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帰還への準備
1日目①
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「マイカ…マイカ。起きてください」
「んんむ…」
「起きてください、朝ですよ。朝食を持ってきました。一緒に食べましょう」
ゆさゆさと体を揺すられて、ゆっくりと意識が浮上してきた。
「さて、リチェ様もなかなか起きないとよくおっしゃってましたが…本当にお寝坊さんですね。こんなに無防備に寝ていているということは、朝から味わってもいい…と、いうことでしょうか」
大きな手が私の胸をムニュッと掴んできた。そして意識がはっきりしてくるとモミモミと揉まれる感覚が強まった。もどかしくなる刺激に体がムズムズとして落ちつかなくなった私の意識は完全に浮上した。
パチっと目を開けると、目の前いっぱいにルーの顔があった。
「おはようございます。無防備に寝ていたので、朝からご馳走を頂けるのかと思いましたよ?」
チュッと額に口づけてルーは体と手を離してベッドから降りた。
「おはよー」
ムクリと起き上がって目を擦りながら朝の挨拶をすると、呆れたような声で話しかけられた。
「朝食を用意しましたよ。ほら、早く食べないと冷めますよ」
「はーい」
のそのそとベッドから降りると、隣の部屋にルーに手を引かれて連れて行かれた。
ソファーの部屋にあった空きスペースに小さめの丸いテーブルと椅子が置いてあった。テーブルの上にはワンプレートの朝食と果実水が置いてあった。
「テーブル用意したの?」
「ええ。空間魔法が使えるので、屋敷で使ってないものを持ってきました。さ、食べましょう」
ルーは片方の椅子を引いて私に座るように促してきたため、その席に座った。私が座るのを確認してからルーは向かい側に座った。
モグモグとご飯を食べつつ、ルーを眺めるとニコッと微笑まれた。
朝から美形の笑顔は、眩しい…。
私が目を少し細めて眩しそうにすると、ルーは不思議そうな顔で話しかけてきた。
「どうしました?」
「朝からイケメンの微笑みは眩しくて…」
「前も夢で〈いけめん〉と言っていましたね…。どういう意味なのですか?」
「カッコイイ、素敵って意味」
「なるほど。それは嬉しい褒め言葉ですね」
ふふっと優しく頬んで、ルーはグラスをとって果実水を飲み始めた。
コクリコクリと水を飲むたびに、喉仏が動く。何気ない仕草だが、物凄く色気を感じた。
ムラッとしてきた私はスッと目線をお皿に向けてモグモグと無言で食べ始めた。
しばらくモグモグ食べていると気持ちも落ち着いてきた。チラリっと目線をルーに向けると、ルーはすでに食べ終わったようだ。
「あ、ごめん。もう食べ終わるから待ってね」
「気にせず、ゆっくり食べて下さい」
優しく微笑まれてるが、待たせるのも申し訳なくて口と手を動かすスピードを上げた。
最後に唇についたソースをペロリと舌で舐めて、グラスの水を飲もうとすると前からものすごく視線を感じた。
グラスに唇をつけたまま視線の先を見ると、微笑みながらも紫の瞳が熱を帯びて私を見てきた。
目を見た瞬間にドキッと心臓が跳ねた。
どうしてこの男は朝からこんなに色気を振り撒くのだろうか。
そういえば、いつもの神官服ではなくシャツとズボンとラフな姿だ。シャツのボタンは首元まで止めずに鎖骨が少し見える程度開けている。いつも見えないところが見えているのも、色気を感じる原因な気がする。
またサッと目線を外して、ごくごくと水を飲んだ。
「あー、美味しかったなぁ。マリア呼べばいいのかなぁ」
キョロキョロとベルを探すが、見当たらなかった。さて、どうしようかなっと悩んでいると自分の右隣に気配を感じた。
