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はじまり
気がついたら3日経ってました
しおりを挟むあれも作ろう、欲しいの私は~♪
それもこれも何でも作ろう!自分のために~♪
適当に歌詞を作って前世の記憶にある歌に合わせて歌えば、気分はノリノリ!
きっひひひと時々魔女のような声で笑いつつ自分が欲しい便利道具を作り上げながら過ごしていたら、あっという間に3日経っていた。
「エヴィ様!エヴィ様!もう出発のお時間ですよ!」
アメリアにドンドンと扉をたたかれ、ドアノブをガチャガチャと回されるが私の研修室は私以外開けることはできない。鍵は私だけが持っているからだ。
「ヒヒヒ、コレも入っちゃう。グヒヒ」
大きめに作ったウエストポーチを魔改造(もうなんでも入るアイテムボックスよ!)し、キャンプ道具達を詰め込みながらニヤニヤしていると、私の足元にいたケイレブが声をかけてきた。
「アオーン(おーい、エヴィ)」
「グヒヒ、なんだい。ケイレブよ」
「ガオガオ(出発しないと呪いのおかわり来るんじゃね?)」
「ヒヒヒ、呪いのおかわり…おかわ…り」
「ガウー、ガウガウ(あーあ、行かなきゃ明日にはもうこの国滅ぶかもなー)」
「ハッ!オクニメツボウ、ダメ、ゼッタイ」
ブンブンと首を横に振って正気に戻った私は目の前にあったウエストポーチを腰につけて椅子から立ち上がった。
本日の服装はパンツスタイルだ。乗馬用の服を魔改造。ジャケットの内ポケットも増やした。よく使う魔道具は身につけておいた方がいいからだ。旅の間は基本このスタイルで通す予定だ。
私の発言力が認められた頃にコルセットを使用するドレスは撤廃し、ゆったりとしたエンパイアスタイル推しにした事でドレス生活も楽になった。
それまでは前世のロココ時代ドレスのようなスタイルだった。
下にパニエ(バスケット状の下着)を装着し、コルセットで締め上げ、胸元にストマッカー(胸にあてた三角形の胸当て)を差し込しこんでるあのスタイルだ。
おっぱいが盛り上がって見えるあのドレス。あれはあれで素敵なのだが…。
洋服に慣れしたんだ記憶があるため、コルセットで苦しい思いを毎日するなんて悪夢だ。だから私はコルセット無しのドレスを専属裁縫師に作ってもらい、親族の大人の女性達に試着させまくった。
初めは『えー』という顔をされたが、お試しさせればすぐに体が楽なことに気がつく。彼女達が喜んだ事で、私は国全体にコルセットを撤廃させようと目論んだ。
書類にメリットデメリット。試着した女性達の喜び。
議会の会議で【コルセットがない→脱がせやすい→子作り励みやすい】というルートで認められたと聞いた時は『子孫残す事だけが公族の役割じゃねーぞ、禿げどもぉ!』と殴り込みに行ったのもいい思い出だ。
「さて、目指せ、半年以内に神秘の森へ!ケイレブ用のカッパもあるし…雨の中でも強行軍でいくわよ!」
「ガウー…(えー)」
「つべこべ言ってないで行くわよ!遅れたらおかわりきちゃう!」
床にペタリと伏せているケイレブの頭を撫でながら笑えば、彼はハァっとため息をついて起き上がった。
「ガウー…ガウガウ(全く…遅れそうになったのは俺のせいじゃないっての)」
「ん?なんだって?」
「ガウ(なんでもないです)」
ボソリと呟いているケイレブに笑顔で声をかければ、プルプルと首を横に振って彼は起き上がって歩き始めた。私はユラユラと不機嫌そうに揺れる彼の尻尾を見つめてから、後ろを振り返った。
目に飛び込んでくるのは今までの作品や魔道具のために集めた本。私の人生が詰まったような部屋の光景だった。
(ハッピーバースデーエヴィ。さようなら。私が生きた証達)
光景を目に焼き付けてから軽く頭を下げて、私は扉の鍵を開けて部屋から出た。ケイレブが部屋から廊下に出たのを確認し、しっかりと鍵をかけた。
「エヴィ様、ケイレブ様。御出立」
パンパカパーンっとラッパが鳴り響き、城の門が開くと城外には国民が集まってきていた。私とケイレブが門の外に出れば、彼らは私たちに声をかけてきた。
『キャー、ケイレブ様よぉ。素敵なモフモフ毛皮だわ』
『エヴィ様、ケイレブ様!頑張ってください』
『ワンワン、またねぇ』
『お帰りをお待ちしてます』
どの言葉も前向きな言葉であり、皆が私達を励ましていることが感じられる。一部例外もあるが…。
私は周りの人に軽く頭を下げて用意されていた馬車に乗り込んだ。ケイレブが乗れるほどの大きな馬車は港までしか使えない。
窓から顔を出せば、心配そうな顔をしたお父様。その隣には寂しそうな瞳をしながら無表情でいるグレイソン。奴はさりげなくお父様の腰に腕を回している。
その他の親族達も集まってきているようで、不安を隠しきれない様子だった。
私は彼らに目線を向けて、にっこりと微笑んだ。
