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妊婦には優しく

え…さっそくですか?

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「ん、ふぁ……おはよ、リチェ様」

『おはようございます。先に起きてマリアに真っ黒達呼ぶように伝えておきました。あと1時間後にはくるそうですよ』

「そっか。じゃ着替えなきゃいけないかな?」

「はい、もちろんでございます」

 私たちの会話の間にマリアが入ってきた。体を起こして、振り返るとマリアが寝室の扉を開けて待っていた。

「は、はーい。わ、わかったよ…」

 渋々立ち上がってマリアについて寝室に入ると奥の衣装室へ入った。

 そして淡い黄色のドレスに着替えさせられた。今日は可憐な乙女がテーマだろうか。私の年齢では…いや、何も言うまい。マリアには逆らえないのだから。

 考え事をしてる間に支度が終わり、隣の部屋に入ると5人が揃っていた。

「あ、急に呼び出してごめんなさい」

「いや、いい。何かあったのだろう?」

 私が彼らに近寄るとアートは1人ソファーに座り、アレクとリオはアートが座っているソファーの後ろで控えていた。エリオはソファーの間にあるテーブルの隣で立っている。ルーは私が座るソファーの後ろに立っていた。リチェ様はすでに私が座るソファーにちょこんっと座っていた。

 私はソファーに座って彼らを見つめた。

「えと…ああ!そうだそうだ。さっきリチェ様と今後について話してたんだけどね。まだ各それぞれ2回しか交流してないけど、3年しか任期が無いから早めに順番含め決めちゃおうと思って決めたんだ」

「ふむ。なるほどな。では代表して俺が話を聞くとしよう」

 アートは足を組んで深くソファーに座った。目の前の4人の男性は興味深々にこちらを見ている。チラッと上に目線を向けてルーを見ると、目があった瞬間に優しい瞳で微笑まれた。

 よし、こじれないように上手く説明しなければ。

 そして意を決して私は話を始めた。

「えと、まず…」

「確か秘匿にするんだったな。防音魔法をかけよう」

 アートはそういうと何かを唱えて魔法を使った。恒例のあったかいものに包まれた。

「ありがとう、アート。じゃ話を続けるね。まず順番は面談した順番になります」

「なるほど。では俺が1番だな」

「うん。そうなるね。希望なら明日からでも子供授かることは可能なんだ」

「ほお…」

 アートはスッと目を細めてこちらを見てきた。

「今から話す方法は、今回限りしかつかえないからね。今後使おうと思って研究しても無駄だから」

「で、どんな方法なんだ?」

 まずは現物を見せた方がいいかもしれない。そう思った私は守護石から石が入った箱を取りだした。
そして目の前のテーブルの上に置いて、パカっと蓋を開けて5人に中身を見せた。

