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旅の終わり?
やっちゃった
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「…しゅごかった…」
真っ白な毛皮の狼になった私は酔っ払った様な話し方でベッドの上に伏せた。私の体はケイレブよりも小さく、大きさは大型犬くらいだ。牙もあまり出ておらず、見た目は前世の狼そっくりだ。
『ふふふ。その割にはとても激しかったですね』
「いやー!言わないで!」
思い出すと恥ずかしくて、前足で目元を覆えばカラスになったベルナールがクスクスと笑った。
「あれは反則だから。あんなの無理だって。いっぱい急に…あんなの初めてだもん」
『そうですね。ご主人様が可愛らしくてついつい調子にのってしまいました』
「もう…でも…………すごく良かった」
恥ずかしくなってキャーッと言いながら伏せるが、尻尾は正直でブンブンと横に振り振りしまくっている。
『貴方様が望めば、いつでも…』
「え…本当?」
ベルナールが艶っぽい声で私の狼耳に囁けば、私の耳はピクピクと動いた。そして、私の鼻は嗅ぎ覚えがある匂いをキャッチした。
「速報、アレがくる!」
『そうですか。では早速、準備いたしましょう』
ベルナールはところどころ染みができているベットシーツをピカッと光らせて綺麗にした。私は枕に顔を置いて横に寝そべる。その間にベルナールは器用に天蓋のカーテンを下した。
スタンバイオッケーだ。ばっちこい、エロ親父。貴様の欲望をへし折ってやる!
しかし、本当にすごかった…。
【ベル君、赤ちゃんから5歳まで。ぷにぷにクンクン嗅ぎ放題祭りは!!!!】
え?そっちって思いました?むしろどっちだと思ったんですか??エッチな方ですか???
むしろこっち以外の選択肢はありませんよ!
そう、あの時の魅惑的な匂いは赤ちゃん特有の匂いだった。ミルクを飲んでいる赤ちゃんのあのなんとも言えない匂い!
私は前世の時も自分の子供が赤ちゃんの時にあの匂いを知って、虜になった。もう、好きでずっと嗅いでいた。汗臭くなっても何故か子供の匂いって可愛いんだ…。
久々のあの香り。たまらんかった。いい匂いすぎて、涎が止まらなかった。シーツに染みていたのは、もちろん私の涎だ!!!
さっきの出来事を思い出してグフフッとニヤついていると、部屋の扉がバーンッと大きな音を立てて開いた。
「エヴィ!!!」
何故か私の名前を呼び捨てにしている皇帝陛下はベッドがあるところまでズカズカと上がり込んできた。
「お待ちください!」
後ろから焦った様な声が聞こえてくる。ホープ伯爵からしたら部屋の外から聞かせるつもりだったため、焦っているだろう。でも安心して!あの作戦じゃないから!
そんな気持ちで憂いありげに目を伏せてカーテンが開くのを待つ。少し光が入っていきたと同時にゆっくり瞼を上げれば、私の姿を見て驚いている皇帝陛下の顔があった。
「な、なんだ、これは…。彼女をどこへやった!」
皇帝陛下は怒ったような顔になると後ろを振り返り、すごい剣幕でホープ伯爵に怒鳴りつけた。ホープ伯爵はチラッとベッドに目線を送り私の姿を確認すると、目配せで《新たな案だな、わかったぞ》と伝えてきた。
そして、とても焦った声で話し始めた。
「だから申し上げたではないですか!彼女は体調が悪いと!」
「熱だと言っていたではないか!」
「それはそうでも言わなければ、彼女の状態を隠せないからです!まさかここまで押しかけるは…エヴィさん。すまない…」
皇帝陛下の前だからか、最近はエヴィくんだったのに今はエヴィさんになっている。ホープ伯爵も演者のスイッチを入れて熱演を始めるようだ。
私はゆっくり起き上がると、シーツの上にお尻をつけておすわりをした。
「伯爵様。大丈夫です…。いつか知られてしまうと思っていたので…」
狼から私の声が聞こえてきて、皇帝陛下はギョッとした顔になった。今までは偽物を置いていたとでも思っていたのだろう。信じられないものを見るような目になっている。
「ほ、ほ、本当に…エヴィなのか?」
「はい。皇帝陛下にご挨拶申し上げます。せっかく話ができる場を設けてくださっていたのに、私がこのような状態になってしまって…」
「ど、ど、どうしたというのだ!あの可愛らしい姿からそのような…見たところ狼の様な姿だが…」
「普通の狼と全く違いますよね…牙もほとんどありませんし…」
耳を下げ、声で苦笑いをしている様子を演出すれば、皇帝陛下にそれが伝わったのだろう。気まずそうな顔をしていた。そこにホープ伯爵が仕掛け始めた。
「陛下。これは森からの警告でございます」
「なんだと!?」
ホープ伯爵は厳しめな声を出しつつ話を続けた。
「あの日、帰宅後に彼女は湯浴みをして私と一緒に食事を楽しみました。それまでは体の変化もなく元気に過ごしていましたが、翌朝聞こえてきた悲鳴と共に彼女はこの様な姿に…。執事のクリスが駆けつけた時に見たのは、彼女の体を眩い光が覆っていたそうです。おそらく悲鳴とともに光に覆われたようで、その光は数分続きました。これは私も光が弱まり始めた頃合いに駆けつけて確認しております」