「マイカ。今日から3日は侍女は来ません。食事の用意などはしてくれますが…マイカの着替えも、入浴も…私が……」
横に来た気配は後ろに回って、座った私の後ろから抱きつくと耳元に低い艶やかな声で囁いてきた。
さらなる色気攻撃にブルリと体が震えた。
「ふふっ。震えて可愛いですね…。せっかくの3日間、すべて抱いて過ごすのもいいですが。まだ抱きませんよ」
フゥッと耳に息を吹きかけられた。
心臓はずっとドキドキしている。
耳元に感じる息遣いも、背中から感じる体温も…
ものすごく……
「ああああ!だめぇ!」
卑猥な感想が頭に浮かんだ私は大きな声を出した。何も考えないようにしながら、ルーから逃げるように椅子から立ち上がってソファーに駆け寄って座った。
「ふふ。可愛らしい。食事が終わりましたので片付けておきますね」
ルーはクスクスと笑いながらテーブルの上のお皿を重ねて片付けると一旦部屋からでてカートを押して戻ってきた。
皿やグラスをカートに乗せて部屋の外に運ぶと、中に戻ってきてテーブルと椅子を魔法で収容して片付けた。
私はドキドキとした心臓を抑えるように胸元を押さえてルーの様子を観察していた。
全て片付け終わったルーは私の隣に座って、胸元の手を掴んできた。
「朝からそんなに可愛い姿を見せられると我慢できなくなります。ほどほどにして下さいね」
なんと返していいか戸惑っていると、そのまま手を引かれて抱き寄せられた。
「えと…あの…」
「どうしました?」
ドキドキしている私とは反対にルーは大人の男の余裕を感じさせる態度で私の背中を撫でてきた。
「えと…着替えも?」
「ええ。ネグリジェのままがいいですか?」
「えっ…えと…ワンピースくらいは…」
「はい。わかりました。では着替えましょうね」
ルーは体を離すと立ち上がって私の手を引いて衣裳室へと向かった。
ネグリジェを剥ぎ取られ、寝るときはつけていない胸当てをつけられてワンピースをテキパキと着せてきた。
抵抗しようとすると耳元で囁いてくるので、致し方なく…されるがままになった。
髪の毛はおろしたまま、櫛で艶が出るまでといてくれた。
化粧は流石にできないかと思ったら…。手早く薄化粧を施してくれた。
相変わらず、何か手慣れている。そしてきっと返答は「ご奉仕を頑張った」と、言うのだろう。
されるがままになっていると、最後に右首筋にチューっと強く吸いつかれて赤い痕をつけられた。
「あ!ちょっと!」
ばっと首元を右手押さえてルーを見つめると、ニッコリと微笑まれて押さえている手を撫でられた。
「1週間篭った時もたくさん付けてましたが、治癒魔法でなくなってしまったこと思い出しまして…3日は私の妻なのですから、いいでしょう?」
「ね?」っと声が聞こえるような笑顔で微笑まれ、それ以上反論できなくなった。
それから、手を引かれて隣の部屋に戻るとホカホカと湯気をたてたお茶が並んで置かれていた。マリアの気配を感じて少しだけホッとなった。
2人で一つのソファーに座ったが、距離はほぼゼロでお互いの体がぴったりくっついている。これではお茶が飲みにくい。そう思った私は少しだけ横にずれた。
「なぜ離れるのですか?」
不満そうな声が隣から聞こえてきたが、それを無視してカップを手に取ってお茶を飲んだ。一口飲んで目線を向けると拗ねたような顔のルーがいた。
「お茶飲むにはくっつきすぎだったからだよ」
「お茶なら飲ませて差し上げました」
「い、いいよ…自分で飲めるから!」
首を横に振って再度お茶を飲み始めた私をルーは不満そうに眺めてから、お茶を一口飲んですぐにソーサーにカップを置いた。
「…今日は何をしましょう」
