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しおりを挟む目が覚めるとそこはよく見慣れた部屋だった
ずっと、ずっと焦がれていた執務室
たくさん並んだ本も
重厚なソファも
何もかも懐かしく
なんだかとても長いこと来ていない気がした
良かった、最後に本を開いた時は賭けだったけれど
受け入れてくれたのか
「、、レスト?」
キョロキョロと見回すがレストの姿はない
代わりに、随分と露出の高い服を着た青髪の青年が机に腰掛けて本を読んでいた
私の呟きに気がついたのか彼は顔を上げる
「おはよ」
短く言われたセリフについおはようと返してしまった
目のやり場に困る、、
黒いぴっちりした服は首は詰まっているのに肩がざっくりと開いており鎖骨まで見えてしまっている
肋骨の中腹ほどまでしか無い着丈のせいで腹筋が丸見えだ
ズボンはしっかりと履いてくれているし、、俯くしか無いな
今まで絵本の中だと思っていたここは、ただテレポートしただけの現実世界なわけだから、、レストがいない時もあるだろうし、
彼みたいな別の人がいる事だってあるのか
ソファーに寝かしてくれたのはこの人だろうか?
それともまっすぐここにテレポートしたのか、、
どちらにせよお礼を言っておこうかな
「ごめんねぇ
混乱しないように君にとって見慣れた景色にしただけなんだよねぇ」
色々と考えていた私をよそに、彼はそう言って本を閉じるとパンパンっと手を叩く。
その瞬間、あたりが白い無機質な空間になってしまった
「えっ!?えぇっ!?!?」
「結局混乱することになるかぁ」
彼は私の反応にふむ、と少し考え込みながら何も無い空間にふわりと浮かび脚を組む
「話にならなくなっちゃうし、、元に戻すかぁ」
言葉と同時にまた執務室に戻った
なにごと!?どういうこと!?!?
何もかも分からない
「あぁ、ごめんねぇ来客は久々でさ」
猫みたいに笑う彼はヘラッと私を覗き込むと事も無げに言葉を続ける
「初めまして、僕の名前はロキ
えーっと、なんだっけ?本の賢者、、って言えば伝わるのかな?」
ふわっとした猫っ毛が揺れる
「本の、、賢者、様?」
この人が?
なんだか想像とだいぶ違う
「勝手にそう呼ばれているだけだから、、僕自身がつけたわけじゃないよぉ?」
私が訝しげな顔をしていたからか
締まりのない声でそういうとロキはふわぁーっと欠伸をして伸びをする
「まぁでも、本に閉じ込められてるのはホント」
目を細めて笑う
本当に猫みたいな人だ
後ろで一束だけ結ばれている長い髪の毛がしっぽのように見える
そこでふと、気がついたのだが彼が羽織っているローブはとても見覚えがある
いや、もうほとんどずり落ちてなんとか腕に引っかかっているという感じだが
濃紺に、銀の刺繍の、、レストが羽織っていた見慣れたローブだ
これも私を落ち着かせる為なのだろうか
私の視線に気がついたのか彼はヒラヒラと手を振る
「これ?これは魔塔のローブ、、?なのかなぁ??
魔法の伝導効率いいし、、なかなかいい感じだったから使ってるんだぁ」
なんだか曖昧そうだ
それに、彼の私物なようだ
「僕が魔法開発にハマってた時に周りが勝手に言い出して、勝手に用意したものだから分かんないんだよねぇ」
えっ!?
ってことは本の賢者は魔塔の創設者って事なの!?