「この石を使えば、すぐに授かることができるよ」

「ほー、真っ白な石だな…見てもいいか?」

「うん」

 アートは一つ手に取って光にかざしたり、表面を撫でたりして石を観察した。

「見たところ…魔力がこもってる…が、マイカのか?」

「えーと…たぶん?」

『多分ではなく、マイカさんの魔力ですよ。守護石の中にある間に蓄積してたようですね。透明な石が白くなってるので間違いないです』

 隣からリチェ様が教えてくれたが、まぁ間違ってないので訂正せずに、えへへへっと笑って誤魔化した。

「なるほどな。ではどのように使うのだ?」

『あ、その前に。マイカさんの守護石に保存の瓶入れておきましたから!それも説明してください』

『おお!気がきく!ありがとう』

 いそいそと守護石から保存瓶を一本取りだして、箱の隣に並べて置いた。

「まず、この瓶に各それぞれ体液を入れて。入れる体液によって確率が変わるけど、子種であれば一回で授かるよ」

「ふむ」

「採取は各それぞれが個人でしてね。私は手伝わないから!でも奥様方に手とかで手伝ってもらうのはいいよ。体液が混じらないように気をつけて」

「なんだ、マイカが採取してくれるわけではないのか」
 
 アートは残念そうに話している。自分が考えていた事と違う展開にでもなったかのように、少しばかり不機嫌だ。何が機嫌を悪くしてるのかわからないが、私は説明を続けた。

「ちなみに、私に見ててもらう的なのもなしだから!それでね。その中にこの石を入れて、体液を塗布したものを私の中に入れれば子供が宿ってるんだって」

「そうか…かなり簡易的なんだな」

「うん、だって。私、夫以外と性行為できないし」

 そう返答すると、各それぞれが表情を様々変えた。

 アートは思惑が外れたのか相変わらず機嫌が悪そうだ。

 エリオは…何か我慢してるような顔だ。

 アレクはちょっぴり残念そうな顔。

 リオは少し拗ねた顔をしていた。

 ルーに目線を向けると、彼は相変わらず優しく微笑んでいた。

「わかった。それが特殊な方法というわけか」

 アートは足を組み替えて、ふーむっといいながら目を瞑って何か考え始めた。

「え、皆…なんか思ってたのと違うってなった?」

 各それぞれの反応が芳しく無いため、私は少しオロオロしながら目の前の真っ黒たちを見つめた。

「まぁ、そうだな。もう少し触れ合いがあるかと期待はしていた」

 アートは目を開けて私を探るような瞳で見つめてきた。

「えー…そんなことを言われてもな…」

「夢の…記憶はないのか…」

 アートはそう言ってリチェ様に目線を向けるが、リチェ様は目線をサラリと受け流して私の膝の上に乗ってきた。

「え?夢?」

『ああ、マイカさんに戻すの忘れてたものは後で返しますから。このまま話続けて下さい』

『え?返す?なに?あとでちゃんと教えてね』

 リチェ様と2人で目配せしあっていると、アートが深く溜息をついた。

「そうか、希望は通らなかったか。残念だ」

「希望が何かわからないけど、とりあえずそういう事だから!何か質問ある?」

 周りの真っ黒たちを見渡すもの、特に誰も反応しなかった。

「いや、特にない。マイカには元気な子供を産んでもらえればそれでいい」

「うん。子供が生まれる時も私の体力が減らない方法で生まれてくるから…多分次の子供は半月?一ヶ月?くらいあければ大丈夫かなーとは思うけど」

「そうか…ではさっそくこの瓶を俺は持って帰ろう。今日中に届ければすぐに作業をしてくれるか?」

「え?うん。アートが希望するなら」

「わかった」

 アートはスッと手を伸ばしてテーブルの上の瓶を手に取ると、胸元のポケットに入れた。

「あとで届けさせる。では明日子供の様子含めここにくる。妊娠中はどのように過ごすことを希望だ?」

「うーん。のんびり暮らせればいいかなぁ。お腹大きくなってからは時々会いに来てお腹の子供に話しかけて欲しいかも。あと…正室の奥様方が希望すれば生まれる前に私に会うのも、いいかな。だって私のこと気になってる人もいると思うし」

「そうか。時々でなくとも、毎日会いに来ても構わないか?」

「え?それは私も話し相手できるし大歓迎だよ」

「わかった。しかし、警備をどうするか…今の人数では少し不安だな。俺たちが側にいない時間が増えるだろうし…」

「では、殿下。私がマイカ様のお側につかさせていただきたく」

 ルーが後ろからアートに少し頭を下げながら言った。

「ふむ。何か理由があるのか?」

 スッと目を細めてアートはルーを見つめた。

「神より、守護者として認められました」

「ほう。いつのことだ」

「今日の朝でございます。報告しようとしていたところに、呼び出しがかかりまして。ご報告が遅れて申し訳ございません」

『実際には昨日の朝ですけどねぇ。アーサー納得しなさそうだから、そこは嘘ついても許されるんじゃないでしょうか』

 リチェ様がルーの返答に補足説明してきた。守護者っていつの間に決めたのやら…あのイチャイチャしてる時にはすでに決まっていたとしたら…この2人いつの間に仲良くなったんだろう。