「うーん…正直言って、することがないんだよね…。妊娠中にのんびりしてたからやることやり尽くした感じがするんだよね」
カップをソーサーに置いてうーんっと考えるも、いい案は浮かんでこなかった。
「確かにそうですね。本を読んだり、花を愛でたり…のんびりすることはやり尽くしましたね」
「そーなの」
2人でウーンっと唸りながら考え込んでいると、何かを思いついたルーがポンっと手をうって話しかけてきた。
「マイカは魔法を使えますよね?何を使っていますか?」
「魔法?うーん、洗浄魔法ぐらいかな。収納できる守護石は収納して何かを運ぶことがないからあまり使わないし」
「ふむ」
「それに、ちゃんと守られてるから自衛するほどの何かを覚える必要がなかったんだよね」
「では、殿下達に挨拶をするためにある魔法を覚えませんか?」
「挨拶?」
「はい」
首を傾げてルーを見つめると、微笑んだルーが何かを呟いた。
するとポンっと音を立てて、ルーの膝の上に真っ白な鳩に似た鳥が出てきた。
「え?鳩?」
「はい。鳩です」
「…挨拶?」
「ふふ、こうするのですよ」
ルーは鳩を指に乗せると「マイカ様の練習に付き合って下さい」と鳩に向かって呟き、窓に向かって鳩を動かした。
鳩は翼を広げると羽ばたいて飛び上がった。
「え?なに!?」
バサッと音を立てて飛び出した鳩はまっすぐ窓に向かって飛んでいった。
「ぶつかる!!!」
バリンっと窓が割れる音がするのではないかと身構えていると、鳩は窓をスッとすり抜けて飛び去っていった。
「え?ええ?」
「伝達魔法です。模する動物は人によって違いますが使い方は皆同じです。言葉を伝えて、届ける相手を考えればそこに行きます。あ、返事が返ってきましたよ」
ルーに言われて窓を見つめると、大きな鷹がビュンと窓をすり抜けて部屋に入ってきた。少し旋回したあとに向かいのソファーの背もたれに捕まって嘴を開けた。
『何の練習かわからんが、マイカの手伝いならば喜んで』
鷹からアートの声が流れてきた。
「はぁえ?!」
驚いている間に鷹がスッと目の前から消えていなくなった。
「さぁ、殿下に返事を返しましょう」
「え?え?今ので?」
「ええ。模するものはなんでもいいですからね。鳥でも虫でも」
「ど、動物がいいの?」
「一般的には動物ですね。鳥類を模する人が多いですよ」
にっこり微笑んでくるが、そもそも私は呪文もわからない。皆が何か呪文を唱えていても、いつも何を言っているかわからないのだ。
そう思って出来ないと言おうとしたが、ふとリチェ様に言われたことを思い出した。やろうと思えば何でもできるという言葉だ。
とりあえずどんなことをする魔法なのかを考えてから、伝達と唱えてみればできるかもしれない。うーんっと考え込んでいると、ルーに頭を撫でられた。
「まずは模するものですね…」
「何でもいい?」
「ええ」
うーんっと再び考えてみる。手紙を送ると考えるとやはり鳥だろうか。しかし何となくしっくりこない。うーんうーんっと考えていると、ふと頭の中にリチェ様が浮かんだ。でも猫は空を飛ばない。再び悩んでいると、人型のリチェ様が浮かんできた。
人型のリチェ様に天使のような羽をつけたら…いやむしろ猫のリチェ様に羽をつけた方が可愛い気がする。
そうと決まればまずは想像だ。目を瞑ってあの白猫に真っ白な天使の羽が付いていることを考えながら〈伝達〉っと口に出さずに唱えた。
ポン
「ああ、可愛らしいですね。これはリチェ様ですか?」
音がしてすぐにルーが話しかけてきた。ゆっくり目を開けると自分の膝に羽が生えた白猫がこちらを見つめて座っていた。
「お、おお。できた!」
「はい。上手ですよ」
「えと、つぎは…」
「伝えることを口頭または頭の中で考えて下さい。そして送る相手の名前を口頭または頭の中で考えれば飛んで行きますよ」