って事はレストは魔塔のローブを羽織っていたから、、あれ?伯爵家の雇われ人とかかと思ってたんだけど、、どういう関係なんだろう
そんな事を考えているとロキはコテンと首を傾げる
「ねぇねぇ、そんな事よりさ、自分の事、気にならないのぉ?」
「、、、確かに!!」
ハッとするとロキは面白そうにケタケタ笑う
「本を開いたのは覚えているんです、だからテレポートしてきたって事ですよね?」
私の問いかけに彼は
んー
と猫のように目を細める
「全然違うねぇ」
ロキが指をくるくるっと回すと
空中に映像が写し出される
「ほい、自分の体の状態くらいは知りたいよねぇ?」
「、、、えっ!?」
そこに写し出されていたのは玄関ホールのど真ん中で繭のようになっている自分だった
部屋の壁のあちこちに糸のようなものが張りつき、なんというかすごく、、
「邪魔そう、、ね、、」
ついポツリと呟いた言葉にロキはブハッと吹き出す
「気になるのそこぉ??」
「いや、、その、、どこから触れればいいか分からなくて」
映像の中では少し時間が進んでいるのか伯爵夫人やカインの姿はなくメイド数人と執事長がどうしたものかと対応している
糸は外したりできないようで、色々なものを使って切ろうとしたり、剥がそうとしたりされている
「あれはねぇ、刺繍糸だよ」
「ししゅういと、、」
「本を開いた時、君の魂だけがこっちにきて、体は残ったんだけど
そのままだと死んじゃうから君の魔力が籠った刺繍糸を使って僕があぁしてあげたわけ」
感謝してよね
そう続けられてもはぁ、、としか返せない
とにかく理解が追いつかないのだ
そんな私を分かってか彼は虚構をグッと握る
するとその手に丸められ、リボンがかけられた紙が握られる
ロキは紙を広げると私に見せてくれる
「これはねぇ、ある男と僕の契約書なんだけど」
そう言って紙の中の一文を指でなぞる
そこだけ後から足されたのか筆跡が違う
「ここ、リディアナ・シルヴァの生命を脅かす事なく、天寿を全うさせるよう助力を惜しまない事
病気とかは仕方ないけどさぁ、他人からの悪意とかで死にそうになったら助けないといけないんだよねぇ」
「リディアナ、、?」
「ん?そう、君でしょ?」
私はポカンとする
私の名前もそうだが、誰がこんな契約をしたのか、、
「リディアナならさぁリディとかアナとかじゃなぁい?
普通、略すらさぁ、なぁんかあるとアイツすぐティア、ティア言ってさぁ
それならティアじゃなくてぇディアじゃねー?って思うんだけどぉ」
その言葉にハッとする
「これを契約したのって、、レストなの、、?」
ティアは、、彼が、寝言で言っていた名前だ
「ん?分かんない、アイツ名前いっぱいあるんだもん
その契約書のサインの名前はルカーシュってヤツになってるけど
まぁ、血と魂で契約してるから名前なんて関係ないんだけどねぇ」
彼はパチンと指を鳴らす
「こぉーんな顔のやつ」
それは見慣れたレストの顔だった
艶やかな黒髪にキレイなアメジストの瞳
なんだか泣きそうになる
が、すぐに猫のような彼の顔に戻る
銀色の目がキュッと細められる
「この一文書かれた時はさぁ、どうせ人の一生なんて多めにみても100年やそこら?あるかないかだしさぁ
わざわざ僕が手を出すようなことにはならないだろうと思っていーよぉーってしたんだけどさぁ
まさかこんな面倒なことになるとはねぇ」
ハァとため息をつくロキは気を取り直すようにパンッと手を叩く
「まぁあの魔力抽出機を作ったのも僕だしある意味自業自得?なんつってぇ」
自分で頭をコツンっとしながら舌を出すロキを眺めながら私はレストについて考えるのでいっぱいいっぱいになっていた
レストは私のことを以前から知っていたのだろう
それで、私を買って、、きっと保護してくれていたんだ
それじゃあ、奴隷紋がある事も、犯罪内容も知っているのでは?
それじゃああの時どうしてあんなに険しい顔をしていたのか?
いきなり得た情報の多さに困惑しているとにゅっとロキが私を覗き込む
「思い出したい?」
「、、え?」
彼の問いかけに思わず見つめ返す
「忘れた記憶、思い出したい??」
ゆっくり頷くと彼はニンマリ笑う
「それじゃあ、僕と取引しようか」
なんだかゾクリとする
でも、レストの事を思い出したい
「どんな、、取引なの?」
恐る恐る問いかける私に彼は紙を手に取る
「なぁに、そんな大したものじゃあないよぉ
ちょーっと君の魔力が欲しいなぁってだけ」
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