忘却令嬢はペットになりました

まりあんぬ

文字の大きさ
上 下
7 / 16

7

しおりを挟む
私はチクチクと毛糸を編みながらも意識はモヤモヤと同じところを行き来していた

ティア、、ティアって誰?
いやでも、、こんな、明らかに私を意識したものを依頼してくるかしら?

いやいやでも、、

夢にまで出てくる人というのは一体なんなんだろう
なんでもない人を夢に見る事なんてないはずだ、、それはきっと、、きっと、特別な人、、

手元に視線を落としてまた考え込む

私のこと、憎からず思っているはずだわ、、
そうじゃなかったら、、
こんなブランケットいらないはずだもの

編みかけのものを掲げるようにして眺める
鏡越しでも私の髪とよく似た色だ
それに布だって、、
明らかに私を意識しているはず

まるで恋人同士が、お互いを意識したアクセサリーを付け合うかのような
そんな意味合い以外に考えられるだろうか?

それでも私の知識は本から得たものだけだから、、
確信めいた自信は湧いてこない


レストは、、本の賢者は何百年も前の人なはずだ、、
もし仮に、そのティアという人が彼の恋人や、、ましてや奥さんだったとして
生きている可能性というのはあるのだろうか

そこまで考えてブンブンと頭を振る
私ったら、、なんて最低な考えなの!!
死んでたらいいだなんて、、!
さすがにそうは思っていないけれど、、その発想そのものが出た自分に驚く

そして手を止めて肩に触れる

「私の犯罪って、、なんなんだろう」

私は、レストの事が好きだ、、たぶん、、
でもだからこそ、だ
ずんっとのしかかる現実から目が逸らせなくなる

「レストは、、これを知ったらどう思うのかしら」

あの朗らかな笑顔はもう見られなくなるのかしら?
もしも、、拒絶されたら、、

そう思うと胸が張り裂けそうになる

記憶がない、、
だからどこか他人事のように思っていた
それに、誰と関わりがあるわけでもない自分はこれがあったところで困るような事は特段起きなかった

でも確かに体に刻まれている罪の証に、、途端に追い詰められる

ギュッと作りかけのブランケットを握りしめる

「悩んでたって、解決するものでもないわね」

彼にこれを渡す時、その真意を聞いてみよう
そしてもし
もし彼が私と同じ想いを抱いてくれているなら
この背中についても、話せたらいいな

そう思いながらまた黙々と編み物を続けた


ーー
ーーー
ーーーー

あっという間に数日が過ぎ、残るはメインの刺繍のみだ

もちろん、毎日レストのところに数時間だけ通い、魔法の本を借りたり
新たにこの国の歴史についての本を用意してもらったりした

「最近は、あまり長い時間いてくださらないのですね?」

ある日、数時間で切り上げて戻ろうとするとそう言われ

「その、ブランケットを早くお渡ししたくて、、!」

と答えてしまった

それからというもの、彼は毎日ソワソワと私の事を見ている

「そんなに楽しみですか?」

「えぇ、もちろん、
ステラが私の為に時間を割いてくれていると思うと尚の事、、楽しみで仕方ありません」

そうニコリと笑いかけられると恥ずかしいやら嬉しいやらで何も返せなくなってしまった

ただでさえ終日なんの予定もないのに
好きという意識を持ってからなんだかいたたまれないのもありレストのところにいる時間を減らし、、
その結果ブランケット作りにたっぷり時間を割いている

そうしてどんどんと完成に近づき
もう手を加えられるところは殆どなくなってしまった

変にこれが完成したら想いを明かそうなどと決めてしまったせいで
完成を先延ばししたい気持ちが生まれ
自分のブランケットを作った時と違いあちこちに妙な趣向を凝らしてしまっている