「わかった。えと、じゃあ…」
『今までありがとう。子育て頑張って。4日後に帰ります。お元気で』
猫に向かって呟いて、アートの名前と顔を思い浮かべてた。猫はパチクリと瞬きをしてからぴょんっと膝から降りて窓際にトテテっと近寄るとピョーンっと高めにジャンプして窓から出て行った。
「あれ?羽使ってない気がする」
「ふふ。確かに。飛び跳ねてましたね」
2人でアハハっと笑い合っていると、ビュンっと音を立てて鷹が入ってきた。鷹が来たかと思ったら、黒の色合いが多い文鳥のような小鳥、茶色のモモンガに似た動物、最後に赤毛の犬がゾロゾロと勢いよく入ってきた。
「あわあわ!なに!」
4匹はソファーに乗ってこちらを向くと、1匹ずつ口を開けて音声を出してきた。
『4日後とは早すぎるだろう。顔も見せずに去るつもりか』
『マイカ様、4日後になんて早すぎます。妻が子育ての秘訣をもっと教えてほしいと申しております』
『僕と会わずに帰ってしまうのですか?寂しいです』
『みずくせーな。そんなに急いで帰んなくていいじゃねーか』
動物たちは音声を流し終わるとスッと順番に消えていった。
「お、おお…アートだけに送ったつもりだったんだけど」
「殿下の執務室に集まっていたのかもしれませんね」
ルーはクスクス笑って、また私の頭を撫でてきた。
それからは、何度かやりとりをして会わずに帰ること謝り倒し、会うと未練が残るからと伝えてやっと4匹から渋々といった声で返答がきた。
4匹が現れなくなったのは夕食が終わった頃だった。
「はぁ…今日1日動物からのピーチクパーで終わってしまった」
夕食後のお茶を広間のソファーに座っている私に、隣に座っているルーは笑いながら話しかけてきた。
「そうですね。しかし、マイカはずっと笑顔で楽しそうでしたよ?私は楽しく一日過ごせた様子なのが嬉しかったです」
「確かに楽しかった」
2人見つめあって笑い合っていると、マリアが広間に入ってきた。
「湯浴みのご用意ができました」
「では、いきましょう」
「え?マリアに…」
「失礼いたします」
マリアにしてもらうからと言い終える前に、マリアは素早く扉の向こうへ消えていった。
「準備以外は私がすると言ったではないですか」
ニコニコと笑ったルーは立ち上がると、私の手を引いて立ち上がらせて手を繋いだまま二階へ引きずるように連れて行った。
流石にお風呂は!っと抵抗しするが、押し込まれるように浴室に入れられ、ポイポイっと服を脱がされた。ルーは手早く服を脱ぐと、逃げ出そうとすると私を抱き抱えてジャポンっと湯船の中に一緒に入った。後ろから抱きつかれてルーの股の間に私の体が入っている。
恥ずかしい
「………うう」
「どうしました?」
「一緒に入るの?」
「ええ。仲の良い夫婦ならば湯浴みは共にすると聞きました」
「誰情報…」
「ルーヘン様です」
なるほど、あの愛妻家なら言いそうである。しかしそれを素直に受け取って実行するルーは…どのように聞き出したのだろうか。エリオに夫婦について質問している様子を想像して、少し笑いが込み上げてきた。
「何を笑っているのですか?」
「ふふ…いや、だって…エリオに質問してる様子考えたら、何だか面白くて…あははは」
ケラケラ笑い始めた私をルーはギュッと抱きしめて拗ねたような声で話してきた。
「マイカと過ごすために調査しました。私は夫婦生活というものをちゃんとしたことがないので…」
「ふふ。ありがとう。ルーの気持ちは嬉しいよ」
笑いながら肩にあるルーの頭を撫でると、突然ムギュっと両胸を手で掴まれた。
「…湯浴みでは隅々まで体を洗うそうです」
「ちょっ、もう!」
「せっかく調査したので全て実践しようと思います」
