サマリオでも同じで、滞在中はエリシアの華紋を使用する物品に入れるのである。
 ちなみに男性にはなく、女性には特別に識別出来る紋となってはいるが、華やかさの演出の目的の方が意味合いとしては強いかも知れない。

「《白百合》ですが、それにしてもいいのですか?私の華紋を入れてもらっても…」
「女性の紋ですから、いいのですよ。遠慮なさらないで」

 そう言って、結局はユキリシスもリフィリアの書庫行きに付き合うとなって一緒に部屋を出て行った。

 カルガシスはリフィリアの立ち居振る舞いに目が離せなくなっていた。とてつもなく惹き付けられる彼女の雰囲気。圧倒的な存在感。正直、呑まれてしまいそうだった。魔力が並みの容量ではないからなのか、カルガシスは彼女と居ると落ち着かなかった。だが、彼女の親切は本物だと感じていた。

「こんなにも親身になってもらえるなんて思ってもみなかったよ。特にユキリシス様とリフィリア姫は、本当に俺たちの事を思って力になってくれていると思う」

 少し笑いながらカルガシスがアリシアに言う。

「そうですね、とても心強いです。シリリアでは、ああいう風に理解してもらうのは難しかったから…。とにかく今は、カルガシスの傷が癒えるのを待つのと、体力を回復しておきましょう。いつでも呪いを解く旅に出られるように」

 そうだな、とカルガシスも答えた。ずっと休まらなかった心と体を、このサマリオの姫の元で癒したかった。
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