「…それが警告だと?」
「はい。左様でございます。彼女が光の中から現れた際に、空に浮いた状態の彼女の口から彼女の声ではないものが語りかけてきたのです」
「なんだと!?」
皇帝陛下は信じられないのか、眉間に皺を寄せている。だが少しだけ手が震えていた。ホープ伯爵はなお厳しい声で話を続けた。
「彼女はこう言いました。《我の愛する子をいつまでここに置いておくのだ。人の子よ、お前達の争いは知っておるが我が愛し子の歩みを止める権利はお前達にはない。この子を姿を変えたのは、お前達からこの子を守るためだ。欲深い人の子よ。お前の考えていることは手に取るようにわかるぞ。この子にこの国の娘を1人連れてくるように頼んだが、お前達はその娘をダシに争いを始めたな。この子のために用意した子を壊そうとしたな。それも許し難いというのに、愛し子を穢そうなど笑止千万。邪な気がなくなるまでこの子の姿はこのままだ。邪な気に悟られぬように浄化せよ。そして、この子を人の体に戻してから森へ送り出せ。できなければこの国の未来はない》そういうと、彼女は気を失いベッドに倒れました」
「…………」
「陛下、よもやエヴィさんを閨に呼ぼうなどど考えていらっしゃいませんでしたよね?」
ホープ伯爵はわかりきっていることを質問したが、皇帝陛下は隠しているつもりだったようにギクリと肩を揺らした。
「はぁぁ。皇帝陛下、貴方様の行いによりこの国が森の鉄槌を受けてもおかしくない状況となりました。ですから、私はずっとお諌めしたではありませんか!彼女と2人っきりで話をしたいなどの要望は受けつけられないと!森の神託では邪なものに気づかれないようにとのことでしたので、先ほどの話は私からご報告ができませんでした。ご報告した上でお止めすればきっと陛下はやめてくださったはず。ですが、それが許されない状態で陛下をお止めしなければ彼女の姿はこのまま。ですから、私なりに警告をしていたのです」
「…だからか…」
「彼女を救えるのは陛下のお心次第でございます。どうか、今お考えのこと全て、これからやろうと考えていること全て、おやめください。我々は見られております」
(ホープ伯爵ってばそんな神託のお話を何処から拾ってきたんですか?え?あ、ベルナールさんがシナリオを考えて教えていたと。さすが、一家に1匹ベルナールですね!)
心の中で疑問を呟けば、ベルナールの声が頭の中に響いた。ある意味通信魔道具なしでできる通信をされながら、私もベルナール案のシナリオにのっかかることにした。
「皇帝陛下…」
私が弱々しい声で話しかければ、彼はバッと目線を私に向けた。そして、上から下まで確認するような目線を向けると唇をワナワナと震えさせて話し始めた。
「わ、わ、わ、我は。何も悪くない!」
そういうと皇帝陛下はこの場から逃げ出そうと踵を返した。そのタイミングで私の近くで佇んでいたベルナールの嘴が開いた。
『何処へゆく』
ベルナールの声は男でも女でもない不思議な声をしていた。その声を聞いた瞬間に皇帝陛下の足が動かなくなった。彼は足を動かそうともがいているが、足の裏が地面にくっついたかのように動かない。焦った顔で後ろを振り返った皇帝陛下は怯えたような顔になった。
「ヒィッ」
情けない声を出した皇帝陛下は、その場にドスンッと音を立てて座り込んだ。だが顔はこちらに向けたまま動かなさい。いや、動かせないようだ。涙や鼻水が出てきて、汚い顔でこちらを見ている。
『お前だな。我の可愛い愛し子を穢そうとしたのは』
「ヒィイイイイ!違うのです!この娘が先に私を誘惑したのです!」
「そ、そんな!?私はそんなことをしておりません!」
私が悲壮感たっぷりに反論すれば、皇帝陛下は声をひっくり返しながら反論してきた。
「お主が我をあのような目で見てきたからだろう!」
「あの様なとはなんでしょうか!私は…私は…皇女殿下を思う皇帝陛下のご様子が故郷で別れた父上と似ていたから…だから…」
「エヴィさんは父上を思う気持ちで故郷に想いを馳せてたのだね」
「そうです!私の様なものが皇帝陛下にその、その様な肉欲なんて覚えるわけがありません!」
私の言葉に皇帝陛下の何かがポキリと折れたのか、涙と鼻水にプラスして血走った目でこちらを見てきた。
「嘘をつくな!我が悪いというのか!女はいつも乳や尻を見せつけ、我に抱かれたい、子種をどうか注いでくれと誘惑してくるではないか。お前の目もあれらと同じであったぞ!我に抱かれたい、子種を注ぎ子供をと!」
皇帝陛下は口から涎を飛ばすほどの勢いで話をすると、ハァハァと肩で息をし始めた。
『だからなんだというのだ』
ベルナールは心底呆れた声で話すと、床に座り込んでいる皇帝陛下のところまで飛び立った。皇帝陛下の震える右膝に止まると、皇帝陛下の体を勝手に動かして彼の体をこちらに向けさせた。
「ヒィィィィ。お許しください」
皇帝陛下は怯えながら自分では動かせない体を動かされ、顔面蒼白だ。
『私の可愛い愛し子がなんだと?もう一度我が理解できるように話してみよ』
