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プロローグ
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最愛の人と引き裂かれる苦しみは、いつか癒されるのだろうか。
二人は幼馴染で、幼い頃は気付いたらお互いが一緒に居るのが当たり前の日々。
彼女の父が騎士だったのが彼に影響を与えたのか、将来騎士になるのが夢だと彼から告げられ、一時的に家から離れ、寮がある騎士の養成学校へ入ってしまった時は、彼女は寂しくて涙を流す日々を送っていた。
「泣き虫だなぁ、シェリルは。少しの間だけだよ。必ず此処に戻ってくるから」
彼の声は優しく、彼女に紡がれる。照れた顔が愛おしかった。
「うん、待ってるから」
小さく頷き、涙を堪えても溢れだす。
ずっと傍に居たのに。今日から離れ離れになるなんて。
それでも、彼の夢は散々聞かされてきていたし理解もしていた彼女は、彼女が出来る事をすべく、勉学や女性としての作法など学んでいた。将来、彼を支えられる様に。
年に2度ほどの数日間の休暇の時には彼が帰省し、必ず彼女に会いに来てくれた。
その休暇の幾度目かの時。
彼は、将来の約束として指輪のプレゼントと共に、プロポーズをしてくれた。
彼女は、すぐには反応出来ず、ただ身体を震わせて彼を見つめ、嬉し涙を流していた。
いつか、そういう風になれれば…と密かに思っていたのに。
それが思っていたより早く、彼からその言葉を貰えるなんて。
「約束する。必ず幸せにする。騎士として遠征に出る事も多々あると思う。でも、帰りを待つシェリルの顔を必ず心に置いて、君の元に戻ってくるよ」
彼は照れながら、はっきりと告げてくれた。
頷く事しか出来なかった彼女に彼がそっと身を寄せ、彼女の柔らかい髪にそっと口付けを落とした。
幼い時はあんなに一緒に居たのに。手を繋いだ事もあったけど。
成長した今では、お互いに触れる事さえ憚れて、近づく事さえ出来なかった。
でも今は。
将来を約束した今は。
寄り添う事も、触れ合う事も、許される距離で。
その変化を、嬉しく思った。
なのに、その数週間後、彼女は絶望の淵に立っていた。
「結婚前だけど、少し遠出しない?この間、遠征で行ったとこの近くに、とても雰囲気の良い街があって。建物が統一されていて色鮮やかなんだ。だけどゴチャゴチャした感じじゃなくて。シェリルも気に入ると思うんだ」
彼がそう言って連れて行ってくれたその日、その場所で。
巷でも名前が知れている盗賊団が街を襲撃していた。
彼は放っては置けないからと彼女に詫びを入れた。
「この部屋から絶対に出てはいけないよ。僕が迎えに来るまで、待ってて。必ず帰ってくるから」
不安な顔をする彼女の頬に、そっと口付けをし抱き締め、足早に行ってしまった。
それが最後の抱擁になるなんて、彼女は想像もしていなかった。
待っても待っても、彼が帰って来ない。
夜が更けても扉が開かない。
「ごめんごめん、遅くなって」などと言って、その扉が開くのではないかと、扉ばかり見つめていた。
朝方になって、一睡も出来ずに居た彼女の耳に扉の外からの足音が聞こえた。
慌てて立ち上がり、躓いて転びそうになりながら扉の前まで来て、彼の言いつけ通り扉を開けず、彼が開けて入ってくるのを待った。
でも。
扉を開けたのは見知らぬ男。
様相からして、騎士だと思った。彼とは違う姿だったが。
現れた騎士は酷く困った顔をしていた。
いつまでも帰って来ない彼の代わりに現れた騎士から聞かされた事実に、彼女はただただ絶望し泣き叫んだ。
二人は幼馴染で、幼い頃は気付いたらお互いが一緒に居るのが当たり前の日々。
彼女の父が騎士だったのが彼に影響を与えたのか、将来騎士になるのが夢だと彼から告げられ、一時的に家から離れ、寮がある騎士の養成学校へ入ってしまった時は、彼女は寂しくて涙を流す日々を送っていた。
「泣き虫だなぁ、シェリルは。少しの間だけだよ。必ず此処に戻ってくるから」
彼の声は優しく、彼女に紡がれる。照れた顔が愛おしかった。
「うん、待ってるから」
小さく頷き、涙を堪えても溢れだす。
ずっと傍に居たのに。今日から離れ離れになるなんて。
それでも、彼の夢は散々聞かされてきていたし理解もしていた彼女は、彼女が出来る事をすべく、勉学や女性としての作法など学んでいた。将来、彼を支えられる様に。
年に2度ほどの数日間の休暇の時には彼が帰省し、必ず彼女に会いに来てくれた。
その休暇の幾度目かの時。
彼は、将来の約束として指輪のプレゼントと共に、プロポーズをしてくれた。
彼女は、すぐには反応出来ず、ただ身体を震わせて彼を見つめ、嬉し涙を流していた。
いつか、そういう風になれれば…と密かに思っていたのに。
それが思っていたより早く、彼からその言葉を貰えるなんて。
「約束する。必ず幸せにする。騎士として遠征に出る事も多々あると思う。でも、帰りを待つシェリルの顔を必ず心に置いて、君の元に戻ってくるよ」
彼は照れながら、はっきりと告げてくれた。
頷く事しか出来なかった彼女に彼がそっと身を寄せ、彼女の柔らかい髪にそっと口付けを落とした。
幼い時はあんなに一緒に居たのに。手を繋いだ事もあったけど。
成長した今では、お互いに触れる事さえ憚れて、近づく事さえ出来なかった。
でも今は。
将来を約束した今は。
寄り添う事も、触れ合う事も、許される距離で。
その変化を、嬉しく思った。
なのに、その数週間後、彼女は絶望の淵に立っていた。
「結婚前だけど、少し遠出しない?この間、遠征で行ったとこの近くに、とても雰囲気の良い街があって。建物が統一されていて色鮮やかなんだ。だけどゴチャゴチャした感じじゃなくて。シェリルも気に入ると思うんだ」
彼がそう言って連れて行ってくれたその日、その場所で。
巷でも名前が知れている盗賊団が街を襲撃していた。
彼は放っては置けないからと彼女に詫びを入れた。
「この部屋から絶対に出てはいけないよ。僕が迎えに来るまで、待ってて。必ず帰ってくるから」
不安な顔をする彼女の頬に、そっと口付けをし抱き締め、足早に行ってしまった。
それが最後の抱擁になるなんて、彼女は想像もしていなかった。
待っても待っても、彼が帰って来ない。
夜が更けても扉が開かない。
「ごめんごめん、遅くなって」などと言って、その扉が開くのではないかと、扉ばかり見つめていた。
朝方になって、一睡も出来ずに居た彼女の耳に扉の外からの足音が聞こえた。
慌てて立ち上がり、躓いて転びそうになりながら扉の前まで来て、彼の言いつけ通り扉を開けず、彼が開けて入ってくるのを待った。
でも。
扉を開けたのは見知らぬ男。
様相からして、騎士だと思った。彼とは違う姿だったが。
現れた騎士は酷く困った顔をしていた。
いつまでも帰って来ない彼の代わりに現れた騎士から聞かされた事実に、彼女はただただ絶望し泣き叫んだ。
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