揉まれながら目線を後ろに向けると、ニンマリと微笑んで何かを企んでいるようなルーがいた。
「んんむ…」
「起きてください、朝ですよ。朝食を持ってきました。一緒に食べましょう」
ゆさゆさと体を揺すられて、ゆっくりと意識が浮上してきた。
「さて、リチェ様もなかなか起きないとよくおっしゃってましたが…本当にお寝坊さんですね。こんなに無防備に寝ていているということは、朝から味わってもいい…と、いうことでしょうか」
大きな手が私の胸をムニュッと掴んできた。そして意識がはっきりしてくるとモミモミと揉まれる感覚が強まった。もどかしくなる刺激に体がムズムズとして落ちつかなくなった私の意識は完全に浮上した。
パチっと目を開けると、目の前いっぱいにルーの顔があった。
「おはようございます。無防備に寝ていたので、朝からご馳走を頂けるのかと思いましたよ?」
チュッと額に口づけてルーは体と手を離してベッドから降りた。
「おはよー」
ムクリと起き上がって目を擦りながら朝の挨拶をすると、呆れたような声で話しかけられた。
「朝食を用意しましたよ。ほら、早く食べないと冷めますよ」
「はーい」
のそのそとベッドから降りると、隣の部屋にルーに手を引かれて連れて行かれた。
ソファーの部屋にあった空きスペースに小さめの丸いテーブルと椅子が置いてあった。テーブルの上にはワンプレートの朝食と果実水が置いてあった。
「テーブル用意したの?」
「ええ。空間魔法が使えるので、屋敷で使ってないものを持ってきました。さ、食べましょう」
ルーは片方の椅子を引いて私に座るように促してきたため、その席に座った。私が座るのを確認してからルーは向かい側に座った。
モグモグとご飯を食べつつ、ルーを眺めるとニコッと微笑まれた。
朝から美形の笑顔は、眩しい…。
私が目を少し細めて眩しそうにすると、ルーは不思議そうな顔で話しかけてきた。
「どうしました?」
「朝からイケメンの微笑みは眩しくて…」
「前も夢で〈いけめん〉と言っていましたね…。どういう意味なのですか?」
「カッコイイ、素敵って意味」
「なるほど。それは嬉しい褒め言葉ですね」
ふふっと優しく頬んで、ルーはグラスをとって果実水を飲み始めた。
コクリコクリと水を飲むたびに、喉仏が動く。何気ない仕草だが、物凄く色気を感じた。
ムラッとしてきた私はスッと目線をお皿に向けてモグモグと無言で食べ始めた。
しばらくモグモグ食べていると気持ちも落ち着いてきた。チラリっと目線をルーに向けると、ルーはすでに食べ終わったようだ。
「あ、ごめん。もう食べ終わるから待ってね」
「気にせず、ゆっくり食べて下さい」
優しく微笑まれてるが、待たせるのも申し訳なくて口と手を動かすスピードを上げた。
最後に唇についたソースをペロリと舌で舐めて、グラスの水を飲もうとすると前からものすごく視線を感じた。
グラスに唇をつけたまま視線の先を見ると、微笑みながらも紫の瞳が熱を帯びて私を見てきた。
目を見た瞬間にドキッと心臓が跳ねた。
どうしてこの男は朝からこんなに色気を振り撒くのだろうか。
そういえば、いつもの神官服ではなくシャツとズボンとラフな姿だ。シャツのボタンは首元まで止めずに鎖骨が少し見える程度開けている。いつも見えないところが見えているのも、色気を感じる原因な気がする。
またサッと目線を外して、ごくごくと水を飲んだ。
「あー、美味しかったなぁ。マリア呼べばいいのかなぁ」
キョロキョロとベルを探すが、見当たらなかった。さて、どうしようかなっと悩んでいると自分の右隣に気配を感じた。
「マイカ。今日から3日は侍女は来ません。食事の用意などはしてくれますが…マイカの着替えも、入浴も…私が……」