十字架に磔にされた罪人の様に、皇帝陛下の体勢を変えて宙ぶらりんに浮かせるとベルナールは私のところに飛んでくると、私を庇うようにベッドの上におりた。
(あれ?ベルナールの目がちょっと白っぽい気がする。あれも演出かな)
飛んできた時に見えたものに疑問を持ちつつも、漂ってきた匂いを感じ私はクンクンッと鼻を動かした。
皇帝陛下は無理矢理こちらに目線を向けさせられている。先ほどまでの勢いはなく、よく見ればズボンの股間付近の服の色が濃くなっていた。
なんと、皇帝陛下はお漏らしをしたようだ。そりゃ匂いがする。ヤダヤダ。
『お前の考えていることは手に取るようにわかるぞ。ジョナサン』
私が臭い臭いと鼻を前足で擦っている間もベルナールのシナリオは進んでいる。彼の言葉に皇帝陛下はさらに体を震えさせ始めた。
「ヒィ」
皇帝陛下の名前はジョナサンらしい。私は知らなかった情報にへーっといった顔になると、ホープ伯爵から目線で《演技演技》と気が抜けていることを指摘された。おっとっとと気を引き締めて、引き続き神秘の森(ベルナール)に庇われる乙女を演じることにした。
「神秘の森様…。私のようなもののために、皇帝陛下をそのように…」
『何を言っておる、我の愛し子よ。こやつは其方の乙女を無理矢理散らそうとしたのだぞ?』
「し、しかし。それはきっと一時の迷いでございます。私の様な小娘など皇帝陛下が相手になさるわけがございません」
私のセリフを聞いて、皇帝陛下は助かった!っと言った顔で同意の意味を込めてうなづいている。その様子を見てベルナールは鼻で笑った。
『ジョナサン。お主は自分の娘より若い女子とよく戯れておるではないか。そうだな、この前は14?13?だったか…平民の少女であったな。いやがる少女を襲っておった』
「な、な、な、なんでそれを…」
やっぱりこの皇帝陛下、サイテーである。
私が怒った顔になれば、ホープ伯爵は初耳だったようで驚いた顔になった後にこちらも怒った顔になった。
「陛下!今のお話は誠でございますか!」
ホープ伯爵の怒り声に皇帝陛下はビクッと体を震わせると、プイッと顔を逸らした。首から上は動かせる様になっているようだ。
「…我の色の子を孕めそうな色をしておったのだ。キャスリーンの母親のように銀髪をしておったからな」
皇帝陛下はそっぽを向きながら拗ねた子供のような声で話をした。ホープ伯爵は怒りでワナワナと震えている。
『そうか。お前は色が欲しいのだったな。よかろう。お前の望みを叶えてやる』
ベルナールはそういうとバサッと音を立てて、飛び上がった。そして嘴を開けるとレーザー光線の様な光を皇帝陛下の額に向かって放った。
「う、うううう、ああああ!」
痛みがあるのか身を捩ってレーザービームを受ける皇帝陛下を見ながら、私は心で「いいぞいいぞ」をベルナールに声援を送った。同じ光景を見ているホープ伯爵も同じ気持ちのようで、少し楽しそうな顔でその光景を見ている。
『お前の子孫はこれから先、婚姻した相手としか子ができぬ。そうだな。婚約する際には森の入り口まで来て我に報告でもすれば良い。うむ、祭りのように踊りや宴をすれば国民も喜ぶだろう。ああ、そして生まれてくる子供は皆お前と同じ色だ。これが望みであろう?よかったな』
皇帝陛下に何かをしたベルナールはパサパサと音を立てて、また私の近くに降り立った。
「…う、うう…」
『我は親切だからな。お前の1番上の子供とその子供の子供。お前と同じ色に変えてやったぞ。よかったな』
これがお前の望みなのだろうっと小馬鹿にしたように話すと、ベルナールは毛繕いをするふりを始めた。
体が痛むのか皇帝陛下は呻き声をあげている。ホープ伯爵はここでさらに追い討ちをかけ始めた。
「神秘の森様。この度は森様が選ばれた守り手様を害することになり、大変申し訳ございませんでした」
ホープ伯爵はぺこりと頭を下げると同時に床に土下座のように突っ伏した。
「森様。お願いでございます。我が国の第3皇女殿下の行方を教えてくださいませ!本当に彼女も守り手様になったのでございますか!?」
ホープ伯爵の言葉に皇帝陛下はピクリと体を震わせた。
『ふむ、キャスリーンのことか?』
「左様でございます。この度の戦は皇女殿下の行方が確定できず、陛下の親心が暴走して仕掛けたもの。皇女殿下は無事であると分かれば、陛下もこの戦を終らせるはずでございます。なぜなら、あちらの国に皇女殿下が攫われてしまったと焦った故に愚かな判断を下しただけなのです」
ホープ伯爵の最もらしい言葉に、皇帝陛下は気まずそうな顔で聞いている。本当はそうではないのにという顔だ。
ベルナールは話を聞きながらもジッと皇帝陛下の顔を見つめた。皇帝陛下はベルナールの視線に気がつくと、ビクッと体を震わせた。
『面白いことをいう。この男は私利私欲でしか動かんやつだ。キャスリーンが無事であろうが、なかろうが、今更この戦をやめはせぬ』
「そんな!へ、陛下!?そんなことはございませんよね?」
ホープ伯爵が磔にされて浮いている皇帝陛下に縋るように声をかければ、皇帝陛下はううううっと唸っていた。
