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これにてごめん

ダメ!ダメッたらダメ!

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「ヴィーはこの家で俺と暮らすんだ!」

「ダメです!何度も言いますが、エヴィとエイデン様を一緒にしていたらまた巣篭もりを始める可能性しかありません!私達と一緒にあっちの家に帰ります!」

「なら、俺もあっちに引っ越す!」

「ダメです!それじゃ意味がないでしょう!?2人で引きこもってる間にどれだけこちらが大変だったか…。やっと離れたのですから、エヴィの体力が戻るまで我慢してください!」

「嫌だ!500年も働いてやっと手に入れたご褒美なんだ。俺は、絶対に、離れないからな!」


 はい。私、リポーターエヴィが現場をお伝えいたします。


 キャスリーンに抱き抱えられた私を奪おうとするディー。ディーに連れ去られないよう私をガッチリと抱えているキャスリーンは今現在口喧嘩と引っ張り合いっこを実施しております。


 なぜこの2人が言い争っているのか?それを説明するには私が入浴していた時点へ少し遡ろう。

____

 ベル君に綺麗にしてもらった私は、迎えにきたキャスリーンをデレデレ顔で迎え入れた。彼女は私の幼児大好き癖を知ってか知らずか、状況を見て見ないふりをしたのか、顔を引き攣らせたまま私を横抱きに抱いてお風呂場へ連れて行った。そして優しく浴槽近くに置かれた背もたれ付きの椅子に座らせてくれた。

 まじ、キャスリーン、男前!女性でありながらも私を軽々と持てる筋肉!素晴らしい!さらには美人でボンキュッボンなのだから、麗しい!

 彼女が今警戒しているエイデンことディーは井戸でくんできた水を浴槽にため、ポイッと湯沸かし魔道具を入れてほっかほかの湯船を完成させた。一緒に入ろうねーと邪魔をしようとする彼をキャスリーンは浴室から問答無用で追い出した。叩き出したと言っても過言ではないくらいの追い出しっぷりだった。

 しかも、私のボディーガードのように振舞っているキャスリーンの目は今にもディーを始末してやると語っていたのだ。

 私はそれを苦笑いで眺め、私に付き添っていたベル君は何も気してない様子で石鹸やスポンジ、タオルなどを用意して浴室から出て行った。

 邪魔者はいなくなったとばかりに、キャスリーンは私をまた抱き上げるとゆっくり湯船に浸からせ泡立てたスポンジを使って私の体を洗い始めた。

「痛くはないか?その、私は入浴の手伝いをしてもらうばっかりで逆のことをするのは初めてなのでな。力加減がわからん」

「大丈夫。気持ちのいい加減だよ。はー、湯船って気持ちー」

「うむ。ならいい。痒いところや気になる所があれば言ってくれ」

「うんー。わかったー、はうー」

 優しく微笑むキャスリーンまじ麗しい。浴室の中は暑いだろうに、腕まくりをしたシャツを濡らしながらもせっせと丁寧に洗ってくれる。

 早く義姉になってくれないかしら!なんて思いつつ、私は拙い動きで一生懸命洗ってくれるキャスリーンに身をませて入浴を終えた。

 体を拭いて、下着を着たころにベル君が着替えの服を持ってやってきた。急に現れて服だけ置くと急に消えていく。あの子はドアを開ける必要がないようだ。

 着替えも終わり、髪の毛をタオルドライで丁寧に乾かしてもらった私はキャスリーンに横抱きに抱えられてお風呂場からでた。

「キャスリーン。私の部屋ってある?」

「もちろん。ケイと一緒に荷解きもしてすぐにでも使えるように準備してあるよ。今日はここで夕食を食べる予定だが、一緒に帰るだろう?」

「うん。そのつもり。夕飯は食べられるかなー。とりあえず、さっきのスープがあればそれが食べたいかも」

「それなら、ベルナール様に頼んで追加で作ってもらおう」

 2人でニコニコと微笑みあってリビングへ向かうと、リビングの中央で通せんぼをするかのように両手を広げたディーが私たちを待っていた。

「何勝手に俺のヴィーを連れてこうとしてるんだよ。ヴィーは俺と一緒に住むんだ」

 私達の会話を聞いていたのか、ディーは怒った顔でキャスリーンに噛みついた。それをキャスリーンは鼻笑ってからこちらも喧嘩腰の声で話を始めた。

「何を言うかと思えば…。いいですか?エイデン様と一緒にさせていては彼女の体力は戻りません。ええ、断言できます。彼女は日頃から鍛錬をして体力がある女性ではないのです。食事も取らせずに…何日も襲って…」