横に来た気配は後ろに回って、座った私の後ろから抱きつくと耳元に低い艶やかな声で囁いてきた。
さらなる色気攻撃にブルリと体が震えた。
「ふふっ。震えて可愛いですね…。せっかくの3日間、すべて抱いて過ごすのもいいですが。まだ抱きませんよ」
フゥッと耳に息を吹きかけられた。
心臓はずっとドキドキしている。
耳元に感じる息遣いも、背中から感じる体温も…
ものすごく……
「ああああ!だめぇ!」
卑猥な感想が頭に浮かんだ私は大きな声を出した。何も考えないようにしながら、ルーから逃げるように椅子から立ち上がってソファーに駆け寄って座った。
「ふふ。可愛らしい。食事が終わりましたので片付けておきますね」
ルーはクスクスと笑いながらテーブルの上のお皿を重ねて片付けると一旦部屋からでてカートを押して戻ってきた。
皿やグラスをカートに乗せて部屋の外に運ぶと、中に戻ってきてテーブルと椅子を魔法で収容して片付けた。
私はドキドキとした心臓を抑えるように胸元を押さえてルーの様子を観察していた。
全て片付け終わったルーは私の隣に座って、胸元の手を掴んできた。
「朝からそんなに可愛い姿を見せられると我慢できなくなります。ほどほどにして下さいね」
なんと返していいか戸惑っていると、そのまま手を引かれて抱き寄せられた。
「えと…あの…」
「どうしました?」
ドキドキしている私とは反対にルーは大人の男の余裕を感じさせる態度で私の背中を撫でてきた。
「えと…着替えも?」
「ええ。ネグリジェのままがいいですか?」
「えっ…えと…ワンピースくらいは…」
「はい。わかりました。では着替えましょうね」
ルーは体を離すと立ち上がって私の手を引いて衣裳室へと向かった。
ネグリジェを剥ぎ取られ、寝るときはつけていない胸当てをつけられてワンピースをテキパキと着せてきた。
抵抗しようとすると耳元で囁いてくるので、致し方なく…されるがままになった。
髪の毛はおろしたまま、櫛で艶が出るまでといてくれた。
化粧は流石にできないかと思ったら…。手早く薄化粧を施してくれた。
相変わらず、何か手慣れている。そしてきっと返答は「ご奉仕を頑張った」と、言うのだろう。
されるがままになっていると、最後に右首筋にチューっと強く吸いつかれて赤い痕をつけられた。
「あ!ちょっと!」
ばっと首元を右手押さえてルーを見つめると、ニッコリと微笑まれて押さえている手を撫でられた。
「1週間篭った時もたくさん付けてましたが、治癒魔法でなくなってしまったこと思い出しまして…3日は私の妻なのですから、いいでしょう?」
「ね?」っと声が聞こえるような笑顔で微笑まれ、それ以上反論できなくなった。
それから、手を引かれて隣の部屋に戻るとホカホカと湯気をたてたお茶が並んで置かれていた。マリアの気配を感じて少しだけホッとなった。
2人で一つのソファーに座ったが、距離はほぼゼロでお互いの体がぴったりくっついている。これではお茶が飲みにくい。そう思った私は少しだけ横にずれた。
「なぜ離れるのですか?」
不満そうな声が隣から聞こえてきたが、それを無視してカップを手に取ってお茶を飲んだ。一口飲んで目線を向けると拗ねたような顔のルーがいた。
「お茶飲むにはくっつきすぎだったからだよ」
「お茶なら飲ませて差し上げました」
「い、いいよ…自分で飲めるから!」
首を横に振って再度お茶を飲み始めた私をルーは不満そうに眺めてから、お茶を一口飲んですぐにソーサーにカップを置いた。
「…今日は何をしましょう」
「うーん…正直言って、することがないんだよね…。妊娠中にのんびりしてたからやることやり尽くした感じがするんだよね」
カップをソーサーに置いてうーんっと考えるも、いい案は浮かんでこなかった。