「行って参ります。なるべく早く帰りますので、お父様はグレイソンの話をよく聞いていい子でいて下さいね」
「うんうん。わかったよ。グレイソンに毎夜いい子いい子してもらう…、だから…その…」
他にも何か伝えたいのか、お父様はパクパクと声にならない声を出して、まだ言葉を紡ごうとしている。しかし、何かを思ってか言葉を出すのをやめてしまってる様子だ。
彼は私達の誕生日祝いを盛大にするのが好きな人だ。理由は自分が美味しいものを食べいからだろが…。しかし、唯一成人した我が子が誕生した日に旅立ってしまう事が悲しいのか、彼の目は真っ赤だった。
(昨日、グレイソンに泣かされたのか…泣いてた所を襲われたのか…。今も涙が溢れてきてるから…大泣きするのも時間の問題ね)
チラッとグレイソンに目線を向ければ、彼は私ににっこりと微笑んだ後にお父様にハンカチを渡した。お父様はぐずぐずと鼻を啜りながらハンカチで涙を拭く。彼はその様子を愛おしそうに見つめていた。
「グレイソン、あとは任せました」
「御意に。御武運を祈っております」
これ以上この場にいてはお父様の精神がもたない。私は窓から顔を引っ込めて座席に深く座り直すと、御者に出発を命じた。
後はもう振り返らない。いや、振り返れない。
私は馬車の窓から国民の人々に、にこやかに微笑みながら手を振った。
(せっかくここまで発展したというのに…)
貧しかった事など想像できないほど豊かになった。
人々の顔は健やかに見えるし、貧民街の人々も子綺麗だ。今日のために身なりを整えて来てくれた人々の姿に少し涙が出そうになってくる。
(銭湯もどき作ってよかった。下水設備を作るのは大変だったけど、やっぱり汚水を家の外に捨てるだけなんて衛生的に良くないものね。道も綺麗だし、建物も綺麗ね。ああ、次帰ってきた時も同じような光景又はもう少し発展した様子ならいいのだけど…)
微笑みながら手を振って港まで見送られ、馬車から降りた頃合いにも国民からの励ましの声が多くかけられた。
船に乗り込み、甲板にでて港から見送る人々に手を振る。ケイレブは私にピッタリと寄り添って私がしている事を見守っていた。
「ボウケンニ シュッパツ タノシーナー」
船内にある公族専用の部屋に入ってから、私は備え付けのダブルベッドに倒れ込んだ。
「ガウ…ガウガウ(ハァァァ。姫の仮面取った瞬間にダラけるなよ)」
「公族の微笑みしつつ手を振るの疲れちゃってさ」
「ガウガウ?(俺もやればよかったか?前足で)」
「やめて、可愛すぎてちびっ子達が飛び出して来ちゃうから!これ以上モフモフ信者増やさないで!」
床に伏せって丸くなったケイレブに向かって枕を投げつける。枕は彼に届く前に床に落ちてしまうが、いつものことだ。彼は顎置きが来たとばかりに枕に頭を乗せてくつろぎ始めた。
「私もモフモフになればいい?」
「ガウ(ダメ)」
「なんでー!いつもいつもダメって…私も可愛い子ちゃん達をペロペロしたいよぉぉぉお」
ケイレブはなぜかいつも私が獣化することを許さない。国政ができない理由以外にもありそうな様子なのだが、理由を聞いても絶対に教えてくれない。
「ガウガウ(ダメったらダメだ)」
「ケチケチケチケチ!」
「ガーウッ(ダメだ)」
ロボットのようにケイレブはいつも同じ台詞を私に話してくる。
「ぜーったい、アンタがずっと獣だから私の呪いもおかしいのよ!私だけ長すぎるのよ…もう」
私もいつも通りの台詞をケイレブに拗ねた声で話してから、ベッドに残っている枕に顔を埋めた。
(別に狼になりたいわけじゃ無いけどね。ただ、縛りがあるのが嫌なだけだけど…)
今世は自由に生きてやろう。そう思っているのにどうしようもない制約に縛られている。それがなんとなく不快なのだ。
目を瞑ってこれから先の未来を想像してみる。もし、森についても呪いが解けなければ…きっと公族は消えて名前だけを継いだ国が残るだろう。もしかすれば国の名前すら無くなるかもしれない。
前世を思いだしてからがむしゃらに生きた。たった16年しか生きていないのに、何度も挫折と達成感や喜びを味わった。正直言って前世よりもとても充実した人生を歩んでいる。
前世は目の前にあるレーンに乗るだけの人生だったように思える。普通を目指して無難な道を選び、ただ世間が認める普通になるために生きる。なんとも…味気ない。
本、漫画、ゲームなど非日常を感じさせてくれる物。つまり娯楽ががなければ本当に味気ない。何も味がしないガムを食べてるような、そんな気分。
「はぁ…」
今まさにそんな気分になっている私の口からは、大きなため息が何度も飛び出す。不幸な未来を考えるたびに虚無感が迫ってくる。憂鬱な気分になりながら、1泊の船旅を私は過ごした。
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