『本当にやめるのか?やめるのならば、代償をもらえれば我が戦をやめさせてやろう』
「だ、だい、しょうでございますか?」
ホープ伯爵がすがるような目でベルナールを見れば、彼はニヤリと笑った。
『ジョナサンの、そうそう。3番目の足だったか。それを折ってしまうのが代償だ』
「…そ、それで戦を止めてくださるのですか!?」
「な、なんだそれは!?」
ベルナールは皮肉たっぷりの声だが、何だか楽しくて仕方ないと面白がっているようだ。そして、ベルナールの白っぽく見える目が弓形に弧を描いてるようにも見えた。
ホープ伯爵は何のことかわかっているのだろう。少しニヤつくのを抑えつつも、焦りと希望を含めたような声をしている。唇が笑いを堪えて震えてるのが、驚異的な力に恐れ身を震わせてるようにも見える。うまい演出だ。
皇帝陛下はなんのことかさっぱりわからないようで、動かせる首を動かしてホープ伯爵とベルナールを交互に見つめていた。
「お願い申し上げます。皇帝陛下がこれ以上、罪を犯さずとも良いように。心優しく柔軟な考えを持つ彼をお止めください」
「お、おま!?やめろ!何かわからんが、やめろ!!!命令だ!!!」
「陛下!これ以上民の血や涙を流す必要はございません!皇女殿下は無事であり、皇帝陛下が願っていた色はずっと続きます。これ以上戦う必要はないはずでございます!違いますか?」
「ええい!そんなことはどうでも良い。我はやりたい事をやれれば良いのだ。お前が勝手に決めるでない!」
皇帝陛下はまた血走った目で喚き散らかし始めた。ホープ伯爵は皇帝陛下の言葉を聞いて信じられないと目を見開く演技を熱演中だ。
ベルナールは2人の会話を聞いて普段なら絶対にそんな笑みをしないのに、ニターとした笑顔になった。
『おもしろい。おもしろい。人間とは何故にこのように欲深いのか。誰が教えたというわけでもないのに、すぐに邪なものを生み出す。だから常に我は言っておるのに、何故アレらはわからぬか。…………ん、ああ。ごめん。あっ、うん。やめるやめる。わかったからそれ取らないでよー』
威厳ある話し方から急に口調が変わり、この場にいた私含める3人はポカンとした。ベルナールは両羽を合わせて何かに『ごめんごめん』と謝っている。
『ああ、もう。せっかく楽しかったのに、はぁ、とにかく!早く守り手を森に寄越してよね。ほんっと忙しいんだから。はい、この争いも終わり終わり。はいはい、ぴーっとな。あっ、ちゃんとこの国のために第3の足…プププ。足だって。プププ。本当に君は見てて飽きないよ。アレは自分で考えたの?それとも前から知ってたの?幸運Sってそこにも影響してる?……あっ、はい。ごめんって。今やめるから。待って待って!勝手に切らないでよ!ああああ、まだセ』
プツンッと音がしそうなほど急に音が消えると同時にベルナールの嘴からまた光線が出た。それは皇帝陛下の股間に真っ直ぐ向かっていき、彼が痛みでうめき声をあげた頃に光が消えてベルナールの体がポタリとベッドに倒れた。
彼は意識がないのかピクリとも動かない。
しばらく無音が部屋の中を支配した。皇帝陛下は痛みで気絶したようだ。
私とホープ伯爵はお互いに見つめあって瞬きをしあった。
そして、その頃に沈黙を破るように部屋の扉が開いた。
「お、お、おわった、のか?」
不安げな顔でキャスリーンが部屋を覗き込んできた。
「妹よ。生きてるかー?」
その後ろからケイレブがぴょこっと眠たそうな顔を出してくる。
それを見て私とホープ伯爵は同時に体の力が抜けた。
「は、はは、ははは」
「ふ、ふ、ふふふ」
私とホープ伯爵が同時に笑い始めるのを扉の2人はお互いに目を見合わせて首を傾げた。そんな2人を横目に私とホープ伯爵は大声を出した。
「「あーはっはっはっはっ!」」
私達の笑い声は、屋敷中にこだました。
真っ白な毛皮の狼になった私は酔っ払った様な話し方でベッドの上に伏せた。私の体はケイレブよりも小さく、大きさは大型犬くらいだ。牙もあまり出ておらず、見た目は前世の狼そっくりだ。
『ふふふ。その割にはとても激しかったですね』
「いやー!言わないで!」
思い出すと恥ずかしくて、前足で目元を覆えばカラスになったベルナールがクスクスと笑った。
「あれは反則だから。あんなの無理だって。いっぱい急に…あんなの初めてだもん」
『そうですね。ご主人様が可愛らしくてついつい調子にのってしまいました』
「もう…でも…………すごく良かった」
恥ずかしくなってキャーッと言いながら伏せるが、尻尾は正直でブンブンと横に振り振りしまくっている。
『貴方様が望めば、いつでも…』
「え…本当?」
ベルナールが艶っぽい声で私の狼耳に囁けば、私の耳はピクピクと動いた。そして、私の鼻は嗅ぎ覚えがある匂いをキャッチした。
「速報、アレがくる!」
『そうですか。では早速、準備いたしましょう』
ベルナールはところどころ染みができているベットシーツをピカッと光らせて綺麗にした。私は枕に顔を置いて横に寝そべる。その間にベルナールは器用に天蓋のカーテンを下した。
スタンバイオッケーだ。ばっちこい、エロ親父。貴様の欲望をへし折ってやる!