「確かにそうですね。本を読んだり、花を愛でたり…のんびりすることはやり尽くしましたね」
「そーなの」
2人でウーンっと唸りながら考え込んでいると、何かを思いついたルーがポンっと手をうって話しかけてきた。
「マイカは魔法を使えますよね?何を使っていますか?」
「魔法?うーん、洗浄魔法ぐらいかな。収納できる守護石は収納して何かを運ぶことがないからあまり使わないし」
「ふむ」
「それに、ちゃんと守られてるから自衛するほどの何かを覚える必要がなかったんだよね」
「では、殿下達に挨拶をするためにある魔法を覚えませんか?」
「挨拶?」
「はい」
首を傾げてルーを見つめると、微笑んだルーが何かを呟いた。
するとポンっと音を立てて、ルーの膝の上に真っ白な鳩に似た鳥が出てきた。
「え?鳩?」
「はい。鳩です」
「…挨拶?」
「ふふ、こうするのですよ」
ルーは鳩を指に乗せると「マイカ様の練習に付き合って下さい」と鳩に向かって呟き、窓に向かって鳩を動かした。
鳩は翼を広げると羽ばたいて飛び上がった。
「え?なに!?」
バサッと音を立てて飛び出した鳩はまっすぐ窓に向かって飛んでいった。
「ぶつかる!!!」
バリンっと窓が割れる音がするのではないかと身構えていると、鳩は窓をスッとすり抜けて飛び去っていった。
「え?ええ?」
「伝達魔法です。模する動物は人によって違いますが使い方は皆同じです。言葉を伝えて、届ける相手を考えればそこに行きます。あ、返事が返ってきましたよ」
ルーに言われて窓を見つめると、大きな鷹がビュンと窓をすり抜けて部屋に入ってきた。少し旋回したあとに向かいのソファーの背もたれに捕まって嘴を開けた。
『何の練習かわからんが、マイカの手伝いならば喜んで』
鷹からアートの声が流れてきた。
「はぁえ?!」
驚いている間に鷹がスッと目の前から消えていなくなった。
「さぁ、殿下に返事を返しましょう」
「え?え?今ので?」
「ええ。模するものはなんでもいいですからね。鳥でも虫でも」
「ど、動物がいいの?」
「一般的には動物ですね。鳥類を模する人が多いですよ」
にっこり微笑んでくるが、そもそも私は呪文もわからない。皆が何か呪文を唱えていても、いつも何を言っているかわからないのだ。
そう思って出来ないと言おうとしたが、ふとリチェ様に言われたことを思い出した。やろうと思えば何でもできるという言葉だ。
とりあえずどんなことをする魔法なのかを考えてから、伝達と唱えてみればできるかもしれない。うーんっと考え込んでいると、ルーに頭を撫でられた。
「まずは模するものですね…」
「何でもいい?」
「ええ」
うーんっと再び考えてみる。手紙を送ると考えるとやはり鳥だろうか。しかし何となくしっくりこない。うーんうーんっと考えていると、ふと頭の中にリチェ様が浮かんだ。でも猫は空を飛ばない。再び悩んでいると、人型のリチェ様が浮かんできた。
人型のリチェ様に天使のような羽をつけたら…いやむしろ猫のリチェ様に羽をつけた方が可愛い気がする。
そうと決まればまずは想像だ。目を瞑ってあの白猫に真っ白な天使の羽が付いていることを考えながら〈伝達〉っと口に出さずに唱えた。
ポン
「ああ、可愛らしいですね。これはリチェ様ですか?」
音がしてすぐにルーが話しかけてきた。ゆっくり目を開けると自分の膝に羽が生えた白猫がこちらを見つめて座っていた。
「お、おお。できた!」
「はい。上手ですよ」
「えと、つぎは…」
「伝えることを口頭または頭の中で考えて下さい。そして送る相手の名前を口頭または頭の中で考えれば飛んで行きますよ」
「わかった。えと、じゃあ…」
『今までありがとう。子育て頑張って。4日後に帰ります。お元気で』