「わかった。お前は神託も授かっている。神より信頼も厚いのだろう。マイカの側で警護することを認めよう」

「ありがとうございます」

 ルーはアートに一礼すると私にまた優しく微笑んでくれた。この微笑みは見守ってますよーってかんじなのだろうか。ちょっぴりむず痒い。

「しかし神殿での仕事もあるだろう。手が空かない時はダリオンをつけろ」

「はい、かしこまりました」

「おう。任せとけ。泊まり込みもありなのか?」

 静かにしていたリオは少し嬉しそうに話した。そんなリオをアートは怪訝そうな顔で見つめて言った。

「泊まってどうするつもりだ…」

「一緒に添い寝」

 ケロッとした顔でリオは言い放った。私は添い寝してるときにご褒美ねだられて変な展開になってこの前みたいに失敗したくない。ただ横で寝てるだけなら…まぁいいかと思ってリオに話しかけた。

「添い寝…したとしても、何もしないからね…」

「え?いいのか!?添い寝!」

「リオは言いつけ守りそうだからいいよ…いい子ならね」

 私の犬らしいしっと心の中で小さく呟く。アートとエリオは私の返答に不満げな顔をした。アレクはリオを羨ましそうに見ていた。

「私この世界で知り合いが貴方たち5人とマリアぐらいじゃない?だから勝手ながら、皆を友達だと思ってるの。私と親しく友達付き合いしてくれるってことなら…友達としての距離でなら付き合えるから。なんか皆、期待してた事と違ったみたいな感じだけど。友達として仲良く…して欲しいな」

 この歳で友達になりましょうって面と向かって言うのも恥ずかしく。少しモジモジしながらいってしまった。

「あ…ああ。そうだな。友人として…今後もよろしく頼む」

 アートは少し複雑そうな顔をしながら反応してきた。

「ルイスは基本的には泊まり込みになるな。確かこの離宮に近い王城の客室が空いていたはずだ。荷物などそこに運んで、そこから通え。その方がお前も楽だろう」

「お心遣いありがとうございます。では今夜中にさっそく移動の手配をいたします」

「うむ。では、話はまとまったな。夕食後には体液を届ける」

 アートはソファーから立ち上がって、そのまま出て行った。少しばかり私と距離が空いたような気がした。

 ルー以外の3人は私に退室の挨拶をしてから部屋から出て行った。

 そして部屋には私とルー、リチェ様だけになった。

「はぁぁ…なんか疲れた…アートなんか不機嫌だし」

 私はソファーの背もたれにもたれて後ろにいるルーに目線を向けた。

「これから3年よろしくね」

「はい。お側でお仕えできて光栄でございます」

『今後のことも考えて、ルイスも私と話せるようにしますね』

 リチェ様は私を伝ってソファーの背もたれの上にぴょんっと飛び乗ると、ルーのお腹にペタッと肉球をくっつけた。そして前足がピカピカ光った後、リチェ様はまた私の膝に戻ってきた。

『これで話し相手が増えました』

「ああ、神よ。ありがとうございます」

『その代わりしっかりと励んでくださいね!』

 いつのまにかリチェ様は神とバラしていたようだ。守護者にしたということは、リチェ様もルーが気に入ったのだろう。しかしながらなぜ…ルーが守護者?っと私が首を捻っているとマリアが部屋に入ってきた。

「マイカ様。夕食の準備が整いました」

「ええ、もうそんな時間だった!?」

「ええ。マイカ様が私たちを呼び出されたのが昼食後でしたし…」

「わーん!昼ごはん食べてなかったけど気がつかなかった…」

『夢の世界にいた間、体の時間が止まっていたのでしょうか。まぁ、終わったことです。お風呂の後に作業がありますからね、気を取り直していきましょう』

 リチェ様はぴょんっと膝から降りてスタコラサッサと出て行った。

「マリアもお昼ご飯のこと教えてくれればいいのに…」

「お着替えにお時間がかかりますし、特にマイカ様が気にしていらっしゃらなかったようなので。気遣いが足りず申し訳ございません」

 マリアが深々と頭を下げてきた。

「わわ!そんな大袈裟じゃないから!さ!行こう!ルーも食べてくんでしょ?」

「よろしいのでしょうか…」

「神官長様の夕食もご用意してございます」

「ではご一緒させて下さい」

 ルーはソファーの後ろから私の隣に移動してくると手を差し出してきた。私は手を取って一緒に一階まで降りた。

 夕食はリチェ様とルーと3人でワイワイ話しながら食べた。リチェ様も話が通じる人が増えてとても嬉しそうだった。

 夕食後、ルーは屋敷に一旦帰って奥様方に話しをしてから荷物を運ぶといってお茶も飲まずに帰って行った。また明日の朝、アートが来る前に来てくれることになったので、笑顔で見送ることができた。