しかし、本当にすごかった…。
【ベル君、赤ちゃんから5歳まで。ぷにぷにクンクン嗅ぎ放題祭りは!!!!】
え?そっちって思いました?むしろどっちだと思ったんですか??エッチな方ですか???
むしろこっち以外の選択肢はありませんよ!
そう、あの時の魅惑的な匂いは赤ちゃん特有の匂いだった。ミルクを飲んでいる赤ちゃんのあのなんとも言えない匂い!
私は前世の時も自分の子供が赤ちゃんの時にあの匂いを知って、虜になった。もう、好きでずっと嗅いでいた。汗臭くなっても何故か子供の匂いって可愛いんだ…。
久々のあの香り。たまらんかった。いい匂いすぎて、涎が止まらなかった。シーツに染みていたのは、もちろん私の涎だ!!!
さっきの出来事を思い出してグフフッとニヤついていると、部屋の扉がバーンッと大きな音を立てて開いた。
「エヴィ!!!」
何故か私の名前を呼び捨てにしている皇帝陛下はベッドがあるところまでズカズカと上がり込んできた。
「お待ちください!」
後ろから焦った様な声が聞こえてくる。ホープ伯爵からしたら部屋の外から聞かせるつもりだったため、焦っているだろう。でも安心して!あの作戦じゃないから!
そんな気持ちで憂いありげに目を伏せてカーテンが開くのを待つ。少し光が入っていきたと同時にゆっくり瞼を上げれば、私の姿を見て驚いている皇帝陛下の顔があった。
「な、なんだ、これは…。彼女をどこへやった!」
皇帝陛下は怒ったような顔になると後ろを振り返り、すごい剣幕でホープ伯爵に怒鳴りつけた。ホープ伯爵はチラッとベッドに目線を送り私の姿を確認すると、目配せで《新たな案だな、わかったぞ》と伝えてきた。
そして、とても焦った声で話し始めた。
「だから申し上げたではないですか!彼女は体調が悪いと!」
「熱だと言っていたではないか!」
「それはそうでも言わなければ、彼女の状態を隠せないからです!まさかここまで押しかけるは…エヴィさん。すまない…」
皇帝陛下の前だからか、最近はエヴィくんだったのに今はエヴィさんになっている。ホープ伯爵も演者のスイッチを入れて熱演を始めるようだ。
私はゆっくり起き上がると、シーツの上にお尻をつけておすわりをした。
「伯爵様。大丈夫です…。いつか知られてしまうと思っていたので…」
狼から私の声が聞こえてきて、皇帝陛下はギョッとした顔になった。今までは偽物を置いていたとでも思っていたのだろう。信じられないものを見るような目になっている。
「ほ、ほ、本当に…エヴィなのか?」
「はい。皇帝陛下にご挨拶申し上げます。せっかく話ができる場を設けてくださっていたのに、私がこのような状態になってしまって…」
「ど、ど、どうしたというのだ!あの可愛らしい姿からそのような…見たところ狼の様な姿だが…」
「普通の狼と全く違いますよね…牙もほとんどありませんし…」
耳を下げ、声で苦笑いをしている様子を演出すれば、皇帝陛下にそれが伝わったのだろう。気まずそうな顔をしていた。そこにホープ伯爵が仕掛け始めた。
「陛下。これは森からの警告でございます」
「なんだと!?」
ホープ伯爵は厳しめな声を出しつつ話を続けた。
「あの日、帰宅後に彼女は湯浴みをして私と一緒に食事を楽しみました。それまでは体の変化もなく元気に過ごしていましたが、翌朝聞こえてきた悲鳴と共に彼女はこの様な姿に…。執事のクリスが駆けつけた時に見たのは、彼女の体を眩い光が覆っていたそうです。おそらく悲鳴とともに光に覆われたようで、その光は数分続きました。これは私も光が弱まり始めた頃合いに駆けつけて確認しております」
「…それが警告だと?」
「はい。左様でございます。彼女が光の中から現れた際に、空に浮いた状態の彼女の口から彼女の声ではないものが語りかけてきたのです」
「なんだと!?」
皇帝陛下は信じられないのか、眉間に皺を寄せている。だが少しだけ手が震えていた。ホープ伯爵はなお厳しい声で話を続けた。
「彼女はこう言いました。《我の愛する子をいつまでここに置いておくのだ。人の子よ、お前達の争いは知っておるが我が愛し子の歩みを止める権利はお前達にはない。この子を姿を変えたのは、お前達からこの子を守るためだ。欲深い人の子よ。お前の考えていることは手に取るようにわかるぞ。この子にこの国の娘を1人連れてくるように頼んだが、お前達はその娘をダシに争いを始めたな。この子のために用意した子を壊そうとしたな。それも許し難いというのに、愛し子を穢そうなど笑止千万。邪な気がなくなるまでこの子の姿はこのままだ。邪な気に悟られぬように浄化せよ。そして、この子を人の体に戻してから森へ送り出せ。できなければこの国の未来はない》そういうと、彼女は気を失いベッドに倒れました」