猫に向かって呟いて、アートの名前と顔を思い浮かべてた。猫はパチクリと瞬きをしてからぴょんっと膝から降りて窓際にトテテっと近寄るとピョーンっと高めにジャンプして窓から出て行った。
「あれ?羽使ってない気がする」
「ふふ。確かに。飛び跳ねてましたね」
2人でアハハっと笑い合っていると、ビュンっと音を立てて鷹が入ってきた。鷹が来たかと思ったら、黒の色合いが多い文鳥のような小鳥、茶色のモモンガに似た動物、最後に赤毛の犬がゾロゾロと勢いよく入ってきた。
「あわあわ!なに!」
4匹はソファーに乗ってこちらを向くと、1匹ずつ口を開けて音声を出してきた。
『4日後とは早すぎるだろう。顔も見せずに去るつもりか』
『マイカ様、4日後になんて早すぎます。妻が子育ての秘訣をもっと教えてほしいと申しております』
『僕と会わずに帰ってしまうのですか?寂しいです』
『みずくせーな。そんなに急いで帰んなくていいじゃねーか』
動物たちは音声を流し終わるとスッと順番に消えていった。
「お、おお…アートだけに送ったつもりだったんだけど」
「殿下の執務室に集まっていたのかもしれませんね」
ルーはクスクス笑って、また私の頭を撫でてきた。
それからは、何度かやりとりをして会わずに帰ること謝り倒し、会うと未練が残るからと伝えてやっと4匹から渋々といった声で返答がきた。
4匹が現れなくなったのは夕食が終わった頃だった。
「はぁ…今日1日動物からのピーチクパーで終わってしまった」
夕食後のお茶を広間のソファーに座っている私に、隣に座っているルーは笑いながら話しかけてきた。
「そうですね。しかし、マイカはずっと笑顔で楽しそうでしたよ?私は楽しく一日過ごせた様子なのが嬉しかったです」
「確かに楽しかった」
2人見つめあって笑い合っていると、マリアが広間に入ってきた。
「湯浴みのご用意ができました」
「では、いきましょう」
「え?マリアに…」
「失礼いたします」
マリアにしてもらうからと言い終える前に、マリアは素早く扉の向こうへ消えていった。
「準備以外は私がすると言ったではないですか」
ニコニコと笑ったルーは立ち上がると、私の手を引いて立ち上がらせて手を繋いだまま二階へ引きずるように連れて行った。
流石にお風呂は!っと抵抗しするが、押し込まれるように浴室に入れられ、ポイポイっと服を脱がされた。ルーは手早く服を脱ぐと、逃げ出そうとすると私を抱き抱えてジャポンっと湯船の中に一緒に入った。後ろから抱きつかれてルーの股の間に私の体が入っている。
恥ずかしい
「………うう」
「どうしました?」
「一緒に入るの?」
「ええ。仲の良い夫婦ならば湯浴みは共にすると聞きました」
「誰情報…」
「ルーヘン様です」
なるほど、あの愛妻家なら言いそうである。しかしそれを素直に受け取って実行するルーは…どのように聞き出したのだろうか。エリオに夫婦について質問している様子を想像して、少し笑いが込み上げてきた。
「何を笑っているのですか?」
「ふふ…いや、だって…エリオに質問してる様子考えたら、何だか面白くて…あははは」
ケラケラ笑い始めた私をルーはギュッと抱きしめて拗ねたような声で話してきた。
「マイカと過ごすために調査しました。私は夫婦生活というものをちゃんとしたことがないので…」
「ふふ。ありがとう。ルーの気持ちは嬉しいよ」
笑いながら肩にあるルーの頭を撫でると、突然ムギュっと両胸を手で掴まれた。
「…湯浴みでは隅々まで体を洗うそうです」
「ちょっ、もう!」
「せっかく調査したので全て実践しようと思います」
揉まれながら目線を後ろに向けると、ニンマリと微笑んで何かを企んでいるようなルーがいた。
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