「食事ならさせてた!なんなら、それは俺しかできないんだ!ヴィーは俺がいないとダメなんだ!」

 ぷんぷんと怒っているディーを呆れた顔になりながらキャスリーンは見つめると、彼の意見を否定するかのように首を横に振った。

「とにかく、彼女は今晩からこっちで引き取ります」

「ダメダメダメ!」

 絶対にダメだと受け入れないディー。ディーの要求は絶対に承諾しくないキャスリーン。

 そんな2人の争いがこうして始まったのである。

 
 そして、話は冒頭に戻る。

___

 いい加減、間に入れられて喧嘩をされることに疲れてきた私は片手をあげて2人に声をかけた。

「ねー、ちょっと2人とも」

 言い争いをしている2人に割って入るように声をかけた私を、彼らは同時にギュインッと視線を動かして見つめてきた。

「「今はちょっと黙ってて(くれ)」」

 2人は同じ言葉を発してまたお互いに睨みあうと、再び言い争いを始めた。私はそれを見てため息をついた。

「はぁ。だから、喧嘩するなら私を一旦下ろして…」

 私がそう呟けば、一瞬で視界が変わった。そして、私を抱き抱えている人に目線を向ければ彼はニコッと微笑んだ。

『私を呼んでくださればいいのに』

「いやー、だって…。それにしてもベルナールはなんでもできるね。私を一瞬で移動させるだなんて魔法使いみたい。あと、キャスリーンが持ってるあれって何?」

 キャスリーンが持っている大きな袋を指差せば、大人の体に戻って私を横抱きにしているベルナールはクスクスと笑った。

『あれはエイデン様の引越し用品です。ご主人の様があちらに移動されるなら彼も一緒でないといけませんから』

「ええ、そうなの?なんで?」

 首を傾げて質問すれば、ベルナールは争う2人から距離があるソファーへそっと私を座らせた。

『そうですね。詳しい話は今代のエイデン様が知っていらっしゃいます。説明を聞くなら彼の方がいいでしょう。ですので、しばらくあの2人は放っておいて、ご主人様はぬるめのお茶でも飲まれては?湯上がりで喉も乾いているのではないですか?』

「そうね。そうするわ」

『準備してあります。少しお待ちください』

 ベルナールはニコッと微笑むと私の頭を軽く撫でてから、台所だと思われる部屋に吸い込まれていった。そしてしばらくするとオボンに木製のコップを乗せて戻ってきた。そして私にコップを持たせると、オボンをローテーブルに置いて私の横に座った。

「ケイレブはどこへ行ってるの?」

 今いる空間に見えない兄の行方を聞けば、ベルナールはポリポリと頬を掻いた。

『エイデン様と狩りに行って獲物を仕留めたのが楽しかったようで…。血抜きのやり方を教わって処理した後は狼の姿になり〈もっと大きなやつを狩れば肉もたくさん食べられるよな!〉とルンルンで出かけて行きました』

「あー、やりそう…。あの子ってばまだ幼いところがあるから…」

 16年の付き合いがある兄の行動を容易く想像できた私は苦笑いをしつつ、お茶を一口飲んだ。

「あー、美味しい。にしても、私がディーと離れちゃいけない理由ってなんだろう」

 そう私が呟けば、ベルナールは争ってる2人を見守りながら答えた。

『ご主人様は、エイデン様の伴侶だからですよ』

「え!?伴侶ってあの《伴侶様》!?」

『ええ。そうです。私の母と同じ、伴侶です』

 私が大きな声で叫ぶように言えば、ベルナールはクスクスと笑った。それと同時に争っていた2人がシーンッと静まった。

「そ、それは…どういうことなんだ?ベルーナル様…」

 唖然とし顔のキャスリーンは持っていた大きな袋をドサッと床に落とした。

「ベルナール。この分からず屋に説明してやってくれよ!俺は間違ってないって!」

 そうそう、そうなんだよっとベルナールの言葉を肯定するかのようにディーは頷いた。

「え?つまりどういうこと????」

 話を理解できていない私とキャスリーンが首を傾げると、ベルナールは説明しようと口を開けた。

 が、それと同時に家の玄関がバーンッと音をたてて開き、人型に戻ったケイレブが現れベルナールの声を遮るように話した。

「たっだいまー!みんな見てくれよ!でっかい熊がいた!これだけデカいと血抜きに時間かかるかな?ってなると明日じゃないと無理?なぁ、エイデンどうしたらいいー????熊がデカくて家の中に入れらんないー。なー、早くみてくれよ」

 ケイレブは場の雰囲気を壊しながらも持ち帰った獲物を皆に見せたくて仕方ないといった様子で無邪気に笑った。
 
 
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