「…………」
「陛下、よもやエヴィさんを閨に呼ぼうなどど考えていらっしゃいませんでしたよね?」
ホープ伯爵はわかりきっていることを質問したが、皇帝陛下は隠しているつもりだったようにギクリと肩を揺らした。
「はぁぁ。皇帝陛下、貴方様の行いによりこの国が森の鉄槌を受けてもおかしくない状況となりました。ですから、私はずっとお諌めしたではありませんか!彼女と2人っきりで話をしたいなどの要望は受けつけられないと!森の神託では邪なものに気づかれないようにとのことでしたので、先ほどの話は私からご報告ができませんでした。ご報告した上でお止めすればきっと陛下はやめてくださったはず。ですが、それが許されない状態で陛下をお止めしなければ彼女の姿はこのまま。ですから、私なりに警告をしていたのです」
「…だからか…」
「彼女を救えるのは陛下のお心次第でございます。どうか、今お考えのこと全て、これからやろうと考えていること全て、おやめください。我々は見られております」
(ホープ伯爵ってばそんな神託のお話を何処から拾ってきたんですか?え?あ、ベルナールさんがシナリオを考えて教えていたと。さすが、一家に1匹ベルナールですね!)
心の中で疑問を呟けば、ベルナールの声が頭の中に響いた。ある意味通信魔道具なしでできる通信をされながら、私もベルナール案のシナリオにのっかかることにした。
「皇帝陛下…」
私が弱々しい声で話しかければ、彼はバッと目線を私に向けた。そして、上から下まで確認するような目線を向けると唇をワナワナと震えさせて話し始めた。
「わ、わ、わ、我は。何も悪くない!」
そういうと皇帝陛下はこの場から逃げ出そうと踵を返した。そのタイミングで私の近くで佇んでいたベルナールの嘴が開いた。
『何処へゆく』
ベルナールの声は男でも女でもない不思議な声をしていた。その声を聞いた瞬間に皇帝陛下の足が動かなくなった。彼は足を動かそうともがいているが、足の裏が地面にくっついたかのように動かない。焦った顔で後ろを振り返った皇帝陛下は怯えたような顔になった。
「ヒィッ」
情けない声を出した皇帝陛下は、その場にドスンッと音を立てて座り込んだ。だが顔はこちらに向けたまま動かなさい。いや、動かせないようだ。涙や鼻水が出てきて、汚い顔でこちらを見ている。
『お前だな。我の可愛い愛し子を穢そうとしたのは』
「ヒィイイイイ!違うのです!この娘が先に私を誘惑したのです!」
「そ、そんな!?私はそんなことをしておりません!」
私が悲壮感たっぷりに反論すれば、皇帝陛下は声をひっくり返しながら反論してきた。
「お主が我をあのような目で見てきたからだろう!」
「あの様なとはなんでしょうか!私は…私は…皇女殿下を思う皇帝陛下のご様子が故郷で別れた父上と似ていたから…だから…」
「エヴィさんは父上を思う気持ちで故郷に想いを馳せてたのだね」
「そうです!私の様なものが皇帝陛下にその、その様な肉欲なんて覚えるわけがありません!」
私の言葉に皇帝陛下の何かがポキリと折れたのか、涙と鼻水にプラスして血走った目でこちらを見てきた。
「嘘をつくな!我が悪いというのか!女はいつも乳や尻を見せつけ、我に抱かれたい、子種をどうか注いでくれと誘惑してくるではないか。お前の目もあれらと同じであったぞ!我に抱かれたい、子種を注ぎ子供をと!」
皇帝陛下は口から涎を飛ばすほどの勢いで話をすると、ハァハァと肩で息をし始めた。
『だからなんだというのだ』
ベルナールは心底呆れた声で話すと、床に座り込んでいる皇帝陛下のところまで飛び立った。皇帝陛下の震える右膝に止まると、皇帝陛下の体を勝手に動かして彼の体をこちらに向けさせた。
「ヒィィィィ。お許しください」
皇帝陛下は怯えながら自分では動かせない体を動かされ、顔面蒼白だ。
『私の可愛い愛し子がなんだと?もう一度我が理解できるように話してみよ』
十字架に磔にされた罪人の様に、皇帝陛下の体勢を変えて宙ぶらりんに浮かせるとベルナールは私のところに飛んでくると、私を庇うようにベッドの上におりた。
(あれ?ベルナールの目がちょっと白っぽい気がする。あれも演出かな)