銀の刺繍糸でレースを編んで、縁につけてみたり、、
まるでセーターのように色々なアラン模様のパターンを編み分けして全体に入れてみたり、、

それでも、もうついに完成してしまう
そうして残すは最後の仕上げ、、
メインとなる刺繍を中心に入れれば完成だ

このメインは、、レストに決めてもらおう
引き立てるための刺繍を周りに施し終え、私は絵本を開く

今週中にはもう完成しそうだ

絵本の中で、レストは相変わらず机に向かいペンを走らせている

私に気がついて朗らかに笑う彼にドクンと心臓が跳ねる

直視できない

そそくさとレストに近づき胸に抱いた図案の本を差し出す

「ブランケットの真ん中に、大きく刺繍を入れようと思っているのですが、、希望はありますか?」

ぱらりといくつかいいなぁと思ったページを捲る

「そうですね、、あ、これはどうでしょう?」

そう言ってレストは胸元からカチャリと一つアクセサリーを外す
渡されたのは銀狼の横顔を縁取ったようなブローチだった

「家紋、ですか?」

「、、、えぇ、ステラにこれを入れてもらえれば少しは愛着が湧くかなと思いまして」

そう眉を下げながら微笑む

私はどう反応したらいいか分からずもう一度家紋を見下ろす

「貴女に、打ち明けなければいけない事があります、、でも、、もう少しだけ待っていただきたいのです」

そうかけられた声に顔を上げる
なんだか怯えるような、切実な表情に私は頷く

「分かりました、私も、、」

そう言って口を噤む

「、、大丈夫です」

無理しないでと気遣われ私はまた家紋に目を落とした
彼の打ち明けたい事、というのはこれに関係する事だとなんとなく思った

家紋が出てくるなんて、、

それはもう、自分がプログラムされた絵本の住人ではないと言っているようなものだ

パンッとレストが空気を打ち消すように手を叩く

「すみません、なんだか少し暗い空気にしてしまいましたね」

勤めて明るい声色を出しているのがわかる

「あぁ、そうだ!魔法は使えるようになりましたか?」

その言葉に私はドキリと肩を揺らす

「、、、おや?」

私の反応に彼は首を傾げる

「それが、、毎日練習しているのですがなぜか、、何も出来なくて」

色々と手伝ってくれている彼になんだか申し訳なくなる
私の言葉にレストはキョトンとする

「それは、、おかしいですね
貴女の魔力量なら何も出ないなんて事はあり得ないのですが、、」

その言葉に私は少しだけ安堵する
魔力量が少な過ぎて、という訳ではないのか、、よかった

レストは私の後ろに回り込むと囁くように耳元に顔を寄せる

「体全体に魔力が循環するのをイメージして下さい」

正直ドキドキでそれどころではないのだが、
そう言われてなんとか目を瞑る
体を血液のように、、魔力が循環するイメージ
ポカポカと体が温かくなり体を巡る魔力を感じる

「失礼します」

レストが後ろから包み込むように私の左手と、右肩に手を添える

「、、、おや?」

数秒そうしているとレストが不思議そうに声を上げた

「おかしいですね、なんだか堰き止められているような、、確認しますね」

そう言ってとんっと触れられた場所が明らかに例の、、奴隷紋が刻まれている場所で
私はハッとする

「レスト、待ってください!」

慌てて目を開けてギョッとした

まるで投影するかのように私の肩から紋様が浮かび上がり空中に表示されていた

「これは、、」

レストの顔がみるみる険しくなる

「あの、騙していたわけではないんです、、ただ、、」

言い出せなくて、、

そう言葉を続けたかったがレストの顔を見ていられなくなり俯く

「暫くの間、、こちらには来ないで頂いてもいいですか?」

その言葉にドキリと心臓が跳ねた

「、、、は、い、、」

なんとかそう返事をするのでいっぱいいっぱいだった

やっぱり、失望したのだろうか
怖くて顔を見る事もできない

そろそろと絵本に手を伸ばす
視界が涙で歪む

「、、失礼します」

最後に一度、レストがとんっと肩に触れる
ズキリという痛みが走り私に奴隷紋の存在を再確認させる

その瞬間ぽたりと涙が一粒落ちた

「、、さようなら」

私の言葉に何かを考え込んでいるように顎に手を当てて俯いていたレストが顔を上げる
私の顔を見て驚いたような表情の彼を最後に私は絵本をパタリと閉じた

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

処理中です...