 お風呂に入ってから、アートから瓶が届いた。真っ白な液体入りだった…。私は溜息をつきながらテーブルに出しておいた石を一つ手に取って、瓶と石を持ってリチェ様と寝室に入った。箱はちゃんと収納しておいた。

「ねぇリチェ様、なんか保護かけてくれるやつってもうしてある?」

 私はベッドサイドに座りながらリチェ様に話しかけた。

『もちろんですよ。世界を渡った時にすでに施してあります」

「さすが!リチェ様。それを聞いて安心した」

 フゥッと私はため息をついて、瓶と石を睨めっこした。

『さっさとした方がいいのでは?』

「うぐっ。そだね…」

 瓶の中に石を入れると、あっという間に液体がなくなってコロンっと白黒のマーブル模様の石が入っていた。

「わぁぁ、よかったぁ!!ベトベトなやつかと思ってた…これなら卵巣保護しなくてもよかった?」

『こうなるとは私も思いませんでした。いい勉強になりますねぇ』

 リチェ様もベトベトだと思ってたようだ。2人で瓶の中身をマジマジと見つめた後、私は石を取り出して自分の中に埋め込んだ。

 …感覚的には…生理用品を使ってる気分で…

 石に違和感はなく、リチェ様にお腹の様子を見てもらうと『うんうん。ちゃんと魔力感じるので妊娠してますね。石も赤子が宿ったことで、形はなくなりました』っといって私の中をポンポンっと前足で叩いた。

「ふぅ…。あ、産んでからなんだけど…産んですぐに元に戻るっていってたよね。それまでは胸が張ったり、つわりとか妊娠症状でる?」
 
『そうですね。それはあるとは思いますが…』

「それなら…産まれてすぐに一度母乳飲ませてあげたいんだ」

『おや?どうしてですか?』

「だって、初めに出てくる母乳って子供の免疫力に関係するし…」

『ああ、なるほど。マイカさんが与えたいならば、母乳を飲ませてから元にもどしましょうか』

「ありがとう。陣痛来た瞬間に産まれてくるんだよね…元の世界でも…採用して欲しいよ…」

 遠い過去を思い出す。初産で産まれた息子の時は陣痛が来て二日間病院で苦しんだのだ。陣痛は確かに痛かった。しかし、強烈な生理痛のようだった陣痛よりも…産んだ後の縫合された傷が歩く時や座る時も痛くて…あれが1番辛かった。ずっとジンジン痛むので、円座布団を持ち歩いて移動していたのはいい思い出だ。

『あ、あと…まだ返してないものがあったので…。今から寝ますよね?じゃ、ベッド入って下さい。冷えは禁物です』

「え?あ、うん」

 言われたとおりに、ベッドに潜り込んで仰向けになった。リチェ様が私の頭側にトコトコやってきて、額に肉球を押し付けてきた。

 すると、忘れていたルーとの夢の記憶が走馬灯のように頭の中に駆け巡った。

 全て思い出した後、私は気がつくと目からポロッと涙が出ていた。

 あの優しい微笑みはそういうことだったのか。私が忘れていても、彼は微笑んでいたのだ。

「リチェ様。今夜、夢を繋いでもいい?ルーに記憶について聞いておきたい」

『もちろんですよ。今後は守護石がサポートしてくれるので、私に許可なくお互いの意思で繋げあって下さい。では寝ますよ』

 リチェ様は私を寝かしつけるために、魔法をかけた。

 そして、ゆっくり意識を夢の中に飛ばした。


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