飛んできた時に見えたものに疑問を持ちつつも、漂ってきた匂いを感じ私はクンクンッと鼻を動かした。
皇帝陛下は無理矢理こちらに目線を向けさせられている。先ほどまでの勢いはなく、よく見ればズボンの股間付近の服の色が濃くなっていた。
なんと、皇帝陛下はお漏らしをしたようだ。そりゃ匂いがする。ヤダヤダ。
『お前の考えていることは手に取るようにわかるぞ。ジョナサン』
私が臭い臭いと鼻を前足で擦っている間もベルナールのシナリオは進んでいる。彼の言葉に皇帝陛下はさらに体を震えさせ始めた。
「ヒィ」
皇帝陛下の名前はジョナサンらしい。私は知らなかった情報にへーっといった顔になると、ホープ伯爵から目線で《演技演技》と気が抜けていることを指摘された。おっとっとと気を引き締めて、引き続き神秘の森(ベルナール)に庇われる乙女を演じることにした。
「神秘の森様…。私のようなもののために、皇帝陛下をそのように…」
『何を言っておる、我の愛し子よ。こやつは其方の乙女を無理矢理散らそうとしたのだぞ?』
「し、しかし。それはきっと一時の迷いでございます。私の様な小娘など皇帝陛下が相手になさるわけがございません」
私のセリフを聞いて、皇帝陛下は助かった!っと言った顔で同意の意味を込めてうなづいている。その様子を見てベルナールは鼻で笑った。
『ジョナサン。お主は自分の娘より若い女子とよく戯れておるではないか。そうだな、この前は14?13?だったか…平民の少女であったな。いやがる少女を襲っておった』
「な、な、な、なんでそれを…」
やっぱりこの皇帝陛下、サイテーである。
私が怒った顔になれば、ホープ伯爵は初耳だったようで驚いた顔になった後にこちらも怒った顔になった。
「陛下!今のお話は誠でございますか!」
ホープ伯爵の怒り声に皇帝陛下はビクッと体を震わせると、プイッと顔を逸らした。首から上は動かせる様になっているようだ。
「…我の色の子を孕めそうな色をしておったのだ。キャスリーンの母親のように銀髪をしておったからな」
皇帝陛下はそっぽを向きながら拗ねた子供のような声で話をした。ホープ伯爵は怒りでワナワナと震えている。
『そうか。お前は色が欲しいのだったな。よかろう。お前の望みを叶えてやる』
ベルナールはそういうとバサッと音を立てて、飛び上がった。そして嘴を開けるとレーザー光線の様な光を皇帝陛下の額に向かって放った。
「う、うううう、ああああ!」
痛みがあるのか身を捩ってレーザービームを受ける皇帝陛下を見ながら、私は心で「いいぞいいぞ」をベルナールに声援を送った。同じ光景を見ているホープ伯爵も同じ気持ちのようで、少し楽しそうな顔でその光景を見ている。
『お前の子孫はこれから先、婚姻した相手としか子ができぬ。そうだな。婚約する際には森の入り口まで来て我に報告でもすれば良い。うむ、祭りのように踊りや宴をすれば国民も喜ぶだろう。ああ、そして生まれてくる子供は皆お前と同じ色だ。これが望みであろう?よかったな』
皇帝陛下に何かをしたベルナールはパサパサと音を立てて、また私の近くに降り立った。
「…う、うう…」
『我は親切だからな。お前の1番上の子供とその子供の子供。お前と同じ色に変えてやったぞ。よかったな』
これがお前の望みなのだろうっと小馬鹿にしたように話すと、ベルナールは毛繕いをするふりを始めた。
体が痛むのか皇帝陛下は呻き声をあげている。ホープ伯爵はここでさらに追い討ちをかけ始めた。
「神秘の森様。この度は森様が選ばれた守り手様を害することになり、大変申し訳ございませんでした」
ホープ伯爵はぺこりと頭を下げると同時に床に土下座のように突っ伏した。
「森様。お願いでございます。我が国の第3皇女殿下の行方を教えてくださいませ!本当に彼女も守り手様になったのでございますか!?」
ホープ伯爵の言葉に皇帝陛下はピクリと体を震わせた。
『ふむ、キャスリーンのことか?』
「左様でございます。この度の戦は皇女殿下の行方が確定できず、陛下の親心が暴走して仕掛けたもの。皇女殿下は無事であると分かれば、陛下もこの戦を終らせるはずでございます。なぜなら、あちらの国に皇女殿下が攫われてしまったと焦った故に愚かな判断を下しただけなのです」
ホープ伯爵の最もらしい言葉に、皇帝陛下は気まずそうな顔で聞いている。本当はそうではないのにという顔だ。
ベルナールは話を聞きながらもジッと皇帝陛下の顔を見つめた。皇帝陛下はベルナールの視線に気がつくと、ビクッと体を震わせた。
『面白いことをいう。この男は私利私欲でしか動かんやつだ。キャスリーンが無事であろうが、なかろうが、今更この戦をやめはせぬ』
「そんな!へ、陛下!?そんなことはございませんよね?」
ホープ伯爵が磔にされて浮いている皇帝陛下に縋るように声をかければ、皇帝陛下はううううっと唸っていた。
『本当にやめるのか?やめるのならば、代償をもらえれば我が戦をやめさせてやろう』
「だ、だい、しょうでございますか?」
ホープ伯爵がすがるような目でベルナールを見れば、彼はニヤリと笑った。
『ジョナサンの、そうそう。3番目の足だったか。それを折ってしまうのが代償だ』
「…そ、それで戦を止めてくださるのですか!?」
「な、なんだそれは!?」
ベルナールは皮肉たっぷりの声だが、何だか楽しくて仕方ないと面白がっているようだ。そして、ベルナールの白っぽく見える目が弓形に弧を描いてるようにも見えた。
ホープ伯爵は何のことかわかっているのだろう。少しニヤつくのを抑えつつも、焦りと希望を含めたような声をしている。唇が笑いを堪えて震えてるのが、驚異的な力に恐れ身を震わせてるようにも見える。うまい演出だ。
皇帝陛下はなんのことかさっぱりわからないようで、動かせる首を動かしてホープ伯爵とベルナールを交互に見つめていた。
「お願い申し上げます。皇帝陛下がこれ以上、罪を犯さずとも良いように。心優しく柔軟な考えを持つ彼をお止めください」
「お、おま!?やめろ!何かわからんが、やめろ!!!命令だ!!!」
「陛下!これ以上民の血や涙を流す必要はございません!皇女殿下は無事であり、皇帝陛下が願っていた色はずっと続きます。これ以上戦う必要はないはずでございます!違いますか?」
「ええい!そんなことはどうでも良い。我はやりたい事をやれれば良いのだ。お前が勝手に決めるでない!」
皇帝陛下はまた血走った目で喚き散らかし始めた。ホープ伯爵は皇帝陛下の言葉を聞いて信じられないと目を見開く演技を熱演中だ。
ベルナールは2人の会話を聞いて普段なら絶対にそんな笑みをしないのに、ニターとした笑顔になった。
『おもしろい。おもしろい。人間とは何故にこのように欲深いのか。誰が教えたというわけでもないのに、すぐに邪なものを生み出す。だから常に我は言っておるのに、何故アレらはわからぬか。…………ん、ああ。ごめん。あっ、うん。やめるやめる。わかったからそれ取らないでよー』
威厳ある話し方から急に口調が変わり、この場にいた私含める3人はポカンとした。ベルナールは両羽を合わせて何かに『ごめんごめん』と謝っている。
『ああ、もう。せっかく楽しかったのに、はぁ、とにかく!早く守り手を森に寄越してよね。ほんっと忙しいんだから。はい、この争いも終わり終わり。はいはい、ぴーっとな。あっ、ちゃんとこの国のために第3の足…プププ。足だって。プププ。本当に君は見てて飽きないよ。アレは自分で考えたの?それとも前から知ってたの?幸運Sってそこにも影響してる?……あっ、はい。ごめんって。今やめるから。待って待って!勝手に切らないでよ!ああああ、まだセ』
プツンッと音がしそうなほど急に音が消えると同時にベルナールの嘴からまた光線が出た。それは皇帝陛下の股間に真っ直ぐ向かっていき、彼が痛みでうめき声をあげた頃に光が消えてベルナールの体がポタリとベッドに倒れた。
彼は意識がないのかピクリとも動かない。
しばらく無音が部屋の中を支配した。皇帝陛下は痛みで気絶したようだ。
私とホープ伯爵はお互いに見つめあって瞬きをしあった。
そして、その頃に沈黙を破るように部屋の扉が開いた。
「お、お、おわった、のか?」
不安げな顔でキャスリーンが部屋を覗き込んできた。
「妹よ。生きてるかー?」
その後ろからケイレブがぴょこっと眠たそうな顔を出してくる。
それを見て私とホープ伯爵は同時に体の力が抜けた。
「は、はは、ははは」
「ふ、ふ、ふふふ」
私とホープ伯爵が同時に笑い始めるのを扉の2人はお互いに目を見合わせて首を傾げた。そんな2人を横目に私とホープ伯爵は大声を出した。
「「あーはっはっはっはっ!」」
私達の笑い声は、屋敷中にこだました。
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